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「大丈夫ですよ、4年生になるまで殴りませんから」名門バスケチームのコーチが放った恐ろしいひと言

プレジデントオンライン / 2022年5月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/matimix

スポーツを通じて子供の人生を支配し、害悪を及ぼす「スポーツ毒親」が問題になっている。スポーツジャーナリストの島沢優子さんは「スポーツの現場では、コーチや監督だけではなく保護者による暴言が少なくない。コーチと親は、日本のスポーツ指導を暴走させる両輪になっている」という――。

※本稿は、島沢優子『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。

■小学生を横一列に並べて平手打ちをする監督

私には、1997年生まれの息子と、その2歳下に娘がいる。すでに成人したが、小学生の時からサッカーをしていた。結婚前までスポーツ新聞社で記者だった私と、同じ社に勤務していた夫はともにサッカー担当だったからだ。

私たちがテレビでサッカー中継ばかり観ているものだから、息子は小学校にあがるとすぐにサッカー少年団に加入。まずは大きなゴールにボールを蹴り込むシュートのとりこになった。平日の放課後は、網に入ったサッカーボールを振り回しながら公園に走って行った。その姿はとても嬉しかったが、私も夫も大学までバスケットボールをしていたため、私たち夫婦はサッカーと両方をやるマルチスポーツがいいと考えた。

息子が小学2年生になった春、購入した青い線が入ったバッシュ(バスケットシューズ)を渡し「バスケもやってみない?」と、バスケット少年団の入団体験に誘った。息子が最初に好きになったのはドリブルシュートだった。トラベリングという違反行為を全く無視し、いったい何歩あるいているのかわからない具合だったが、楽しく通い始めた。

ひと月ほど経ったころ、練習を観に行った私は愕然とした。40代ほどの監督が、横一列に並んだ子どもを端から順番に平手打ちしていた。理由は「子どもたちが練習に集中できていないから」だった。怒鳴りながら腕を振り下ろす監督の背後に、青ざめた顔の息子が見えた。声も出ず入り口で立ち尽くしていた私に、監督が言った。

「大丈夫ですよ。4年生になるまで殴りませんから」

■前歯が折れるほど殴られた高校時代

いや、大丈夫じゃない。4年になったらやられるのだ。他の保護者に「お子さん、たたかれちゃっていいんですか?」と尋ねたら、「あの子たちは全国大会に行くんだから、そのくらいしなきゃ」。何を寝ぼけたこと言ってるの? と言わんばかりに、不思議そうな顔で答えた。

2005年。当時の少年サッカーはベンチからたまに怒鳴られたりするが、少なくとも東京都の多摩地区は暴力とはほぼ無縁の世界だった。息子に「続けたい?」と尋ねたら「おれ、バスケは好きだけど……殴られたくない」と小さな声で言った。今にも泣きそうな顔は忘れられない。

そのチームは実際に全国大会に出場した。だが、息子はバスケット少年団をやめた。21.0センチのバッシュは燃やさないゴミの日に処分された。夫がひと月前に「もう少し経って内容がわかる歳になったら渡す」と言って書庫から出してきた『スラムダンク』全巻は、再び棚に戻された。

この出来事が、少年スポーツに対する問題意識の起点になった。

私は小学生時代、ミニバスケットが普及する前に行われていたポートボールに親しんだ。指導者による暴力や暴言は全くなかった。市の大会が最高峰でそれ以上のトーナメントシップがなかったからだろう。毎日の練習が楽しく、中学校でバスケット部に入るのを心待ちにしていた。

高校時代は一転、インターハイで優勝したこともあるバスケット部へ。監督の暴力は熾烈を極めた。殴られて前歯が折れたり、足の脛が左だけ平らになったりした。硬いバッシュを履いた監督の利き足が右足だったからだ。

■気づけば自分が「スポーツ毒親」になっていた

親という立場になってからは、スポーツ現場の暴力は断固反対だった。子どもを萎縮させる大人に対し嫌悪感を抱いていた。それなのに、私はスポーツ毒親になった。

読んで字のごとく、スポーツをする子どもにとって毒になる親である。私は、息子が中学年くらいになるまで私は本当にうるさい親だった。試合のたびにビデオカメラ持参で駆け付け、大声で息子に指示を出しながら撮影した。ある日、撮ったビデオを見返していて自分の大声にギョッとした。

「もう、何やってんの!」「前に大きく蹴れ!」「ほら、そこでシュート!」「右に開け!」

息子は私の声など気にせずプレーしている。だから何の意味もない。単なる騒音である。そこで、本人に母の声掛けについてどう考えているか尋ねてみた。

「おれは別にいいけど、みんなが嫌かも。(チームメイトが)おまえのママ、うるさいなあって言ってた」

困ったような薄笑いを浮かべている。その遠慮がちな反応を見て、自分の行為の愚かさに気づいた。私は良かれと思ってやっていたが、大人からの指示命令はサッカーやバスケットでは「サイドコーチング」と呼ばれ、本来はやってはいけないことだ。試合のビデオを見直しては「全く走ってないね」と息子を責めたりもした。子どもが自分で考える力や主体性を育む芽を、この無知な愚母は無意識とはいえ摘み取っていたのだ。

■「1点返したくらいで喜ぶな!」と叫ぶ母親

その後、スポーツの育成現場の課題に注目して取材し始めると、既視感満載だった。サッカー、野球にミニバスケット。私のようにずっと大声で指示している人はもちろんのこと、罵声、怒号は指導者以上だった。

