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ハーバード留学費用の3000万円も自腹返済…それでも私が「三菱商事を辞めてよかった」と言えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年5月23日 9時15分

鳩山玲人『シリコンバレーで結果を出す人は何を勉強しているのか』(幻冬舎)

シリコンバレーで結果を出す人は何を勉強しているのか。実業家で元サンリオ常務の鳩山玲人さんは「私は34歳のとき三菱商事を辞めて、サンリオに転じた。ハーバード大学MBAを取得したばかりだったので、留学費用として約3000万円を返済する義務があったが、それでも辞めたことで大きな学びを得て、シリコンバレーでも結果を出せるようになった」という――。

※本稿は、鳩山玲人『シリコンバレーで結果を出す人は何を勉強しているのか』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■勉強したいなら、まず転職する

30代以降の読者の方には、「スタディ」だけでなく「エクスペリエンス」と「ラーニング」を意識していただくことが大切ではないかと思っています。

そして、効果的に「エクスペリエンス」と「ラーニング」を行うための方法として、私がみなさんにおすすめしたいのが「転職」です。

特に「今後進みたい道が見えない」「今の仕事がルーティンになってしまっている」「勉強するといっても何から手をつけるべきかわからない」といったように停滞を感じている方は、転職を真剣に検討したほうがよいでしょう。

転職とは、見方を変えれば「新しい環境に入ること」です。つまり、転職すること自体が新たなエクスペリエンスであり、ラーニングとなるわけです。

新しい環境で新たに出会う人たちと関わりながら、さまざまな刺激を受ければ、それだけで経験値が1段階、2段階と引き上げられていきます。

私は転職こそ最高のラーニングの機会であると思っており、個人的にキャリアの相談を受けたときなどにも積極的に転職をすすめるようにしています。

多くの日本人がいまだに転職に抵抗を感じがちであることは「とてももったいない」と思いますし、同じ会社で長く働くことでだんだん刺激を得る機会が減り、成長スピードが鈍化していっている人も多いのではないかという危機感も覚えています。

特に30~40代の方は、多くの企業でかつてのような終身雇用が維持できなくなり、早期退職を迫られるケースもめずらしくない状況において、一つの会社でだけキャリアを積むことにはリスクがある点にも目を向けるべきでしょう。

三菱商事本店が入る三菱商事ビルディング=2020年2月9日、東京・丸の内
三菱商事本店が入る三菱商事ビルディング=2020年2月9日、東京・丸の内(写真=時事通信フォト)

日本では、転職を考えることがあっても「まずは勉強して、最新の知識を得てから転職しよう」などと考える人も多いように思います。「転職したとして、そこでの仕事に自分が対応できなかったらどうしよう」という不安が、そのように考えさせるのかもしれません。

しかし、勉強して知識をつけてから動くより、転職して新しい環境に入り、新卒入社のときにOJTで経験したような半ば強制的な「エクスペリエンス」「ラーニング」の機会を作るほうが、学びは速く、深くなるでしょう。

もちろん、転職して「失敗だった」となる可能性は常にあります。しかし、失敗してもその経験は残ります。

もし転職して「失敗した」と思ったら、奮起してまた次の環境に身を投じればいいのです。

■3000万円の留学費用返済を厭わず三菱商事から転職した理由

私自身は、三菱商事からサンリオに転職したときはさほど深い考えはなく、アメリカで仕事をするチャンスに飛びついただけでした。

思い返せば「いつか日本と海外をつなぐような仕事をしたい」という気持ちは子どもの頃から持っていました。新卒で三菱商事に入ったときも、「海外事業をやりたい」と思っていたのです。

しかし、担当したのは国内のエンターテインメント業界の仕事。もちろん、エイベックスやローソン、サンリオなどの事業に関われたことは恵まれていたと思いますし、当時は存分に仕事を楽しんでいましたが、三菱商事在籍時にハーバード・ビジネス・スクールに留学したことで、海外の仕事への思いは高まることになりました。

