路肩のない高速道路での渋滞中に接触事故…現場から移動してもいい「やむを得ない場合」の条件
プレジデントオンライン / 2022年5月3日 15時15分
■高速道路で事故に遭ったらまずはその場で停車
自動車を運転していて一番嫌なことは交通事故だろう。安全運転しているつもりでも事故になってしまうことがあるし、もらい事故もある。一般ドライバーで事故に慣れている人はまずいないから慌ててしまう。
とりわけ一般ドライバーにとって注意が必要なのは高速道路上での事故だ。ハイスピードでクルマが行き交うので、対応を間違えると大事故になる恐れもある。停車中のクルマに後続車が突っ込むという事故はたびたび起きている。事故を起こしてしまったとしても、慌てずに落ち着いて対応してほしい。
まず大原則となるのは道路交通法だ。72条1項には「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」とある。このため事故が起きれば、その場で停車する。
しかし、同じ道路交通法は、高速道路上の駐停車を禁止している。SAやPAで「高速道路は駐停車禁止」というポスターを見かけたことがあるかもしれない。どちらを優先すればいいのか。
■高速上の駐停車も「やむを得ない」2つの判断基準
道路交通法の75条8項は、①SAやPA、②故障など、②高速バス、③料金所という4つの例外を記している。そして、②の条文はこうなっている。「故障その他の理由により停車し、又は駐車することがやむを得ない場合において、停車又は駐車のため十分な幅員がある路肩又は路側帯に停車し、又は駐車するとき」。このため、やむを得ない場合はハザードランプを点灯させて、路肩に寄せて停車することになる。
このとき判断に迷うのが「やむを得ない場合」の定義だろう。判断の基準となるのは「けがをしているか」と「自走できるか」という2点だ。けが人のいる人身事故の場合は、警察の事故調査も綿密に行われるから、事故現場からなるべく近い路肩で待機したほうがいい。また自走できない場合は、動けないのだからその場にいるしかない。
■事故現場から移動したほうが安全なケース
一方、けが人のいない、物損だけの軽微な事故の場合はどうすればいいのか。たとえば渋滞中の接触事故だ。車線が複数あり、路肩に十分なスペースがあればいいが、首都高などの都市高速道路では路肩のないところもある。そんなところで事故が起きた場合、停車したままでは通行止めになってしまう。それでいいのだろうか。
こうした場所では、やはり停車しないほうがいい。トンネルの中や橋の上、工事中などで路肩が狭く止められない場所についても同様だ。クルマが動かせる状態なら路肩が広い場所まで進んでから止める。いくら左端に寄せてもクルマが走行車線にはみ出すようなら、そこに止めてはいけない。後続車が突っ込む危険があるからだ。
走行車線や追越車線で止まった場合、そこでクルマから降りた人が後続車に跳ねられるという二次事故が起きている。もしクルマを降りるとしても、必ず十分な広さのある路肩に退避してからにしてほしい。
相手車両のドライバーと話すために、むやみに車外に出るのはNGだ。相手方と話をする場合は十分な広さのある路肩まで走行し、そのうえで走行車線側でなくガードレール側に降りてからにしてほしい。2009年には、首都高の本線上で事故の当事者同士が話し合いをしているところに他車が衝突する事故が起きている。
■勝手に移動すると相手車両から当て逃げと思われる
渋滞中で後続車両に悪いからとか、大した事故ではないからと、次のパーキングエリアやサービスエリアまで行ってしまおうと勝手に判断すると、相手車両から当て逃げと思われてしまうことがあるから要注意だ。
この場合、道交法の危険防止等措置義務違反(1年以下の懲役または10万円以下の罰金)と報告義務違反(3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金)に問われる恐れがある。相手車両の人がけがをしていた場合は救護義務違反(ひき逃げ)となり、さらに罰則は重くなる。
![パトカー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/1200wm/img_db0f99497b67b84beaa51b3ea709c037594230.jpg)
また警察に届けないと事故証明をもらうことができず、保険が下りないということも考えられるから、現場から大きく移動してしまうのはいろいろと問題が多い。
■最新型のクルマは便利なSOSボタンを装備
クルマを安全な場所に退避させた後、最優先となるのは人命救助の手配だ。もし負傷している人がいれば119番に電話をして救急車を要請する。昔なら路肩に設置してある非常電話を使ったが、最近はほとんどの人がスマホを持っているのでクルマの中から電話できる。
このとき場所を伝えなければならないが、高速道路名、上り線か下り線か、キロポストの数字を要領良く伝えること。キロポストとは距離標とも呼ばれるもので、その高速道路の起点から何km地点かを示す。小さな表示板だが路肩や中央分離帯のガードレールの上に100mごとに立っているから走りながらでも見ることができる。小数点以下1桁まで表示されているから0.1km単位で場所がわかる。
最新型のクルマにはルームミラーの上あたりにSOSボタンが装備されている。これを押すとオペレーターにつながりハンズフリーで話ができるので救急車を頼むこともできる。
