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「北朝鮮に来たのかと思いました」大手から中堅住宅メーカーに転職した50代男性が心底驚いた仕事内容

プレジデントオンライン / 2022年5月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

住宅メーカーの営業現場は従業員の出入りが激しい。約10年にわたって住宅メーカーの営業として働いていた屋敷康蔵さんは「中堅以下の住宅メーカーでは中途採用がほとんどで、新入社員が長く働くことが少ない。そのため、40代以上で転職してきた『新入社員』も容赦なく使いつぶされる」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、屋敷康蔵『住宅営業マンぺこぺこ日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

■ひどいときには1年、2年と工事がズレる

今はもうだいぶ落ち着いているが、福島県の住宅メーカーはどこも、東日本大震災のあとの数年間、建築バブルに沸いた。たしかに景気もよく、「稼げるでしょ」などとよく言われたが、その見返りに過酷な労働も強いられることとなる。

この時期、住宅メーカーは「取れるだけ取る」というスタンスで、契約を取りまくった。各営業マンが一人で10組以上のお客を抱えて打ち合わせから契約、着工から完工まで対応しなくてはならないのだから、その忙しさは尋常ではない。

とくにストレスになるのが、各人が会社から支給されている携帯電話だ。お客は用事があるとき、会社には電話してこない。担当営業マンに直接かけてくるので、その対応も業務の一環である。用事といっても、その多くはクレームである。

クレームで一番多いのは工期の遅れ。震災直後の福島県のような建築ラッシュになると、施工業者も職人もつねに足りない状態になり、工事が予定どおり進まない。1件の建築が遅れれば、あとに続く数十件の工事もトコロテン式に遅れていく。契約時に約束していた着工時期が半年、ひどいときには1年、2年とズレていくことになる。一刻も早く新築に住みたいお客のストレスの矛先は営業マンに向かう。

■「いつになったら工事始まるんだよ!」

朝9時、朝礼中、バイブ設定にしてある私の携帯が振動する。席を外し、携帯の着信ボタンを押す。「ハァ、ハァ、お世話になります。ハァ、ハァ」息を切らせて、現場で作業でもしているような雰囲気を出すのがポイントである。「ハァ、ハァ」をやっておくと、クレームをつけようとしたお客も一瞬、「今、大丈夫かな」と多少なりともこちらを気遣う様子を見せてくれるものなのだ。

「今週、今週っていったいいつになったら工事始まるんだよ! 最初の工程表なんて嘘ばっかじゃねーか!」

電話口で怒鳴る男
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

「ハァ、ハァ」の甲斐もなく、いきなり怒鳴りつけられる。こんな電話からスタートする一日はたまらない。そして、一日中、こんな電話を何件も対応しなくてはならないのだから、私の電話を持つ手も恐怖でブルブル震えるのだ。中にはクレーム電話が日課のお客もいる。

毎日、夜7時をすぎると、晩酌中であろう森さんからの電話がかかってくる。しかし、森さんにはクレーム電話をしてくるだけの事情もあるのだった。森さんは契約当時、営業所の前店長・犬丸さんが担当していた。森さんは1階と2階にそれぞれ風呂・キッチン・トイレのセットを取り付けた二世帯住宅を計画しており、他社とサクラホームとで相見積もりを取っていた。

水回りセット一式が2つとなると価格も相当なものになる。犬丸店長は契約が欲しいばかりに「2階の風呂・キッチン・トイレ・洗面所すべてサービス」という約束をしたのだ。もちろん、犬丸店長もなんのアテもなくそんな約束をしたわけではない。この当時、福島営業所ではモデルハウス3棟のうちの2棟を解体して新しいモデルハウスを建てるという計画があった。店長はこの解体するモデルハウスから、水回りセットを取り外し、森さんにサービスしようという腹づもりだったのだ。

