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思わずtwitterまとめに反応した「何者にもなれなかった40代、50代」の心の内

プレジデントオンライン / 2022年5月13日 10時15分

東京・赤坂見附にある昼スナック「ひきだし」のママ、木下紫乃さん。本業は中高年のキャリア支援事業。法人向け研修やフォローアップのほか、個人向けのワークショップやセッションも行っている。 - 撮影=萩原美寛

当たり前だが、社長・役員となって功成り名を遂げる勤め人はごく少数。それ以外の40代、50代にとって、会社で勝負がついた後の人生の長さが、下手をすると入社から現在までに匹敵するのは悩ましいところ。これまでの会社人生を振り返り、アイデンティティが確立されないまま、定年を迎えることに不安を覚える人も少なくないという。「プレジデント」(2022年6月3日号)の特集「『捨てない』生き方」より、記事の一部をお届けします。

■「オレもここまでかな」と思ったらやること

“40~50歳代の大部分の何者にもなれない大多数の勤め人”“キャリア論は若者向けばかり”(すらたろう@sura_taro)――2022年2月、中高年の悲鳴とも哀愁とも取れる呟きが、ツイッター上で注目を集めた。

当たり前だが、社長・役員となって功成り名遂げる勤め人はごく少数。それ以外の大多数は、世間的にはただの人だ。そうした人々が「何者にもなれなかった人」に当たるのであろう。

その人たちが懸念するのは、会社で勝負がついた後の人生の長さが、下手をすると入社から現在までに匹敵することだ。退職金に頼らず20年、30年と働く覚悟を決めねばならない。

躊躇(ちゅうちょ)なく転職する若手・中堅を横目に、そんな40代、50代が組織の上のほうに多く取り残されたままだ。新たなお金とプライドの拠り所を見出せずにいる彼らの琴線に、先のツイートは触れたのだと思われる。

メディア系企業勤務の傍ら、大規模な異業種交流会を主宰し、著書も複数上梓している千葉智之さん(49歳)も、このツイートに敏感に反応した1人だ。

「アラフィフの私にとってもド真ん中の話です。確かに、40代後半にもなれば『オレもこの辺までかな……』という具合に、先は見えますよね」

千葉さんは、会社と昇進・報酬とを切り離して捉えることを提案する。

「退職後を視野に入れて、在職中にスキルや人脈といった、後でマネタイズに繋がる自分の資産を蓄積しておくべきです。そう考えれば、会社は宝の山。今やるべきことはたくさんあります。辞めたら、そこに二度とアクセスできませんから」(千葉さん)

今、いる場で自分の強みを見出せば、羅針盤と地図は手に入る。今やるべきこともおのずと決まる、というわけだ。

「ただ、そもそも“何者かになれた”と思ってる人なんて、ほとんどいませんよ。知り合いで、大手ITの開発責任者をやっているバリバリのエリートですら、『何者かになれたなんて思ってない』と言っていたくらい。日本のサラリーマンは総じて“何者にもなれなかった症候群”じゃないですか」(同)

「昼スナ」の先駆けとしても知られる「ひきだし」。週1、月1でカウンターに立つママ・マスターが、見知らぬ人同士を繋げてくれるだけでなく、一緒になった客同士が気軽に会話を交わし、職場では出会えない人たちとの交流を広げる場となっている。
撮影=萩原美寛
「昼スナ」の先駆けとしても知られる「ひきだし」。週1、月1でカウンターに立つママ・マスターが、見知らぬ人同士を繋げてくれるだけでなく、一緒になった客同士が気軽に会話を交わし、職場では出会えない人たちとの交流を広げる場となっている。 - 撮影=萩原美寛

■「正直、あの世代にカネは出したくない」

そんな悶々とした思いを抱えた中高年たちの集う場がある。

「『何者』って何ですか(笑)? そんなのメディアがつくった幻想だと思っていますよ」――東京・赤坂見附のスナック「ひきだし」の紫乃ママ(54歳)は、件のツイートを一笑に付した。

「若い人もそうですけど、一見何者かになっていそうなキラキラした人を、ネット上で目にしやすくなっています。テレビや新聞の中のような別世界ではないから、上ればたどり着く階段があるように見えてしまう。『そこを目指さなきゃいけないのか』と、周囲の同調圧力も含めた強迫観念が生まれ、自分がそこに到達していないことでムダに落ち込むという構図が生まれたんでしょう」(紫乃ママ、以下同)

