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昭和のドラマに出てくる大人はみな不完全だった…配信サイトで見られる「名作ドラマ」ベスト10

プレジデントオンライン / 2022年5月3日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cyano66

これまで日本国内で放送・配信されたドラマで、いま見返すのならどれがいいか。ドラマ偏愛コラムニストの吉田潮さんが選んだ「名作ドラマ10選」とは――。

■不器用な人間が描かれた昔のドラマには奥行きがあった

その昔、私が子供の頃、ドラマに出てくる大人たちはみな不完全だった。お調子者の見栄っ張りだったり、色恋にだらしなかったり、理性にブレーキがかからなかったり、口や素行がとてつもなく悪かったり。

といっても、芯はまっとうで決してひとでなしではない。そんなちょっとダメな大人が山ほどいて、それを許す社会があった。

今と違って、人との関わりを断つと生きていけない時代だったから、業や欲を抱えたままもがいて生きていく。その姿がドラマに奥行きをもたらした気がする。

寛容を教えてくれた、昭和の名作の数々……。ということで、1972年生まれの50歳の女が偏向はなはだしく超主観的に選んだベスト10をお届けする。各種配信サイトなどで視聴できるので、ゴールデンウィークのお供にどうぞ。

■清くも正しくも美しくもない。だが傑作

10位「不良少女とよばれて」(TBS・1984年)不良のレッテルを貼られた劣等感を描く

セリフが臭くて独特な大映ドラマの代表作。情に厚くて一途な不良少女たちの、無駄に高いエネルギー値に魅了された。

主人公の曽我笙子(いとうまい子、当時は伊藤麻衣子)が入った少年院の壁には「人生やり直しができる」の書が。凶悪な不良少女たちを見捨てない園長(名古屋章)が「君たちにとって最大の障害も最大の味方も人間だ」と説法していたのが印象深い。

非行が問題視されていたが、親と社会にも問うものが大きかった。ベタなドラマを憎めなくなったのは、この作品が原点にあるから。

9位「淋しいのはお前だけじゃない」(TBS・1982年)清くも正しくも賢くも美しくもない人々

主人公はサラ金業の沼田薫(西田敏行)。ヤクザの親分・国分(財津一郎)に背き、借金の連帯保証人にされてしまう。借金まみれの人間を集め、芝居で稼ぐ一座を立ち上げることに。ダメな大人たちが地を這(は)う借金返済生活を送っているのに、どこか楽観的でエネルギーにあふれていた。

生々しい借金の話を描く作品は「清く正しく賢く」が王道だが、これは清くも正しくも賢くも美しくもなかった。「ステキ」「憧れる」とは1mmも思わせなかった、大傑作である。

■ダメな登場人物がもたらす味わい深さ

8位「家族ゲーム」(TBS・1983年)不真面目な大人が問題児を救う、ある種の副効用

三流大学で留年続きのちょい悪な大学生・吉本剛(長渕剛)が、問題児の家庭教師を引き受けて、勉強だけでなく人生の渡り方と偏らない価値観を教えていく物語。

1984年には設定を変えた「家族ゲームII」も放送。両作に出演したのが松田洋治、三好圭一、そして母親役の白川由美。80年代はいい高校・いい大学に入ることが最優先の時代。

いじめや受験戦争の苛烈(かれつ)さを描く作品も多いが、これはちょっとダメな大人がもたらす副効用、「こうあるべきという枠からの脱却」だった。

7位「西遊記」(日テレ・1978年)ダメな妖怪たちを通して人間の業の深さも描き出す

異国情緒あふれる世界観と特殊メークの面白さ、毎回登場する妖怪たちの人間臭さに夢中になった。

孫悟空(堺正章)、三蔵法師(夏目雅子)、猪八戒(西田敏行)、沙悟浄(岸部シロー)が旅をしながら、悪者(時に妖怪、時に人間)を退治していく。お供する3匹は正義のヒーローと思いきや、頻繁にけんかしたり、裏切ったり、女にだまされたりする。

