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これはITバブル崩壊の再来だ…世界中が「米国のインフレ退治の成否」に固唾を呑むワケ

プレジデントオンライン / 2022年5月16日 9時15分

2022年5月4日、記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(アメリカ・ワシントン) - 写真=EPA/時事

■22年前のように株価の大幅下落が起きるか

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ退治に必死だ。5月の連邦公開市場委員会(FOMC)は、0.50ポイントの追加利上げを決めた。それによって、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)レートの誘導目標レンジは、0.25~0.50%から0.75~1.00%に引き上げられた。

0.50ポイントの利上げは22年ぶりだ。その22年前は、0.50ポイント利上げの後、2000年9月に“インテルショック”が起き“ITバブル(株式のバブル)”が崩壊した。0.50ポイントの追加利上げは、株価の大幅下落を想起させる。1990年代以降のFRBの金融政策を振り返ると、利上げ局面の初期段階では0.25ポイント程度のペースで政策金利が引き上げられた。終盤に差し掛かると0.50ポイントなど大幅な追加利上げが実施された。

今回もFRBは大幅な利上げを実施せざるを得なくなっている。物価は高騰しており、FRBの危機感は高まっている。今後、FRBがより大きな幅で追加利上げを実施し、バランスシート縮小を加速させる可能性は高まっている。それによって米国をはじめ世界的に金利は上昇し、株価が相応の値幅で下落する展開が懸念される。

■FRBは「インフレ退治」に必死になるが…

4月に入り、インフレ退治に必死に取り組む危機感を示すFRB関係者が急速に増えた。5月4日、FRBは0.50ポイントの追加利上げと6月1日からのバランスシート縮小を発表した。記者会見でパウエル議長は、6月と7月にも0.50ポイントの追加利上げを実施する考えも示した。これまでに増して、パウエル議長をはじめFRB関係者はインフレ退治に取り組む危機感を鮮明に示したといえる。

3月、米国の生産者物価指数は前年同月比で11.2%上昇した。FRBが物価の指標として重視する個人消費支出の価格指数(PCEデフレータ)は同6.6%上昇し、2%の物価目標を大きく上回っている。米国の需要は旺盛であり企業はコストを価格に転嫁しやすい。

労働市場はかなり急速なペースで改善している。求人件数は調査開始以来の過去最高を更新した。賃金は右肩上がりで推移している。人々はモノやサービスの価格が上昇するとの見方を強め、一度上昇すると下がりづらい家賃も上昇している。その状況が続けば、家賃を支払うことのできない家計が急増する恐れがある。

■「上昇は一時的」という誤った見方が対応を遅らせた

景気が過熱し物価上昇が続く展開を落ち着かせるため、FRBは金融政策を引き締めに転換せざるを得なくなっている。5月のFOMC後、0.75ポイントの追加利上げを示唆する地区連銀総裁は増えている。特に、昨年11月末までFRBが物価の上昇は一時的という誤った見方を続けたことは大きい。その分、金融政策の正常化は遅れた。急ピッチかつより大きな引き上げ幅での追加利上げと、バランスシートの縮小ペースの加速を警戒する主要投資家は増えている。

FOMC後に米国の長期金利は3.20%にまで上昇した。4月末から5月10日までの間、ナスダック総合指数は4.8%下落した。下落率は、在来分野の企業が多いニューヨークダウ工業株30種平均株価インデックスやS&P500インデックスよりも大きい。リーマンショック後の米国経済の成長を支えてきたGAFAなど多くのIT先端企業の株価も下落した。

■思い出されるのは22年前の「インテルショック」

インフレ退治に必死になるFRBに重なるのは22年前だ。1999年6月以降、FRBは0.25ポイントずつ段階的に利上げを進めた。利上げ開始時点での物価上昇率は2%を下回っていた。そのうえで、利上げの最終局面である2000年5月に0.50ポイントの大幅な追加利上げが実施され、政策金利は6.50%に達した。

利上げが開始された時点で、米国経済ではITバブルが膨張し、経済の先行きに関する強気な心理が急速に増えていた。特に、当時の花形企業だったヤフーなどIT先端企業が多く組み入れられたナスダック総合指数の上昇は鮮明化した。IT分野を中心に労働市場の改善も急速に進み、米国の物価は緩やかに上昇した。FRBは景気が加熱し資産価格が持続不可能なまでに高騰する展開を防ぐために早い段階から利上げを進め、景気のソフトランディングを目指した。

ただし、需要が旺盛な米国において物価の上昇圧力を弱めることは容易ではない。それに加えて当時の米国ではIT革命によって生産性が高まるとの見方も強かった。連続的な利上げにもかかわらず、先行きへの強気な心理が個人の消費増加を支え、それがモノやサービスなどの価格を押し上げた。1999年12月にPCE価格指数の上昇率は前年比で2%を超え、その後も2%を上回る状況が続いた。2000年3月までナスダック総合指数は上昇基調で推移した。

■「下がるから売る、売るから下がる」の展開に

同年5月にFRBは景気が加熱して物価上昇予想が高止まりする恐れがあると判断し、0.50ポイントの追加利上げを行った。インフレ退治への断固たる姿勢が示されたといえる。大幅な利上げによって個人の消費は徐々に鈍化し物価上昇圧力も低下した。株価の上値も抑えられた。その後、2000年9月に“インテルショック(半導体大手のインテルが予想外に業績見通しを下方修正)”が発生し、ITバブルは崩壊したのである。

インテルショックをきっかけにしてナスダック市場を中心に米国株は下がるから売る、売るから下がるという展開が鮮明化した。消費者心理も悪化し、米国経済は減速した。2001年1月にFRBは利下げを開始し、景気を下支えした。その後、米国では資金が住宅市場に流入してITバブルから住宅バブルへの乗り継ぎが起き、景気は回復した。

ウォール街のニューヨーク証券取引所ビルの外にある金融街の建物 2019年10月10日
写真=iStock.com/stockinasia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockinasia

■GAFAのビジネスモデルも行き詰まりつつある

22年前の0.50ポイントの利上げ局面と比較すると、足許の米国における物価上昇圧力ははるかに強い。ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策によって世界の供給制約が長期化するなどし、グローバルに物価上昇圧力がさらに強まる展開も予想される。

その状況下、米国の金融政策は依然として緩和的な余地を残している。FRBは考えうる最速のペースで追加利上げを実行し、金融政策を早期に正常化しなければならない。人々の生活の安定を守るために、インフレ退治を急がなければならないというFRBの必死さや危機感はこれまで以上に高まるはずだ。

それによって、米国の金利は上昇し、株価はこれまで以上に下落するだろう。1~3月期のGAFA各社の決算を確認すると、各社の成長期待は鈍化しつつある。サプライチェーンの混乱などによって国際分業の推進が難航するなど各社の高成長を支えたビジネスモデルが行き詰まりつつある。22年前のインテルショックのように、近年の世界経済の成長を支えた主要なIT先端企業の業績懸念が高まり、それをきっかけにしてナスダック市場をはじめ世界的に株価が大きく下落する可能性は一段と高まっている。

■世界の景況感は急速に悪化する恐れ

株価の下落によって米国の景況感は悪化する。現時点で、強引なゼロコロナ政策などによって中国経済の減速は鮮明だ。米国経済が減速した場合に世界経済を下支えできる国は見当たらない。それに加えて、22年前のように株式から住宅(不動産)へとバブルの乗り継ぎを期待することが難しい。世界全体で株式をはじめ、商品、住宅などの不動産、国債や社債などの債券などアセットクラス全体で資産価格は高い。

リーマンショック後の低金利とコロナショック対応の金融緩和の強化によって、広範な資産価格が水膨れしている。FRBがインフレ退治に必死になって取り組む姿勢を強めるに伴い、資産価格の下落懸念は高まる。ECBなど主要先進国の中央銀行もインフレ退治のために利上げを急がなければならない。今後、世界的に株価が下落し、景況感が急速に悪化する展開が懸念される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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