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投資家の「中国離れ」が止まらない…3期続投のために経済成長を犠牲にする習近平政権の自業自得

プレジデントオンライン / 2022年5月9日 9時15分

北京冬季五輪・パラ総括表彰大会で演説を行う習近平国家主席 - 写真=EPA/時事通信フォト

■中国からの資金流出が増え始めている

共産党政権によるやや強引なゼロコロナ政策によって、中国の経済活動が低下している。国家統計局が発表した、4月の購買担当者景況感指数(PMI)の大幅な悪化が示す通りだ。習近平政権のゼロコロナ政策に潜むリスクは小さくはない。不動産市況の悪化やIT先端企業への締め付けなど、これまでに顕在化した負の影響は深刻化している。

それに加えて、今回のゼロコロナ政策が、人々の動線を押さえ込んでしまった。経済活動の低下などに伴い、中国からの資金流出が増え始めた。現在、共産党政権は必死になって資金流出を食い止めているとみられる。今後、人民元の下落懸念の高まりによって、中国経済の厳しさは増すだろう。

秋の党大会で3期続投を目指す習近平国家主席は、ゼロコロナ政策を続けて感染の再拡大を食い止めようとするだろう。経済活動は阻害され、個人消費はさらに減少するだろう。不動産市況の悪化に拍車がかかり、地方政府の財政状態も悪化する恐れが増している。

共産党政権の規制強化から逃れるために、中国から海外に事業拠点を移す企業も増えるはずだ。その結果、中国では雇用・所得環境が不安定化して失業率が上昇する可能性が高い。ゼロコロナ政策によって中国経済の成長率の低下傾向はこれまで以上に鮮明となるだろう。

■国家資本主義体制は大きな試練を迎えつつある

4月、これまでに増して中国経済の景況感の悪化が浮き彫りになった。特に、国家統計局が発表する製造業と非製造業のPMIの落ち込み方は急激だ。製造業PMIは47.4と前月から2.1ポイント下落した。非製造業は41.9と前月から6.5ポイント下落した。いずれも事前予想を下回った。共産党政権は公共事業の積み増しによって景気の浮揚を目指していたが、今のところ減速を食い止めるには至っていない。

事業規模が小さい企業を対象とした財新とマークイットが発表するPMIと異なり、国家統計局が発表するPMIは習政権が事業運営体制を強化してきた国有、国営企業をはじめ大企業が主な調査対象である。4月の国家統計局版PMIの下落は、中国の国家資本主義体制が大きな試練の局面を迎えつつあることを示唆する。

■不動産バブル、株価下落…ゼロコロナ政策のツケ

中国経済はかなり厳しい状況にある。その最大の要因は、ゼロコロナ政策だ。上海や北京などの大都市でロックダウンが実施されて動線が寸断された。それによって、個人消費には大きな下押し圧力がかかった。国内の観光需要にも大きな打撃が出た。

ゼロコロナ政策による景況感の悪化によって、不動産バブル崩壊の負の影響も一段と強まった。3月の70都市の平均住宅価格は前月から横ばいだった。報道では、4月1~12日の間、30都市の新築住宅販売件数は前年比で55.6%減少したようだ。

また、ゼロコロナ政策による食料の不足など人々の不満が広がることを阻止するために、共産党政権はSNSプラットフォーマーなどIT先端企業への締め付けも強めざるを得ない。それによって成長期待の高い企業のアニマルスピリットは弱まる。その懸念から中国の株価は下落基調だ。

このように、ゼロコロナ政策を端緒に不動産市況の悪化、IT先端企業への規制強化など負の要因が連鎖反応的に強まっている。それにウクライナ危機などによって世界の供給制約が深刻化したことも加わり、中国経済の減速はこれまでに増して鮮明だ。

■主要投資家の間で強まる「脱中国」の動き

ゼロコロナ政策によって、中国からの資金流出も増加し始めた。足許、人民元の下落が顕著だ。年初から4月半ばまで人民元は米ドルに対して横ばい圏で推移してきた。しかし、4月下旬に差し掛かるあたりから急速に人民元安が進んでいる。ゼロコロナ政策の長期化を懸念し、個人消費や設備投資、港湾施設の稼働率低下による輸出の減少などによって中国経済の成長率が低下傾向を脱することは難しいと考える海外の主要投資家が増えた。

