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「便秘の人は生存率が20%低い」医師が解説する"便秘を軽く見てはいけない"これだけの理由

プレジデントオンライン / 2022年5月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asobinin

毎日排便がある人は「便秘ではない」と言い切れるのか。産業医の池井佑丞さんは「便秘は回数だけでは判断できない。自覚症状がない、隠れ便秘の人も多くいる。便秘は軽く見ないで対処することが必要だ」という――。

■便秘は「排便回数」だけでは判断できない

一般に便秘というと、排便回数が少ないことをイメージされると思います。ですが、単に回数だけで判断できないことをご存じでしょうか。判断のポイントは「本来排出すべき便を、十分量かつ快適に排出できているか」となります(日本内科学会雑誌第109巻第2号「慢性便秘症診療ガイドライン2017」)。数日排便がなくても便秘ではない場合もありますし、毎日排便があっても十分に出しきれない場合は便秘と言えるのです。

そのため、自覚症状がない、症状の原因が便秘だと思っていない、いわゆる隠れ便秘の人も多くいます。便秘は、体質のせいなどとして軽く見られがちなのですが、実はさまざまな疾患の原因や兆候であることがあるため注意したい症状です。正しい知識を身につけて、正しい対応をしていきましょう。

これまで、便秘によって命を落とすことはないというのが医師の中でも一般的な認識でした。ですが、近年その認識が変わってきており、便秘は治療により直すべきものと捉えられてきています。

■便秘の人はそうでない人よりも「生存率が20%低い」

2010年に発表されたアメリカの研究をご紹介します。調査対象は3933人の成人男女で、15年間の追跡調査を実施しました。その結果、便秘の人はそうでない人と比較して、生存率が20%低いことがわかりました(Chang JY , et al.“ Impact of Functional Gastrointestinal Disorders on Survival in the Community” Am J Gastroenterol. 105(4): 822-832, 2010.)。便秘が直接の死亡原因とは考えにくいですが、さまざまなリスクを引き起こす一因となっていることがうかがえます。

便秘がリスクとなる理由について、まず考えられるのは、便秘のために強くいきむことで、急な血圧上昇を招いてしまうことです。急激な血圧上昇は血管や心臓に大きな負荷となるため、脳卒中や脳梗塞、心不全などの病気の誘因となりえます。高血圧患者の方だけでなく、普段の血圧が正常値の方でもトイレで倒れてしまうといったケースは発生していますので、どなたにとっても便秘の予防・解消が大切であると言えます。

また、いきみ自体は一過性の動作ですが、高齢者の場合はトイレでいきんだ後に血圧の高い状態が持続する場合があることがわかっており、特に注意が必要になります(赤澤寿美ほか「高齢者における日常生活動作中の血圧変動」自律神経 37(3): 431-439 , 2000年)。

■便秘が引き起こすのは、腹痛や肌荒れだけではない

次に、便秘が病気を引き起こす可能性についてです。大前提として、便は体内には不要な老廃物ですから身体からなるべく早くに排泄すべきものです。腸に便が溜まった状態が続くと、腐敗し有害物質が発生、悪玉菌が増え腸内細菌のバランスを崩します。こうした影響は腹痛や肌荒れなどさまざまな不調として現れ、以下に挙げるような病気を引き起こすリスクもあります。

1.虚血性腸炎

虚血性腸炎は大腸での血流循環に障害をきたし潰瘍や炎症が生じる病気です。症状は左下腹部に痛みが生じ血便を伴うことが多いです。原因の一つとして腸管の内圧上昇が挙げられます。便秘の場合、溜まった便が腸管壁を圧迫し血流を滞らせてしまうため循環障害を起こしやすくなると考えられます。

2.腸閉塞

腸閉塞は文字通り腸管が塞がってしまう病気です。消化途中の食べ物や胃液などが排泄されずに腸内にとどまり、お腹の張りや腹痛、嘔吐(おうと)などの症状を引き起こします。腸内に溜まった便が腸管を塞いでしまうことが原因になるケースがあります。

腹痛に苦しむ女性
写真=iStock.com/Kiwis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kiwis

■慢性腎臓病、大腸がんのサインの場合もある

続いて、便秘に疾患が隠れている可能性についても触れておきます。最近の研究では、便秘症状の有無と慢性腎臓病の発症率とに関連があることがわかってきています。慢性腎臓病(CKD)は腎臓の働きが低下し、進行すると透析が必要となってしまう疾患です。便秘により不要なミネラルの排泄が滞ることや、体内で尿毒素が増えることによる腎機能の低下が慢性腎臓病発症の一因となる可能性が示唆されています。

また、便秘が大腸がんのサインであることも考えられます。大腸がんは日本におけるがん罹患(りかん)数で1位(男性3位、女性2位)のとても身近ながんです(「全国がん罹患データ(2016年~2018年)」がん情報サービス 2018年)。がんが腸管を圧迫し便の通り道が狭くなるため便秘症状が現れます。便が細くなる、血便が出るといった症状が出ることも多いです。

