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年功序列が通じるのは全体が伸びている時代だけ…「下り坂の時代」に生き残れる組織の作り方

プレジデントオンライン / 2022年5月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

日本最大のプロレス団体「新日本プロレス」は、かつて低迷していた。しかし2012年にブシロードの傘下となり、経営はV字回復。売上高は過去最高を更新するようになった。ブシロードの木谷高明会長は「年功序列が通じるのは全体が伸びている時代だけ。これからの組織はフラット化させるべきだ」という――。

※本稿は、木谷高明『すべてのジャンルはマニアが潰す 〜会社を2度上場させた規格外の哲学〜』(ホビージャパン)の一部を再編集したものです。

■センスは経験を重ねれば勝手に育ってくる

人を雇用するとき、会社は「センス」と「パッション」(やる気)なら、センスを重要視しがちです。皆、パッションは気持ち次第でどうにでもなると考えている節がある。でもこれは間違いです。実際、私も5年ほど前まで勘違いしていました。実はパッションのほうが持って生まれた才能なんです。そして、センスは経験で成長します。

年齢を重ねて、経験を積んできた人は自ずとセンスがアップします。つまり経験を積みさえすればセンスは誰でも上がっていきます。しかしパッションは、下がることはあっても、上がることはほとんどありません。センスが上がって、パッションが低いままの人はどうなるかというと、せっかく貯め込んだセンスと知識をクリエイティブに活かせず、評論家になっていく。これが一番よくない。頭でっかちで、新しいことを常に否定する面倒な存在になってしまいがちです。

■やる気があふれている人と平均的な人の両方を採用する

それならば、入社試験の適性検査でやる気の項目が高い人を積極的に採用したらいいではないかと思いますが、難しいものでそれもそうでもない。センスとパッションの両方が高く、やる気があふれ出ているような人は、心の中のスピードが周りと合わずにすぐに会社を辞めてしまいます。私の経験でも残ったためしがありません。だからパッションが高い人から平均の人までバランスよく採用すると組織がまとまります。

それぐらいのやる気を持って仕事を続けていればセンスは時間と共にアップしますし、ある程度のやる気を持ったままセンスを上げることができれば、そういう人が経営者やプロデューサーになっていくのだと思います。

■どんなプロジェクトでも身近で具体的な目標設定が必要

ブシロードでは、リーダーや部長クラスが現場の人間と話し合って、組織の合意の上で社員ひとりひとりの目標を決めていきます。その目標を達成したら、評価が高くなることもあります。上司と話し合って、合意しながら決めた目標を達成できたかどうかを判断します。

そういうことをあえてしないチームリーダーもいます。目標設定はみんながみんなやっているわけではなく、チームごとにあったりなかったりする。チームをマネジメントする人間がケースバイケースで判断しています。

私はどちらかというと、目標設定は現場でやるべきという考えです。目標は背伸びせずに確実に達成できるくらいに設定して、達成するたびに現場に報告し、その都度、グループ内で発表する。ただし、チームリーダーはそれが他のメンバーにとってプレッシャーにならないように注意することも重要です。

オフィスでのミーティング
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

目標は具体的な数字で示します。CDであれば、「目標:オリコンのデイリーチャート1位」といった具合です。もしかしたらウィークリーチャートでは1位は取れないかもしれません。なので、クリアできるかもしれないそこそこの目標を設定して、実際にクリアできたらみんなで喜びます。日々のちょっとしたいい数字、いい結果を共有するんです。いつも視聴者数が5000人いかないような生放送で視聴者数1万人達成! でもいいですし、売り上げが1000万円の予定だったのが1300万いきました! とか、身近で具体的な成果を喜び合うことが大事です。

現場レベルで小さな目標をクリアしていく楽しさを分かち合うことで、士気も上がりますし、お互い何をしてるのかが把握できるので、グループ内での相談や連携も取りやすくなります。

■得意不得意もつながりも可視化させる人事管理システム

会社というのは段階に応じて必要な人材も変わるし、マネジメントの情報も変わります。ブシロードが10人しかいなかった頃は、よく全員で一緒にお昼を食べていました。10人くらいだと野球のチームみたいなものです。

そのブシロードも今では600人以上の従業員数になって全員の名前を覚えるのでさえ大変ですし、すでにあきらめています。それぞれの得意不得意については人事管理システムに任せています。

今使っているシステムはとても便利です。社員の名前を入力すると、入社日や履歴書、適性などのデータが一覧として表示される。その人が以前どこの部署にいて、誰と一緒だったかまでわかる。つまり、社員同士のつながりがわかるのです。

人事はこのようなデータや個人の意見を考慮しながら適材適所と思われる部署に社員を配置します。履歴書などは普通は一度会社に入ってしまえばその後は見ないものですが、人事システムでそういったデータも瞬時に見ることができる。

たとえばグッズを作っているチームにいる人が、実は簿記一級を持っていたりする。何かをふと任せたいなと思ったときに、そういった情報があるのとないのとでは違ってきます。