![車内の天井フロント部に取り付けられているSOSボタン。メーカーによって名称や形状が異なる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/1200wm/img_1f5dcbe4cf302330a96b1b53a4223ada677332.jpg)
エアバッグが展開するような大きな衝撃があった事故では、ドライバーが気を失っていることも考えて自動的に救急車を手配してくれるシステムを持ったクルマもある。この場合、GPS機能を使って特定した場所のデータをクルマからオペレーターに送ってくれる。
■むやみにクルマから降りると自分が被害者に…
事故の場合には警察にも届けなくてはいけない。救急車の手配をすると警察とも連携してくれるが、救急車が必要のない場合にはドライバーか同乗者が警察に連絡しなくてはならない。
スマホから掛けるなら警察110番や救急119番だけでなく、道路緊急ダイヤル♯9910でもつながる。道路上に落下物がある場合もこの道路緊急ダイヤルで知らせることができる。
通報後、救急車やパトカー、あるいは高速道路会社の車両が到着するまでの時間は、場所や時間帯によっても異なるが10分から20分あれば来てくれる。ガソリンがなくなって止まってしまった場合にはJAFのサービス隊を呼ばなくてはならないが、それでも30分から1時間程度で駆けつけてくれるはずだ。
■クルマの中にいたほうが安全なケースもある
クルマを路肩に止めた時にもう一つ欠かせない行動は、後続車への合図だ。ハザードランプを点灯させ、三角停止表示板(高速道路などで停止した場合は表示義務がある)をトランクから出し、クルマの100mほど後方に表示板の足を広げて倒れないように設置する。
![赤い緊急停止標識と壊れた銀色の車](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/6/1200wm/img_56d8d44d9b37cc4e27084a6edaad27b0683802.jpg)
高速道路上でクルマから降りることは非常に危険なことだ。だから三角停止表示板を設置するときも表示板を広げて後続車から見えるように持ち、気をつけながら歩いていく。ドライバーがいない間に同乗者が車外に出ないように伝えておかなくてはならない。
まだ電光掲示板やラジオの交通情報で止まっているクルマがいることを告知できていない段階では、後続車が知らずに向かって来るからオレンジ色の炎が目立つ発炎筒を使うことも有効だ。
夜間はテールランプをボーッと見て走っているドライバーが、路肩に止めたクルマに向かってきてぶつかるケースも多くあるという。クルマを止めたときにルームランプを点灯しておくと後続車から見て異常だと思え、単なる先行車と見誤る可能性が減るそうだ。
路肩に止めていても車外にいると後続車がぶつかってきて挟まれるというケースも多いから注意しなくてはならない。何も防御がない生身ではねられるより、クルマの中のほうが安全なのだ。事故に驚いて慌てて車外に飛び出したり、相手車両の人と道路上で話し合いをしたりするのも極めて危険な行為となる。
■ガードレールの外側に出るときは注意が必要
路肩に止まっているクルマにぶつかってくるケースでは、重量が軽い小さいクルマは不利になる。相撲でもわかるが、重い力士と軽い力士がまともにぶつかったら、軽い力士は飛ばされてしまうのだ。
車内で待っているのが不安ならガードレールの外側がいい。また事故により車内にガラスが散乱しているなど乗っていられないケースもある。ガードレールの外側に行くにしても十分安全確認してクルマから降りる必要がある。
車内が安全なのかガードレールの外側が安全なのか、その判断は難しい。雨が降っているとガードレールを乗り越えるときに足が滑って転落することもあるから気をつけなくてはならない。高齢者や車椅子の人では乗り越えられない場合もある。
ガードレールの外側に行く場合は、立つ場所があるかどうか確認してからガードレールを越えた方がいい。高速道路は高架や土手の上のところも多いし、下が川や海の橋の上ということもある。真っ暗な中でガードレールを飛び越えたら崖下にダイブなんていうことにならないように。
このようにいろいろなことを考えなくてはいけないから事故は起こしたくない。自分が悪くなくても、相手に落ち度があっても、事故を起こさないのが「うまいドライバー」だ。
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モータージャーナリスト
1950年生まれ。自動車レース、タイヤテストドライバーの経験を経て、84年から、新型車にいち早く試乗して記事を書くフリーランスのモータージャーナリストになる。日本自動車ジャーナリスト協会会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。JAF交通安全・環境委員会委員。著書に『あおり運転 被害者、加害者にならないためのパーフェクトガイド』(彩流社)、『あなたの“不安”をスッキリ解消! クルマの運転術』(ナツメ社)など。
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(モータージャーナリスト 菰田 潔)
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