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一にも二にも対話をすべし…鈴木宗男「私がガルージン駐日ロシア大使に話したこと」

プレジデントオンライン / 2022年4月28日 13時15分

撮影=原貴彦

日本はウクライナに侵攻したロシアに対して経済制裁を強めている。反発したロシアは対抗措置を表明。参議院議員の鈴木宗男氏はガルージン駐日ロシア大使に急いでアポイントを取り、翌日に会談したという。4月22日、危ぶまれていた日ロのサケ・マス漁業交渉は制裁下では異例の合意に至った。鈴木宗男氏がガルージン大使に伝えたこととは――。

■ロシア外務省の声明を見て、私は急いでアポイントを取った

3月22日、ロシア総領事館のミハイル・ガルージン駐日大使と会談しました。前日の夜中に「日本政府の決定に対する対抗措置についてのロシア外務省の声明」が出されたため、急いでアポイントを取ったのです。

このロシア外務省の声明は、「日本による一方的な規制措置は明らかに非友好的で、現在の条件下では日本との平和条約に関する交渉を継続するつもりはない。1991年から続く南クリル諸島(北方領土を指す)の元島民らによるビザなし交流の事業を停止することを決定した。また、平和条約交渉の前進に向けた南クリル諸島における共同経済活動に関する日本との対話から離脱する」という内容でした。

この声明で「日本による明らかに非友好的な一方的な規制措置」というのは、ウクライナ侵攻以後に欧米と足並みを揃えて行った制裁のことです。

2月27日に、欧米諸国の要請に応じ、ロシアの一部銀行を国際銀行間の送金・決済システムであるSWIFTから排除する制裁に加わると岸田首相が表明。3月1日には、プーチン大統領など6人への個人資産とロシア中央銀行が日本国内に持つ資産の凍結を発表。3月16日には、ロシアに対して貿易上の優遇措置などを保障する最恵国待遇からの撤回も表明。

また、2月26日、3月1日、3月3日、3月8日に、外国為替及び外国貿易法による輸出禁止措置を導入することが閣議了解され、3月18日には半導体、半導体製造装置などの輸出規制が実施されました。

このような制裁を続けていけば、いずれブーメランとなって日本に返って来るだろうと恐れていましたが、その通りになってしまいました。北方領土問題の交渉については、岸田総理が国会答弁で「この状況では平和条約交渉できる環境ではない」と語っていますし、当面はどうにも進まないでしょう。

■ガルージン大使に直接会って伝えたかった「思い」

しかし、1986年以降、人道的な観点から元島民の北方領土への墓参がビザなしで行われていましたが、これは絶対に止めてはいけません。

今年に入ってから、私は根室へ4回行きました。そのたびに北方領土の元島民の皆さんから、「去年と一昨年は2年連続で、コロナのために墓参ができませんでした。我々は平均年齢87歳です。人生、限られています。何とか墓参の道筋だけはつないでいただきたい」と、こういう訴えを聞いていました。

そこでガルージン大使に直接会って、元島民の思いをストレートにお伝えしようと考えたのです。ガルージン大使は「停止となるのは1991年以降の事業で、墓参は枠組みが違う。人道的な見地からも、墓参については制度として残っている。コロナのせいで2年間できなかったけれども、状況を見ながら、どこかのタイミングで判断したい」と答えてくれました。一縷の望みが繋がっているとわかり、ほっとしました。

■漁業協定についてもガルージン大使と話し合った

また、漁業協定についてもガルージン大使と話しました。日本とロシアの間には、漁業に関する決めごとが4つあります。

①サンマ、イカ、スケトウダラ等を対象とした相互入漁に関する「日ロ地先沖合漁業協定」

②ロシア系サケ・マス(ロシアの河川で生まれたサケ・マス)の我が国漁船による漁獲に関する「日ソ漁業協力協定」

③北方四島の周辺12カイリ(約22.2キロメートル)内での我が国漁船の操業に関する「北方四島周辺水域操業枠組協定」

④歯舞群島の一部である貝殻島の周辺12カイリ内において我が国の漁業者が安全にコンブ採取を行なうための「貝殻島昆布協定」

①から③は政府間の協定を基本とし、④は民間の協定で、交渉は年ごとに行われます。ガルージン大使に交渉の継続を訴え、大使も漁業交渉は別枠だと認めてくれました。

通例では漁が解禁されるのは、サケ・マス漁が一番早く、4月10日が解禁日になります。今年は交渉開始が4月11日になりました。ニュースでは、「ウクライナに侵攻したロシアに厳しい制裁を科す中での交渉は異例だが、(政府は)権益の確保を目指すことが重要だと判断した。北海道の漁業者らが実際に操業するには交渉妥結が必要だが、制裁に反発を強めるロシアの出方は読めず、協議は難航する恐れがある」(4月11日・共同通信)と報じられていましたが、日本水域における操業条件については4月22日に無事に妥結しました。

北海道 羅臼漁港
写真=iStock.com/dr-rodriguez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dr-rodriguez

■厳しい日ロ関係で、首の皮一枚つながっている接点

5月初旬から日本漁船の操業が始まる予定です。解禁日まで、漁船は待機です。魚が入ってこなければ経済が動きません。市場、魚の加工屋さん、流通業者、小売業者、それぞれで働くパートの人たちなど、根室だけで何千人もが、収入をなくしています。この時期に獲れるのはトキシラズです。5月いっぱいが漁期ですから、無事妥結できて本当に良かったと思います。

