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秀岳館サッカー部もそうなのか…「体罰・暴力が必要派が5割」スポーツ界の"脳みそ筋肉"すぎる精神構造

プレジデントオンライン / 2022年4月28日 11時15分

『秀岳館高等学校』HPより

コーチが無抵抗の部員に暴力をする動画が投稿され、問題になっている秀岳館高校(熊本県八代市)の男子サッカー部。スポーツライターの酒井政人さんは「これは秀岳館高校だけの問題ではない。ある調査では、運動部活動経験者3638人のうち、約2割が過去にプレー中のミスなどが原因で体罰を受けたと回答。また、体罰を受けた後、精神的に強くなったと感じている人が約6割、半数の男性が運動部活動中の体罰・暴力が『必要』だと答えている」という――。

■秀岳館高校コーチ暴力問題は「氷山の一角」だ

秀岳館高校(熊本県八代市)の男子サッカー部のコーチが無抵抗の部員を殴ったり蹴ったりする動画が出回り、スポーツ界が揺れている。

その後、部員11人が顔や名前を明かして、「非は自分たちにある」といった趣旨の発言をして頭を下げる動画がサッカー部の公式ツイッターに投稿されたが、翌日には動画が削除されるなど、同部の対応も混乱を極めているようだ。

同校サッカー部の公式ホームページによると、2021年度に所属していた部員は200人以上で、監督を含めて15人ほどのコーチがいるという。全国大会に出場経験のある熊本県内屈指の強豪チームに何が起きているのか。

サッカー部の関係者は、FNNの取材に対して、「暴行を受けているのはサッカー部員で、コーチの生徒への暴力行為は日常茶飯事」と話している。

一方、サッカー部の段原一詞監督はメディアを通じて、「今回の暴行動画のようなシーンは見たことがありません」と暴力が日常的ではなかったことを否定した。しかし、段原監督とみられる男性が、今回の映像の投稿者らを激しく罵倒する録音が公開されるなど、今回の暴行事件の闇は深い。

さらに入学を控えて入寮した中学生に対して、上級生が暴行したことも報じられた。運動部活動の現場では“暴力の連鎖”がとまらないようだ。

■体罰経験者ほど体罰が「必要」という思いが強い

公益財団法人全国大学体育連盟が「運動部活動等における体罰・暴力に関する調査」を2013年にまとめている。ちょっと前のデータになるが、恐ろしい実態が明らかになっている。

体罰を受けたその後どうなぅったか(男女別)
出所=『運動部活動等における体罰・暴力に関する調査』公益財団法人全国大学体育連盟

運動部活動経験者3638人(13大学、2短大)のうち20.5%が過去の運動部活動において「体罰経験がある」と回答。その時期は「中学」が59.1%と最多で「高校」も54.0%と多かった。

「体罰の頻度」は「ほぼ毎日」が10.0%、「週に2~3回」が26.8%。調査によると日常的に体罰があることを物語っている。

「体罰・暴力に至る主な理由」で最も多いのは「ミスをした場合」で28.5%。指導者の体罰が選手のプレーをさらに委縮させる原因になっているおそれがある。また「理由はわからない」という回答も5.4%あった。これは不機嫌だった指導者が選手に八つ当たりしている可能性も考えられる。

筆者がもっとも怖いと感じたのが、「体罰を受けたその後どうなったのか」という項目(複数回答可)だ。なんと「精神的に強くなった」と感じている人が58.4%もいたのだ。一方で「反抗心を持った」は35.4%しかいなかった。また「試合に勝てるようになった」は10.7%。

「運動部活動中の体罰・暴力の必要有無」については「必要」が40.9%、「不要」が57.3%。性別でいうと男性の51.7%が「必要」だと回答している。さらに体罰経験がある者は57.8%が「必要」というアンサーだった。体罰経験のある男性はかなり高い割合で体罰が必要だと考えていることが浮き彫りになっている。

体罰・暴力の必要有無(体罰経験有無別)
出所=『運動部活動等における体罰・暴力に関する調査』公益財団法人全国大学体育連盟

さらに恐ろしいのが「将来運動部活動等のスポーツ指導者になりたいか」の回答だ。「強くそう思う」が10.1%、「そう思う」が20.7%。これが体罰経験者になると「強くそう思う」が19.6%、「そう思う」が31.0%と跳ね上がるのだ。

体罰経験者こそ「体罰が必要」だと感じているだけでなく、将来は「運動部の指導をしたい」という熱い思いを持っている。この現状を考えると、運動部活動で体罰が“消滅”することはないだろう。

