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「自分に正直になるべきだった」「働きすぎだった」…死を迎える人に共通する「5つの後悔」の傾向と対策

プレジデントオンライン / 2022年5月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

悔いのない人生を送るにはどうすればいいか。筑波大学の上市秀雄准教授は「死を間近に迎える人は5つの後悔をするとされている。自分の気持ちを伝えきれなかったり、友人とのつながりを絶ったりという『行わなかった後悔』はいつまでも消えず、心身にとって重荷となる」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、上市秀雄『後悔を活かす心理学』(中公新書)の一部を再編集したものです。

■私たちは後悔だらけの生活を続けている

私たちは、毎日のように後悔をしながら生活を続けている。買い物をする場合、どれにするか悩んだ末に買ったにもかかわらず、「やっぱり、あっちを買っておけばよかった」と後悔することがある。特に電化製品や家具などの高価で買い替える頻度の少ないものを購入した場合に、このようなことが起こりがちである。

遅刻しそうになり急いでいるとき、電車やバスなどに乗り遅れまいと走ったのに、もう少しのところでドアが閉まって発車してしまった場合、「こんなことなら一所懸命走らず、次を待てばよかった(あるいは、もっと早く家を出ていればよかった)」と後悔するかもしれない。

株式投資で、迷った末に自分が買わなかった株が、後日値上がりしたことを知ったとき、「あのとき買っておけばよかった」と後悔した経験のある人もいるだろう。

このような些細なことだけでなく、自分たちの人生に関わるような重大なことについても後悔は生じる。自分の希望する会社などに就職することができたとしても、入社前に期待していたような仕事ができなかった場合、「他のところに就職すればよかった」と思うだろう。

「自分は体が丈夫なので大丈夫だ」と思って任意加入の医療保険に入らずにいたら、ある日大病をわずらって、医療費が思いのほかかかってしまった場合、「こんなことなら保険に入っておけばよかった」と思うかもしれない。

■強く記憶に残る後悔は、心も体も蝕む

他にも、「転職しておけば/しなければよかった」「もっと勉強しておけばよかった」「あのとき結婚/離婚しておけばよかった」「約束を守ればよかった」「けんかをせず仲良くしておけばよかった」「こんなことなら競技/趣味/習い事をやめずに、ずっと続けておけばよかった」「たばこをやめればよかった」「無駄遣いせずに、蓄えておけばよかった」「もっとよく考えてから○○をすればよかった」など後悔する出来事には、枚挙にいとまがない。

このように私たちは、小さな後悔から大きな後悔まで、様々な後悔を人生の中で何度も経験しながら生きている。

後悔は、いつまでも強く記憶に残ることがある。強く後悔し続けている人は、あまり後悔をしていない人に比べ、気分の落ち込み、憂鬱などの抑うつ傾向が高いなど精神的な健康状態が悪い。加えて、湿疹などの持続的な皮膚のトラブル、持続的な胃のトラブル・消化不良・下痢、慢性的便秘、慢性的睡眠障害、片頭痛、喘息・気管支炎・肺気腫、甲状腺疾患などの身体的な健康状態もよくないという傾向もある。

■自分に責任がないことまで背負ってしまう人も

後悔は、「自分は幸せだと思う」「自分の生活に満足している」などの主観的な幸福感と負の相関関係がある。仕事、教育、家族・結婚、友人関係、趣味、自分自身、健康のことなど後悔している未達成の目標や出来事が、現在の自分の生活に大きく影響していると考えている人は、生活満足度が低く、体調不良などの健康状態が悪く、抑うつ傾向が高い。高齢者は、若い人よりも、それら未達成の目標を、今から達成できる可能性は少ないと考える傾向もある。

後悔し続けることは、生活に対する満足度を下げ、心身ともに悪い影響を及ぼす。特に後悔をし続けている高齢者の人たちは、注意が必要である。

さらに問題なことは、人は非常に大きな予期せぬ不幸な出来事に見舞われたとき、たとえそれが自分にはどうしようもないことであったとしても、その出来事を自分のせいだと感じてしまい、大きな後悔を感じる場合があることである。