彼らは中国本土の株などを売り、受け取った人民元を売って米ドルなどを手に入れる。人民元売りは国内の投資家の不安心理を掻き立て、命の次に大切なお金を守るために人民元を米ドルなどに替えようとする人が増えている可能性は軽視できない。それに加えて、米欧と中国の金融政策の相違も大きくなっている。人民元の売り圧力は強まりやすい状況が続きそうだ。

■これまで以上に相場管理に躍起になっている

その状況下、共産党政権と中国人民銀行(中央銀行)は、資金流出を必死になって食い止めようとしているとみられる。それは、3月まで3カ月続けて外貨準備残高が減少したことが示唆する。

中国人民銀行
写真=iStock.com/kool99
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kool99

ドル高による資産価額の目減りなどに加えて、中国人民銀行は自国通貨の下落が勢いづかないように人民元を買い支えするなど相場の管理にこれまで以上に神経を尖らせているだろう。それに加えて、共産党政権は中央銀行デジタル通貨(CBDC)である“デジタル人民元”の利用を急いでいる。人民元取引の監視体制は強化されている。

ゼロコロナ政策によって4~6月期の中国のGDP成長率は1~3月期を下回る可能性が高い。7~9月期以降の成長率に関しても楽観できない。景気の先行き懸念が高まる中、中国からの資金流出は増加基調で推移するだろう。そうした展開が現実のものとなった場合、共産党政権はなりふり構わぬ姿勢で資金の流出を食い止めなければならなくなるはずだ。

その取り組みの一環として綱紀粛正が徹底され、これまでにも見られたように有名俳優や民間企業の創業経営者など富裕層への締め付けが強化される展開が予想される。

■失業率が上がれば3期続投に黄色信号も

また、ゼロコロナ政策によって中国の失業率は上昇するだろう。大企業の景況感が悪化する状況下、中国の銀行は中小企業への融資に慎重にならざるを得ない。世界的な供給制約の深刻化によって企業の事業運営コストは増える。生き残りをかけて雇用を減らす企業は増えるだろう。

今のところ、習氏の3期続投が危ぶまれる状況には至っていないようだが、ゼロコロナ政策が続くことによって、中国の実体経済はより強く下押しされる。個人消費の減少、不動産市況の悪化、IT先端企業への締め付け強化による株価下落などが鮮明となれば、これまで以上に企業経営者のマインドは悪化し、失業者が増える恐れがある。

その場合、党内からの批判が強まるなど習氏の阻害要因は増えるだろう。秋の党大会で3期続投を目指す習氏にとって、失業率の上昇はなんとしても避けなければならない。共産党政権は政策を総動員して雇用を創出し、経済成長率を押し上げようとするはずだ。金融緩和、減税やインフラ投資の積み増し、不動産規制の緩和など、実施されてきた経済対策は強化されるだろう。

■成長率の低下傾向は一段と鮮明化する恐れ

それに加えて、金融市場への介入も強まる可能性が高い。株価下落を食い止めるための一部銘柄の売買停止や、“国家隊”と呼ばれる機関投資家による株式買い支えも増えるだろう。5.5%前後の経済成長率を達成して中国の最高意思決定権者としての長期の地位を確立するために、習政権はなりふり構わぬ姿勢で経済と金融市場への統制を強めるだろう。

しかし、そうした取り組みが中国経済の実力を高めることにつながるとは考えづらい。近年の経済運営を確認すると、習政権は人々の自由かつ多様な発想を認め、成長期待の高い分野に生産要素が再配分される環境を目指すことが難しいように見える。急速な景況感悪化にもかかわらずゼロコロナ政策が続けられていることは、習政権が、党の権能が市場原理に勝るとの考えを強めていることを示唆する。

他方で、不良債権問題は深刻化し、公共事業を増やせば増やすほど、経済全体で資本の効率性は低下するだろう。ゼロコロナ政策によって中国経済の成長率の低下傾向は一段と鮮明化する展開が懸念される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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