「デジカメ市場の上位5社は日本企業」それが日本企業のスゴさよりヤバさの証左である残念な理由
プレジデントオンライン / 2022年5月27日 12時15分
■かつて世界のGDPの15%超を占めていた日本
20年前に海外出張すれば、ほとんどの国で空港からクライアントのオフィスやホテルに向かうタクシーから見える景色には、SONY、Canonなどの日本企業の広告がずらりと並んでいた。いつの間にかそうした景色は消え、今やSamsung、LGなどの韓国勢に取って代わられて久しい。
「米国と日本で、平成元年には世界のGDPの43%を押さえていたんだよ。日本単独でも15%を超えていた」などと、バブル時代の話をしても、20代、30代はおろか、40代の社員にさえ、そんな時代の記憶はない。
■存在感を示す大国の中で
現在の日本のGDPは世界第3位というもののわずか5.7%で、すでに世界第2位になっている中国は16.1%と、往時の日本を超えている。
米国も衰退したとはいうが、それでも産業を新しく創り出すという点での存在感はまだまだ大きい。
欧州は再生エネルギーへのシフトやデータプライバシーなど、欧州独特の投資と規制を中心として、EUという枠組みをフル活用して世界中の企業に大きな影響力を持つ存在となった。特にドイツのインダストリー4.0は、国と産業が一体となった欧州らしい製造業のDXをリードし、北欧はグリーンテックで存在感を示している。
中国・インドは、かつて想定していたとおりに成長している。かくして世界の勢力図はすでに大きく変わった。コロナ禍の状況やロシアのウクライナ侵攻など、先行きの不透明さも相まって、私たちは大国の興亡の真っただ中にいる。
その中で、日本はまだ大国なのだろうか? 日本企業はどうだろうか? 私たちは、なぜいま世界で日本企業の姿を目にしなくなったのだろうか?
本稿では、日本企業のこれからの再浮上に必要な方向性を最後に提示する。その前に、日本企業の存在感が薄れてしまった事実、その理由の深掘りをしてみたい。
■成長産業でまったく存在感がない
市場規模の増減率と、その中に占める日本企業のシェアを比較してみると、興味深い事実が浮かび上がってくる。それは「日本企業は成長市場で存在感が薄く、成熟・衰退市場では存在感がある」ということだ。
各市場の世界シェアについては、日本経済新聞社が70品目に及ぶ商品・サービスについて調査した「主要商品・サービスシェア調査」がある。
試しに、それらの70品目において、市場規模の増減率が年間+15%以上の市場を「急速成長市場」、+15%~±0%を「成長市場」、±0%~-15%を「成熟市場」、-15%以下を「衰退市場」とおいて、主要市場で日本企業の存在感を調べてみた。すると、日本企業の現状を表す残念な事実が見えてきた。
まず、成長産業の中でも、その伸びが顕著なのは再生エネルギーだ。
2021年の風力発電機市場は、前年比で市場が47.4%伸びている。これはずばぬけて高い。エネルギーは生活基盤であり、万人が必要とする大市場だ。
その大市場におけるシェアトップ5は、順にベスタス(デンマーク)、GEリニューアブルエナジー(アメリカ)、ゴールドウィンド(中国)、エンビジョン(中国)、そしてシーメンスの流れをくむシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(スペイン)の5社となり、この5社で市場の68.1%を占める。
この成長市場に、日本企業は影も形もない。同じく急速成長市場として、前年比で34.4%成長している太陽光パネルでも同様だ。この市場では1位から4位を中国企業が独占し、辛うじてカナダ企業が5位に入っている。
こうした例を眺めつつ全体を俯瞰(ふかん)してみると、実は世界の主要品目でトップシェアに残っている日本企業の大半が、衰退市場か成熟市場にいることが分かる。
■デジタルカメラ市場のトップ5は日本企業
日本経済新聞社が選択した70品目の選び方には議論があるところではある。化学・素材・電子部品等で、「この企業の部材がないと、完成品が作れない」といわれるほどの高シェアを誇る日本企業があることは十分承知している。
しかし、実際にそれが製品の価値に決定的な影響をもつ付加価値部材なのか、その企業が成長率、利益率、将来への投資など含めてどうなのかというと、残念ながら規模は大きいかもしれないが、成長性や利益の点で心もとない気がする。
実際に市場の種類ごとに数を拾い上げてみるとより全体がよく分かる。前年比+15%以上の「急速成長」市場では、13市場のトップ3(つまり39席のポジション)に入っている日本企業はわずか3社だ。
