1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「私だってスカートをこんなに短くしたくない」大人にはわからない…女子高生が短いスカートをはく本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年5月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

女子高生が制服のスカートを短くするのはなぜか。教育社会学者・内田良さんが行った高校教師の覆面座談会で見えた意外な理由と、生徒指導の本質とは――。

※本稿は、河﨑仁志、斉藤ひでみ、内田良『校則改革』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

【高校教諭覆面座談会】

SKR 20代、関西地方。教員4年目。生徒会担当などを経験。

長野 30代、長野県。教員歴8年。教務係→生徒会担当

TNT 40代、岐阜県。生徒会担当歴が長い。Twitterで、学校の在り方について積極的に発信している。

司会 内田良・教育社会学者

■校則改革で教員の負担は減るか

【内田】これはあくまで働き方改革を考えたときの校則改革における副次的な産物ですが、校則を厳しくしないことで、身だしなみの指導をする機会そのものがなくなっていくのではないかと思うのです。

「ルールをなくしたら指導することが増える」のか、「ルールをなくしたら指導することが減る」のか、いかがお考えでしょうか。

【長野】校則がほとんどない学校でも、生徒指導は当然あります。ほとんどないとはいえ、例えばいじめの問題やその少ない校則に違反している生徒には指導せざるを得ません。とはいえ、その指導の中で、「この校則はおかしいのではないか」と考えていくきっかけにもなっていて、教員の先導で変わっていく例もあります。私が勤務する学校では、教員主導で、「校内でスマホ使用禁止」という校則がなくなりました。

【内田】私は「教員の働き方」も考えてきています。校則の見直しで、先生の負担がめちゃくちゃかかるようなら、本末転倒だと思っています。「先生の負荷を減らす」ということを校則改革では常に並行して考えたいところです。

■校則があることで精神的にしんどい教師も

【SKR】校則があることによって、私は精神的にしんどいです。自分は「悪くない」と思っているのに、校則があるから注意しないといけないこと。また、担任していると自由にいろいろ活動させてあげたくて、クラスをよりよい環境にするところにエネルギーを割きたいのに、頭髪指導や「ネイル取ってこい」とかに労力を割かないといけないのがしんどいです。

■耳が膿むのに、ピアスを外させる

【内田】時間的だけでなく、精神的に負荷があるんですか。

【SKR】例えば、この校則に基づく指導で泣いちゃう子がいます。「自分の顔が好きじゃないから化粧をしてきている」のに、化粧を落とさせないといけない。泣きながら化粧を落としている横に付き添っていたときはかなり苦しかったです。私は何回か、こうした指導を経て先生を辞めたいと思うに至りました。結局続けてはいますが。

【内田】最近何か葛藤した指導の場面はありますか。

【SKR】ピアスを取らせる指導です。校則では「ピアスはだめ」。でも一度開けてしまうと、ピアスは穴が定着していない状態で外すと、細菌が入って皮膚が膿むなどの病気になることがあります。もちろん、「校則で禁じられているのに開けてきた」というところに生徒の落ち度もあるとも思うのですが、これを無理やり取らせないといけない。明らかに健康的な被害があるのに、押し通さなければならない。

フェンス越しの女子学生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA

■ネイルも取れる分だけ取りまだらに

ネイルも、お店でやってもらっている場合、除光液で完全に落ちないことがあります。でも「取れる分だけ取る」指導をすると、まだらな模様だけが残る汚い状況になります。もちろん、ルールについて考える場面で、その指導はするべきと思いますが、そんな事後処理をさせるのはまた別の話だと思っているのです……

【内田】しんどいですね……でもそう指導せざるを得ないプレッシャーがあるのですね。

【SKR】私が見過ごしたところで、他の先生が指導します。「なんであの先生は許してくれたのに」と、今度は余計に大人への信頼感がなくなってしまうのです。

【内田】結局指導せざるを得ない。

【TNT】誰かが私見でもって「校則を違反してもいい」と言ってしまうと、「あの人はいいって言ったのに」と余計な問題が発生します。

校則についてですが、いまはある方が生徒指導など教員の負担、コストがかかっている気がします。

例えば、今の子供たちは、デジタルネイティブの世代で、情報に敏感です。「なんでそんな指導すんの?」とほかの自治体の例やニュースと比較されると、信頼関係の構築が、校則によって遠回りになることがあります。

