「サウナで体調がととのう」はウソである…心臓血管外科医が心配するサウナに潜む4大リスク
プレジデントオンライン / 2022年5月11日 12時15分
■一歩間違えればサウナはとても危険
サウナ愛好者の間で使われていた「ととのう」という言葉が、2021年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、話題になりました。最近もサウナブームは続き、私の周りでもサウナ愛好家、いわゆるサウナー(サウナ愛好者)のビジネスパーソンが増えている印象です。
汗を出してスッキリ爽快に「ととのう」こと、あるいは美肌やダイエット効果を狙う女性もいらっしゃいます。
しかし、「ととのう」という言葉が登場して皆さんポジティブになっているせいか、危険な入り方をしている人もお見かけします。一歩間違えればサウナは危険です。
心身の健康にサウナが役立つように、血管の中で起きていることをしっかり認識する必要があると思います。今回はサウナーの皆さんに普段見落とされがちな、サウナにまつわる「4つのリスク」をご紹介したいと思います。
リスク① 高温~サウナは異常な超高温空間
まず第1に、「高温」の弊害です。日本で一般的なドライサウナ(乾式サウナ)の室内は80~100度。鉄アレイを持ってサウナに入ったらヤケドしてしまうほどの高温です。いわば特殊な超高温空間に身を置いていることを忘れてはなりません。
人の体温は約36℃ですが、皮膚の表面で薄い空気膜が作られます。その中で対流を起こすことで熱交換、温度調整、発汗調整をしています。そのためにヤケドしない、というメカニズムです。
人間は蓄熱体ですから体温が上昇し、調整機能にも限界があります。長い時間のサウナはかなり危険な状態と言えます。
■低血圧状態で高まる脳梗塞、心筋梗塞のリスク
40度以上の温泉に入りながらウトウトと寝てしまうと、筋肉が固まり壊れる「悪性高熱症」となることがあります。
頻脈や不整脈、代謝性アシドーシス、血圧不安定、呼気炭酸ガス分圧上昇・低酸素血症などが出現します。その後急激な体温上昇(15分間に0.5℃以上、40℃以上の体温)が始まります。ひどいときは1、2時間も意識を無くしてしまう、致命的な症状にも陥ります。
まさかサウナの高温で眠ってしまうことはないでしょうが、温泉の2倍以上の高温ですから、絵空事ではない「サウナの高温のリスク」があることを肝に銘じておきましょう。
リスク② 超低血圧~高温で血管が広がった状態に
第2に、「血圧」の変動です。高温の空間に身を置くことで、血管が拡張するため全身の血流がよくなりますが、視点を変えれば血圧は低い状態になっているのです。
降圧剤(血圧を下げる薬)を飲んでいる高血圧の人は特に注意が必要です。
普段からクスリで血管を広げ、血圧を下げているところを、サウナの高温でさらに輪をかけて血管が広がってしまいます。収支血圧(=体の中の様々な仕組みの収支決算としての血圧)が極端に下がってしまいます。
心臓をとりまく冠動脈が狭くなっている方が、サウナでいきなり血圧を下げると、血管内で血液を送っている組織や細胞に血液が十分に供給されない状態(=虚血)を招きます。虚血は酸素不足とほぼ同じで、心筋梗塞を起こすリスクが高まります。これは脳でも一緒です。
■血管内で進む“異常事態”
また、末梢血管が広がると、心臓の狭いところから先に血液が回りにくくなり、狭心症発作を引き起こす可能性があります。
高血圧症、冠動脈狭窄(きょうさく)症、狭心症の人がサウナに入るときには、できるだけ短時間で切り上げるなど、「超低血圧」に対する十分な注意が必要です。
リスク③ 脱水~「血管内脱水」で血管内はドロドロになる
第3に、「脱水」の危険です。個人差はありますが、サウナは1回で300~400cc相当の水分が失われると言われています。
![汗](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/1200wm/img_98ac8081f8df3629f3dfefcbf5d8f11a364988.jpg)
