9割が街中で乗るSUVに「オフロード仕様」はあっても「シティ仕様」がない納得の理由
プレジデントオンライン / 2022年5月13日 12時15分
※本稿は、木下勝寿『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング Webマーケティングの成果を最大化する83の方法』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■同じ広告、同じLPでなぜ昼と夜とで差が出るかを考える
あるキャンペーンの獲得単価が高いため、それを上限獲得単価内に収める課題があったとしよう。そこで獲得単価を「時間帯別」で確認すると、昼は上限獲得単価を超えており、夜は上限獲得単価内に収まっていたとする。
この時、「昼の配信をストップし、夜だけの配信にすることによって全体の獲得単価を上限内に収めよう」と考えるかもしれないが、こんなことはフォーマットが決まっていれば誰でもできる。これはプロのWebマーケッターではなくデジタルオペレーターの仕事だ。
そしてこの仕事はいずれメディアの自動化アルゴリズムに組み込まれていくだろう。
そもそもこのやり方では「総獲得件数」が減り、最終的にシュリンクに向かう。
プロのWebマーケッターならば「なぜ昼と夜で獲得単価(顧客獲得単価)が違うのか」を考え、そこから施策を考えなければならない。
獲得単価に違いがあるのは、クリック単価かCVR(購入率)に違いがあるからだ。
確認してみると昼と夜では昼のCVRが低いことが判明した。
同じ広告、同じLP(ランディングページ)でなぜ昼と夜とでCVRに差が出るのかを考えなければならない。
■データから傾向を見て人間行動の仮説を立てて施策の手を打つ
仮説の1つとしてあるのは、昼にスマホを見るのは電車に乗っていたり、仕事をしていたり、家事をしていたり、「ながら見」や「スキマ時間に見る」比率が高いことだ。
例えば電車での移動中にスマホを見ている人の場合、広告をクリックしてページを読んでいたけれど、降りる駅に着いたのでスマホ画面をオフにしたなど、ページの滞在時間が短い傾向にあることが考えられる。
そのような状況であれば、少なくとも興味があるからクリックしているのだが、「購入という判断を下す」ほどの集中力を持って見られていなかったと予測できるのだ。
そこまで考えて、次にこれに対してどう手を打つべきかを思案する。
このケースであれば、昼間は短いLPに差し替える、というのも1つの手だ。
夜に再度購入判断してもらうために、ブックマークを誘う文言を強調するという方法もある。
昼間は訪問履歴のある人に広告を配信するリターゲティングのマーク集めに特化し、クリック単価が安い配信面で幅広く配信し、夜に再度リターゲティングで刈り取るという方法もある。
このように考えることによって、「昼間の配信をストップ」して「採算が合っているもののみを残す」という手を取るのではなく、「昼間を採算化させる」ことで「上限獲得単価内に収めながら件数を拡大する」というプロのWebマーケッターの仕事ができるのである。
簡単に言うと、データから傾向を見て直接配信設定を調整するのはデジタルオペレーター。
データから傾向を見て人間行動の仮説を立てて施策の手を打つのがWebマーケッター。
テクニカル運用をやるにはデータの読解力を身につけることが必須なのだ。
■缶ビールを買う人が一緒におむつを買う理由
「データ」から「人間の行動パターン」を見つけ、そのパターンの背景を理解し、販促につなげることが本当のマーケティングだ。
これは普遍的なマーケティングの本質であり、リアルマーケティングだろうがWebマーケティングだろうが変わらない。
このことがわかる実例を見ていこう。
有名な話だが、アメリカのあるショッピングセンターで顧客の購買データを分析したら「缶ビールを買う人は、一緒におむつを買っている人が多い」という傾向がわかった。
![スーパーマーケットの棚から缶ビールを手に取る客の手](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/1200wm/img_b0c4498a61dc5ff84b5371d20f8b5eef317435.jpg)
これを単純に解釈して、缶ビールを買った人にリコメンド機能で「一緒におむつもどうですか?」とすすめるのは間違いだ。当然、缶ビールを購入している人のほとんどがおむつを一緒に買うわけではないからだ。「なんでおむつをすすめるの?」と不審に思うだろう。
ここでは「なぜ缶ビールを買う人は、一緒におむつを買っている人が多いのか」の背景を理解しなければならない。
おむつと缶ビールに直接的な関連性があるとは思いづらいが、この両者の関連性がわからないと何をどうすれば売上拡大につながるかが見えてこない。
どうしてもわからないということで、あるマーケッターは1週間その店のレジに張り付くことにした。
そしてわかったことは、「普段は持てないような重いものを、週末に車で夫について来させてまとめ買いする夫婦が多い」ということだった。
その代表格がおむつと缶ビールの組み合わせだったのだ。
このことがわかったあと、このショッピングセンターでは「週末まとめ買いコーナー」を設けて、おむつと缶ビールはもとより、ミネラルウォーター、粉ミルク、トイレットペーパー、洗剤、ドッグフード、猫砂など家庭用品で重い物を1カ所に集めて陳列した。それによって買い合わせを誘発し、週末の売上を伸ばしたのである。
■「ネクタイが売れない」1日中売り場に張り付いてわかったこと
