佐藤優が明かす"実は「プーチンとしっかり繋がっている」国の名"
プレジデントオンライン / 2022年4月30日 10時15分
■バイデン発言で、多くの国がアメリカを怖がらなくなった
アメリカの関心がウクライナに引きつけられているせいで、すでに漁夫の利を得ている国があります。中国の新疆ウイグル自治区の人権問題はどうなったのか。台湾海峡からも、国際社会の関心が以前よりも薄れています。イランの核問題もそうです。北朝鮮はアメリカ本土まで届く大陸間弾道ミサイル(火星17号)を打ち上げ、核実験再開の動きも見せています。
バイデン大統領がウクライナへ派兵しないと早々に宣言したことで、世界の国々の地政学的な位置づけが変わりました。多くの国が、アメリカを怖がらなくなったのです。何をしでかすかわからなかったトランプ前大統領と、バイデン大統領との違いが浮き彫りになったともいえます。
その意味から言うとプーチン大統領の強さとは、核兵器や生物兵器を本当に使うかもしれないと思わせるところにあります。何をしでかすか予想がつかない相手なら、妥協するしかないという結論へ導けるわけです。もっとも実際にロシアが大量破壊兵器を使用するのは、ロシアが圧倒的な劣勢に追い込まれ、国家存亡の危機に瀕したときだけです。そういう状況にはならないと私は見ています。
■「お前なんか怖くないぞ」と宣言したに等しい措置
ロシアはバイデン大統領に対して、入国禁止措置を科しました。大した意味を持たないように見えますが、実は「お前なんか怖くないぞ」と宣言したのに等しい。私の知る限り、北朝鮮もイランもこうした措置はとっていません。米ロの外交関係断絶の可能性すら今後出てくると、私は思っています。
現在のアメリカには、長期戦略があるように見えません。これまで「第3次世界大戦は避けたい」と明言し、ウクライナに対し、戦闘機などの攻撃的な兵器の支援は避けてきました。4月13日にりゅう弾砲や軍用ヘリコプターなどこれまでより強力な重火器の供与を発表、4月19日に長距離の砲撃兵器など重火器を追加供与する考えを示しましたが、対応は後手後手です。
バイデン大統領の胸の内を探るなら、ウクライナに兵器を供与してできるだけ頑張ってもらえば、ロシア人の残虐さを世界中に示せる。そして、この戦争が終わったあとのロシアの立ち位置を、少しでも弱くしたい――。それ以上の戦略は見えてきません。
■中国も「できるだけ戦争が長引いてほしい」
戦争ができるだけ長引いてほしい点では、中国も一致しています。バイデン大統領が怖い存在ではなく、有事に米軍が動かないことは、習近平主席にも悟られてしまいました。ならば台湾へ出て行く時期だ、と決断する可能性は大いにあります。
中国と台湾がひとつの国であることに関しては、国際社会が認めています。武力で攻めたとしても他国への侵略ではなく、国内問題の処理にとどまります。懸念は、台湾援助法を結んでいるアメリカが出てくるかどうかでした。今回アメリカがウクライナに軍を送れないせいで、台湾危機が高まったと私は見ています。
■「ロシアを孤立させる」戦略はうまくいってるのか
そして見落としてはいけないことは、ロシアは意外と孤立していないということです。西側諸国は、厳しい経済制裁でロシアを締め上げ、音を上げさせようとしていますが、地政学的な変動が起きているのです。
ロシアが国際社会から孤立しているという見方で固まっていると、この戦争が終わったとき、思わぬネットワークが出来上がっている世界を目の当たりにするかもしれません。
ロシアのプーチン大統領は4月12日、訪問先の極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で、侵攻を開始して以来初となる記者会見を行い、「ロシアは世界から孤立するつもりもないし、ロシアを孤立させることも不可能だ」(4月13日・毎日新聞)と話しました。これはけして、ただの強がりではありません。
国連総会で、ロシアのウクライナからの即時撤退を求める決議が3月2日に行われ、193カ国中141カ国が賛成。ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5カ国だけが反対し、中国やインドなど35カ国が棄権しました。人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止させる4月7日の決議では、賛成が93カ国に減りました。中国など24カ国が反対し、58カ国が棄権に回ったのです。
自由と民主主義を掲げる陣営は、この数がもつ意味を深く考えていません。4月7日の決議で反対に回った国は、中国、北朝鮮、イラン、キューバ、シリアなど、一昔前の言葉を用いるならば、いわゆる“ならず者国家連合”ですが、中立的な立場を取ろうとする国を加えると、世界の約半分を占めたのです。さらに国家の人口で言うならば、アメリカの立場に賛成する人々のほうが少ないのです。
ちなみに、1933年(昭和8)に日本が国際連盟を脱退したとき、リットン調査団の報告書採択に反対したのは日本だけ。棄権がシャム(タイ)だけでした。
■アメリカの「ロシアを支援したら制裁を科す」発言に中国が反発
ロシアに対するどちらの決議も、中東、東南アジア、アフリカ、中南米で棄権が目立ちました。西側陣営の影響力が小さくなっていることを感じさせます。
たとえば、3月2日の決議で棄権したウガンダのムセベニ大統領は、日本経済新聞の取材に応じて〈ウクライナを巡る日米欧とロシアの対立について、「アフリカは距離を置く」と表明した。〉(3月17日)。タイのプラユット首相も、侵攻が始まって間もない時期から「中立を保つ」と発言しています。
