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天才経営者・孫正義も想定外だった…ソフトバンクを1.7兆円の大赤字に沈めた「世界経済の2大変化」

プレジデントオンライン / 2022年5月23日 11時15分

オンラインで記者会見するソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長=2022年5月12日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■これまでのビジネスモデルは限界を迎えつつある

投資会社であるソフトバンクグループの業績が急速に悪化している。その要因として、物価急騰など世界経済の環境激変によって同社が投資してきたIT先端分野のスタートアップや先進企業の業績が急速に悪化したことが大きい。

世界的に緩和的な金融環境が急速に正常化され、金利も上昇した。その結果、ITなど先端分野の企業の株価が急速に下落した。IT関連の先進企業に投資して高い成長を目指すソフトバンクグループのビジネスモデルは限界を迎えつつあるとの見方もできる。

今後、世界経済の環境変化はさらに激化するだろう。特に、原油価格の上昇や食糧不足の深刻化などによって、世界全体で経済成長率の低下と物価の上昇懸念が急速に高まっている。新しい需要を創出できるか否か、企業の実力がこれまで以上にはっきりする。ソフトバンクグループはリスク管理体制を強化して、しっかりとしたビジネスモデルを確立できている企業と、それが難しい企業を見極めなければならない。それが今後の事業運営体制に決定的な影響を与えるだろう。

■5兆円の黒字→大赤字に転落した2つの要因

2021年度のソフトバンクグループの純利益は1兆7080億円の赤字だった。世界的な金融緩和の強化によって株価が急反発し純利益が4兆9879億円に達した2020年度の決算と比較すると、業績悪化は急激だ。それだけ世界経済の環境が劇的に変化している。その変化は2つに分けて考えると良い。

1つ目が、感染再拡大や競争の激化、人手不足などによって出資先であるスタートアップ企業などのビジネスモデルが行き詰まりはじめた。ウクライナ危機をきっかけに世界経済はグローバル化からブロック化に向かいはじめ、リスクを避ける投資家や企業経営者も急増している。その結果、これまで低コストで資金を調達し、急速に成長してきた先進企業の成長が鈍化しはじめた。

一例に、2021年12月期決算においてソフトバンクグループが出資するグラブ(配車アプリなどを手掛けるシンガポールの新興企業)の最終損益は35億5500万ドル(約4100億円)の赤字だった。コロナ禍によってデジタル化が急速に加速する中で、同社はプラットフォーマーとしての競争力を高めるためにマーケティング費用や設備投資を積み増した。

■ウィーワーク、ペイティーエム…株価が相次ぎ下落

しかし、需要の飽和と競争激化によって投資の効果が発現しづらくなっている。追い打ちをかけるように米国ではGAFAの業績拡大が鈍化し、世界全体でIT先端分野の成長期待は低下し先行き不透明感が高まった。有力なIT先端企業に比べて経営体力が小さい分、スタートアップ企業の資金調達コストは急速に増え、事業運営の効率性が鈍化している。グラブ以外にも、ソフトバンクグループが出資する米ウィーワーク(シェアオフィス運営企業)やペイティーエム(インドのモバイル決済大手)の株価が下落した。

また、中国では共産党政権が共同富裕を掲げてIT先端企業への締め付けを強めた。2021年6月に共産党政権の警告を無視してニューヨーク証券取引所に株式を上場したディディ(滴滴出行)は当局から安全保障を理由に調査され、中国国内でアプリの新規ダウンロードができなくなった。収益が急減する一方でデータ管理やギグワーカーの保護への支出が急増し、2021年12月期決算は500億元(約1兆円)の最終赤字に陥った。

■低金利環境にあやかってきた企業ほどピンチ

2つ目の変化として、スタートアップ企業の急成長を支えた世界の緩和的な金融環境が急速に引き締められる。新型コロナウイルスの感染再拡大やウクライナ危機などによって世界のインフレ懸念は急上昇している。連邦準備制度理事会(FRB)や英中央銀行(BOE)、欧州中央銀行(ECB)などはインフレ退治に必死だ。世界的に金利上昇圧力が高まっている。

