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80代向けの本がバカ売れ…和田秀樹「“個人資産1400兆円”の高齢者が財産を残すのをやめて今したいこと」

プレジデントオンライン / 2022年5月13日 11時15分

65歳以上の高齢者は現在約3640万人で、今後も増える。医師の和田秀樹さんは「60代~80代に向けた私の著書が軒並み売れ、多くの高齢の読者に支持されている。出版界は高齢者をターゲットにした本にずっと後ろ向きだったが、風向きが変わった。他の業種も、高齢者が欲しているモノやサービスを提供するべきだ」という――。

■「絶対売れない」と言われた70~80代向け本がバカ売れ

高齢者向けに私が執筆した本が売れ続けている。自慢したいわけではない。これは「ニュース」なのだ。

『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)は3月のトーハンの新書ランキングで1位に、また『80歳の壁』(幻冬舎新書)は累積15万部を超え、4月に3週連続で同1位になり、4月の新書ランキングで1位になった。

ウクライナを扱ったベストセラーの新書より売れているのだから、高齢者がいかにこういう本を望んでいたかがわかる。『週刊新潮』でも私のベストセラーに目をつけて、ずばり「70歳が老化の分かれ道」という特集を組んだ。その号の売れ行きがかなりよかったとのことでその後、3週続けて高齢者対策の4ページの特集を組んだほどだ。

実は、私は以前からこうしたニーズに気づいていた。高齢者向けの本の企画をあれこれ出していたのだが、70歳とか80歳とかをタイトルにつけると、判で押したように「それでは、本が売れない」と言われて、別のタイトルに変えられたり、「せめて『60代』にしてほしい」と入れ替えを求められたりしてきた。

潮目が変わったのはコロナ渦に入ってからだ。2年前に『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)を、昨春に『60代から心と体がラクになる生き方』(朝日新書)という新書を出したところ、前者は新書より割高な四六判にもかかわらず、今も売れている。やっと70歳というのをタイトルに入れて出版することが許されてベストセラーになったのだ。

この勢いに乗って、では80歳で勝負しようということになり、『80歳の壁』を出したら、これも当たった。それも初速がすごかった。発売当初、アマゾン全体の1位になったのだ。

70歳の本がベストセラーになっていたので、書店でこの本を売る自信はあったが、さすがに80歳を対象にした本がオンラインのアマゾンで売れるとは思わなかった。書店に出かけるよりアマゾンで買うほうが楽なのかもしれない。スマホを持つ高齢者も増え、また現役時代からPCに触れている高齢者が80代超というケースも多いのだろう。

■高齢者は「長生き」より「元気でいること」を求めている

こうした高齢者からの圧倒的な支持を肌と数字でもって感じたこと。それは、多くの出版関係者は、本や雑誌のメインの読者年齢層がどんどん上がっていたのは知っていたものの、せいぜい60代までだろうという思い込みのためにビジネスチャンスを逸していたのではないか、ということだ。いや、出版だけではない。これは他のすべての業種も経営者も同じだ。

私は長年高齢者を診察し続け(今年で34年になる)、今の高齢者というものをウオッチしてきた。だが、彼らにこれほどITリテラシーがあることや、欲しいと思ったものにアクティブであることを見落としていた。多くの経営者やビジネスパーソンは、それ以上に高齢者のニーズをつかめていないに違いない。

実は、出版社というのは1冊本が売れると次々とオーダーがくるのだが、高齢者向けの企画をやりたいというテレビからのオファーは皆無であり、一般企業からもビジネスのヒントがほしい、といった申し出はまったくない。

ここしばらく売れている私の本の中で共通して述べているのは、高齢者にとって大事なのは「長生きすること」よりも、「元気でいること」だ。

ジョギングをする老夫婦
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

たとえば、血圧や血糖値を下げる薬を使うと長生きできるかもしれないが、高齢になると誰でも動脈硬化が起こっていて血管の壁が厚くなっているのだから血圧や血糖値が正常よりやや高めのほうが、一般的に頭がシャキッとする。それを選んでいいのではないかといった提言をこれらの本で行っている。

高齢になると栄養にしても、過剰の害より不足の害のほうが大きくなる。やや太めの人のほうが健康長寿なのはそのためだ。

高齢者の交通事故にしても、高齢ゆえに動体視力や反射神経が落ちて、急に道路に飛び出してくる子供をよけきれなくなって……という案件が大きく報じられているわけではない。

ふだん暴走や逆走をしない人が突然、そのような状態になったとしたら、何らかの意識障害(つまり脳が眠ったような状態になること)の可能性が高い。高齢者を専門とする医師としては、そう判断できる。

こういうことの原因に血圧の下げ過ぎや血糖値の下げ過ぎ、あるいは塩分の控えすぎによる低ナトリウム血症がなり得る。

事故を「高齢だから」のひとことで片づけるから見えてこないが、いろいろな検査データによって数値の下げ過ぎが問題にされることはない。しかしながら、血圧も血糖値も一日の中で変動する。正常値を目標にすると低血圧や低血糖が起こりやすい。

■元気な高齢者向けグルメやエンターテインメントがない

私が繰り返し本で述べているのは、長生きにとらわれたり、検査データにとらわれたりするより、自分からみて頭がシャキッとしていたり、元気だと思える状態が大切だということだ。そうしたら本はバカ売れしたのである。

私の見るところ、高齢者向けの産業というと、介護福祉事業や健康食品(その多くがコレステロールや血糖値を下げるなど検査データの改善をうたい、主観的な元気さを求めるものでない)など、かなりステレオタイプだ。

たとえば元気な高齢者向けのグルメとかエンターテインメントは乏しい。これが、高齢者がお金を残しても楽しめないという悪平等のようなものを生んでいる。

せんべいを食べる高齢の男性
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

70代、80代向けの元気で楽しもうという本が売れたということは、リアルに元気で楽しめるものを売り出したり、そういうサービスを始めたりしたら、それを利用する者は必ずいる。さらにいうと2000兆円を超えた個人金融資産にしてもその7割は60歳以上が持っているとされる。私が話を聞く範囲では、昔ほど、子供に財産を残したいという強い意志を持つ人は減ってきている印象だ。

このビジネスチャンスをなぜ活かさないのだろう?

