自分の仕事は完璧にやっているのに…「課長どまりの人」と「部長になれる人」の決定的な違い
プレジデントオンライン / 2022年5月16日 11時15分
■会社や上司の求めに堅実に取り組んできたのに…
「一生懸命頑張って、真面目に仕事をしているのに、なかなか昇進させてくれないんです」。そう悩みを話すのは、医療系の中堅メーカーに勤務するAさん(38歳)です。新卒入社以来、これまで15年、研究開発部署からスタートして部門内の総務、購買へと異動してきました。
会社や上司から求められることに堅実に取り組んできた。ですが、同期が次々と昇進していく中で、Aさんは昇進できない。いったいなぜでしょうか。
人材のタイプは、企業・組織構造から見て、大きく次の4つに分類されます。
2.「販売管理費人材」
3.「投資科目人材」
4.「事業利益連動型報酬人材」
それぞれについて見ていきながら、Aさんのお悩みにお答えしましょう。その際、PL(損益計算書)の構成をイメージしていただくと理解しやすいと思います。
■平社員=原価人材とは「言われた作業をする人」
まず「原価人材」とは、「言われた作業をする人」を指します。
PLの「原価」欄に該当する仕事をしている人です。もちろん会社にとって大切な役割ですが、この人が行う業務は、事業や会社運営のためのコストに当たります。
コスト業務なので、会社や上司としては、基本的には「より安く」業務をしてほしいのです。
では、原価人材には給与UPのチャンスはないのでしょうか?
そんなことはありません。原価人材は「スキルや経験を磨くことで時間給が上がる」という働き方をしています。つまり、時間当たりの生産性を上げることで、その分、昇給することが可能です。
■同じ仕事なら「若くて、安い人」に頼みたい
ところが、せっかく頑張っても、その仕事が永遠にあるという約束はまったくありません。そこに原価人材の悩みがあります。
そもそもコストとしての仕事については、同じ生産性なら「若くて、安い人」に頼んだほうが良い。これが、一般職においては年齢を重ねるほど転職が難しくなる理由です。
また、社内で行っていた業務が外注されてしまうこともあります。
昨今よく起こっているのは、これまで人力で行っていた作業がRPAなどで機械化、自動化されてしまうことです。
原価人材である限り、コストとしての仕事をしているので、どこまでいっても「安いほうがよい」という企業の理論から抜け出すことはできません。そこから脱するには「販売管理費人材」になる必要があります。
■ビジネス本を読むことより大事なこと
Aさんが昇進を希望する主任・係長職、また課長職は、「販売管理費人材」に当たります。
この人たちは収益UPに直接関わる付加価値を創出する立場の人をさしています。多くの企業においては、チームのリーダー的役割も任されます。
つまり、「言われたこと(だけ)をやる人」から、「任された業務において、自ら試行錯誤して付加価値を生む努力」「一緒に付加価値を生む同僚たちを巻き込んで、業務をよりよく進めるリーダーシップ」になることが大事なのです。
リーダーシップの本、課長のための本などを読んで学ぶことも大切ですが、本だけ読んでもダメですよ。実際に行動してナンボ、です。
Aさんはとても誠実にしっかりと業務をされてこられた人ですから、そのAさんが意識を変えれば、大きな付加価値を出していただけると思います。周囲のAさんを見る目も、かなり変わるでしょうし、課長への昇進もそう遠いものではないと思います。
■課長どまりの人と部長に昇進する人の決定的な違い
法人向け商材を扱うシステム系会社の営業マネジャーを務めるBさん(45歳)。マネジャー昇進以来、課の業績は常に全国上位に入っており、厳しい市況の中でもおおむね予算達成を続けています。
そんなBさんに、なかなか部長昇進の声掛けがありません。しかも今回の定期異動で、自分よりも平均業績の低いCさんが、隣の部の部長に昇進したのです。
「えっ、どうして?」
思わず頭に血が上ったBさんは、すぐに上長でもある執行役員営業本部長に、異議申し立てのメールを送信しました。
課長から部長に昇進する人とそうでない人の差は、「販売管理費人材」から「投資科目人材」へと転換できた人か否かです。
投資科目人材とは、「何をやらなければならないか」を設計し、それを実行するために組織を動かせる人材を指します。
■コンサルが見たBさんとCさんの決定的な差
BさんとCさんの差は、「課の業績を出しているのだから文句ないだろう」というBさんと、課の業務にとどまらず、部や部門としてどのような営業をすべきか、サービス開発をすべき事柄についての働きかけや提言があったCさんとの間で起きてしまったのだと思われます。
Bさんの課は業績が好調であるがゆえに、自分の課の活動以外への目が行きませんでした。当然、他のチームや部署に自分の方から関わることもありません。