逆に年間売上が-15%以上も縮小している「衰退市場」は7つあるのだが、そのトップ3(全21席)のうちの9社が日本企業となっている。
その中でもデジタルカメラは特筆に値する。デジタルカメラの市場成長率は、前年対比で-40.3%だ。
笑えないことだが、この衰退市場ではトップ3どころかトップ5のすべてが日本企業(キヤノン、ソニー、ニコン、富士フイルムホールディングス、パナソニック)となっている。このうちのトップ3だけで市場占有率は83.7%、トップ5では93.8%となっており、沈みゆくタイタニックでダンスを続けているように見える……。
デジタルカメラの市場が奪われた先はスマートフォンだと容易に想像でき、そしてそこはすでに成熟市場で、かつ日本企業の姿が見当たらない。つまり、日本企業はデジタルカメラで一世を風靡(ふうび)して市場創造を行いながら、ガラケーで写メを展開したところまではよかった。だが、その後のスマートフォン市場には完全に乗り遅れたということだ。
こうした数字の意味することはなんだろうか?
それは日本企業の多くで、主要事業がすでに成熟から衰退産業になっているにもかかわらず、その手前で新規成長事業への投資決定ができなかったか、投資を決定したとしても、既存の主力事業への過度な配慮が行われ、新規事業には十分な資源配分が行われてきてこなかったことがうかがい知れる。
■日本独自の企業文化では新しい時代に対応できない
日本ではかつて、「会社の寿命は30年」と言われた時代があったが、世界に目を向けた競争を考えると、その寿命はどんどん短くなってきている。
その中で、これまで見てきたように、新規成長領域への資源配分ができない状態というのは、会社という単位での変革=トランスフォーメーションができていないということだ。
同質性の高い(=勤続年数が長い)社員により、コミュニケーションが濃い中で暗黙知を形成し、献身的な就業態度に支えられてきた独特の企業文化が日本企業の強みであると言われた時代があった。だが、その文化が成長に貢献したのは、企業を巡る事業環境に合っていたからだ。
ゲームのルールが変わった時代においても、昔ながらの意思決定を続け、その意思決定の前提となる年功序列的な発想がいまだに残っている。そんな状態で、失敗による学習を奨励することや、成長のためにリスクを取る意思決定など、資源配分も含めて実行できる理由が見当たらない。
■変革に成功した日立と富士フイルム
もちろん、日本企業であってもトランスフォーメーションに成功している企業はある。
例えば日立だ。約9兆円の売上高を誇る企業グループで、グループ企業再編として子会社・関連会社の整理・売却を進めて、事業ポートフォリオ、市場ポートフォリオを組み替えて再浮上した。
例えば送配電事業においては、海外市場での成長を前提とした戦略を考え、国内におけるしがらみである日本企業との合弁企業を解消した。
そして、スイスに拠点を置く多国籍企業のABBグループとの提携を進めつつ、最終的には同グループの送配電事業を買収してしまった。
縮小していく日本市場ではなく、世界市場の成長を見据えた戦略を取った結果だ。巨大企業だけに時間はかかったが、10年という単位で見ると、日立の事業ポートフォリオは大きく変わった。
また、銀塩写真・フィルムという市場が実質的に消滅する中、実際にコダックが市場から消えた一方で、事業ポートフォリオを組み替えて生き残った富士フイルムも、トランスフォーメーションを実現した大手日本企業として挙げられるだろう。
■これまでの成長市場は、いつか成熟市場になる
この2社に共通することは非常に単純だ。成長市場と衰退市場を意識し、自社の事業のポートフォリオを成長市場に寄せるという意思決定をしていることだ。同時に、縮小や撤退する事業を決めて、その決定を明確に実行したということだ。
このように、これからの日本のために重要なのは、これまでの事業を止める、または縮小する、ということとセットにした意思決定と実行力が同時に必要ということだ。
これまでの成長市場は、いつか必ず成熟市場になり、衰退を始める。それを見越して「変革を日常」にして、普段の努力と変革を実行するためのケイパビリティをつけることが必要になってくる。
■日本企業が再浮上するために必要なこと
こうして考えてくると、日本企業再浮上のための方向性として、いくつかのキーワードが浮かび上がってくる。
打ち手としては、事業ポートフォリオの見直し、それに沿った資源(ヒト・モノ・カネ)のシフトと、必要なケイパビリティの開発と獲得だ。
どんな経営学の教科書にも書いてある至極当たり前のことだが、それができない理由がある。企業風土だ。では、企業風土を変えるためにはどうすべきだろうか?