アフリカや東南アジアの国々は、経済的な結びつきから中国に好意的で、ロシアに対しては中立です。ロシアは中東でも、アメリカ最大の同盟国であるイスラエルのユダヤ人社会に強いネットワークを維持しています。
ロシアが独自に提出したウクライナの人権状況に関する決議案について、国連の安全保障理事会が採択を行ったのは3月23日です。理事国15カ国中、13カ国は棄権しましたが、中国だけがロシアと共に賛成に回りました。これは、バイデン大統領が同月18日に習近平国家主席と電話会談をした際、「中国がロシアを支援した場合には制裁を科す」と脅したことが、裏目に出た形です。中国はアメリカに反発したのです。
このように、ロシアを封じ込めてプーチン政権を崩壊に追い込もうというもくろみは、狙い通り進んでいません。停戦を実現させるには、アメリカが軍を介入させてロシアを排除するか、プーチン大統領の納得できる範囲で折り合いをつけて合意するか。このどちらかしかないでしょう。
■ロシアとつながっている意外な国々
ロシアがもくろんでいるのは、領域の拡大よりもネットワークの帝国作りです。これを歴史的に見ると、ビザンツ帝国(東ローマ帝国。395~1453年)の戦略と非常に似ています。プーチン大統領は、あえてまねているのだと思います。
すなわち、地理的には離れていても味方を複数作り、時勢に応じて適宜そのバランスを変えていく。中国、インド、ブラジル、サウジアラビア、トルコ、イスラエル、イランなど、それぞれ力を持っている国が相手です。
同じロシア語圏のベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナの東部や南部に対する情報戦略にも、プーチン大統領は積極的です。
■中東にある、ロシアと手を握っている国をご存じか
ロシアとネットワークを築く国として、しばしば中国が挙げられますが、インドもまたロシアと経済的な結びつきを深めています。
「自由で開かれたインド太平洋」を守るために、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で安全保障や経済について協議する「Quad(日米豪印戦略対話)」が作られました。軍事同盟ではないものの、合同軍事演習も実施しています。
ところがインドは、対ロ非難に加わりませんでした。インドは兵器の4割をロシアから買っていて、既存の装備品の8割はロシア製です。そのメンテナンスの問題も必要です。ただし、武器依存が高いから対ロ制裁に踏み切れないという解説は、違うと思います。ロシアとの関係では極力中立的な地位を維持したいという、むしろインドの主体的な意思の表れです。
インドにとって重要なのは、中国の脅威に対して、オーストラリアとアメリカと日本を巻き込むことだけです。クアッドは価値観同盟ではなく、中国を封じ込める利益があるから付き合っている。それ以上でも以下でもないことが、露見してしまいました。インドはウクライナ侵攻によって割安になったロシア産原油を大量に購入しています。
対ロ関係では、意外と気づかれていないのがサウジアラビアです。アメリカとイギリスはサウジに対し、原油を増産してロシアを孤立させる取り組みに加わるよう働きかけました。しかしサウジは応じていません。ロシアと手を握っているからです。中国に販売する原油の一部を、人民元建てにする方向で協議中だという報道もあります。
サウジアラビアにとって、西側の消費文明を受け入れながらも、政治に関しては権威的な体制を取るロシアや中国は、付き合うのに都合がいい。人権外交を掲げるアメリカよりも、独自のルールを支持してくれるからです。アフリカや中南米の諸国も、同じ感覚です。結局どの国も、イデオロギーや価値観より、利害で動くのです。
■日本の周りにいるのは脅威となったロシア、中国、北朝鮮。韓国は…
アメリカや日本と歩調を一にしているのは、EU諸国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ。ロシアが非友好国としている国です。もっともEUの中でも、ハンガリーは日和見的です。
新しい世界地図の上で、日本はどうやって生き残っていくのか。東アジアにおいて、ロシアと北朝鮮はすでに現実的な脅威です。中ロの軍事協力が進んでロシアの最新兵器を中国が得れば、軍事力はさらに高まります。友好国であるはずの韓国は中ロとの関係も深く、歴史認識などさまざまな問題では日本に厳しく当たってきます。
国ごとに抱える事情を、等閑視してはなりません。ウクライナでの戦争が終わったあとの東アジアは、日本にとって脅威となったロシア、北朝鮮、そして中国。どっちを向いているのかわからない韓国。こうした国際関係の新たな緊張の中で、われわれは最前線に立たされる可能性があります。
アメリカとの同盟は重要です。しかし、それがアメリカと価値観を完全に共有するというイデオロギー同盟という選択肢でいいのかについて、われわれは自分の頭で考えなくてはなりません。
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作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優 構成=石井謙一郎)
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