また別の話で、百貨店チェーンのある店舗ではネクタイの売上がいつも悪かった。何度も品揃えを見直したり、流行っている最新のネクタイを仕入れたりと、改善を試みるのだが、なかなか売れない日々が続いていた。
しかし一方で、同じチェーンの他の店を調べると同じ品揃えにもかかわらずちゃんと売れていたのである。
担当マーケッターは「この地域の人はネクタイをしない人が多いのだろうか?」と考えたが、同じ地域の競合店や街を歩く人のネクタイの着用比率を見ると、どうもそうでもなさそうだ。
どうしても売れない理由がわからないということで、この担当マーケッターは1日中売り場に張り付いて、状況を観察した。
結果的にわかったのは、ネクタイ売り場の顧客導線が原因だった。ネクタイ売り場は靴下売り場と通路を挟んで向かい合わせになっていたが、この靴下売り場が大人気だったため通路が靴下を買う人で占拠され、ネクタイを買いたい人が買いづらい状況になっていたのである。
結局、棚をずらして通路の幅を広くすると、ネクタイの売上が急激に伸びた。
「品揃え」は関係なかったのである。
![紳士服売り場でネクタイを選ぶ男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/1200wm/img_dffca72012e59f4c591eaf51ae7307eb453564.jpg)
このように何らかの傾向があった時に、顧客がなぜそのような行動を取ったのかという「要因」を調べることで大きく売上を伸ばせることがある。
調べる方法は顧客の行動や顧客の定量アンケートの“データ”ではなく、顧客の行動を“直接”観察すること、顧客に“直接”聞くこと、これらが一番効果的なのだ。
パソコンの画面の数字やデータは「きっかけ」を与えてくれているにすぎず、それらを見ているだけでは読解力は身につかない。
「数字」と「人間の生活」や「人間の心理」を組み合わせて、初めてデータの意味が読解できるのである。
■オフロード用のSUVの9割は街中で乗られている
1980年代後半。それまで「セダンタイプ」が中心だった自家用乗用車マーケットに「SUV」ブームが起き始めた。各社からSUVの新車が発売され、アウトドア好きの若者を中心にセダンからSUVに乗り換える人が続出した。
ある国産自動車メーカーは、そのブームに乗り遅れまいと、自社でもSUVの商品企画を開始し、手始めに現在SUVに乗っている人たちに対する定量リサーチを行った。
そこで面白いデータが出てきたのである。
自分の所有するSUVに「どこで乗っているか」という項目で、90%以上の人は「街の中で乗っている」という回答をしたのだ。
そもそもSUVとはオフロード向け四輪駆動車であり、オフロードでも走れるように開発されたものである。
しかし、アンケートをとってみると90%以上の人が街の中で走っていることがわかった。オフロード機能がほとんど使われていなかったのである。
そこで、その自動車メーカーでは「シティ仕様のSUV」を開発しようという話になったが、その商品企画が進行する傍ら、SUVユーザーにインタビューする「定性リサーチ」を並行して行った。そこで意外な事実が見えてくる。
「実際に乗っている時間の90%は街中でも、週末の短時間だけはオフロードを存分に楽しむためにSUVを買った」
「時間がなくてなかなかオフロードで乗る機会はないが“オフロード気分”を味わうためにSUVに乗っている」
![木下勝寿『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング Webマーケティングの成果を最大化する83の方法』(実業之日本社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/c/1200wm/img_cc280bae7aefdf4a3d072c4a27fd356a229457.jpg)
という声が多かったのである。つまりSUVが「シティ仕様」にアレンジされたら「乗らない」という衝撃の答えが返ってきたのだ。
その会社はその定性リサーチの結果から、急遽オフロード用のSUVの商品企画に切り替えた。
このことからわかるように、数値で表されるデータはあくまでもデータなのである。
そこから何かしらの解を導き出す時には、単純にそのデータだけで判断してはいけない。
なぜそのようなデータになったのか? という「人間の気持ち」を理解した上で解を導き出さなければ、独りよがりな間違った解にたどり着いてしまうのだ。
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北の達人コーポレーション社長
1968年、神戸生まれ。株式会社エフエム・ノースウェーブ取締役会長。リクルート勤務後、2000年に北海道特産品販売サイト「北海道・しーおー・じぇいぴー」を立ち上げる。2002年、北海道・シー・オー・ジェイピーを設立(2009年に北の達人コーポレーションに商号変更)。史上初の4年連続上場。株価上昇率日本一(2017年、1164%)、社長在任期間中の株価上昇率ランキング日本一(2020年、113.7倍、在任期間8.4年)。著書に『売上最小化、利益最大化の法則 利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)など。
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(北の達人コーポレーション社長 木下 勝寿)
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