紫乃ママ――木下紫乃さんの本業は中高年のキャリア支援を行う会社のCEO。その傍ら週1回、昼に「ひきだし」に顔を出し、それに合わせて店を訪れるビジネスパーソンの悩みを聞いたり、相談に乗っている。

「私たちの世代が社会に出た頃は、定年まで勤め上げる単線型のキャリアが普通でした。リーマン・ショックだ何だでその価値観がガシャガシャになり、世の中の大きな変化にキャッチアップする暇もないうちに、気が付くと閑職に追いやられていた、という感じ」

リクルートを手始めに数度転職した紫乃さん。企業研修を担う会社にいた45歳の時に大学院に通った。恵まれているはずの大企業の社員が、皆つまらなそうに仕事をしているのとは対照的に、大学院には何か新しいことを始めようとする若者が大勢いたという。

「なのに、彼らが就活を始めると、ベンチャー入りを阻止して大企業に入れようとする、私たち世代の親のブロックがすさまじかったんです」

当時、自分と同世代の企業社員について「正直、あの世代にカネは出したくない」「だって辞めちゃう人たちでしょ」と複数社の人事部から言われたという紫乃さん。この世代が価値観を変えて楽しく仕事をすれば、企業の業績も上がり、若い人たちの道を拓くことにも繋がる――そう思って、2016年に会社を設立。翌夏、スナック「ひきだし」を開いた。

■ウブな中高年を狙う“ヒヨコ食い”

「ひきだし」を訪れる客は様々だ。言われたことだけを真面目にこなしてきたという住宅販売会社の45歳、先々どうキャリアを積めばいいのか迷う金融一般職47歳、親会社買収で希望退職し、初の就活に悩む55歳元営業部長……。

「50代男女は、ただただ『このまま行ったらどうなっちゃうんだろう』と途方に暮れています。何でも答えがどこかにあると思っている偏差値重視世代ゆえか、誰が言っているのかわからない一般論を、正解だと思って自分をそこに合わせてしまう。結局、合わなくて悶々とするのは本人です。自分は何が楽しくて何が嫌か、何にわくわくするか、まずそこが重要なのに」

手っ取り早く「何者か」の正解を得ようと、資格の取得や起業・副業指南に走る人が、リスキリングと称する高額なだけの座学のカモにされがちだ。

「個人事業主になるのにお金はいらない。なのに、自分で何かを作って売ってカネを取った経験がない、常に消費者側の人。生産者側に立って稼がなきゃならないのに、自分がお金を払って学ぶパターンから抜け出せない中高年が多いですね。そういうウブな勉強好きの中高年を狙うビジネスを、“ヒヨコ食い”と呼ぶそうです」

ではどうするか。まず、誰かのために動いてみては、と紫乃さんは言う。

「何でもいい。例えばボランティア。自宅の半径1キロ以内を探せば、実は困っている人はたくさんいます」

そういう場では経理や交渉事の経験、あるいは今の職場の若手には劣るエクセルのスキルが、しばしば驚かれたり重宝される。自分では気付かなかったスキルの価値も見出せる。

「いきなり稼げなくてもいい。ほんの少し世界を広げて、誰かに『ありがとう』と言ってもらう経験を積み、自分が何ができる人かを語れるようになる。そうしないと、次には進めません」

周囲が具体的なお願いをしやすくなり、価値を感じた相手の「ありがとう」が積み重なって「交通費出します」から謝礼へと繋がっていく。その循環をつくっていくことが、業を起こす入り口だと紫乃さんは言う。そこから独立、あるいは小さな会社の手伝いもよし。

■自分が生かされる場所を見出す

「今の会社で先が見えているなら、1週間に1時間でも捻出して、次のステップに向けた助走を始めたほうがいい、とお客様にはアドバイスしています」

この先、何のために自分の時間を使うのか。それには何が必要か。そこから始まる学びが本当のリスキリングである。そのうえで自分が生かされる場所を見出すことができれば、「何者か」である自分を感じ取れるのではないだろうか。

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西川 修一(にしかわ・しゅういち)
ライター・編集者
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者、プレジデント編集部を経てフリーに。

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(ライター・編集者 西川 修一 撮影=萩原美寛)

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