「ラヴィット!」は令和の「笑っていいとも!」である…他局の「朝の情報番組」とはまるで違う納得の理由
プレジデントオンライン / 2022年5月2日 8時15分
■今までの朝の情報番組とは全く違う「ラヴィット!」
番組開始から1周年を迎えた「ラヴィット!」の名シーンを振り返ったVTRを見てゲストのサンドウィッチマン・富澤たけしは驚きの声をあげた。
「これ本当に朝の生放送? 僕が知っている生放送のルールとはちょっと違う」
そう、「ラヴィット!」はこれまでの朝の生放送番組と大きく異なるのだ。
朝の帯番組「ラヴィット!」は、2021年3月29日から「日本でいちばん明るい朝番組」を掲げて始まった。
朝の情報番組といえば、ワイドショー的な番組全盛。しかし、この番組は社会問題やスキャンダルはもちろん、芸能ニュースすら扱わないというスタイルを打ち出した。
司会はお笑いコンビ麒麟(きりん)の川島明。芸人仲間やお笑いファンからは高い実力が認められていたが、番組開始時には地味な印象が拭えなかった。
だから当初は、視聴率が良くないだとか、MCが川島では地味すぎるなどといった批判的な声もあがっていた。
■朝の情報番組ではなく、もはや大喜利番組
そんな中、にわかに反応し始めたのはお笑いファンだった。VTRの合間に、その商品に関するクイズが挟まれる。それ自体はよくあることだが、ひとたびクイズが出題されると、出演者たちの大喜利合戦に突入していたからだ。
ゲストに訪れたすゑひろがりず・三島が「にぎやかな大喜利番組と捉えております」と言うように、この番組におけるクイズ=大喜利という認識はやがて浸透。
芸人たちはもちろん、本来ボケる必要のないはずのアイドルや俳優たちまでもボケ回答を競い合って出し始め、うっかり早々に正解を出してしまった日向坂46・松田好花が泣いてしまうというハプニングまで起こってしまうほど。
大喜利合戦が盛り上がりすぎると「時間がないので正解してください」といった普通ではあり得ないスタッフからのカンペまで出される。
大きな話題となった「水曜日のダウンタウン」(TBS系)での「『ラヴィット!』の女性ゲストを大喜利芸人軍団が遠隔操作すればレギュラーメンバーより笑い取れる説」もこうした土壌があってこそ生まれたものだ。
■最大の見どころは「オープニング」
こうした大喜利部分だけではない。メインである情報を紹介するVTRも回を追うごとにお笑い要素が増えてきている。
最初の頃は「冷やし中華ランキング」に、「冷やし中華始めました」という持ちネタがあるAMEMIYAが出るといった関連性のある芸人を起用する程度だったが、いまやスキあらばオモシロ要素を入れ込んでいく。
ロケの達人・なすなかにしやチャンカワイなど、この番組で結果を残す芸人が次々に現れるのも見どころのひとつだ。
いまや最大の見どころになっているのが、「オープニング」だ。近年、多くのテレビ番組でオープニングトークは削られる傾向にある。朝の情報番組ならなおさらだ。
しかし、「ラヴィット!」では当初、数分程度だったオープニングがいまや数十分あるのは当たり前。もはや「オープニング」というひとつのコーナーになっている。
「知る人ぞ知るオススメのモノ」「オススメの休日の過ごし方」といったざっくりとしたテーマが多いため、たとえば川島がスキあらば競馬の話に持っていったり、それぞれが得意分野の話を饒舌に語っていく。
1周年を迎えた時期の名場面を振り返るトークでは、オープニングなのに途中でCMまで入り、1時間近く続いたことも。
■常識を壊すためにやっていること
共通しているのは「朝の情報番組の常識を壊す」「朝のアンチテーゼをやりたい」という制作陣やMC川島の思いだ。
生放送終了後には川島も参加してスタッフとの反省会が行われるという。
この反省会の模様を、番組立ち上げ時のプロデューサーである山家稔貴氏は筆者のインタビューに答えこう語っている。
「例えば『ここはこういうのがスタジオとしても面白かったし、見ている側としても僕たちも面白かった、そういうところを伸ばしていこう』みたいなスタジオの展開であったりとか、VTRの内容に関しても、『こういう振り方だとスタジオだと受けづらいから、こういう振り方のほうがいいんじゃないか』とか、かなり細かく、番組全体の内容を川島さんと意見交換します。
川島さんは笑いへのこだわりがすごい強い方なので、どうやったら芸人さんをVTRでうまく使えるか、面白く見せることができるのか、みたいなことはすごく話し合います」(「ヤフーニュース個人」2021年9月13日)
![カフェで仕事の打ち合わせをする3人の男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/c/1200wm/img_0c1263d68132544767e030dba434e8d8171735.jpg)
■「笑っていいとも!」のような存在に
そうしたこだわりで作られ、VTRも芸人のボケを最大限いかした編集をしてくれるという信頼感があるからこそ、芸人たちは伸び伸びと楽しく番組に参加しているのであろう。
結果、番組に熱が生まれる。朝の情報番組では異例となる、民放公式テレビ配信サービス「TVer」での配信開始もごく自然なことのように感じた。
このままいけば、同じ帯のバラエティ番組だった「笑っていいとも!」のような、長く愛される存在になってもおかしくない。いや、もはやそうなっていると言っても過言ではない。