■「お前の上に相談しろ! 絶対に逃さねえぞ」

しかし、その後、本社の都合でモデルハウス解体が延期となる。すると犬丸店長はこの件を気に病んだのか、会社に来なくなり、そのまま退社した。こんな地雷が埋まった森さんの担当になど誰もなりたいわけがない。ところが、牛田本部長から私がじきじきに担当を命じられることになる。

さらに私は本部長から、「犬丸店長が約束したサービスはできないと言ってこい」という、とんでもない業務命令を仰せつかった。言うは易く、行うは難(かた)し。上司の命令とはいつもそんなものだ。しぶしぶ森さんの仮住まいのアパートを訪問する。

初めて会った森さんは180センチを超す堂々たるガタイに、胸元から入れ墨がのぞいている。こんなときに限ってこんなお客とはツイてない。店長からの引き継ぎのあいさつを済ませ、本題に入ろうとすると、森さんのほうから切り出してきた。

「担当が代わるのはいいけど、店長と約束したあの件は大丈夫なんだろうね?」

ここはもう意を決するしかない。

「たいへん申しあげにくいのですが……そのお話は難しくなりました」

思っていたとおり、いや思っていた以上にお怒りの様子で、森さんの顔がみるみる赤くなっていく。

「ふざけたことを言うな! 店長がいなくなろうと関係ねえぞ。こっちはお前の会社と約束して契約してんだからな!」

森さんの言うことはもっともなのだ。さらに森さんは、店長のサインが入った、打ち合わせ記録簿の控えを持ち出してきた。

「これを見ろよ。『難しくなりました』じゃねえ。お前が難しいなら、お前の上に相談しろ! 絶対に逃さねえぞ」

■「悪い報告こそ早く伝えろ」とは言うものの…

その日、さんざん怒鳴られ、事務所に戻ってから、牛田本部長に報告する。

「……そうか。本社に稟議(りんぎ)書あげるしかないか。だが、できる限り説得を続けてくれ」

ラップトップを開いて頭を悩ませるサラリーマン
写真=iStock.com/tuaindeed
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tuaindeed

「悪い報告こそ早く伝えろ」が口癖の本部長も、悪すぎる報告は迷惑なようである。ここからが私の地獄の始まり。夜7時をすぎると私の携帯に森さんからの電話がかかってくるようになった。

「どうなってるんだよ? 話は進んでるのか? 上司はなんて言ってる? お前はどう上司に説明してるんだ? もともとこの話はな、店長が……」

話しながら酔いがまわるのか、後半になると呂律がまわらない状態で、1時間言いたいことを言うと切れる。打つ手のないサクラホーム本社も状況を引き延ばす。その間、私は毎日1時間同じ話を聞かされることになるのだ。

そして、森さんの着工があと1カ月後に迫ったタイミングで、やっと本社が重い腰を上げてサービス品の対応を特例で実行することになった。金額が大きすぎて、社長決裁案件として処理されたようである。

企業というのは大きくなればなるほど、風通しが悪くなる。一社員は上司に報告しづらいし、その上司も本社に報告しづらい。そして本社の人間も社長には報告しづらいのだ。ふと、私の机に置いてある「社長語録」の日めくりカレンダーに目をやる。

〈木材より人材〉

今日に限ってなんとも私をイラつかせる社長のお言葉である。

■40代だろうが、50代だろうが、容赦なく使い倒す

住宅業界は人の出入りが激しい。大手の老舗住宅メーカーは別として、中堅以下の住宅メーカーは中途採用がほとんどで、もちろんわがサクラホームもご多分にもれない。頻繁に入社しては退職するこの職場では、そもそも新入社員が長く働き続けることを期待していない。だから40代だろうが、50代だろうが、容赦なく使い倒すのである。

この前、井之上さんが辞めたと思ったら、もう新人が中途採用され本日付けで入社してくる。米谷さんは新人といえども51歳、大手のAハウスからの転職だという。同僚の河口さんは、「大手でさんざん楽してきた人だろうから、うちじゃもたないでしょ」と敵意むき出しである。