ここに挙げた慢性腎臓病、大腸がんのどちらも、自覚症状がほとんどなく、症状が出る頃には進行してしまっている可能性が高いものです。排便の変化など気になる症状がある場合には早めに受診していただきたいです。

上記に挙げた他にも、溜まった便が神経を圧迫し腰痛など体の痛みを引き起こしたり、硬くなった便が痔の原因になったりすることもあります。便秘は病気の一つとして捉えていただき、放置しないことが大切です。

■「無自覚の便秘」に気付く方法

以上、便秘のリスクについてご説明しました。これらは便秘の自覚がある方にはもちろん、自覚のない方にとっても無関係なこととは言い切れません。冒頭でも触れたように便秘は排便回数だけでは判断できませんし、排便のサイクルや感じ方は個人差の大きいところでもあります。そのため、実は自身が便秘であることに気付いていない場合もあるのです。

・一度に出る量が少ない
・コロコロした小さい便である
・硬い便である
・排便後に残便感がある
・溜まっている感じはあるがいきんでも出ない
・お腹の張りがある
・食欲がない

たとえ毎日排便があっても、上記のような症状がある場合には無自覚の便秘かもしれません。これらの状態は正常な排便とは言えないことを覚えておいていただければと思います。

トイレットペーパーを引き出す人の手
写真=iStock.com/mapichai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapichai

■ストレス、運動不足、睡眠不足には要注意

最後に、便秘につながるNG習慣を確認しようと思いますが、その前に消化の一連の流れと、ポイントとなる「ぜん動運動」について簡単にご説明します。

人が食べたものは胃や小腸を通過して、大腸へとたどり着きます。大腸にて水分が吸収され便を形成し、便は「ぜん動運動(縮んだり緩んだりする動き)」によって大腸内を移動し直腸まで運ばれます。脳から便意が伝わることで排泄されます。

この消化の仕組みが妨げられたり、うまく働かなかったりすると便秘につながる、または悪化を招くことになります。以下、その要因となる事象を挙げます。

・ストレス

ストレスは万病の元と言いますが、便秘も例外ではありません。人の体はストレスを感じると交感神経が優位となります。交感神経優位の状態では腸の働きが低下することがわかっており、腸のぜん動運動も低下し便が留まりやすくなります。

・運動不足

便秘にお悩みの方で、特に女性や高齢者などに多いのが、腹筋力の低さが原因の一つであるケースです。腹筋が弱いと排便時に十分な圧力をかけられないため、便が残りやすくなります。運動の習慣がない方、仕事中はデスクワークで座りっぱなしといった方は要注意です。

・睡眠不足

睡眠不足も腸のぜん動運動を低下させる原因となります。睡眠中は副交感神経が優位に働き、腸の動きが活発になりますので、しっかりと睡眠時間を確保することはスムーズな排便へとつながります。また、腸内環境の悪化は眠りの質を低下させることがわかっています。良い睡眠のために、就寝前にスマホやパソコンなどのブルーライトを見ることや、カフェインのとりすぎ、寝酒などは避けたいところです。

■「食物繊維のとりすぎ」も便秘を招く

・食べないダイエット

ダイエットのために食事量を減らすことには注意が必要です。食べ物は便の材料となるため、不足すると十分な量の便を作れなくなり便秘につながります。身体は便秘に付随して増加した悪玉菌の排除にエネルギーを要することとなり、結果として代謝が低下する可能性があります。ダイエットをしているつもりが太りやすくなってしまうという悪循環も招きかねません。

ステーキを食べるビジネスマン
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock
・間違った食事制限

肉や魚を過度にとってしまい相対的に野菜類の量が減れば、食物繊維が不足します。また、闇雲な食物繊維の摂取にも注意が必要です。食物繊維には水溶性・不溶性の2種類があり、不溶性の食物繊維は便のカサを増やします。ぜん動運動が低下している方が不溶性の食物繊維をとりすぎると大きくなった便を運べないために便秘の悪化につながります。食物繊維は水溶性・不溶性バランスよく摂取することが必要です。

・便意を我慢する

便意を感じても時間が取れなかったり、トイレが無かったりして我慢してしまうこともあるかと思います。毎回我慢をしていると直腸が鈍感になり、便意を感じにくくなってしまうことがあります。便は時間の経過とともに硬くなり排便しづらくなるため、余計に便秘が悪化してしまうことにもなります。

便秘になったり放置したりしていて良いことはひとつもありません。便秘にお悩みの方も、そうでない方もご紹介したNG習慣に心当たりがある場合は改善をおすすめします。また、便秘は病院で治療が可能ですので、お悩みの方は医師に相談していただければと思います。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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