そんなときに、サンリオの故・辻邦彦副社長(当時)から「海外事業をやってみないか」と声をかけていただいたのです。

その時点で三菱商事を退職すれば、およそ3000万円のハーバード・ビジネス・スクールの留学費用は返済しなければならないルールでした。転職して、給料が上がる見込みもありません。それでも私は三菱商事を辞めて、サンリオに飛び込むことにしました。

そうやって思い切って環境を変えてみたところ、私は非常に大きな学びを得ることになったのです。

三菱商事時代はユニット制のような仕組みがあり、1ユニットが5人から十数人ほどの小さな組織で仕事をしていました。また、当時の私は主任クラスで、その上には当然、課長や部長がいました。

それがサンリオ米国法人に転職すると、最高執行責任者として100人近い現地従業員のトップを務めることになりました。

■現場ではMBAの学びのとおりにいかない

当時の私に、経営の経験はまったくありませんでした。ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得していましたからリーダーシップ論もマネジメント論もそれなりに勉強はしていましたが、現場では教科書どおりにいくことといかないことがあります。

机の上の本と卒業スクロールのモルタルボード
写真=iStock.com/pcess609
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pcess609

もちろん、自分の責任に基づく意思決定をしたこともありません。海外事業も「やってみたい」と思って勉強はしていましたが、実務をやったことはありません。

当時の記憶は少々あいまいで、とにかく必死だったということしか覚えていないのですが、新たな環境の中で「とにかく生き延びなければ」「絶対に成果を出さなければ」という思いを抱いていたことは間違いありません。

そしてそのような状況の中、いわゆる「スタディ」とはまったく異なる学習が始まったわけです。

サンリオ時代、私はハローキティのライセンスビジネスで業績を急回復させるなどの実績を残すことができただけでなく、経営者として組織運営を学び、知財ビジネスや海外での事業展開に関する専門的な知識や技能も身につけることができました。

そして今、シリコンバレーでそれらの経験や専門知識を十分に活用して次のステップを楽しんでいます。

今となっては、「転職しなかった自分」を想像することができません。

あのまま三菱商事にとどまっていたら、おそらくビジネスパーソンとして、これほど刺激的な日々を過ごすことはできなかっただろうと思います。

■転職して明確になった自分の価値

転職は新たな学びを得られるだけでなく、自分の価値を客観的に棚卸しするよい機会にもなります。

たとえば、それまで社内で役立っていた業務上のノウハウが、ひとたび転職すると、まったく役立たなくなることがあります。

「この案件を通すなら、まず○○さんに話をつけて、次に○○さんに承認を取ればいい」というような知識は、日々の業務では必要かもしれませんが、転職して汎用的に使えるものではありません。

そのようなノウハウがまったく役に立たない場に移ったとき、自分の人材としての市場価値がどこにあるのかを直視せざるを得なくなるわけです。

私自身、サンリオを離れたことで、自分の価値について改めて見つめ直すことになりました。

私は日本企業の海外展開については、実績も自信もあります。しかしサンリオの国内事業についてはあまり見ていませんでしたから、実は国内のキャラクタービジネス業界に太いパイプはありません。

ですから日本の企業から「海外展開したい」と相談を受けたときは力を貸すことができますが、国内での新たな展開を考えたいという相談に対しては「私の専門性があるからこそ提供できるサポート」というのは限られているし、差別化要素も少ないと感じます。

自分の価値を明確にできたことで、現在はそれを活かした仕事をしています。私の強みをシンプルにいえば「日本とアメリカを結びつけられること」「知財関連ビジネスに詳しいこと」です。

シリコンバレーでも多くの人が私をそのような人材として認知してくれているので、「知財のことなら彼に聞けばいい」「日本進出の相談をするなら彼がいい」といったように口コミがどんどん広がり、たくさん仕事の声がかかるようになったのです。

サンフランシスコ
写真=iStock.com/georgeclerk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/georgeclerk

■「転職」と「ラーニング」と「キャリアアップ」はセット

自分の経験からも強く思うのは、日本のビジネスパーソンの学び方とシリコンバレー流の学び方には根本的な違いがあるということです。

日本では「勉強する」「学ぶ」といえば、本を読んだり学校に通ったりする座学のようなイメージが強いように感じますが、シリコンバレーでは「転職」と「ラーニング」と「キャリアアップ」はセットになっているのです。

そもそもシリコンバレーに限らず、アメリカでは長く同じ会社に勤めて役職が上がっていくケースはあまりありません。

20代の若手の場合はまた少し事情が異なりますが、通常「階級を上げて仕事をしたい」と思えば、転職するのが一般的です。転職することで、給料も役職も上げていくわけです。

多くの人は3~5年ごとに転職します。30~40年もビジネスパーソンとして働けば、10社ほど経験するのがごく当たり前です。40代でも、5、6社のキャリアを重ねているという人が多いように思います。

この点の日米の違いについては、サンリオ時代から感じていました。

日本では新卒で採用した生え抜きの社員を主力として考えることが多いと思うのですが、当然ながら、新卒の育成には膨大な時間がかかります。生え抜きの社員は自社での経験しかないので、知見も相応のものにとどまりがちです。

■「レイターのセールスの仕事が一番自分に合っている」

一方、米国子会社で「優秀な人を採用したい」と思ったときは、ヘッドハンターや転職斡旋会社に依頼し、ディズニーやワーナー、ユニバーサルなどでキャリアを積んだ人を探してもらうのが自然な流れでした。

そうやって探すと、「ディズニーとワーナーで仕事をしていました」といったキャリアの持ち主がたくさんいるのです。エンターテインメント業界の知見が深く人脈もあるので、そういった人材はサンリオを成長させていくうえで、とても重宝しました。

アメリカではこのような「転職によるキャリア形成」が一般的なのですが、シリコンバレーが面白いのは、それに加えて企業のステージの変化もあることです。

たとえば、ひとくちに「スタートアップ」といっても、創業者と数人の社員でアイデアを構想しているような企業もあれば、アイデア構想を経てプロトタイプ作りやテストに進む段階の企業、顧客にプロトタイプへの評価をもらう段階から製品のリリースへと進みつつある企業、売上を立ててキャッシュフローを安定させていき、IPO(新規公開株)やM&Aも視野に入ってくる企業まで、一般には「シード(seed)」「アーリー(early)」「ミドル(middle)」「レイター(later)」と呼ばれるような、さまざまな成長段階にある企業がひしめいています。

そして、それぞれの成長ステージで必要とされるスキルや能力、専門性などには当然、違いがあります。ですから、たとえばシリコンバレーで働いている人たちの中には、大企業もスタートアップも経験したうえで「レイターのセールスの仕事が一番自分に合っている」という人もいるわけです。

■「失敗も、その人の資産」とみなされる

業界・業種と職種の組み合わせだけでなく、企業の成長段階も加味されるわけですから、仕事の選択肢は非常に豊富だといえます。

シリコンバレーの人たちが転職を繰り返す中で自分の興味・関心や得手不得手を知り、知見を重ねていく様子を見ていると「キャリアとはこうやって築いていくものなのか」と痛感させられます。

ちなみに、シリコンバレーでは「失敗も、その人の資産」とみなされます。

当たり前の話ですが、「このステージで、このような失敗をした」という経験は、「同じ失敗をしないようにチェックできる」という意味で資産になるからです。失敗が怖いから転職しないというようなマインドはない、といっていいでしょう。

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鳩山 玲人(はとやま・れひと)
鳩山総合研究所 代表取締役
1974年生まれ。元サンリオ常務取締役。青山学院大学を卒業後、三菱商事に入社。エイベックスやローソンでエンターテインメント事業に従事。2008年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。同年、サンリオに入社。サンリオで海外事業を拡大し、サンリオ メディア&ピクチャーズ・エンターテインメントのCEOとして映画事業にも従事し、2016年6月に退社。現在、ピジョン、トランスコスモス、Zホールディングスの社外取締役を務めるほか、シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるSozoベンチャーズのベンチャーパートナーや、YouTuberを束ねるUUUMのアドバイザー、「HUMAN MADE」ブランドを展開するオツモのCSOも務めている。

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(鳩山総合研究所 代表取締役 鳩山 玲人)

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