たとえば、自分の子供が通学中に暴走した車に轢かれて大怪我をしてしまった場合、「あのとき私が子供に車に注意するように言っておけばよかった」と自分を責めて、後悔することがある。実際、東日本大震災の被害者の遺族にも、「両親を自分の住むところに呼び寄せておけばよかった」「(被害に見舞われた場所に)進学・就職させなければよかった」などのように、震災前の時点では何の問題もなかったことに対して、自分自身を責めて後悔している人が多数いた。

このような後悔は、いつまでも心に重荷として残ることもある。そのためにも後悔は、何らかの方法で低減・解消する必要がある。

■自分の死の間際に思い出す5つの後悔

自分の人生の終わりが近づいてきたとき、自分のたどってきた道を振り返り、いろいろなことを思い出すことだろう。いい人生だったと満足する人も多いが、その反面、大きな悔いを残している人もいる。私たちは、死の間際にどのようなことを後悔するのだろうか。

死を迎えるときの後悔には、主に「自分に正直な人生を送ればよかった」「働きすぎなければよかった」「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」「友人との連絡を取り続ければよかった」「幸せをあきらめなければよかった」の5つがあるとされる。このような後悔をしないためにも、自分自身の人生について、よく考えておく必要がある。

■「自分に正直な人生」を送るには定期的なチェックを

「自分に正直な人生を送ればよかった」という後悔は、長い自分の人生において、世間体を気にしたり、必要以上の我慢をしたり、周りの期待に応えるために自分の意思を押し殺したり、あるいは無理をしたりして過ごしてきたために生じる後悔といえる。

この後悔は、基本的に人生の終焉になって気づくことになる。人生をやり直すことは誰にもできないので、この後悔から生じる自分自身に対する怒りや悲しみは大変大きなものになる。この後悔を避けるためには、定期的に自分自身を振り返り、自分自身の意思で、自分自身の人生を歩んでいるかどうかをチェックすることが必要だといえる。

仕事は生きていくうえで非常に重要である。「働きすぎなければよかった」という後悔は、その仕事を面白く感じ、生きがいになっていたことも意味している。文字通り人生を賭けるに値するものだったことだろう。

しかし、働きすぎたために体を壊してしまうこともある。さらには仕事を重視するあまり、家族とのコミュニケーションがなおざりになり、家庭が機能不全に陥ることもある。そのため、最後は孤独な人生を送ることになるかもしれない。多くの人はいずれその仕事から離れることになる。そのときになって、仕事以外にやりたいことが何もないことに気づいても遅い。

仕事だけが人生ではない。よい人生を送るためには、仕事、家族・友人、趣味などのバランスをとることが重要である。絶対的によい人生は存在しない。よい人生は人によって異なる。自分にとってのよい人生とは何かを考えながら、自分の人生を歩む必要がある。

■「ありがとう」の言葉が自分も相手も救う

「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」という後悔は、自分の気持ちを伝えなければいけないときに、恥ずかしさ、てれくささ、言いづらさ、厳しいことを言ったら非難されるかもしれないという恐れなどの心理が働き、何もしなかったこと、あるいは何もできなかったことから生じる感情である。

たとえば家族のことを大切に思っているにもかかわらず、何も言わなかったために、自分と家族の間に深い溝ができることがある。忠告すべきときに忠告しなかったために、それが大きな禍根となり、その後の人生に悪い影響を及ぼすこともある。「はい」「いいえ」を明確に示さなかったことで、さらに悪い状況に陥ることもよくある。

難しいこともあるかもしれないが、恥ずかしくても、つらくても勇気を持って自分の気持ちを表すことは、後悔しないためには必要である。たとえ人生の最後の瞬間であったとしても、自分から「ありがとう」という言葉を伝えることで、後悔のない安らかな最期を過ごすことができる。加えて「ありがとう」と言われたほうは、大きな嬉しさを感じる。感謝の念は、相手に対してだけでなく自分に対しても、大きな安らぎ、嬉しさ、心地よさ、満足感などを与える。躊躇せず感謝を伝えることが肝要といえる。