種目間の人数に偏りがあるため断定はできないが、柔道、バレーボール、バスケットボールで体罰が多いというデータも出ている。いずれも室内での活動がメイン。ここからは推測になるが、校庭やグラウンドで行われる部活動は外部の“目”があるため、体罰が少ないのではないだろうか。秀岳館高男子サッカー部の動画が撮影されたのは、同部の寮のなかとみられている。いわば密室での“犯行”だった。

体罰を行う者は「体罰がバレたらマズい」という思いを持ちながらも、体罰をやめられない思考回路になっているようだ。

■どんなに結果を残していても暴力は一発でアウト

強豪チームの運動部は上下関係が厳しく、指導者が絶対的な存在として君臨するケースが大半だ。チーム内のライバルも多いため、試合に出場するには指導者に嫌われることはしたくない。そのため大きな権限を持つ指導者から暴力があったとしても声をあげにくい。わいせつ行為なども同様だ。

以前、名門駅伝校の監督が暴力行為などのパワーハラスメントを行っていたとして解任された。その監督は熱心な指導で知られており、全国大会でも素晴らしい成績を残してきた。選手たちも監督の指導力をリスペクトしていたように思う。しかし、そこに暴力があった。『フライデー』の取材に応じた元選手はこんな悲痛な声を残している。

「もう、あの人の顔を見ることさえ耐えられないんです。監督がいる以上、このチームで走り続けることはできません。本当はもう一度、箱根駅伝を走りたかった。できたら実業団で陸上を続けたかった。でも、今では走ること自体が嫌いになってしまいました……」

どんなに素晴らしい結果を残したとしても、体罰をしないとチームをまとめることができない指導者は三流だ。いや、社会人失格といえるだろう。

体罰を受けた学校期(男女別)
出所=『運動部活動等における体罰・暴力に関する調査』公益財団法人全国大学体育連盟

大昔は指導者の暴力、先輩からのしごきは当たり前だったかもしれない。しかし、現在は2022年。年号は昭和でも平成でもない。中高生もスマホを操る時代。「体罰」がどれだけ愚かな行為なのか。少し調べれば、わかってしまう。

「暴行罪」は1年以下の懲役または10万円以下の罰金、「傷害罪」になれば15年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。一方的な暴力でケガを負わせるような状況だと、上記の罰則が科されやすくなる。

また各都道府県の教育委員会では教職員による体罰、わいせつ行為などに対して、標準的な処分を定めている。東京都教育委員会の場合は以下の通りだ。

・「体罰により児童・生徒を死亡させ、又は児童・生徒に重篤な後遺症を負わせた場合」「極めて悪質又は危険な体罰を繰り返した場合で、児童・生徒の苦痛の程度が重いとき(欠席・不登校等)」は免職。
・「常習的に体罰を行った場合」「悪質又は危険な体罰を行った場合」「体罰により傷害を負わせた場合」「体罰の隠ぺい行為をした場合」は停職・減給。
・「体罰を行った場合」は戒告。
・「暴言又は威嚇を行った場合で、児童・生徒の苦痛の程度が重いとき(欠席・不登校等)」「常習的に暴言又は威嚇を繰り返した場合」「暴言又は威嚇の内容が悪質である場合」「暴言又は威嚇の隠ぺい行為を行った場合」は停職・減給・戒告。

相応のペナルティが発生するにもかかわらず、運動部活動の現場では暴力行為が後を絶たない。しかし、指導者が処分を受けることは非常に少ない印象だ。なぜなら暴力は外部の目が届かない密室で起きており、かつ選手が声をあげにくいからだ。

だからこそ「ドーピング」と同じぐらい厳格に取り締まりを強化する必要があるのではないか。

■運動部活動でも定期的な“ドーピング検査”が必要だ

アンチ・ドーピングに関しては11種類の違反が定義されており、そのなかには「居場所情報関連義務違反」もある。ドーピング検査は試合後だけでなく、抜き打ちで行われる。そのため、指定されたアスリートは、自身の居場所情報を専用のシステムを通して提出、更新する必要がある。それを怠るだけでもペナルティが課せられるのだ。

そしてドーピング検査で陽性となれば、どんなに実績のある選手でも数年間の出場停止となる。2004年アテネ五輪の男子100m金メダリストのジャスティン・ガトリン(米国)は2006年に9秒77の世界タイ記録(当時)をマークするも、2カ月後に体内から禁止薬物のテストステロンが検出されたため、記録は抹消。4年間の出場停止処分を受けている。

スポーツにはルールがあり、それを遵守しなければいけない。

アスリートを指導する者が社会のルールを守ることができないのは言語道断だ。運動部活動でも定期的な“検査”が必要ではないだろうか。たとえば、学校側が月に一度は匿名でアンケートをとり、指導者の行動をチェックするかたちでもいい。未来の子どもたちのためにも“暴力のスパイラル”を絶対に食い止めなくてはいけない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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