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ただの目立ちたがり屋ではない…新庄ビッグボスが派手なパフォーマンスを繰り返す本当の狙い

プレジデントオンライン / 2022年4月29日 15時15分

試合前の練習に臨む日本ハムの新庄剛志監督=2022年4月21日、楽天生命パーク宮城 - 写真=時事通信フォト

開幕前から派手なパフォーマンスや言動で注目を集めてきた“ビッグボス”こと北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督。チームは開幕直後から大きく負け越しているが、公認会計士の藤田耕司さんは、「新庄監督は組織風土改革に取り組んでいる。それが形になってくれば、チームは躍進するのではないか」という――。

■選手のメンタルを重視するビッグボス

監督就任から大きな注目と期待を集めているビッグボスこと新庄剛志監督。チームは当初から戦力不足が指摘されており、開幕直後から大きく負け越し、苦しいスタートとなった。チームを率いるビッグボスも、その采配や選手起用の仕方に奇抜さが目立つだけに、ファンや評論家からの批判は手厳しい。

ただ、そんな中でも一貫しているのが、ビッグボスの組織風土改革に取り組もうとする姿勢である。特に注目したいのが、「萎縮」への取り組みだ。

「学生時代にお山の大将だった選手がプロの世界に入って上手い選手に囲まれると、どんどん自信を失い、萎縮してそれがプレーの差となって現れる」

ある記者に対してビッグボスはそう話していたが、選手の力量の差は技術もさることながら、メンタルによるところが大きいのではないかという考えが見てとれる。

■失敗を恐れない組織風土改革に取り組んでいる

この萎縮を払拭(ふっしょく)するための取り組みが組織風土改革である。

私は経営心理士、公認会計士として、心理と数字の両面から企業の経営改善のお手伝いをしているが、経営改善のベースとなるのが組織風土作りである。組織風土はメンバーの発想や行動に大きく影響する。

例えば、「失敗は許されない」という組織風土の下ではメンバーは失敗を恐れ、積極的にチャレンジしようとしない。その結果、発想や行動に広がりが出ない。一方で、「失敗してもいいからチャレンジしろ」という組織風土の下では、メンバーは新たな発想や行動を取り入れ、そこから新たな可能性が生まれる。

2019年~21年まで3年連続で5位と低迷している日本ハムは、手堅く無難なマネジメントではこの状況を抜け出せない、新たな可能性を模索する必要があると判断し、選手たちの失敗を責めず、チャレンジを奨励し、萎縮させない組織風土作りを行おうとしている。

球団側はその点を意識して、ビッグボスを監督に据えたのではないだろうか。

また、今期のチームは若手主体で構成されている点も大きな特徴。日本ハムは12球団で平均年齢が一番若い。若手は経験が浅いが故にベテラン選手に比べて萎縮しやすい。加えて3年連続5位という戦績。負けが込んでいる相手に対しては苦手意識を持つ。その苦手意識が萎縮をもたらす。

そのため、選手を萎縮させない組織風土作りは、今のチームにとって重要なテーマだといえる。

■「優勝なんか目指さない」という言葉の真意

そんなチーム状況におけるビッグボスの狙いは、「エンハンシング効果」をもたらすことにあると感じている。

モチベーションが上がる要因には、外発的動機付けと内発的動機付けの2つがある。外発的動機付けとは、報酬、承認、叱咤(しった)、賞罰などの外的要因によって動機づけられている状態をいう。例えば、褒められたいから頑張る、叱られたくないから頑張るといった、外部や他者からの影響を受けてモチベーションが上がる状態である。

一方、内発的動機付けとは、内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態をいう。例えば、野球そのものが楽しいから熱心に取り組みたくなるといった状態である。

長期的なモチベーションの維持のためには、内発的動機付けによる取り組みが望ましい。ただし、内発的動機付けによって取り組めていないメンバーに対して、上司が外発的動機付けを行うことでモチベーションを上げ、高いモチベーションで取り組んでいるうちに、それ自体が楽しくなり、内発的動機付けによって取り組むようになることもある。

グローブでハイタッチする野球チーム
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

この変化を「エンハンシング効果」という。

「頑張らせるのではなく、頑張りたくなる状態」を作る。

そのために野球を楽しめる環境を作ろうというのがビッグボスの方針。「優勝なんか目指さない。高い目標を持ちすぎると、選手はうまくいかない」と語っているが、これも優勝という高い目標を持ちすぎて萎縮するくらいなら、野球を楽しんだ方が高い成果を出せるという考えの表れといえる。