■50代教員は「荒れた時代」を覚えている

【TNT】ただし、先生、地域の方々の中には、校則をなくしてしまったときに校内暴力などが盛んだった、「あの頃(1980年代)」みたいな荒れが発生し、それが発生したときに、立て直す際のコストを考えている人もいます。

以下は私の経験則も入っていますので参考程度にお聞きください。昔の「荒れた状況」は、例えば「同じリーゼント」など「目に見えるもの」だったので、その条項を取り締まれば、外見的にまず抑えられて、一定程度取り締まることができました。今は、「荒れ」って姿に出てこない部分が大きいと思います。このように時代の遷移を考えると、校則をなくしたせいで、外見を伴って荒れるということはないと思います。

2021年現在、50代の教員はあの「荒れた時代」を覚えている。そのときとは、毎朝校門の前で状況の観察と身だしなみの指導、場合によっては朝から怒鳴り合いになり、保護者も学校に来て収集がつかなくなるなどのときです。

この理論で考えると、「生徒の荒れ」は地域などの指摘によって最終的に学校が負担しなければならず、校則があることによってこのクレームなどが低減していると考えると、「校則がある方がコストがかからない」となるのだと思います。

でもこの理屈は今の時代も通用するのでしょうか。

【長野】現代の長野県でも荒れている学校は確かにあります。校則がないから生徒指導も大変じゃないのではないか、というとそういうわけではないと思うのです。

■スマホの使用禁止に「なんで?」

先のスマホの話でいうと、「登校後、下校まで校内でのスマホは使用禁止」なのです。でも、生徒に「なんで?」と聞かれると明確な返答はできませんでした。急に親に連絡を取らなければならないことなど、いろんな場面が想定されるはずなのに。でも少し調べてみると、携帯がかつて高校生に普及し始めたときに、授業中に遊んでいる例が確認され、その防止としてつくられた校則をずっとやってきた。我々は考えもせず、スマホの使用を見つけるたびに、指導している部分もあったと思います。

【内田】なるほど……一筋縄でいかないのは、教師の生徒指導に向かう価値観の違いや、ある意味で地域の要望、そして生徒の思いの多様化もあるのでしょうね。貴重なお話をありがとうございます。

最後に制服の話だけみなさまにお伺いしたいです。ジェンダーレス化が進んでいて、現在校則改正の話題となるとまず上がってくると思います。いかが運用されているのか、また、いかがお考えでしょうか。

■私服と制服を選べるような制度を

【SKR】私は私服と制服を選べるような制度がいいなと思っています。自分の私服をあまり所持していない子など、制服があることで救われる子もいます。

また、制服を導入している意味が、外聞に対してきっちりとしていることをアピールすることに重点が置かれ、丈の長さをそろえるとか画一的な指導によって、生徒の行動を制限するようなものは不必要だと思っています。

【内田】その考えは学校ではどんな反応されるでしょうか。

【SKR】今の学校では、おそらく反対されると思います。私も分掌に入っていた生徒指導部から「制服・私服の選択制」について提案したのですが、管理職等の会議に出たはずなのですが、私が気付いたころには議論すらなくなっていて、おそらく管理職らの立場で何か反対に合ったのだろうなと思っています。

【内田】理由までは分かりませんか?

【SKR】あまりにも生徒指導部の主任が険しい表情で帰ってきたので聞けませんでした。

【内田】いえ、ありがとうございます。私のように遠くから見ていると、「校則って全く動いていないんだな」と思っていたのですが、実はSKR先生のその件のように葛藤も含めて動いている教員もいらっしゃるのだな、と感じました。傍から見ていると分からないですね。軒並み変わっていませんから。

たまに話題になってるのは人権の保護の上でもおかしなものばかりで、もう少し踏み込んだ、制服などの議論は起きていないものだと思っていましたが、もしかしたら動きは起きているけれどもポシャっている、あるいは教員も葛藤を抱えつつ現状維持が続いている状況にある気もしました。

【TNT】私もSKRさんが言われたように、標準服があって、好きなものを着ればいいと思います。

■「私だってこんな短くスカートをはきたくない」

それでも一つ気にしておきたいことがあって、昔、スカートを短くつめていた生徒に、「あなたの太い脚なんか見たくない」と怒った先生がいました。この発言自体がハラスメントで、問題です。しかし加えてそのときの生徒の返答が頭に残っています。「私だってこんな短くスカートをはきたくない」と。