特に、米国ではFRB関係者から住宅ローン担保証券(MBS)の売却も検討しなければならないとの見解が示されはじめた。物価の上振れリスクは上昇しており、FRB内部では金融政策の正常化をさらに加速し、迅速に引き締めなければならないとの危機感が非常に強い。

世界的に金利は一段と上昇するだろう。それによって、企業が永続的に生み出すと予想されるフリーキャッシュフローの割引現在価値はより小さくなる。低金利環境が続くとの楽観と、高い成長への強い期待が先行して株価が大きく上昇した企業ほど、株価の下落圧力は強まる。

■「企業家を見抜く」孫氏の眼力が問われている

また、世界的な供給制約の深刻化によって半導体などの部品や資材の不足にも拍車がかかり、企業の業績懸念が高まっている。リスク削減に動く投資家は増える。その裏返しとして、米国ではリーマンショック後から昨年11月末まで、世界的な低金利環境下での利回り確保のために需要が増え続けたジャンク債(信用格付けがBB以下の社債など)の価格が下落基調だ。ジャンク債の価格には投資家のリスク許容度の変化が機敏に反映される傾向にある。

証券取引所での株式市場の相場の表示
写真=iStock.com/Алексей Белозерский
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Алексей Белозерский

今後、世界的に株価はさらに下落する可能性が高い。それによって、経営体力が相対的に小さいスタートアップ企業の収益と財務内容の悪化懸念は追加的に高まる。また、ソフトバンクグループの資金調達を支えてきた中国のアリババ・グループは共産党政権の締め付け強化に直面している。中国では強引なゼロコロナ政策と不動産バブル崩壊の深刻化によって内需も急速に冷え込んでいる。

孫正義氏の眼力によって企業家の資質を見抜き、いち早く投資することによって成長してきたソフトバンクグループへの逆風は強まるだろう。

■半導体設計・英アームの事業運営にかかっている

世界経済の環境はより劇的に変化するだろう。その中でソフトバンクグループはリスク管理を強化し、キャッシュを積み上げなければならない。別の言い方をすれば、ソフトバンクグループは世界経済の環境変化にしっかりと対応できる企業と、そうではない企業の見極めを急がなければならない。

環境変化に対応する力のある企業の一つとして注目されるのが、英国の半導体設計の大手企業であるアームだ。ソフトバンクグループはアームの上場によって収益を確保しようとしている。2021年、アームの収益は増加した。やや長めの目線で考えると自動車の電動化や人工知能(AI)の利用増加などによって、先進のICチップ需要は増加基調で推移するだろう。

ソフトバンクグループは先端分野で世界的な競争力を発揮しているアームの事業運営体制を強化すべきだ。特に、半導体設計の専門人材の獲得を支援することは、新しい半導体需要の創出に欠かせない。

■赤字体質のクーパンを今後どうするのか

ただし、世界経済の成長率低下と物価高騰の懸念が同時に高まる中でそうした取り組みを加速することは、口で言うほど容易なことではない。アーム上場によって投資会社としての存在意義を利害関係者に示すために、ソフトバンクグループは他の企業への投資戦略を迅速に見直さなければならない。例えば、5月11日の時点でソフトバンクグループは韓国のECスタートアップであるクーパンへの出資から利得を確保している。

競争激化などによってクーパンは営業赤字続きだ。経済合理性の観点から考えると、先行きの株価下落懸念が高まる状況下で収益力が弱い銘柄の保有を減らすことは、キャッシュを積み増し、想定外の展開への対応力を高めることに資す。それは、株価が下落した局面で新しい需要を生み出す実力のある企業や、新しいビジネスモデルの構築に取り組む企業への投資余力の引き上げにもなるだろう。そうした取り組みを実行して投資による成長を実現できるか否か、ソフトバンクグループは正念場を迎えている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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