たとえば高齢者が交通事故を起こした際、ただちに免許を取り上げよ、という風潮に対して、「うちは高齢者が事故を起こさない車を作ります」と名乗り出る自動車メーカーがなぜ出てこないのだろう? 私の印象では、車を手放すくらいなら、少々高くてもそういう自動車がほしいと思う高齢者はかなりの数でいる。

■高齢者向け著作で「男性ホルモン」の重要性訴える理由

もうひとつ、これらの高齢者向けの本で強調したのは性ホルモン、とくに男性ホルモンの大切さだ。

女性の場合、閉経後、女性ホルモンが減り、肌のみずみずしさなどが衰え、また骨粗しょう症のリスクが増えるから、その低下を防ごうという話は昔からあった。ホルモン補充療法も欧米や韓国と比べるとまだまだだが、それを行う人はいる。

一方、男性の場合はどうか。50代くらいから男性ホルモンの分泌が減るのだが、これに伴って意欲が低下してくることは昔から知られていた。漫画家のはらたいらさんがうつ病と長年誤診され、体調の悪さに苦しめられたものの、その後男性ホルモンの補充で元気になった。はらさんは男性更年期障害の怖さをいろいろな著書で訴えたが、それでも男性ホルモンの補充はとても進んでいるとは言えない。

実は、男性ホルモンというのは性欲や意欲だけのホルモンではない。それが減ると記憶力や判断力も落ちるし、人付き合いもおっくうになる。

女性の場合、閉経後男性ホルモンが増えて元気になるケースもあるし、人付き合いに積極的になるケースもなる。高齢者の団体旅行がたいてい女性なのはそのためだろう。

さらにいうと、男性ホルモンが減ってくると筋肉がつきにくくなるので、フレイル(健康な状態と要介護状態の中間、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)やロコモ(ロコモティブシンドローム:運動器に障害が起こり、立つ・歩くといった動作が困難となり、寝たきりになる危険性が高くなる症状)と言われる状態になりやすくなる。男性ホルモンを増やすことで要介護高齢者を減らせる可能性は十分高いのだ。

力こぶが出た男性の腕
写真=iStock.com/Tatiana
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tatiana

先ごろ、日本の男性ホルモン治療のパイオニアである熊本悦明先生が亡くなった。とても残念だが、自身も90歳を過ぎているのに男性ホルモン補充治療を受け、亡くなる直前まで元気だった。

生前、一度お会いしたことがあるが、その際、「男性ホルモンというからいかがわしいと思われるので『元気ホルモン』と改名すべき」とおっしゃっていた。その通りだと思う。

■経営者は高齢者という巨大なマーケットを見逃している

高齢者は弱いものだというバイアス(もちろん弱い高齢者の介護や福祉は大切であるが8割は元気な高齢者ということは忘れてはならない)のため、そのビジネスをやろうとする人があまりに少ないのは、日本の経済のためにもよくないし、何より高齢者が不幸だ。

日本のビジネスパーソンや経営者が高齢者という巨大なマーケットを見逃している以上に、日本の政府が本当の意味で高齢者の数が多いということがわかっていないのではないかという印象を抱いている。

ヨーロッパの高齢者の多い国、たとえばスウェーデンではなるべく自粛政策を行わず、移動の自由を認めるようなコロナ対策を行ったが、高齢者を自粛させると、とくにそれが長期になると要介護高齢者が増えるということがわかっているからだろう。

高齢者が自動車の免許を返納すると6年後の要介護率が2.2倍に増えるという研究もあるのに、高齢者に認知機能検査を義務付けたり、高齢者になるべく運転をさせないようにしたりという政策をむしろ強めている(自動運転の技術が進歩しているというのに!)

ジャンルが異なるが、指摘したいこともある。欧米ではすべて解禁されているポルノグラフィーも日本ではまだである。最近はむしろ警察が取り締まりを強化して、新宿・歌舞伎町で無修正DVD(裏DVD)を販売・陳列していた店(児童ポルノでなく海外の合法サイトをDVDに焼いた店)が摘発されたのに続き、AVメーカーの社長が無修正ポルノを投稿して儲けていたということで逮捕された。

スマートフォンを使っている高齢者
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

男性ホルモン補充治療を受けないとすれば、実はこの手のポルノグラフィーは男性ホルモンの分泌を一番手っ取り早く促すものだ。風俗でも確かに分泌は促されるが、ポルノのほうが出演強要などがない限り、女性の人権も守られるし、家庭不和のリスクも生じにくい。

高齢者が多いということは、少しでも多くの高齢者を元気な状態に保ち、要介護状態に陥らないように官民が頑張らないと、国の活力が落ち、増税が必要となり、経済が冷え込むということだ。

政治家にも経済人にももう少し勉強してもらって元気な高齢者の多い国をめざしてもらいたい。読者の方もこれを機会に高齢者へのバイアスを少し緩めてもらえれば幸いである。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)

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