それが実現できてきているのはやはりMCの麒麟・川島の存在が大きい。
■MCが絶対に面白くしてくれる安心感
番組プロデューサーの辻有一も「番組の根底にあるのは川島さんが、必ずこちらの意図を拾ってくれるという安心感でしょうか。だからスタッフもVTR作りを楽しめる。出演者たちがクイズの解答で大喜利を始めたのも同じ理由だと思います」(「ヤフーニュース特集」2022年4月1日)と語っている。
それを裏付けるように、この番組でプレゼント応募用のキーワードで「ラヴィット涙の最終回」「ラヴィット深夜へお引っ越し」「ラヴィット実は収録だった」などと設定し物議を醸す「悪童」キャラの相席スタート・山添は川島について「僕たちがクイズでも大喜利でも思いっきりやったら絶対におもしろくしてくれるんです。そういう絶対的なお笑いパワーのすごさがある。
「なかなかええ答えを思いつかんくて、自分の中で50点のボケをそのまま出すときもあるんですよ。そしたら川島さんも千鳥さんもめちゃくちゃいろんな調理して150点にしてくれる」(「QJWeb」2022年4月12日)と語っている。
■「じゃない方芸人」の苦しみ
麒麟はデビューして間もなくほぼ無名の頃に「M-1グランプリ」の決勝に進出。ダークホース的存在を意味する「麒麟枠」という言葉ができるほどの衝撃を与えた。
さらに相方の田村裕の書いた『ホームレス中学生』がベストセラーになった。川島は、時にはマイクすらつけられない「じゃない方」という扱いと「M-1の呪縛」という二重苦を背負ってしまう。
この状況をなんとかしなければならない。川島はピンネタライブを始め、これまで麒麟ではできなかったことを模索した。
![背景に赤いカーテンのあるステージ上のマイク](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/b/1200wm/img_5bfe68c328475f2d47356ed401775021103375.jpg)
すると、2010年の「R-1ぐらんぷり」で決勝進出。そこから「アメトーーク!」などに呼ばれ始めた。その翌年に放送された同番組の「第11回持ち込み企画プレゼン大会」(2011年6月30日)が大きな転機となった。
ここで「めちゃくちゃ手榴弾入れてるし、ナイフ入れてるし、絶対殺したろと思ってる」(「あちこちオードリー」2021年7月28日)という思いで考え抜いた渾身(こんしん)の2つの企画(「エエ声芸人」「先輩に可愛がってもらえない芸人」)をプレゼン。すると、それが視聴者投票で1位・2位を独占したことで評価が急上昇した。
■万年2番手だったからこそ…
一方で、彼の全方位な能力の高さと上品さゆえに、優秀な「便利屋」として各番組に重宝されるようになっていった。川島が任されるのは、MCを助ける「2番手」的なポジションばかり。
「ラヴィット!」スタート直前には「万年2番手だった麒麟川島が転生したら千鳥おぎやはぎ山里を従えるメインMCだった件」(テレビ東京)という番組が放送されるほど「2番手」というポジションが定着した。
また、いわゆる「天の声」と呼ばれる仕事も多かった。ナレーション、つまり声だけで番組進行を担う役回りだ。
![テレビスタジオのモニタールーム](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/1200wm/img_e1534083e7926cc884f63c487d10959f237963.jpg)
意外にもこの経験が大きかったと川島自身は振り返っている。出演者が盛り上がっている中、口を挟み必要な情報を入れるのは簡単そうで難しい。どんなタイミングで入ればいいのか勉強になり、そこで培った技術が現在の活動の礎になっているというのだ。
そうして長らく「2番手」のような立場で番組を支えてきたからこそ前に出すぎない押し引きの巧みさで共演者を光らせることができる。
そして、その裏で“手榴弾”を仕込み続けてたから、類いまれな瞬発力で、キレキレのツッコミフレーズを繰り出すことができる。
■日々進化していく「ラヴィット!」
現在はそれだけではとどまらない。毎朝のように厳しい大喜利の場に身を投じているからこそ、川島自身も「自分で手つけられへん時がある」(「あちこちオードリー」21年8月11日)と話すほどの状態で居続けられているのだ。
毎朝出続ければ出続けるほど覚醒していく川島。ならば「ラヴィット!」の勢いはしばらく止まりそうもない。
(了)
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ライター
1978年生まれ。ペンネームは「てれびのスキマ」。『週刊文春』「水道橋博士のメルマ旬報」などで連載中。著書に『タモリ学』『コントに捧げた内村光良の怒り』『1989年のテレビっ子』『人生でムダなことばかり、みんなテレビに教わった』『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』など。
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(ライター 戸部田 誠)
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