波打ち際に書かれた「Thank you!」の文字
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

■友人とのつながりを維持する労力を惜しまない

「友人との連絡を取り続ければよかった」という後悔は、友人とのつながりを感じられないときに感じるものである。この後悔を避けるためには、単に連絡を取り合っていればよいというものではない。一緒に楽しい時間を共有できているという実感が必要となる。特に自分の体の自由が利かなくなり、自分から会いに行くことができなくなったときに、「会いに行けばよかった」「もっと一緒に過ごせばよかった」と、この後悔を感じることになる。

友人というものは、何年かぶりに会っても、すぐに打ち解けることのできる存在である。友人とのつながりをなくすことは簡単であるが、つながりを維持するためには、ある程度の労力を要する。この後悔を避けるためにも、手紙やメール、電話等で、友人とのつながりを保つことはもちろん、それ以上に、友人と一緒に楽しいときを過ごす努力も怠ってはならない。

今はSNS等による文字や写真だけでなく、会議システムなどを使ったリアルタイム動画といったコミュニケーション手段を用いて簡単につながり続けることができる。これらを最大限利用するのもよいだろう。

■「幸せなもの」に囲まれるためにはどうするか

「幸せをあきらめなければよかった」という後悔は、他者の意見や価値観にとらわれ、自分自身の価値に気づかず、自分の足りない部分を必要以上に重視し、現状の問題から目をそむけ、自分が幸せになるための選択を積極的にしなかったために生じる。その結果、自分自身のよい面を適切に認識することができず、現状に無理やり自分を合わせてしまい、「自分は幸せになるに値しない人間である」と幸せになることをあきらめてしまうことになる。

「○○でなければならない」という価値観にとらわれすぎていると、本当はやりたくなかったとしても、他人の目が気になり我慢してしまい、自分らしくない人生を歩んでいくことになる。「離婚は子供に悪影響を与える」という考えにとらわれすぎると、自分自身だけでなく、不仲の両親の元で育てられた子供にも大きな心の傷を負わせてしまい、家族全員が不幸になることもある。

暴力的、経済的、精神的なものなどのドメスティック・バイオレンスがあっても、「それ以外は素晴らしい人」と思い込むことで、パートナー間の信頼関係を破綻させる問題から目をそむけてしまい、不幸である状態から抜け出せないこともよくある。

私たちは、良いことや良くなることを考えることができるし、悪いことや悪くなることも考えることができる。そしてどちらも自由に選ぶことができる。それならば良いことや良くなることを考えたほうが幸せになれる。自分にとって幸せなことを考えたり、心地よいことに注意を向けたりすれば、必然的に「幸せなもの」に囲まれることになる。

自分の人生を後悔しないためには、自分自身のよいところや備わっているところに目を向け、自分にとっての幸せを考え、幸せになるための選択をするように心がける必要がある。

■遺族が最も悔やむのは「時間共有への努力」

最後のときを迎えた人に自分の人生についての後悔がある一方で、家族をはじめとする残された人たちにも後悔が生じる。最後のときを迎えた人との別れは一度きり、後悔しても取り戻すことは難しい。それでは最後のときを迎えた人に対して、「やっておけばよかった」「やらなければよかった」と後悔しないためには、何をしておけばよいのだろうか。

ここで、ホスピスで家族を看取った遺族に対する調査(遺族89名が回答)を紹介する。患者の闘病期間中に遺族が行わなかったことに関する後悔の内容、および人数の内訳は、「もっと一緒に過ごせばよかった」などの「時間共有への努力」が13名と最も多く、「患者の好きなことをしてあげればよかった」などの「やり残し」9名、「もっと大切にしてあげればよかった」などの「患者への態度」8名、「なかなか世話ができなかった」などの「生活の中での優先順位」6名、「最後の話がしたかった」「話せばよかった」などの「患者との会話」4名、「精神的に支えてあげられなかった」などの「気持ちの理解」4名、「看取りに立ち会えなかった」などの「看取り」4名だった。

治療過程で行わなかったことに関する後悔は、「医学的知識(昏睡(こんすい)状態=死という認識がなかった、ホスピスのことを知らなかった)」8名、「治療の選択(新薬を使うようにお願いすればよかった、本人と一緒に治療等について考えればよかった)」7名、「ホスピスへの入院過程(もっと早くホスピスに入院させればよかった)」5名、「病名を告知しておけばよかった」などの「病名告知」3名だった。