サウナ入浴を何回も繰り返し、一日で体重を2~3kgも落とす人がいます。これは本当にやせているのではなく「血管内脱水」を起こしているだけです。すなわち「血管内水分」が抜けているだけなのです。
このためサウナ後にビールを飲んだり、水分をたくさん飲んだりすれば、元通りに戻ります。真のダイエットとは言えません。
我々は、心臓の弁に何らかの障害を抱える心臓弁膜症の患者さんには「利尿剤(=おしっこが出やすくなる薬)」を処方します。心臓の負担を和らげるためです。これも「血管内水分」を抜くというメカニズムです。
一番簡単なダイエットが「利尿剤」と言われることがありますが、サウナではこれを強制的にやっていることになり、健康的な方法ではありません。
■狭心症の人は「超低血圧」「虚血」「脱水」のトリプルパンチ
脱水した血管の中はどうなっているのか、考えたことはあるでしょうか。血管内の血液量は体重65kgの人で5ℓ程度。このため血液中の水分が失われると水分減少状態(=血管内脱水)となって、血液粘稠(ねんちょう)度(=血液のドロドロ度)が高まります。
血液がドロドロに濃縮することによって高まるリスクは、脳梗塞や心筋梗塞、さらには痛風、尿管結石の発作のリスクです。
低血圧による虚血も伴っていますから、高血圧で降圧薬を服用している人、血管が狭くなっている人、狭心症の人は、「超低血圧」「虚血」「脱水」のトリプルパンチに見舞われていることになります。本当に気をつけないと、命を落とすことにもなりかねません。
さらに怖いのは、脱水で腎臓に血液が行き渡らなくなることです。これは、血圧が下がり脱水症状を起こす「腎前性腎不全」と呼ばれ、「尿細管」の障害など腎臓に少しずつダメージが蓄積されます。こうなると腎臓機能がなかなか回復しない場合もあるのです。
リスク④ 悪玉高血圧~水風呂で一転「超高血圧状態」
第4に、サウナ後の「水風呂」の恐ろしさです。私は医学生時代、血圧を計測したうえで冷たい氷水に手を入れて、血圧の変化を調べる実験をしました。若い同級生は何のことはなかったですが、40歳の同級生は急に血圧が上がり、めまいを起こして倒れてしまいました。
彼は持病を持っているわけでもなく、血圧がやや高めくらいの健常な人でした。それでも「寒冷刺激」によって「交感神経反応」がおこり、手だけではなく全身の血管が締まり、血圧が急上昇して倒れてしまったのです。
![血管](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/9/1200wm/img_794f3a3c90f9faf653e5bacf08e04f79408394.jpg)
■「にわかサウナー」は要注意
これと同様、サウナでバンバンに血管が広がった直後の水風呂では、「寒冷刺激」による「交感神経反応」で間違いなく、危険なほど血圧は上がっています。何という血圧の激しい上下動でしょうか。このような危険な高血圧状態を「悪玉高血圧」と呼ぶ内科医もいます。
どのくらい血圧が上がっているかは個人差があるでしょう。友人が倒れた経験から、私もサウナを始めた当初は水風呂には気をつけました。サウナ後には「ぬるめのシャワーを頭から浴びてから水風呂に入る」「慣れてきたら半身浴」「さらに慣れてきたら全身」という段階を踏みました。
サウナ大国であるフィンランドでは、「サウナに入るほど高血圧が治り、心臓病リスクも低下する」との真逆の調査結果もあります。
小さいころから慣れていて自己調節機能が働いているのでしょう。ベテランサウナーならまだしも、慣れていない日本人の「にわかサウナー」にはあてはまりません。
驚いたことに長い時間水風呂に入って、頭がグルグル回るのが気持ちいいとおっしゃる人がいました。脳内から、セロトニンかアドレナリン、β-エンドルフィン、オキシトシンなど何か気持ち良くなる物質が出ているのでしょうが、急激な血圧の上下動が原因であることは明らかです。
これは甚だしく危ない状態です。そのまま気を失って「あの世」に行くという恐れもあり、怖くなってしまいました。
そんな時にビールでも飲んだら体に大きな負担をかけることになります。これは健全な「ピンピンコロリ」ではありません。いつまでも元気で健康長寿を目指す、という本連載の趣旨からも外れてしまいます。
■心臓や血管に負荷をかけないための絶対ルール