いろいろ話を聞くと、制服しかない状況で、いわゆるオシャレな着こなしをしているか否かで、所属する集団から弾かれてしまうケースがありまして、これはいわゆる「スクールカースト」につながっていたのでした。「短くしないと仲間に入れてもらえない。だから仕方なくしているのに、『見たくない』とか言われて悔しくて」とその生徒は泣いていました。複層的な問題でもあるのです。当時の私は「ああ、全員一律に指導しないからダメなんだ。ちゃんと全員を短くしないように指導しないといけないのだ」と感じました。でも、そもそも制服がなければこのような問題は起きない、と今は考えています。

■先生の私服への恐れは正当?

【TNT】先生方は「私服を許すととんでもない恰好をしてくるやつがいるだろう」と勝手に恐れている。でもおそらく、生徒はとんでもない恰好をしてきて浮くことを理解しているのです。派手な格好をしている、なめられたくなくて怖そうな服を着てくる生徒もいるでしょう。でもそれを、先生方が「ほら見たことか」となるのではなく、対話の機会にしていくべきなのではないかと思いました。

かつては、こうした生徒の心の変化を読み取る上で、服装などの変化を見とるのは、有効な手段だったと思うのです。「目つきや表情が悪くなった」から次に「服装等が変わった」、だから変化の原因となっている心情に向き合おう、と。でも、今は「まず服装を指導する」。これでは心情の部分が全く解決していなくて、恰好だけ直すのなら、その指導は一体何のために行っているのでしょうか。

でも、一部の教員は「恰好をちゃんとさせていれば、『荒れ』が始まらない」と信じている。本当は「荒れ」の兆候を検知するためのものではないのでしょうか。

【内田】スカート短いのなら、それはなんでなのだろうと聞いて、その子の思いを理解していくきっかけだと。

【TNT】最初は「どうしたの?」のはずなのに「違反じゃないか! 長くしなさい」などになっている。あの荒れた時代を立て直した先生方の中には、校則指導といいながら、心を見ていた指導をされていらっしゃった人もいたと認識しています。ある意味、ただだらしないだけの子はスルーしていたこともあったのです。

その下の世代の教員が、これを引き継いでおらず、「恰好」から入ると、教師と生徒の乖離(かいり)や信頼関係が築けなくなることもあるのだと思いました。

【内田】それはすごい分析ですね。見た目の問題ではなく心にアプローチするのが生徒指導。すでに私服率の高い長野県はいかがでしょうか。

■私服でも制服でも「貧富の差」は見える?

【長野】長野は半々くらいの割合で、制服だけの学校と私服の学校があります。私は両方の学校に勤務したことがあります。私服の学校は形式的な制服もありません。制服のようなものを着ている生徒は、いわゆる「なんちゃって制服」です。

【内田】それでいて普通に回っているのですか。

【長野】先の生徒指導のコストと校則の観点で考えると、制服がない方が、着こなしについて指導しなくてよいので、指導に割くコストは少ないです。自由に選んだ服でいるので、指導の余地は全くありません。

一点、担任をしていたときに気になったのは、貧富の差がどうしても出てしまうことです。例えば、2、3日同じ服で登校してくる子。学校ジャージしか着てこられない子。それをコンプレックスに感じている子がいたとしても、担任としては助けてあげられないので、こちらも苦しい。

でも、最近気が付いたのですが、同じことは制服でも言えたのです。Yシャツを1枚しかもってないと毎日洗うので、他の子よりも先にボロボロになります。

【内田】制服でも、目で見て分かるレベルで劣化するのですか。

【長野】襟の黒ずみは家で洗っても落ちませんよね。スラックスも立ったり座ったりするとだんだんへたってきます。制服でも目に見えて変化します。どちらにしてもこの問題はあったのです。

両方のメリットデメリットを改めて子供たち視点で考える必要があるでしょう。私は、子供たちが自由に選べる、納得感をもって通える私服もOKという在り方がいいのではないかな、と思います。

■貧富の差にどう対応するか

【内田】僕がもし制服を自由化するとしたときに、一番議論するべきところは、「貧富の差」が視覚化されるところにどう対応するか、だと懸念していました。明らかに貧富の差が顕在化するなら考えないわけにはいかない。でも、それは制服にしても課題なのですね。もちろん、貧富の差自体が問題なので、これはまた別の議論でもあるのですが。