試合で活躍できなかったわが子を木陰で小突く父親、サッカーで大量失点をした後に1点返し歓喜する子どもたちに「1点返したくらいで喜ぶな!」と叫ぶ母親も見た。シュートを外すと、応援に来ている親のほうを見る子。ミスをすると、必ずこける子もいた。

フットボールゲーム
写真=iStock.com/liaokong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liaokong

指導者は「親の反応が怖い。叱られたくないんです。言い訳したい心理からわざとこけるのでしょう」と答えた。スポーツは恐ろしい――そう思った。その人がどうやって育てられたかはもちろんのこと、親子のありようまで引きずり出してしまう。息子は私の前で萎縮していたし、2歳下の娘にピアノとバイオリンはどちらを習いたいかを尋ねると「ママが習わせたいほうでいいよ」と言われた。自分が毒親かもしれないと背筋が凍った。

毒親(toxic parents)は、米国のセラピストであるスーザン・フォワードが作った言葉だ。彼女の著書『毒になる親 一生苦しむ子供』は1999年に和訳・出版されベストセラーになった。スーザンによれば「子どもの人生を支配し子どもに害悪を及ぼす親」とされ、日本では2000年代に浸透し始めた。自分のなかの毒を意識した私は、受験にまつわる毒親の話を雑誌『AERA』に幾度となく寄稿。親から抑圧されまつ毛をすべて抜いてしまった小学生や中学生の姿をまじえ、教育虐待の深刻さを伝えた。

■暴力をふるう監督を支持する保護者たち

その取材で、担任からのパワハラには目を光らせるのに、暴力をふるうミニバスケットクラブの監督を支持する母親に出会った。

「全国(大会に)に連れて行ってくれるから」だと言う。平手打ちや「死ね」「帰れ」の暴言を「どうせ社会に出たら理不尽なことだらけだから、今から慣れておいたほうがいい」と有難がっていた。彼女彼らも程度の差こそあれ、私と同じスポーツ毒親だった。

取材の幅を広げると、指導者の暴力やパワーハラスメントや性暴力にわが子を差し出す一方で、自ら同じようなことをやってしまう親もいた。ただし、彼らもそうやって育てられている。人は無意識のうちに、育てられたように育ててしまう。

毒親たちは、スポーツにおける暴力が許容されていた過去の時代の被害者ではないか。

そして2012年、私たち毒親にとってターニングポイントになる事件が起きる。12月23日。大阪市立高校バスケット部員が、顧問による暴力や理不尽な扱いを苦に自死したのだ。

「自殺した子はキャプテンの器ではなかった」「自死の原因は親の態度」「キャプテンを辞めたら大学の推薦がとれなくなると親が言った」

13年1月に事件が発覚すると、親子への強いバッシングが起きた。親のありようが違えば自死を防げたかのような論調が目立った。暴力やパワハラを用いたスポーツ指導が問題なのに、「人づてに聞いたが自殺の原因は親だ」と私に言ってくるメディア関係者もいた。家族や教員らに直接取材して事件のルポルタージュを執筆した私の意見に、耳を貸してくれる人は少なかった。

■コーチに対して暴言暴力の問題を感じる保護者は6割以上

では今はどうだろう。

事件から10年目を迎え、類似した事件の報道に対し、親の問題をえぐろうとする人はほぼいない。スポーツの指導現場におけるハラスメントが許されないことは、社会に浸透してきた。その一方で、見逃せない事実がある。

日本バスケットボール協会は2021年3月28日から5月31日の約2カ月間、U12(12歳以下)で活動する選手の保護者に対しアンケートを実施(有効回答数9332件)。同協会の公式サイトによると、集計結果は以下のようなものだった。

「暴言暴力について、他チームのコーチにおいて問題を感じている」と答えた人は、64.5%(よくある18.1%、たまにある46.4%)にも上る。「試合中に感情的な言葉や不適切な言葉を投げかける他チームの保護者」を見かける人は、36%(よくある7.7%、たまにある28.3%)と、こちらも決して小さい数字ではない。

■コーチの暴力を問題視しながら「子供は成長している」と答える保護者

さらに、私が問題だと感じたのは、「試合中の暴言に問題がある」と答えながら、「子どもは楽しんでいる」と感じている人が27%もいることだ。加えて、「練習中の暴言に問題がある」と答えながらも「子どもは成長している」と考えている人も23%だった。

島沢優子『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)
島沢優子『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)

これについては、同協会も「保護者は暴言暴力を問題と感じながらも、試合での勝利や技術の向上、暴言暴力に耐えることを楽しさや成長と捉え、容認しているのではないかという問題がある」(公式サイト原文ママ)との見解を発表している。ただし、これを見て「バスケットはひどいね」で終わらせてはいけない。

他競技は同様かもしくはそれ以上に重篤だと私は思う。コーチの暴言暴力が6割以上、保護者の試合中の暴言が約4割。コーチ、親の両者は依然として、日本のスポーツ指導を暴走させる両輪になっている。なぜ親たちが暴力・性虐待にわが子を差し出すのか。そこにフォーカスすることで、社会のさまざまな課題も見えてくる。

それらに向き合うことで、平手打ちをする監督を見て青ざめていた息子のような子を無くせればと思う。(本文中の敬称は略します)

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島沢 優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツジャーナリスト
筑波大学卒業後、英国留学等を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年フリーに。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実』(朝日新聞出版)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)等著書多数。『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子/小学館新書)を企画構成。「東洋経済オンラインアワード2020」MVP受賞。日本バスケットボール協会インテグリティ委員。沖縄県部活動等の在り方に関する方針検討委員会コーディネーター。

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(スポーツジャーナリスト 島沢 優子)

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