サウナの健康効果を高め、「ととのう」と共存しているのが、血管の中で生じる数々のリスクです。激しい血管の収縮を避け、負担をかけ過ぎない「血管を守るサウナの入り方」が健康で長生きするためには欠かせません。
![サウナ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/1200wm/img_f382a5d99a8e24ee175adcf04fecca59396039.jpg)
1.血管の拡張をほどほどにするため、低温サウナで短時間を心掛ける
心臓の鼓動がバクバクしてきたら、それは血管が悲鳴を上げているサインです。限界まで粘る必要はどこにもありません。
マラソンでいうランナーズ・ハイを求めるのか、たまに12分計が1周するまで粘っている人を見かけます。血管は大丈夫かと心配になってしまいます。できるだけ短時間でサウナを出ましょう。
2.血管の収縮をほどほどにするため水風呂は短時間で
サウナ後に急に冷たい水風呂に入ると、全身の血管が締まり必ず高血圧になります。しかもサウナで低血圧後になった直後の超高血圧状態ですから、血圧の急激な変動は心臓や血管に大きな負担となっています。
40歳以上の高血圧の方は特に気をつけましょう。血管が破れる、血管の血栓がはがれて詰まるなど、脳卒中や心筋梗塞のリスクも高まります。体の芯まで冷え切ってしまうほど長く水風呂につかるのは、高血圧状態を加速させます。急激な温度変化、血圧変化を避け、半身浴、あるいは冷水シャワーがいいでしょう。
皆さん、日常まったく意識しないでしょうが、水やお湯につかると水圧が体にかかります。水の圧力は思った以上に強いものです。手術後の心臓には負担が大きいので、退院する患者さんには「お風呂はしばらく半身浴にとどめておいてください」とお勧めしています。
■心臓や血管は「ととのう」の裏で悲鳴を上げている
3.血管内脱水を救うために、サウナ後には必ず水分補給を
心臓の血管(冠動脈)も脳の血管も2~3mmの太さです。多少の収縮は大丈夫ですが、それでも水分補給は必要不可欠です。ビールは利尿作用があるため水分補給にはなりません。水分を摂らずにギリギリまで汗を絞り、血管内脱水を起こしているにもかかわらず、ビールを飲んで脳梗塞で倒れるケースもあるからです。
気持ち良さが先行し、「ととのう」ことばかりが注目・強調されていますが、血管の中は別です。まさか「血管内水分」が蒸発しているとは誰も思わないことでしょう。そもそも「血液=水分」と認識している人はまずいません。
心臓や血管は気持ちいい発汗の裏で悲鳴を上げています。こまめな「水分補給」こそ命を守る生命線です。「血液には水分が満ちていて、サウナによる脱水で血液がドロドロになり、血管が細くなっている」ことを忘れないでください。(次回へ続く)
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心臓血管外科医
1958年、東京都生まれ。心臓血管外科医、ロボット外科医(da Vinci Pilot)、医学博士。日本ロボット外科学会理事長、日伯研究者協会副会長。麻布学園高等学校卒業後、医師を志す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に入局する。海外で活躍する心臓外科医になりたいという夢を叶えるためドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてドイツHannover医科大学に留学。金沢大学心肺・総合外科教授、国際医療福祉大学三田病院客員教授などを経て、2014年にニューハート・ワタナベ国際病院を開院。著書に『医者になる人に知っておいてほしいこと』(PHP新書)などがある。
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(心臓血管外科医 渡邊 剛 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
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