一方、Cさんは自分の課が苦労しているために、同じ悩みを持つ他の課長とどうすればうまくいくかについて、情報交換や相談を頻繁に行っていました。さらに、関連する商品企画部署や購買、経理などに少しでも営業がやりやすくなるための業務フローの変更相談などを行っていたのです。
結果としてBさんよりもCさんのほうが、事業がよりよくなるためのさまざまな働きかけを周囲に行っており、それは同時にCさんの存在を関係各署のキーパーソンに印象付けることにもなっていたのです。
Cさんは無意識的に、自分がなんとか良い成果を上げたいと必死でやっていたことですが、これこそが、投資科目人材としての動きなのです。
■販売管理費人材に起きていること
販売管理費人材は、これまで、その人が担当チームでしっかりとバリュー=成果・価値を出している限りにおいて、会社や組織から求められる人材でした。
しかし、昨今は原価人材のみならず、販売管理費人材の業務についても、機械化・自動化の波が押し寄せているのです。
付加価値系の業務だからといって安穏としていると、営業支援システムやマーケティングオートメーション、あるいは会計やHRのTechサービスに業務が代替されてしまっているということが、気がついたらある日起こっていた、ということが頻発しています。
つまり、多くの企業でボリュームゾーンだった中間層=販売管理費人材が減っているわけです。
人材は、原価人材(アウトソーシング企業、派遣、アルバイト・パート雇用を含む)と「投資科目人材」「事業利益連動型報酬人材」の2極に分かれつつあります。この中抜き現象はこれからも加速すると私は見ています。
■会社から求め続けられる人材の特徴
組織をリードすることを期待された投資科目人材には、その心配はありません。
中核マネジメントの役割と相応の報酬、また、その人自身の成長期待と機会がより多く与えられます。
そういう意味でも、販売管理費人材にとどまらず、業務を設計しリードする側の投資科目人材にまで自身を昇華させた方が良い。
肩書うんぬんは置いておいても、特にミドルやシニア世代の人たちがこれから会社組織の中で役割や責任を持たせてもらう、組織を託してもらい、会社から求められ続ける人材であるためには、投資科目人材となることが必須であるということを理解していただくといいでしょう。
■事業利益連動型報酬人材とは何か
最後に、部長から役員への昇格の壁を簡単に説明します。
それは、「投資科目人材」から「事業利益連動型報酬人材」へと、さらに自らを転換できるか否かです。
「事業利益連動型報酬人材」とは、事業がもたらした利益からの分配で報酬をもらう人材です。事業自体の仮説や方針を立て、その実現のために組織を動かせる人、つまり、経営人材と同義です。
■昇進とは職位が一直線上に上がっていくことではない
以上、職位から見た4つの人材タイプをご紹介しました。
出世とは、この4タイプの間をまたぐことです。
「原価人材」(一般社員)から「販売管理費人材」(幹部人材)へ、「販売管理費人材」(幹部人材)から「事業利益連動型報酬人材」(経営人材)へと転換していくことを意味します。
決して、一般社員→係長・課長→部長→執行役員→取締役、と一直線に連続的に肩書が上がっていくことではないのです。
別の言い方をすると、そう考えている以上は出世の階段を上がることができません。それは、4タイプの人材が、求められること、なすべきことがまったく異なるということから、ご理解いただけると思います。
幹部クラスやリーダークラスの方々が「自分に上の役割を任せてくれない」という不平不満を口にされるのを、私も幹部転職支援の場面で折々拝見しますが、それは、「販売管理費人材」レベルの仕事にとどまっている人には「投資科目人材」レベルの役割は任せられないし、「投資科目人材」レベルどまりの仕事なら「事業利益連動型報酬人材」レベルの役割は任せることができないからです。
この転換を理解しているか否か。理解し、自らの考え方・視界・動き方を、キャリアの中で折々に転換できる人が、出世する人なのです。
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株式会社 経営者JP、人材コンサルタント
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。著書は『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)など。
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(株式会社 経営者JP、人材コンサルタント 井上 和幸)
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