胸元を開けさせ下着の色をチェック…「服装検査」というブラック校則がまかり通る日本の学校の異常さ
プレジデントオンライン / 2022年5月23日 15時15分
※本稿は、佐藤直樹『「世間教」と日本人の深層意識』(さくら舎)の一部を再編集したものです。
■真冬なのに「暖房を使用してはいけない」という謎ルール
ビックリするニュースを見ました。福岡市の小中学校では、真冬でもコロナの感染予防のために、窓を一日中全開にしているというのです。暖房を入れてはいるけれど、当然寒いです。ところが、生徒は制服だけで、オーバーや防寒具はおろか、マフラーや手袋、ハイネックなども着用が禁じられています。
そういう訳のわからない謎ルールがあるために、生徒が凍えている。
私は福岡に住んでいたので思い出しましたが、福岡市立の小中学校は、たしか2014年までエアコンがなかった。2014年からエアコンがついたけれど、それは冷房用としてしか使わない。暖房もできるけれど、使用は認めなかった。
2016年になって、初めて市立の小中学校に暖房が入ったということです。福岡の冬は寒いときは0℃になります。雪が降る。だから、本当に寒い。教室にいると、死ぬほど寒い。
生徒が風邪をひくから暖房を入れるべきだと、PTAでお話ししたことがありますが、「いや、子どもは風の子、大丈夫です」。福岡はそういう意識のところなのです。しかも県立の高校にも暖房がない。
大学の授業で、それを話題にしたことがあります。学生に聞いてみたら、ほとんどの高校には暖房が入っていない。「冬はどうしてるの?」と聞いても、特に疑問を感じていないようでした。
教室では寒くても防寒具を着ちゃいけないという、訳のわからない謎ルールだけでなく、ほかにも合理的な理由のないルールがあります。いわゆるブラック校則です。
■明らかなセクハラ行為を学校がする
福岡で問題になっていたのは、下着の色チェックです。福岡では、市立中学の8割ぐらいが下着の色を指定しています。その確認のため、服装検査というのをやるわけです。
男女一緒にして下着のチェックをする。廊下に並ばされてシャツの胸を開けて下着チェックをする。さすがに福岡県弁護士会が人権侵害だと指摘したそうです。
下着のチェックは、「法のルール」から考えれば、明らかにセクシャルハラスメントだし、強要罪という犯罪になりかねない。
■人権侵害といえるブラック校則は誰が作ったのか
ブラック校則は、さまざまなルールで生徒をがんじがらめにします。
髪の毛の色は、黒じゃないといけない。そこで出てきたのが「地毛証明書」。東京の都立高校の4割ぐらいが、生徒に地毛証明書の提出を求めるそうです。生まれつきちょっと茶色いとか、ちょっと色が抜けている生徒がいます。
そこで、もともとの地の毛の色がなんだったかを、保護者の署名・押印つきで証明書を出させるわけです。地毛届とか地毛申請書などともいわれるらしい。校則で黒髪を強要するがゆえに、こうした奇妙な謎ルールが生み出されるわけです。
また、これは2016年に大阪の府立高校で実際にあった話ですが、もともと茶色っぽい髪の毛の色の女子生徒がずっと黒染めをしていた。ところが、皮膚が弱くてボロボロになってしまい、もう続けられなくなった。それで、そのままの茶色っぽい髪色で学校に行ったら、校則に反するということで頭髪指導を受けた。黒染めが不十分だとして授業への出席を実質的に禁止されて、その結果不登校になった。
黒染めの強要は、「法のルール」でいえば、場合によっては、傷害罪とか強要罪になるぐらいの問題になると私は思います。登校中に水を飲むことは禁止、という校則を持つところもあるらしい。こんなのは、それで生徒が体を壊したら傷害罪になる可能性がある。
そういった校則をつくったのは、先生とか教育委員会です。
校則は、学校という「世間」における「世間のルール」そのものといえます。学校という集団がつくっている「世間のルール」は、時に「法のルール」に照らしていえば、明らかに人権侵害である場合があります。こうなると、学校は無法地帯です。
「法のルール」より「世間のルール」のほうが優先される。こういうことがふつうにおこなわれるおかしさに、大人が気づかないところが問題です。
下着の色は白かベージュに限る。黒の下着は禁止。下着検査はやり方次第で人権侵害になるでしょう。
髪もいろいろな規制があります。男子はツーブロックの禁止、女子はおだんご、編み込み禁止。後ろでまとめるときは、高い位置のポニーテイル禁止。前髪は眉毛にかかる程度。セーターは4月以降着用禁止。まあ、あきれるほどいろいろと規制されています。
■校則が法律より優先される背景
こういう規制がおこなわれるようになったのは、1980年代ごろ、ツッパリが社会問題となった時期だそうです。学校が荒れて、卒業式に教師が体育館裏に呼び出されて殴られたとか、生徒が盗難バイクで校内の廊下をバリバリ暴走するとか、暴れまわった子どもがいた。それで校則が厳しくなり、服装の乱れを問題視したという流れでした。
学校という「世間」を正常化するためにいろいろなルールが「生徒手帳」に書き込まれた。おそらく年代的にそのころ生徒だった世代が、いま教師や指導側になっているのでしょう。自分たちがやられたから当然、という感覚なのか、あるいは根っから「世間教」に染まっているのか。
