「親が理数系に強いかは関係ない」中学受験で算数が得意な子が"幼少期”にやっていたこと
プレジデントオンライン / 2022年5月16日 12時15分
■「親が理数に強いか」は関係ない
中学受験において算数が重要教科であることはよく知られている。他の教科と比べて1問に対する配点が高く、点差が開きやすいからだ。また、小学校の授業で習う内容と大きくかけ離れているため、取り組みの差も出やすい。そこで、親がなんとかフォローをしようとするが、難しすぎて歯が立たないことが多い。そして、こう嘆くのだ。
「私がもっと算数が得意だったら……」
親が理数に強いと、子供も算数が得意になる。そう思い込んでいる人は少なくない。しかし、私はその考えには懐疑的だ。理数に強い親というのは、大学受験の成功体験を指す場合が多い。しかし、大学受験は数学だ。算数とは根本的に違うことをご存じだろうか。数学問題の多くは、未知数をxとして、方程式に書き表すことができれば、あとは計算力の勝負となる。それに対して算数問題の多くは、今分かっていることから次に何が分かるか、それが分かればその次に何が分かるかと積み上げていく思考が中心となる。算数の基盤はもっともっと身体感覚に近い。
だから、親が理数に強いからといって、子供の中学受験に有利というわけではない。むしろ解く型を重視しすぎる傾向があり、子供の発想に枠をはめることになりがちだ。基本問題は強いが、ちょっと応用されるとさっぱり解けない子供の多くは、このタイプだ。私は、算数の基盤は生活や遊びから得た身体感覚にあると考えている。つまり、幼少期の家庭での過ごし方で、算数が得意になるか、苦手になるかが決まってくるということだ。そこに親が理数に強いか、弱いかは一切関係ない。
■日常会話の中に「数」を盛り込む
算数が得意な子にしたいのなら、親は生活の中で数を意識した会話を心がけてほしい。例えばケーキを切るときに黙って切るのではなく、「4人で食べるように4つにカットするね」とあえて数字を入れる。イチゴを4人分のお皿に分けるときも、「1つ、2つ……」と数えていき、全員に同じ数が渡らないときは「あれ、1個足りないね」と言う。そうやって日常の会話の中に、数を入れたり、「分ける」「合わせる」「増える」「減る」「集める」「足りる」といった言葉を使ったりすることで、子供は数の感覚がつかめるようになっていく。
数量的な感覚を身につけるのに、幼少期の遊びは大切だ。おすすめはおはじき遊び。おはじきは数を数えるのに最適だ。横に並べてみたり、積み重ねてみたりしながら、何度も、何度も数を数えてみる。すると足し算だけでなく、「いくつ積んだものが、横にいくつあるから」とかけ算の感覚も自然と身についていく。
■階段を上るときには、一緒に段数を数える
階段遊びもいい。まずは親子で一緒に「1段、2段……」と数えることから始める。何度も通る道なら、「この階段は確か20段あったよね。今、8段上ったけど、あと何段で頂上に着くかな?」と今度は残りの数を聞いてみる。計算がまだできない子供は、目で確認しようとする。こうした経験で、「20分の8」とはどのくらいの位置を表すのか、身体感覚でイメージできるようになる。
![手をつないで森を歩く父と娘](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/1200wm/img_9e84df6f90ffebee96848d5d384ab89a468555.jpg)
算数が得意な子は、設問の内容を頭の中に入れておくことができる。そのときに「りんごが3つ、みかんが4つ」と単に数を覚えておくのではなく、りんごが3つ、みかんが4つ机の上に並んでいるのを状況として思い浮かべられるかどうかがポイントになる。幼少期にたくさん数遊びをしてきた子は、自分の経験からその状況をイメージすることができる。
一方、してこなかった子はイメージができず、よく分からないまま出てきた数字を公式に当てはめて答えを出そうする。単純な問題ならそれで答えを出すこともできるが、入試レベルの複雑な問題になってくると、たちまち解けなくなってしまう。幼少期にどれだけ数で遊べたかが明暗を分けるのだ。
■折り紙や積み木は「図形問題」に必要な力を育てる
平面図形や立体図形といった図形問題も、幼少期の遊びの影響が大きい。やはり、折り紙や積み木、タングラムなどで手を動かしてきた子は、イメージ力が身についている。折り紙は折ったり、広げたり、切ったりすることで線対称のイメージに役立つ。積み木やタングラムは角度や切断のイメージを培うことができる。一方、図形問題が苦手な子は、鈍角の三角形の面積を求めるときに手が止まる。直角三角形や鋭角三角形なら解けるのに、鈍角になるとたちまちどれが底辺と高さなのかが分からなくなってしまう。これもイメージ力の不足が原因だ。
図形が得意な子は、手先が器用な子が多い。小さいときから手を動かす訓練をしてきたからだ。自分の手を動かしたからこそ、その感覚が体に染みつく。思考力を重視する中学受験の算数は、この身体感覚がとても大事だ。親が理数に強いかどうかではなく、親がそういう環境をつくってきたかが大切になる。
■小学生には「身体を使って解く習慣」をつけてほしい
ならば、幼少期にそういった遊びをしてこなかった子は救いがないのか。
正直なところ、幼少期の経験は非常に大きく、差を埋めるのは大変だ。志望校に合格するという目的を叶えるためであれば、ある程度のパターン学習でカバーできる。しかし、今更と思っても、身体感覚を鍛えることもやってほしい。よく、文章題を解くときには「式だけではなく図を書け!」と言われる。それは、単に塾で習ったやり方を使って解けという意味ではなく、手を動かす、すなわち身体の感覚を使わなければ、応用問題は解けないからだ。
幼少期に手を動かす遊びをしてきた子は、設問を自然にイメージすることができるが、してこなかった子はせめて身体を使って解く習慣をつけてほしい。それを面倒くさがってしまうと、算数を得意にすることはできない。
![折り紙で作った動物たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/c/1200wm/img_3cf833b0a36ebd95bf161c94fb1da9b3231260.jpg)
■子供が理解できているかを確かめる「親の問いかけ」
授業の受け方にも注意が必要だ。中学受験の算数は、実にたくさんの単元があり、覚えなければいけない公式がある。毎回の授業で新しいことを学んでいくので、子供たちはついていくだけでひと苦労。すると、「この問題が出たときはこの公式で解く」といったようにパターンで丸暗記しようとする。しかし、近年の中学受験は、塾のテキストにあるような問題がそのまま出されることはまずない。必ず応用問題が出題される。うわべだけの勉強では太刀打ちできない。
どんな複雑な問題でも解けるようになるには、概念理解が不可欠だ。塾の授業では必ず「なぜそうなるのか」「なぜこの式を使うのか」といった説明がある。それをしっかり覚え、納得し、自分の言葉で伝えられるようにする。いくら身体感覚でイメージができても、概念理解ができていなければ、答えを導くことはできない。子供が理解できているかを確かめるには、親の問いかけも大切だ。「この問題はなぜこの式(図)で解けるの? お母さん、よく分からないから教えてくれる?」、この問いかけを習慣化させると、授業の受け方が変わってくる。
算数が得意な子に育てるには、幼少期からの生活に数字を入れ、手を動かす遊びをさせること。「なぜそうなるのか」の概念理解をおろそかにしないこと。算数が得意な子というと、何か特別な才能を持っているように見えるが、どんな子でも親の関わり方次第で得意になりうることを知っておいてほしい。今からできることをやってみよう。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)
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