そのために必要なのは、ガバナンス、リーダーシップ、イノベーションとダイバーシティ促進だ。それらはつまり企業経営のOSにあたる企業風土、ひいては日本における仕事の進め方の変革ということを意味する。
打ち手を実行するためにまず必要なのは、適正なリスクを取りながらも、成長を実現するためのガバナンスだ。
東京証券取引所が提唱しているコーポレートガバナンスコードでも、まさにそう謳(うた)われているが、まだまだ多くの企業の取り組みの上では、形の上で経歴・毛並みの良い、既存の価値観での延長線上にいる社外取締役を取り入れているにすぎない。
そのような社内体制で、戦略的な意思決定や変革に向けて経営陣を突き上げる大議論が、役員間でできるだろうか?
未公開企業や中小企業の場合は、銀行がその役割を担うことも多いかもしれない。
では、既存の銀行にそうした関与の仕方ができるだろうか?
PL視点で単年度の業績に目が向き、長期的な成長のための投資による赤字決算を容認どころか、積極的に提言して資金サポートまでできるだろうか?
■最も重要なのは自社のアイデンティティーの再確認
ガバナンスから社内に目を移してみると、新しい発想を実現できる風土と、その構築のためのリーダーシップと、イノベーション、ダイバーシティが必要になる。
これまでと少しでも違うことをすること自体が、実はリーダーシップ行動である。決してトップだけのリーダーシップが必要なのではない。もちろん大将としてのトップが旗を振る必要があることは言うまでもない。
既存事業やオペレーションの中でも、変えることは変え、製品やビジネスの単位でのイノベーションを啓発し、成功や完璧さのための計画策定にこだわるのではなく、実践による学習と修正が奨励される企業風土を目指す必要がある。
そして、こうした打ち手や変革の目的を忘れないようにしよう。最も重要なのが、自分たちの存在意義と価値の再確認だ。
今の日本企業を見ていると、生き残るために必死になり、自分たちが提供している価値と可能性についての議論が見当たらない。
SDGsのおかげで、統合報告書に社会課題の解決などの文言が踊るようにはなったが、実際にそうした言葉を、自社の存在意義として力を結集して実現しようと、組織全体で力が働くレベルになっているだろうか?
■自分たちが力を出せるロードマップを作る
昨今のDXもいつのまにか「DXする」という動詞となってしまい、むやみやたらと便利なツールとしてのデジタル側面が強調されている。しかし、X(トランスフォーメーション)のないDXは企業の長期的成長力を阻害し、むしろ破壊してしまう。
各社各様、登山に例えれば目標は頂上と決まっていても、そのルートやペースはさまざまだ。だが、登山においても天候(環境)は変わる。企業経営においては、事業環境変化と競合、市場という組み合わせで、登るルートを刻々と変える必要もあるかもしれない。
だからこそ、まずは登る山を決めて、早く登り始めてほしい。対外発表のための報告書ではなく、自然と力を出し切りたくなるようなロードマップを作り、最初の一歩を踏み出してほしい。
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OXYGY代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー
1966年、東京都出身。国際基督教大学卒業後、ソニーに入社。その後、GEにて事業開発や事業統合の業務を経験。複数のコンサルティングファームを経て、外資系コンサルティングファームのValeocon Management Consultingのアジア代表に就任。同社経営陣の一員として、英国系国際法律事務所、Bird & Birdの経営コンサルティング部門とのM&AによりOXYGYを設立、アジアパシフィック代表を務める。2019年から現職。
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(OXYGY代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー 太田 信之)
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