人情噺(ばなし)ではあるが、ただの勧善懲悪では終わらないところが魅力。思い込みや刷り込みを打ち砕く展開が絶妙な作品だった。

6位「パパはニュースキャスター」(TBS・1987年)子供が嫌いと公言する大人の存在価値
写真=TBSチャンネル「パパはニュースキャスター」オフィシャルページより
写真=TBSチャンネル「パパはニュースキャスター」オフィシャルページより

西尾麻里(現・西尾まり)・大塚ちか子・鈴木美恵子という手だれの子役に共感をもって見ていた。

主演の田村正和はニュースキャスター・鏡竜太郎役。「娘ができたら“愛”と書いて“めぐみ”と名付けよう」と酔って女性を口説くクセがある。

子供が苦手で独身貴族を謳歌(おうか)していたが、突如娘と名乗る3人の愛が押しかけてくるというコメディだ。「子供が嫌い」と公言する田村の役どころには、ある種の美学を感じた。生意気な小学生3人に翻弄(ほんろう)される勝ち組男性は、見ものだった。

■人間の業と欲深さを描き出す

5位「金曜日の妻たちへ」(TBS・1983年)不倫が罰せられない時代の大人の寛容

中原宏(古谷一行)・久子(いしだあゆみ)、村越隆正(竜雷太)・英子(小川知子)、田村東彦(泉谷しげる)・真弓(佐藤友美)の夫婦3組はご近所さんで仲良し。

物語の始まりは村越の浮気から。若いモデルの沢玲子(石田えり)と懇ろになる。悪いのは浮気した夫のはずだが、話はそう単純ではない。

浮気された英子が仲間内で孤立、中原が支えるうちに関係をもってしまう(めっちゃ内輪でやらかすんだよ!)。不倫をした人間が社会的制裁を受ける時代ではなく、寛容だった頃の話だ。

妻・母・女の表情を巧みに演じ分けた女優陣のおかげで、大人はこういう顔でうそをつくのだと学んだ。不倫ドラマの代表にあげられるが、ひとり身になった女の自立と生き直しを描く作品でもあった。

4位「阿修羅のごとく」(NHK・1979年)家族だからこその「うしろめたさ」炸裂(さくれつ)

性格も考え方も異なる四姉妹が、父の不貞を機に集結。それぞれの来し方行く末を描く。四姉妹を演じたのは、加藤治子・八千草薫・いしだあゆみ・風吹ジュン。

父が子連れ女性の家に通っていることを知った三女が探偵を雇い、証拠も握る。姉妹で力を合わせて、父の愚行をやめさせて、母を支える……という話ではない。

長女も道ならぬ恋をしていたし、次女の夫にもどうやら女がいるとわかる。実は母も父の不貞を知っていた。平穏を装っていたものの、心に阿修羅のごとく深い怒りを秘めていた。家族だからこその「秘密の暴露」や「うしろめたさ」が実に興味深かった。

大人になってから、「阿修羅のごとく」に出てきた場面と同様の体験を何度かした。40年以上も前に向田邦子が描いた業の深さと人間の本質。その普遍性には驚愕(きょうがく)するばかりである。

■TBS制作ドラマのツートップ

3位「寺内貫太郎一家」(TBS・1974年)けんかや気まずさを存分に引き出す老婆の存在感
写真=TBSチャンネル「寺内貫太郎一家」オフィシャルページより
写真=TBSチャンネル「寺内貫太郎一家」オフィシャルページより

主人公・寺内貫太郎(小林亜星)の母親・きんを演じた樹木希林(当時は悠木千帆)の怪演。意地汚く、食べ物を口から飛ばしながらしゃべる。息子と孫(西城秀樹)の肉弾戦のけんかに参戦し、嫁(加藤治子)やお手伝いの美代ちゃん(浅田美代子)に嫌みと意地悪を言う。盗みやイタズラも日常茶飯事。微妙な女心や虚栄心に敏(さと)く、思ったことはすぐ口にして家庭内にけんかや気まずい空気を生み出す天才だ。