漁業交渉は、日本とロシアが長年築いてきたパイプです。1950年代や60年代の厳しい東西冷戦期でも、日ソのサケ・マス交渉は毎年行われていたのです。現在の厳しい日ロ関係では、首の皮一枚つながっている接点だと言ってもいい。

3月21日のロシア外務省の声明では、「日本との平和条約に関する交渉を継続するつもりはない」としていますが、「現在の条件下では~」という留保があります。これは、「条件さえ変われば」交渉を再開する余地があることを示唆していると読み取れます。たとえ細くともロシアとのパイプをしっかり繋いでおくことは、とても大事です。

■仰天の「北海道の全権はロシアのもの」発言

ところで4月1日、ロシアの中道左派の野党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首が、こんなツイートをして、日本でも話題になりました。

〈日本はロシアに対して、繰り返しクリル諸島(北方領土と千島列島)に関する主張を繰り返してきたが、一部の専門家によると、北海道の全権はロシアにあるという〉
〈現時点でモスクワではこの話題は提起されていないが、東京の対決路線がどこに向かい、ロシアがどう対応しなければならないかは不透明だ〉

ミロノフ党首は、2001年から11年まで上院議長を務め、現在は下院の副議長です。プーチン大統領に近い存在ですが、これはミロノフ党首個人の考えでしょう。ロシアの総意であるとか、プーチン大統領の意向を受けた発言ではないので、気にする必要はありません。

ロシアでは、北方領土は第2次大戦後の正当な手続きにおいて手にした領土だというのが一般的な認識ですが、当然、その中に北海道は含まれていないからです。日本がアメリカに追随していると見れば、こんな跳ね上がった発言も出てくるということでしょう。

■北海道に対するロシアの脅威は高まっているか

それでは、ウクライナへの侵攻が始まってから、北海道に対するロシアの脅威は高まっているのでしょうか。

3月10日から11日にかけてロシアの軍艦10隻が津軽海峡を通過し、14日には6隻が宗谷海峡を通過しました。しかし津軽海峡も宗谷海峡も、国連海洋法条約で定める「国際海峡」です。日本政府が特定海域と設定していて真ん中は公海ですから、他国の軍艦が通るだけなら問題はありません。たとえ領海であっても、無害通航権によって通ることが可能なのですが、日本はあえて領海から公海に変更したのです。津軽海峡も宗谷海峡も、領海を12カイリではなく3カイリに設定しています。

また、領空侵犯の恐れがある外国機に対して、航空自衛隊の戦闘機による緊急発進(スクランブル)をしていますが、ロシア機に対する自衛隊のスクランブル発進の回数は増えていません(図表1、2参照)。

領空侵犯の可能性があるロシア機の数は意外にも増えていない (ロシア機に対する緊急発進回数)
出所=防衛省。ロシア機については推定を含む。
ロシア機に対する自衛隊機の緊急発進回数(年別推移)
出所=防衛省。ロシア機については推定を含む。

懸念点としては、やはり漁業に関する問題です。日本水域におけるサケ・マス交渉は妥結しましたが、ロシアの排他的経済水域を日本の漁船が通る場合には注意が必要だということです。漁船は、風や潮の流れ次第で1マイルも2マイルも流されますから、うっかり入ってしまえば、「非友好国」となってしまった日本の漁船はロシア側から拿捕されたり、あるいは銃撃されたりする事件が起きる可能性も否めません。

■一にも二にも話し合いだ

ロシアのウクライナ侵攻に関する報道を見ていると、今日も何人の死者、何人のケガ人が出たという情報ばかり流れます。

戦争が長引けば、犠牲者は増える一方です。しかも真っ先に犠牲になるのは、弱い立場のお年寄りや女性、子供たちなのです。ロシアもウクライナも戦闘を自制し、一日も早く停戦を実現させてもらいたい。犠牲者を一人でも減らすことが、私の願いです。

侵攻が始まって5日目の2月28日の参議院予算委員会では、岸田総理に、停戦に向けて日本の総理としての発信も必要でないかと質しました。3月22日の予算委員会でも、岸田総理に対して「一にも二にも停戦だ、話し合いだ。岸田総理、あなた自身がプーチン大統領とゼレンスキー大統領に、ここは対話だと、自制だと、声をかけるべきでないか」と質問しました。

停戦協議は続いていますが、具体的な進展は伝わってきません。日本は、ロシアともアメリカとも、ウクライナとも良好な関係を築いてきました。その立ち位置をうまく活かして、アメリカだけに引きずられることなく「両国とも戦闘をやめなさい。自制しなさい。話し合いで詰めなさい。我々も立会人と保証人になる」という声を上げるべきだし、実際にその役割を果たすべきです。

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鈴木 宗男(すずき・むねお)
参議院議員/新党大地代表
1948年、北海道足寄町生まれ。拓殖大学政経学部卒業。1983年、衆議院議員に初当選(以後8選)。北海道・沖縄開発庁長官、内閣官房副長官、衆議院外務委員長などを歴任。2002年、斡旋収賄などの疑惑で逮捕。起訴事実を全面的に否認し、衆議院議員としては戦後最長の437日間にわたり勾留される。2003年に保釈。2005年の衆議院選挙で新党大地を旗揚げし、国政に復帰。2010年、最高裁が上告を棄却し、収監。2019年の参議院選挙で9年ぶりに国政に復帰。北方領土問題の解決をライフワークとしており、プーチン大統領が就任後、最初に会った外国の政治家である。

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(参議院議員/新党大地代表 鈴木 宗男 構成=石井謙一郎)

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