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棺の中からノック音やうめき声が…日本でコロナ死者をすぐ火葬しても大丈夫か

プレジデントオンライン / 2022年5月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/allanswart

日本では死後24時間以内の埋葬・火葬は法律で禁じられているが、コロナ禍で厚労省は死者からの感染防止の観点から「24時間以内の火葬も可」とした。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「この4月、ペルーで死亡診断された36歳女性が葬儀の際、息を吹き返したことがニュースになりました。日本で死後の葬送の前倒し化や簡素化が増え、万が一の事態を見逃してしまうおそれもあるのではないか」という――。

■交通事故死した36歳女性が眠る棺からノック音が……

葬儀中に“死者”が生き返った――。

ホラー映画さながらのニュースが南米ペルーで報じられ、現地では大きな騒ぎになっている。過去には死亡診断後、息を吹き返す事例はしばしば起きていた。そのため、日本では死亡診断後24時間以内での火葬を法律で禁止している。

近年でも死亡診断後の蘇生例がある。コロナ感染症における死の局面では「火葬の24時間規定」が特例的に外されたが、ごくわずかに残る蘇生の可能性を排除できないのが現実である。

南米におけるこの信じがたいニュースは4月25日、ペルー北部の都市ランバイエケで起きた。36歳の女性が重大な交通事故に巻き込まれ、死亡診断と検死がなされた。完全に死亡したものとして扱われた彼女は、およそ丸1日、遺体安置所に置かれ、そして26日に親類縁者を集めた葬儀が営まれた。

儀式が終わって埋葬地に向かう出棺の際のこと。親族が棺を持ち上げたその時、中から棺をノックする音が聞こえた。驚いた親族が棺を開けてみると、女性は弱々しい状態であったが目を動かし、棺を取り囲んでいる人々を見回したという。汗もかいていた。とたんに葬儀会場は大騒ぎになった。

女性は棺に入ったまま、トラックで病院に運ばれ、生命維持装置に繋がれた。医師が「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」のバイタルサイン(生命の兆候を示す指標)を測定すると、低いレベルではあるものの、彼女が生きていることが確認された。だが、容体は改善することなく、数時間後「正式に」死亡した。

この葬儀の様子はスマホで撮影されており、ニュースで報じられた。本当は昏睡(こんすい)状態だったのに見落とし、安易に死亡宣告がなされたとして、遺族は病院などに対して原因究明を求めている。

■法律に残る痕跡、日本でも「黄泉がえり」があった

現地の病院や警察の杜撰さが露呈したものであるが、調べてみると死者が生き返った事例はインドなどではよくみられる。インドのスラムではまともな治療が受けられず、医師によって雑に死亡宣告された後には、すぐ埋葬されたり火葬されたりするケースが多い。高温になるインドでは、遺体の腐敗が急速に進んでしまうからだ。だが、その埋葬中や火葬中に声を発したり、遺体が動き出したりする事例は決して、少なくはない。

棺
写真=iStock.com/DIGIcal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DIGIcal

さすがに日本では、このような事例はないと思われる。だが、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の以下の条文が過去に「黄泉がえり」があったことを示唆している。

第3条[24時間以内の埋葬又は火葬の禁止]
埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ、これを行なってはならない。但し、妊娠7カ月に満たない死産のときは、この限りではない。

墓埋法第3条は、死亡診断がなされた後に蘇生する可能性を限りなく排除するためのバッファ・タイムとして、死亡24時間以内に火葬することを禁止しているものである。裏を返せば、過去に蘇生した人物がいたということなのだ。

たとえば、そのひとつに1872(明治5)年に愛媛県でおきた「田中藤作蘇生事件」がある。

折しも当地で一揆が勃発した。租税事務所が放火され、当時31歳の田中藤作が逮捕された。田中には死刑判決が出され、彼は絞首刑に処せられた。滞りなく処刑された田中の遺体は棺桶に入れられ、遺族に引き渡された。

故郷に戻る道中でのこと。にわかに棺の中からうめき声が聞こえてきた。その後、田中は救出され、完全に蘇生。その後26年間、生きたという。

この時、田中の扱いについて当局は困惑した。再び処刑にかける議論もあったようだが、最終的には政府が「スデニ絞罪処刑後蘇生ス、マタ論ズベキナシ 直チニ本本籍ニ編入スベシ」とする方針を出し、田中を釈放した。

田中は戸籍に復帰した。政府は、処刑そのものは終わったのだから、仮に生き返った場合は放免、という判断をしたのだ。絞首刑後、蘇生した例は他にも数例ある。

■2000年11月@大阪、霊安室の男性が息を吹き返した

近年における蘇生例は、2000年11月に大阪の病院の霊安室に入れた男性が、実は生きていた事件がある。

大阪市西成区で65歳の男性が、心停止状態で発見された。救急隊が駆けつけた時には、既に心肺停止状態であった。病院でも心臓マッサージなどが施されたが、瞳孔の拡大などもみられ、医師は死亡診断。しかし、そのおよそ30分後、警察署員が霊安室に入ったところ、男性は息を吹きかえしていたといいう。男性は昏睡状態のまま、その4日後に死亡した。

この事件を受け11月20日付の毎日新聞朝刊では、日本救急医学学会前会長のコメントを掲載。そこでは、「心停止して瞳孔が拡大しても、数分間は蘇生の可能性がある。蘇生措置をしてから多少時間をおいて、心臓が動き出すこともありうる」と述べている。人間の生命は、時に奇跡を起こす。

知床半島沖における観光船海難事故でもみられたように近年、メディアでは「心肺停止状態で発見」「意識不明状態で発見」という表現が増えている。その理由には、AED(自動体外式除細動器)などの普及による蘇生の可能性が増えてきたことや、医師による死亡診断が確実に行われない限りは「ひょっとして」という可能性が排除できないためである。

ところが2018年3月には神戸市で、死後16時間で火葬していたミスが判明した。原因は葬儀社が火葬の予約時、誤って死亡日時を記入したためだった。このようにしてみれば、墓埋法3条の「24時間を経過してからの火葬ルール」も納得するものである。

しかし、ここ2年間にわたるコロナ禍においては、コロナで亡くなった人に対して24時間以内での火葬が認められている。墓埋法では、「他の法令に別段の定があるものを除く」と明記されており、これは主に感染症の蔓延(まんえん)防止の観点で適用される。

厚生労働省は2020年7月、新型コロナウイルス感染症での死亡時の遺体の扱いや葬儀、火葬に関するガイドラインを発表している。それによると、「24時間以内に火葬することができるが、必須ではない」としている。

平時であれば死亡後、枕経や通夜や葬儀・告別式を実施することが多いため、必然的に火葬までには数日を要する。しかし、とくにコロナ初年の2020年は、コロナ感染者の遺体からも感染する可能性が示唆された影響で死亡後は、すぐ火葬にする「骨葬」にする事例が出てきた。骨葬とは先に荼毘(だび)にふし、遺骨になった状態で葬式を実施することである。

火葬場
写真=iStock.com/Ritthichai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ritthichai

また、コロナ禍を背景にして、葬式をしない火葬だけの「直葬」や、一連の儀式を1日で終える「一日葬」が増えている。こうした葬送の簡素化が増えていけば、ペルーの事例のように「万が一の事態」が起こりうることも懸念されるが、火葬炉の扉が閉まってからではどうしようもない。火葬炉の内側からノックの音がすることなど、あまり考えたくないことではあるが……。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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