システムを使いデータを利用することで、人間だけでは実質管理不可能な部分まで参考にして、人事を考慮できるようになりました。

私は会社の中で、一番公平に会社を見ていると自負しています。会社にとって何が一番大切かという部分は、オーナー目線でなければ見えません。この会社にずっと存続してほしい、企業価値が増大してほしいと考えているのですから、常にその視点で物事を見ます。

■年功序列が通じるのは全体が伸びている時代だけ

エンタメというのは水商売ですから、成果主義になじまない部分もあります。成果の測り方が難しい。社員からは「評価基準を明確にほしい」という意見も出ますが、あまり数字だけで判断するのもよくありません。

今でも年功序列で役職に就ける企業はまれにあったりします。完全に年功序列の会社では部下が上司にゴマをすらないそうです。ゴマをする意味がないからですね。そこはいいと思うのですが、それ以外は今の時代にはそぐわないでしょう。

横ばいの組織なら確かに年功序列でもいいかもしれませんが、いずれ優秀な人が辞めて入ってこなくなります。そうすると業績が落ちてしまいます。

年功序列が通じるのは全体が伸びている時代だけです。昔は日本経済全体が伸びていたからそれができました。全体が好調であれば、放っていても順調に会社の業績も伸びていきます。しかし、下り坂になってくると成果主義にならざるを得ない。そこに年功をどの程度加味するかは考えどころです。

ブシロードには年功序列はほぼありません。フラット化の時代に対応すべく、社歴はある程度考慮しますが、チームリーダーは年齢や職級関係なしに適材適所で決まっていきます。成長組織はそうしないと伸びませんし、これからの時代は生き残れないという気がしています。

■「できるかどうか」ではなく「面白いかどうか」

上司は部下の提案に対して5割はそのまま「いいんじゃない、進めたら?」というべきです。3割くらいは「もう少しこうしたら」と少し調整する。でも結果、通してあげる。2割くらいは「ちょっとダメかな?」でいいと思います。

木谷高明『すべてのジャンルはマニアが潰す 会社を2度上場させた規格外の哲学』(ホビージャパン)
木谷高明『すべてのジャンルはマニアが潰す 会社を2度上場させた規格外の哲学』(ホビージャパン)

つまりマネージャーなど上司は、部下の提案を8割は肯定できる人でなければならない。そうでなければ部下のやる気を削ぎ続けます。ただ、実際はそううまくはいかない。「ちょっとダメかな」が増えていく。これは注意してもなかなか直るものでもありません。

先日、社員を面接していて、ある部署の企画会議で提案をすると「できるかどうか」の議論が始まってしまうという話を耳にしました。

本当であれば、我々はエンタメ企業なのですから、そこは「面白い、でもどうやってやろう」「でもここは難しいな。じゃあこうしよう」という「面白いかどうか?」の評価から始まるべきです。「できるかどうか」の議論から始めると大体否定されて、ほぼ「それは難しい」という結論で終わってしまう。だからこそ、提案する気が失われてしまうという話でした。

会社側が考えて適材適所に配置したつもりでもこういうことが頻繁に起こります。

ブシロードの場合、特にカードゲームの部署は難しいですね。カードゲームのプレイは、まずミスをなくすところから始めなければなりません。囲碁や将棋、麻雀と同じで、ミスをなくせば勝てるわけです。逆にミスをする人は絶対に勝てない。さらにゲーム自体を作るにはルール上のミスが出ないように、ゲームが壊れるような効果を排除したり、表記間違いをなくしたり、徹底して間違いを探して排除する作業にも力を入れなければいけません。

そういった仕事に携わっていると、どうしても日々の発想もそのように偏りがちです。過剰に失敗やミスに敏感になってしまうんです。

■「とりあえずやってみて」の一言が大切になる

ただ我々が作っているものは競技以前にエンタメです。それを忘れてはいけません。幹部研修でも、そこを理解できている人間に話をさせたりしているのですが、伝わらない人にはなかなか伝わらない。

そうして、部下の意見を常に打ち消し続けていくとどうなるか。部下は、お客さんや店舗さん向けではなく、その上司が通すような提案を考えはじめます。提案自体が、お客さんや店舗さんに向いたものではなく、上司のチェックを通すためにはどうしたらいいか? ということが主体になってしまうのです。それでは何のための提案かわからなくなってきます。

そうかと思うと「とりあえずやってみ。失敗したら俺が責任持つから」という言葉を投げかける上司もいる。

社員との面談で、その言葉があったから頑張れたと話してくれる人もいて、ブシロードだけ見ても対応はリーダーによってさまざまです。ですが、部下を委縮させずに提案をどんどん引き出すにはどんなリーダーであるべきか、常に考えさせる努力をリーダーには求めなくてはなりません。

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木谷 高明(きだに・たかあき)
ブシロード会長
1960年生まれ、石川県出身。山一證券を経て、1994年にブロッコリーを設立。2001年にJASDAQ上場を果たす。2007年ブロッコリーを退社し、ブシロードを設立。『ヴァイスシュヴァルツ』『カードファイト‼ヴァンガード』などヒット商品を立て続けに世に送り出す。2012年には新日本プロレスリングを子会社化し、2019年7月にはブシロードを東証マザーズに上場させた。

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(ブシロード会長 木谷 高明)

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