喪服で菊の花束を抱える女性
写真=iStock.com/Yuuji
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuuji

■「行わなかった後悔」をしている遺族のほうが多い

患者の闘病中に行ったことに関する後悔の内容は、「患者の前で泣いてしまった」「事務的に過ごした」などの「患者への態度」7名、「他の家族と交代した」「故人を置いて帰った」などの「生活の中での優先順位」3名だった。

治療過程で行ったことに関する後悔の内容は、「全治療を放棄した」「家族で決めた治療が患者の体力を奪った」などの「治療の選択」3名、「入退院を繰り返させた」などの「ホスピスへの入院過程」2名だった。

まとめると、闘病中の家族に関して「行わなかった後悔」をしている人のほうが、「行った後悔」をしている人より数が多い。言い換えるならば、「行わなかった後悔」のほうが、心にずっと残っているということである。つまり家族としてできることは、できるだけやっておいたほうがよいということである。

ただし、このような状況で後悔しないための行動をつくすには、当事者である患者家族の努力だけではなく、医療関係者や公的機関などの支援が必要不可欠である。患者家族にも日常生活がある。それが壊れてしまっては、患者のケアもできなくなってしまう。

この研究でも指摘されているが、患者家族が不安を感じずにすむように、患者に対応できるようにするための情報や知識の提供、患者が望むことをやり残さないような残り時間を考慮した支援、家族が行ったことに対するポジティブなフィードバックなど、医療関係者、公的機関、ボランティアなどがサポートすることも必要である。

■後悔することは悪いことばかりではない

ここまで、本稿では後悔することは悪いことだけでしかないかのように書いてきた。確かに後悔することで、自分自身を責めすぎたり、やる気を失って自暴自棄になったり、心身の健康状態に影響を及ぼしたりことも少なくない。

上市秀雄『後悔を活かす心理学』(中公新書)
上市秀雄『後悔を活かす心理学』(中公新書)

しかしながら後悔することは悪いことだけではない。自分を成長させるための薬にもなりうる。誰しも「あの経験があったからこそ、今の自分がある」と思ったことがあるだろう。後悔を良薬にするためには、後悔したことを反省し、そしてその後悔から学ぶことが必要となる。そうすることによって、自分をより成長させ、同じ過ちを繰り返さないようになったり、適切でない行動を適切な行動へ変化させたりすることが可能となる。

後悔したことをきちんと受け止め、真摯(しんし)に反省した人たちは、後悔を低減させることができる。そして後悔した出来事を反省することにより、以前よりも、「思慮深く考えて、行動する(あるいは行動しない)ようになった」「自分のことを客観的に見ることができるようになった」「無駄なリスクを冒さないようになった」「社会のルールを守るようになった」などのように、社会に適応・適合した行動をする傾向が高くなる。

■適切に対処すれば「後悔は成長のもと」になる

後悔はしないほうがよいものなのかもしれない。しかしながら、後悔したとしても、その後悔に対してきちんと向き合い、適切な対処をすることによって、後悔を小さくし、そして自分自身を高め、さらには自分自身をよりよい方向に促進させることも可能なのである。

「失敗は成功のもと」とよくいわれる。それと同じように「後悔は成長のもと」でもある。

私たちが何らかの行動や判断を変えなければならないときや、自分の考え方を変えて出直さなければならないときなどに、後悔はあなたへのアドバイスとなる。そのためには、後悔をそのままにせず、適切に対処することが必要不可欠なのである。

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上市 秀雄(うえいち・ひでお)
筑波大学システム情報系社会工学域准教授
1964年山口県生まれ。1990年千葉大学文学部行動科学科(心理学)卒業。1999年東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士課程修了。博士(学術)。東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻助手などを経て現職。専攻は意思決定論、認知心理学(リスク認知)、感情(後悔、後悔予期)、社会心理学。

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(筑波大学システム情報系社会工学域准教授 上市 秀雄)

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