もう一点聞きたいのは私服OKだと、めちゃくちゃ派手な人たちが登場し、オシャレなどの外見的な競争が激化するのではないか、これは結果的に先のTNTさんのお話のように、荒れにつながるのではないかとも懸念しているのです。「雑誌に載っていた服だ」「私も新しいの買わなきゃ」とかだんだんひどい状況になっていく。長野はどのような状況になっているのですか。

■服で人を判断する価値観を子供とともに考える

【長野】今見える範囲では特にないです。突拍子もない派手な格好をしてくる子もまれにいますが、そのことで、「距離を置かれる」「人間関係が破綻する」などに一気につながることはあまりないです。服で人を判断する子供たちではないですね。逆に服で人を判断するという価値観こそ子供たちとともに考えるべき視点じゃないかと。

■私服だと3割ジャージも

ちなみに、じゃあ私服だとどんな感じになるかというと、部活とか学校のジャージを着ている子が3割くらいいます。ほか7割は私服もしくは「なんちゃって制服」です。特定の部活動が、例えば野球部が学ランで合わせているような例もあります。ほかには、きれいな私服を着ている女の子の集団もあります。派手な男子も、地面につくような丈の服をオリジナリティあふれる形で着こなしている例もたまにあります。

服は価格だけでなく、こだわりがでるので、オシャレじゃないから貧しい、というようなことではないと感じます。むしろ、先ほど少し挙がった「スクールカースト」という観点からは、確かに、華やかなきれいな服を着ているグループと、服装が地味な生徒の集まりなどは分かれると思います。

■ファストファッションの方が清潔に通えるかも

【TNT】貧富の差は分かります。制服の学校にいますが、お古の制服も可ですので、それはもう端から色が違いますよね。加えて例えば制服に痛みがでたときに、貧困家庭だと、お家の方がミシンで縫うなどもままならない場合もあり、本人が下手な裁縫で取り繕ってほつれが目立っているなどの状況もあります。気の毒なのだけど、買い替えるのは高いので、私服でもよいということで、ファストファッションだったらこの子でも買えて清潔に通えるのにな、と思います。

河﨑仁志、斉藤ひでみ、内田良『校則改革』(東洋館出版社)
河﨑仁志、斉藤ひでみ、内田良『校則改革』(東洋館出版社)

【SKR】分かります。でも逆に、おさがりは貧富に限らず一定数いるので、そこまで可視化されないという意見もあります。ただ、服をメンテナンスできる環境であるか否かというのは、1~2年経つことによって見えてくるものということもあります。制服の方が見えづらいとは思いますが、見えるのは見えます。

【長野】余談ですが、教員の身だしなみについて、長野県の公立高校には、そもそも教員の服飾規定がないので、先生方はわりと自由な恰好をしている印象があります。私も最初、教員になりたての時はスーツで行ってましたが、そのうちジャージになりました。そのことで何かとがめられることもないので、そうした「服装の自由」という意味では、私服校に通う生徒とあまり変わりません。

【内田】制服についての意見、ありがとうございました。

----------

河﨑 仁志(かわさき・ひとし)
兵庫県明石市立朝霧中学校教諭
令和2年度より生徒指導部長として勤務校の校則改革を行い、各種メディアに取り上げられた。

----------

----------

斉藤 ひでみ(さいとう・ひでみ)
岐阜県高等学校教員
2016年8月より教育現場の情報発信を続け、国会や文部科学省への署名提出、国会への参考人陳述等を行う。共著に『迷走する教員の働き方改革』(岩波書店)、『教師のブラック残業』(学陽書房)がある。

----------

----------

内田 良(うちだ・りょう)
教育社会学者、名古屋大学大学院 教授
1976年生まれ。専門は教育社会学。ウェブサイト「学校リスク研究所」を主宰し、また最新記事をYahoo!ニュース「リスク・リポート」にて発信している。著書に『学校ハラスメント』(朝日新書、近刊)、『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教師のブラック残業』(学陽書房、共著)、『教育という病』(光文社新書)などがある。ヤフーオーサーアワード2015受賞。Twitterアカウントは、@RyoUchida_RIRIS

----------

(兵庫県明石市立朝霧中学校教諭 河﨑 仁志、岐阜県高等学校教員 斉藤 ひでみ、教育社会学者、名古屋大学大学院 教授 内田 良)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください