初対面の顧客に「僕、どうですか」大和ハウス工業で"一番多くの家を売った営業"が必ずそう聞く深い理由
プレジデントオンライン / 2022年5月25日 9時15分
※2021年度の注文住宅の契約棟数・受注金額において全国で1位
■展示場にいる時間は意外と短い
——酒井さんは、HS新宿第二展示場という大きな住宅展示場の店長さんでもいらっしゃいますが、ふだんはそこにお勤めなんですね。
いえ、実はそうでもないんです。私どもの仕事は火曜日と水曜日が定休日になっていまして、平日の月、木、金、週末の土、日に働いているのですけれども、私自身は展示場で「お客様がいついらっしゃるかな」と待ってるという状態はほとんどありません。展示場にいる時間は、本当にピンポイントで、お客様が来場しやすい週末のコアタイムだけ。11時から14時ぐらいの間です。
週末の他の時間は、東京本社やお客様のご自宅などで商談をさせていただくことが多くなっています。平日も東京本社で打ち合わせや会議などを行っております。最近はだいぶリモート会議が増えていますけれども、週の半分以上は東京本社で働いていますね。
■「紹介されること」営業としての基盤
——展示場で待ちの営業をする以外、どういうアプローチの仕方があるのですか。
まずひとつは、社内からの紹介です。おかげ様で弊社は住宅業界で最大手と言われる中で、事業も多岐にわたっておりまして、いろいろな企業様とのお取引であるとか、ビジネスチャンスが本当に多くあります。そのため、東京本社で働いているスタッフが得る取引先様からの情報など、社内の人脈を使って貴重な情報を入手することができます。
——もう少し具体的には。
例えば、直近の例で言いますと、弊社の中に法人のお客様へ事業用建物の建設のご提案を差し上げる事業部があるのですが、そちらの部署の担当営業がご縁をいただいた法人の代表の方がご自宅を建てたいとなったならば、家づくりには特別なノウハウがやっぱりいるものですから、私の所属する住宅事業部でという話になるんです。そういったときに、そのご縁をいただいた営業担当が誰に相談をするか検討して、社内の人脈構築を長年、時間をかけてやってきた自分に声が掛かるということがあるわけです。
ただ、これは弊社において待ちの営業だとされるアプローチでして、もっと自ら能動的に動く営業のほうの話をさせていただくと、金融機関や不動産業者、オーナー様からのご紹介があります。その中でやっぱり私がこだわってるのはオーナー様からのご紹介ですね。一度、自分が家づくりをさせていただいたお客様のお知り合いとか、ご親族とか、そういったオーナー様がくださるご紹介情報が、自分の営業担当としての基盤になってる情報網のひとつです。
■入居後に「紹介したい」と思われることを目指す
家づくりは初回の打ち合わせから竣工まで長い時間を要します。ご縁をいただいてから完成まで長い方であれば2年という方もいらっしゃいます。おつき合いの中で、満足いただけているかどうかの答えは、私を紹介してみようと思っていただけるか否かというところに表れると思っています。オーナー様のご紹介情報をいただけるというのは非常に自分のやりがいでもあり、大切にしていかなきゃいけない部分だと考えております。
なので、入居後もですね、お誕生日であるとか、ご子息が入学されたとか、そういった際には玄関先だけでも顔を出させていただいて、ほんのお気持ちばかりのご挨拶をさせていただいています。そういうことをしていると、何か困ったことがあった場合にご相談に乗っていただけたり、「こういう方がいるんだけどどう? ちょっと営業してみなよ」とご支援いただけたりする機会が増えてくるのではと思います。
■決め台詞は「僕、どうですか」
——よく大きな額になる営業では、商品じゃなくて人を売れ、と言いますよね。
まさにその通りだと思います。ちょっと手前みそになってしまうんですけれども、個人的には商品を売ったり、ものを売ったりしているという感覚はほとんどなくてですね。私にあなたの家づくりをお任せいただけませんか、私を買っていただけませんか、というスタンスで営業をしていると日々思っています。
展示場でもそうです。そこに集まっているおうちは、どこの会社の建物も素敵なんですよ。
なので、建物を見て、ああ、ここの建物が素敵だからここでお話したいな、となるケースはあまりなくてですね。ですから、建物を見に来たんだよっておっしゃるお客様にも、実はここは人を探す場所なんです、と、もう自分から私、言うんです。
なので、お客様のお眼鏡にかなう方に出会えなかったらば、今日の見学は収穫がなかったと思ったほうがいいですよと、あなたの家づくりの担当として私はいかがでしょうか、という意味で、「僕、どうですか」と最初の出会いで聞いちゃいますよね。
——その決め台詞にいたるまでは、どんなお話をされるのですか?
私は、営業担当者としての仕事の上で一番大事なのは、選択肢を提供することだと思っています。なので、お客様に対して、今のご希望やご計画の中で、プロのアドバイスとして、こういう選択肢が、3つ、4つありますよと申し上げる。それぞれのメリット、デメリットをお伝えしながら選択肢の提供をできたことが、お客様の安心や信頼につながっていくというのを何度も経験してきたんです。
■決め打ちはしない、選択肢を提示して一緒に選ぶ
——選択肢というのは住宅の形?
そうですね。例えば、賃貸併用住宅という切り口では、何階にお客様が住むべきかとか、何階建てを建築するかとか。当然、層を積めば積むほどコストって上がっていくので、コストが上がったときに収入がどうなって、それに見合うか、見合わないかといったところも含めて選択肢をいくつか提示する。その中で、「じゃあ、これがいい」という共感を得ること、お客様と思いを共にしていくことが非常に大事かなと思っています。
こうした場合はこれがいいという弊社としての答えがあるケースもあるのですが、お客様は「それは弊社の視点でしょ」とどうしても先入観としてもそうした思いを持ってらっしゃる方もいるので、決め打ちはしないようにしています。より広角的に見て、考えられるバリエーションを共有していく。それを一緒に選んでいくというプロセスが、お客様からすごく良かったと言ってもらえることが多かったんです。
■「バスツアー感覚」の物件めぐりで人間関係を構築する
——酒井さんのお客さんに多い共通の属性などはありますか。
やはり多いのは、ご相続の対策として計画をするというお客様です。ご年齢では、70代、80代の方がご子息様と一緒に、というケースが多いですね。
ご高齢のお客様だと、ご自身の足で物件を見に行くとか、打ち合わせの場所に出向くのはちょっと大変だなと思われることがあります。弊社では社用車ではなく自家用車を使って営業しているということもあり、私は人数が多く乗れるミニバンに換えて、朝から夕方までバスツアーのような感覚で出かけています(※)。ダイワハウスの施工実例をご案内したり、途中で一緒にお食事したり。エンターテインメント、レジャーの一環みたいな要素を盛り込むことで、人間関係を構築していけたらと思うのです。
※大和ハウス工業では、一定条件を満たした社員が自家用車を業務に使用することができる。
お客様の人となりを知るのにいろいろお話を伺う絶好の機会として、車の移動時間を私は大切にしています。逆に、自分という人間を知っていただく意味でも有意義な時間になることが多くあります。あとから聞くと車のツアーが良かったねと言っていただくことも多いので、これはコロナが終息しても継続させていただこうと思っています。
■車の中だからこそ聞けることがある
——車の中でどんなお話をなさるんですか。
趣味の話など、本当にたわいもない話が多いですね。あとは、建て替える建物の歴史ですよね。いつの時代に建って、お客様がどの部屋を使っていて、どういうことをあの家でしてきてとか。そういう思いを新築のご提案の中に盛り込むと喜ばれることが多い。先祖代々のこの土地に建てたときの鴨居や家紋など、この部分を新築時に使いましょうとなることもあります。
あと営業的な目線で言うと、ご家族内の力関係、決定権がどなたにあるのか、会話の中で垣間見えてくることもあります。必要最低限のことだけ喋る通常の打ち合わせでは見えてこない、そういう重要な部分をいろいろお聞きすることができます。
■「もし自分が住むなら」の視点で話をする
——家族内の実情は相続問題にとって重要情報ですね。正確に把握するのは簡単じゃなさそうですが。
ご相続対策の計画では、誰が不動産を相続するのかが重要です。そのため、お客様には誰に引き継いでもらいたいかということを決めていただく必要があります。しかし、非常にナイーブな家庭内の問題でもあるため、私としては、さまざまな事例を挙げご提案することで、家族内のいい落としどころを一緒に模索していくことが役割だと考えています。
——他に、心掛けているお話のされ方はありますか。
実は私自身が昨年、自分の家を建てまして。本当の意味でお客様のご不安な部分とかをこれまでよりは理解させていただける経験になったかなと思ってるんです。
多くの人にとって人生で最大の買い物ですから、納得して決めるんだけれども、それでも不安だよという方がやっぱり多いんですよ。そういう方たちの背中の押し方はいろいろあるのですが、私が大事にしているのは、もし自分が住むならという視点でお客様の立場になるということです。それは間取りにおいてもそうですし、資金計画においてもそうです。あとはいつ建てるべきかというところもです。そういう不安な部分を一つずつ減らしていくようなお話しをさせていただいていますね。
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フリーライター・編集者
東京都生まれ、千葉県育ち。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。著書は『何のために働くか』(幻冬舎文庫)『早稲田と慶應の研究』(小学館新書)ほか多数。年刊シリーズ『大学図鑑!』(ダイヤモンド社)の監修を務める。企画編集を手掛けた書籍は『クラッシャー上司』(PHP新書)など。
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(フリーライター・編集者 オバタ カズユキ)
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