河口さんは45歳、新人が入ってくるととにかく先輩風をふかす人でもある。新人もライバルとなるため、そもそも育てようという意識などさらさらなく、大手メーカー出身だったりすると「なめられちゃいけない」と言わんばかりにこき使うのだから、入社するほうもたまったものじゃない。

■入社して最初の仕事は草むしりと風船を膨らませること

米谷さんの勤務初日、河口さんは“年上の後輩”に鼻息荒く指示を出す。

「米谷さん、まずここの風船を全部膨らましたら、次はモデルハウスまわりの草むしりをお願いね。その後もあれこれあるから、風船が終わったら声かけてね」

新人を“指導”している河口さんはイキイキしている。米谷さんが30個におよぶ風船を膨らまし終え、「終わりました」と河口さんに声をかける。「どれどれ?」と確認しに行く河口さん。私も入社当初やられた口なので、その後の河口さんの言動はおおよそ察しがつく。

「あ〜あ、大きさがバラバラだね。もっとバランスを考えて膨らませてくれないと見栄えがよくないでしょ。悪いけど、やり直してくれるかな?」

そう言うと、米谷さんが膨らませた風船を次々に割り出す。風船作りを終えたかと思うと、モデルハウスまわりの草むしりをやらされ、そこでも「米谷さん、上の草だけもぎるんじゃなくて、根っこから抜かないと」とダメ出しされている。住宅営業マンとして入社したのに、風船作りと草むしりのクオリティーを求められる米谷さんも困惑している。

河口さんの指導は午後も続く。

「米谷さん、来場するご家族にとって一番大切なのはお子さんだ。お子さんをきっかけに親御さんを引きこむ。だから、はいっ、これ着て路肩に立って家族連れを誘導して!」

そう言って、クマの着ぐるみを米谷さんに手渡す。ただ使いすぎて白地は黄色に変色し、ヨレヨレクタクタになったこの着ぐるみを見たら、子どもは逃げ出すのではないか。米谷さんが入った薄汚れたクマは展示場入口の道路脇に立ち、行き交うクルマに手を振っている。そしてここでも河口さんから指導が入る。

「米谷さん、小ぢんまりした動きじゃダメ。もっとオーバーアクションで!」

■「この会社、軍隊みたいですね」

入社して数日が経った昼休み、喫煙所で一緒になると、米谷さんは私に向かってこうぼやく。

屋敷康蔵『住宅営業マンぺこぺこ日記』(三五館シンシャ)
屋敷康蔵『住宅営業マンぺこぺこ日記』(三五館シンシャ)

「屋敷さん、ここでは何から何まで営業マンにやらせるんですね。この会社、軍隊みたいですね」
「ハハハ、いい表現ですね。私も入社したばかりのころ、同じこと経験しましたよ。Aハウスはこんなことしないでしょう?」
「やらない、やらない。草むしりだって業者に依頼しますよ。それと事務所に社長の写真が飾ってあって、その前で朝礼するのも驚きました。北朝鮮に来たのかと思っちゃいました」

話し出したら愚痴や不満が出てくる出てくる……。しかし、米谷さんはこの理不尽な洗礼を受けながらも結果、しぶとくこの会社に生き残っていくことになる。そして、この2年後、すっかりサクラホームの色に染まり、自分がされたのと同じことを新人にしている米谷さんの姿があるのだった。悪しき慣習はこうして受け継がれていくのである。

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屋敷 康蔵(やしき・やすぞう)
元住宅メーカー営業
1970年栃木県生まれ。大手消費者金融に就職するも、グレーゾーン金利撤廃後の業界縮小を受けて退職。35歳のとき、ローコスト住宅メーカーに就職。以来10年近く在籍し、120件の住宅建築に携わる。

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(元住宅メーカー営業 屋敷 康蔵)

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