ちょうどこの原稿の執筆中に、都立高校などで下着の色指定や髪の黒染めなどのブラック校則5項目が、2022年4月から廃止される、というニュースが流れました。ようやくかという感じですが、これからどんどん変わっていくことを願っています。
■同調圧力を強化する学校の“祭り”
学校という「世間」には、集団として盛り上がる“祭り”が用意されていると聞きました。中学校だと、例えば合唱コンクール、体育祭、高校受験という学力オリンピック。これら祭りの根底にあるのは競争ですが、調和、協力という「世間のルール」的要素も含まれています。
合唱コンクールも体育祭も、近づくと熱気に包まれていきます。生徒たちは授業の合間を縫って合唱のパートごとに練習する。放課後も熱心にやる生徒もいる。みんなでがんばっているのに、一人だけ練習をサボる生徒はみんなから責められる。
体育祭なら、綱引きや玉転がしなどクラス対抗の団体競技などがあります。クラス対抗となると俄然(がぜん)ヒートアップします。興奮して負けると泣いたりする生徒が出てきたり。これらは一致団結してことに当たることが求められるわけで、調和、協力という側面もありますが、「世間」の同調圧力のもととなるものが勝利の決め手になる、という見方もできます。
![校庭で綱引き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/4/1200wm/img_a4ee353902916760db08d2b3fcb94e0c1104952.jpg)
受験は個人戦ですが、校長先生は「一人で孤独に闘っていると思わないでください。みんなで闘っている団体戦なのだ」などと、ちょっと無理のある応援をしたりする。
「自分が受かってしまったらそれでいいのではなくて、みんなが自分の希望するところに入れるように、最後まで応援しましょう」といったりするそうです。
学校のカリキュラムが、子どもたちに「世間教」の教えを植えつけている面もあるのです。
■国連の再三の勧告を無視し続ける日本
日本の学校には、先のようなブラック校則の問題がありますが、これで私が思う1番の問題は、学校の先生のアタマに、「子どもの権利条約」のことが全然ないことです。
この条約は子どもの基本的人権を保障するために定められたもので、国際人権規約によって大人に保障された人権のうち、選挙権を除くすべての人権を子どもにも保障しようとしています。日本は1994年にこの条約の批准はしています。
子どもの権利条約について、国連から、国内法の整備を進めなさいと、何回も勧告されています。ところが日本はほとんどやっていない。
包括的な基本法などの、子どもの権利を守る法律をつくっていません。そのためか、子どもには各種の権利があるということが、わかっていないのです。
例えば、条約の15条に「結社・集会の自由」という項目があります。そこにはこう書いてある。「締約国は、子どもの結社の自由および平和的な集会の自由への権利を認める」
18歳未満の子どもにも、自分に関することについて自由に意見をいったり、団体をつくったりする自由がある。集会の自由や結社の自由は、条約で要求されたものすごく重要な権利なのです。
■学校には人権も権利も存在しない
だけど、日本の学校では、そんなことは誰もいわない。子どもは大人の言うことに従っていればいい、という感覚です。
![佐藤直樹『「世間教」と日本人の深層意識』(さくら舎)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/4/1200wm/img_64406a243d0a9517ea39a7a70e0093dd254308.jpg)
学校の先生は、校則を生徒にあれこれいう前に、「子どもの権利条約」という「法のルール」があって、日本でも批准しているのだから、まずこれは守らないと、と思わないといけない。実際、学校が「世間のルール」としての校則をたくさんつくって、その校則の一つひとつが人権侵害だったりするわけですから。
「法のルール」からみれば、校則にはいろいろ問題があるのですが、それに気がつかない。
「世間」には人権も権利も存在しないからです。結局学校は、「法のルール」で動いているのではなく、「世間のルール」で動いているということです。
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九州工業大学 名誉教授
1951年、宮城県に生まれる。九州大学大学院博士後期課程単位取得退学。英国エジンバラ大学法学部客員研究員、福岡県立大学助教授、九州工業大学教授などを経て、現職。専門は世間学、現代評論、刑事法学。著書に『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史との共著、講談社現代新書)、『「世間」の現象学』『犯罪の世間学』(以上、青弓社)、『暴走する「世間」で生きのびるためのお作法』『目くじら社会の人間関係』(以上、講談社+α新書)などがある。
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(九州工業大学 名誉教授 佐藤 直樹)
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