でも、時に女のパイセンとして金言や格言を残す。美代ちゃんに対しても、若さに胡坐をかくな、と暗に諭す場面があった。

「ちやほやされる場所にいてはいけない。年くったら何にもなくなる」と。ただ意地悪なだけではない。本当に必要なのは口が悪くても本音と現実をぶつけてくれる人だ。

こんなおばあちゃん、これ以降のドラマで遭遇していない。日本では、いつまでも若々しく控えめで行儀よく本音を言わず迷惑をかけず……が女に強いられている。目指すべきはきんさんなのにね。

2位「ふぞろいの林檎たち」(TBS・1983年)学歴と容姿の格差社会でもがく等身大の若者

三流大学に通う大学生の恋と青春と家族模様を描いた名作。

中井貴一・時任三郎・柳沢慎吾が演じる三人組が知り合ったのは看護学生(手塚理美・石原真理子)。企業も世間も学歴・容姿差別が激しい時代に、若者たちが傷つき、精いっぱいの見栄を張りながら人生を模索する物語だった。

仲手川良雄(中井)は、東京外国語大学の学生・夏恵(高橋ひとみ)が風俗店で働いていることを知るが、彼女とその同居人の本田修一(国広富之)の奇妙な関係に翻弄される。

本田は東大卒の元エリート。ふたりは対等な関係だという。恋愛至上主義全盛期の当時、本田のように恋愛に疑問を抱く人物がドラマに出てきたことが非常に珍しかった。

もちろん、嫁いびりする姑(佐々木すみ江)、容姿差別と闘う女子大生(中島唱子)、大手商社から辛酸をなめさせられる岩田健一(時任)からも目を離せず。等身大の人物と格差社会と言えば、ついこの作品を思い出してしまう。

■人の数だけうしろめたさや後悔がある

1位「北の国から」(フジ・1981年)清貧に見えるが、実は「家族という呪縛」の物語
写真=FOD「北の国から」オフィシャルページより
写真=FOD「北の国から」オフィシャルページより

朴訥(ぼくとつ)な父親が幼い子供たちを連れ、東京から北海道へ移り住む。決して裕福ではない一家が大自然の厳しさと世間の世知辛さにもまれてゆく。

父親・黒板五郎を演じたのは田中邦衛。幼い息子の純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)を抱えたシングルファザーに、全国民が心を寄せた。そもそも、五郎は妻(いしだあゆみ)に浮気されて離婚したところから始まっているのも強烈だった。

純の父に対する不満やうしろめたさなど、自分事のように見た記憶が。妹の螢が賢くて敏い子なだけに、純の不甲斐なさは際立った。五郎の清貧な生きざまには感動する一方、子供としては嫌だと思った。質実剛健な暮らしは子供にとって地獄だ。そこもきっちり描いたのが作品の長所である。

また、都会へ出た女や都会育ちの女に対する、田舎の残酷な視点も記憶に濃い。五郎の義妹で不倫中の雪子(竹下景子)、札幌で風俗嬢になったつらら(松田美由紀)に対する目線の、まあ厳しいこと。閉鎖的な社会のえげつなさは今も変わらない風景だ。

ただ大自然と清貧を描くだけではない。人の数だけうしろめたさや後悔があり、家族でさえもボタンの掛け違えや記憶の取り違えがある。家族の呪縛を如実に炙(あぶ)り出した作品でもあるのだ。

■最近のドラマは清潔すぎるのではないか

平成に入ると、ドラマでは誰もがかっこつけるようになった。うっとり憧れる素敵な職業の善人や正義の人が増え、人々の消費を煽(あお)る背景が描かれた。その一方で、人間の悪意がより具現化され、善悪がよりくっきり描かれるようになり、馬鹿でも猿でもわかる構図の定番が蔓(まん)延した。

令和では、人と関わりたくない社会不適応者が増えた。人と関わらなくても生きていける時代になったからか。その一方で、真逆の「絆礼賛」という奇麗事も増えた。正義と数の暴力が横行する作品も増え、人物描写の幅が狭まった気もする。

そもそも人間なんて情けなくてみっともなくて恥ずかしい生き物だ。私がドラマから教わったのは「人間なんて目くそ鼻くそ」なので、最近のドラマはちょいと清潔すぎやしないかと思っている。

今回紹介した昭和の名作で、人を許すことや諦めることの「人生の余白」をぜひ体感してほしい。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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