ベンチでも「声を出せ」と檄を飛ばして声を出させるのではなく、選手が声を出したくなる雰囲気を作る。その取り組みが功を奏し、ベンチでは選手同士がよく話しているという。

3ボールから打ちにいった打者には、凡退してもその積極性を褒める。こういった言動からもその方針が見て取れる。

■自ら野球を楽しむ姿勢を見せる

また、人の感情は伝染する。これを「情動伝染」という。

特にリーダーの感情はメンバーに伝染しやすい。リーダーの機嫌が悪ければ張り詰めた空気が流れ、メンバーは萎縮する。リーダーの機嫌が良ければメンバーは伸び伸びと活動できる。そのため、監督の感情は選手に伝染しやすく、組織風土にも大きく影響する。

ビッグボスは今年2月27日のテレビ番組「S-PARK」でプロ野球解説者の谷繁元信氏と対談し、「選手を萎縮させない雰囲気を作るのが僕の監督としての役目。だから自分はあえて馬鹿なことをしている」と語っている。

自ら野球を楽しもうとする姿を見せることで、「楽しい」という感情がビッグボスから選手に伝染する。監督によるそういった外発的動機付けによって、選手の萎縮が払拭され、野球がより楽しめるようになると、内発的動機付けから野球に取り組めるようになる。それが選手のパフォーマンス向上に繋がる。

本拠地開幕戦のセレモニーに巨大ドローンで登場するなどビッグボスの一連の奇抜な行動の裏には、そんな意図がうかがえる。勝利という結果が出ていないため、現時点ではその行動の説得力は乏しいが、萎縮を払拭するための姿勢は一貫している。

■企業マネジメントでも重視されるエンハンシング効果

「頑張らせるのではなく、頑張りたくなる状態」を作るというマネジメントスタイルは、近年、企業においても重視されている。その原因の一つが、若手社員の離職である。

「今の若手は叱るとすぐ辞める。それで今まで何人も辞めた。うちは人手不足だから、これ以上辞められると現場が回らなくなる。だから若手は腫れ物に触るように扱っています」

ある経営者が相談に来られた際、そう話した。こういった経営相談は本当に多い。中には若手を叱ることを禁じている会社もある。

このように、最近は若手に対して叱るという外発的動機付けが難しくなっている。そのため、褒めるという外発的動機付けによって内発的動機付けに導く、エンハンシング効果をもたらすマネジメントが重視されている。

そこで求められるのが、「部下を頑張らせる上司」ではなく、「部下が頑張りたくなるようにする上司」である。部下を萎縮させず、伸び伸びと仕事をしてもらい、積極的に発言させ、優れた発言は積極的に褒めて採用することで、内発的動機付けに導くエンハンシング効果を発揮する。

上司に仕事の相談をする女性
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

もちろん、こういった関わり方によってわががまま放題する可能性がある部下には、別の対処をすることも必要だ。ただ、今の若手は大人しく受け身な傾向にあるため、一方的なトップダウンの指示ばかりだと萎縮してモチベーションが下がりやすく、それが離職に繋がる恐れもある。

そのため、エンハンシング効果に導く関わり方は今後も重視されるだろう。その上で、ビッグボスの取り組みには参考にできる点がある。

■勝利という成功体験が不可欠

最後に、内発的動機付けをもたらすために不可欠な要素をもう一つお伝えしたい。それが成功体験である。

伸び伸び楽しもうというビッグボスの外発的動機付けはうかがえるが、それがエンハンシング効果によって内発的動機付けをもたらすためには、「勝つ」という成功体験が必要になる。

萎縮せずにプレーし、「勝つ」という成功体験を積み重ね、自信が持てるようになると、心から野球が楽しめるようになり、それが内発的動機付けをもたらす。ただ、負けが続くと選手は自信を失い、萎縮しかねない。まさにジレンマの状態だ。

ビッグボスの取り組みが、勝利という成功体験と歯車のようにかみ合い始めた時、チームに新たな組織風土が根付くだろう。そうなって初めて、ビッグボスのマネジメントスタイルは確立される。

その瞬間を見てみたいと思うのは、私だけではないだろう。

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藤田 耕司(ふじた・こうじ)
公認会計士
1978年徳島県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2004年、有限責任監査法人トーマツに入社。2011年に同社を退社。2012年、藤田公認会計士税理士事務所(現FSG税理士事務所)を創設。2013年、経営と心理と会計のコンサルティングを行うFSGマネジメント株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年、一般社団法人日本経営心理士協会を設立し、代表理事に就任。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『経営参謀としての士業戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(公認会計士 藤田 耕司)

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