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「労働収入こそ善である」という"正義中毒"が貧しい日本をさらにダメにする

プレジデントオンライン / 2022年5月29日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tuaindeed

「悪い人には悪い結果が、よい人にはよい結果がもたらされるべき」という認知バイアスが行きすぎると、結果として世の中や自分を取り巻く環境を悪くする、と経済評論家の勝間和代さんは指摘する。新著『できないのはあなたのせいじゃない』より、“正義中毒”にハマって損をしないためのコツを指南する──。(第3回/全5回)

※本稿は、勝間和代『できないのはあなたのせいじゃない』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■正義を振りかざす「メディア」を疑え

私は何年も前から、日本のテレビ番組に対して強い違和感を抱いています。特に、「正義の味方が悪者を駆逐する」というコンテンツに対して疑問を感じます。ドラマに限らず、バラエティやニュース報道にさえ、この「善悪の対立」という構造が存在しています。

代表的なのが、人気ドラマ「水戸黄門」です。

お金稼ぎをしている商売人や権力を振りかざす悪者を、覆面的なヒーローである水戸黄門が懲らしめるという、勧善懲悪の構成を何百通りにもアレンジして長年放送されてきました。現在でも再放送を重ねていますが、これも強力なブレインロックになりうると私は考えています。

「公正世界仮説」のワナです。

■「世界は公正であるべき」という認知バイアス

公正世界仮説とは、「悪い人には悪い結果が、よい人にはよい結果がもたらされるべき」という社会的な認知バイアスのことで、社会心理学で使われる言葉の1つです。

「世の中のすべてはフェアである」と信じる心の癖のことで、これがあると、「水戸黄門」でいえば、最後に悪者が懲らしめられるクライマックスの場面では気持ちよくなると同時に、「自分が信じている世界が守られた」という安心感を得るようになるのです。

ところが、当たり前ですが、現実世界においては公正でないことが多々あります。正義が負けることもあれば、悪者だけが得をすることもあります。

世の中はすべからく公正であるべきですし、世界をその状態に近づけていくのは必要なことですが、現実には、不公正は世の中にあふれています。

■被害者まで責め立てる「勧善懲悪の洗脳」

公正世界仮説がやっかいなのは、「悪い人は、最後はひどい目にあう」という考え方が、「ひどい目にあっているのは悪い人だから」という逆向きにも心を動かしてしまう点です。

そのため、公正世界仮説を現実世界に当てはめると、ひどい目にあった人に対して、「おまえは悪人だからしようがない」と責め立てる心理が働いてしまったりします。

たとえば、犯罪被害にあった人がいると、多くの人が同情する中で、同時に「この人にも何か反省すべき点があったのでは」という声が必ず上がります。

「痴漢にあったのは、あんなに短いスカートをはいていたからだ」
「盗難にあったのは、防犯意識が低いからだ」
「病気になったのは、生活習慣が悪いからだ」

ひどい目にあった人の側にも何らかの過失があったかのように責めるのが、勧善懲悪のブレインロックがかかっている人の特徴です。

■“犯人探し”が過熱する真因

新型コロナウイルス感染症の騒動の中でも、クラスターが発生するたびに“犯人探し”が過熱しました。

ウイルスに感染した人に対して、罪を犯したかのように責め立て、社会的な制裁を加えるような「感染者バッシング」が相次ぎました。中には、医療関係者やそのご家族への誹謗中傷もあったといいます。

冷静に考えれば、新型コロナウイルス感染症拡大の犯人は、潜伏期間が長く感染力が強いという、ウイルスそのものです。感染した人に非はありません。

ところが、公正世界仮説という洗脳を受けると、そういった事実と関係なく、ひどい目にあった人こそ攻撃対象だと、固く信じてしまうのです。

■ステレオタイプから外れるものに対して攻撃的になる

公正世界仮説には「ステレオタイプに固執する」という弊害もあります。

つまり、「動物好きは性格がいい」とか「保育士さんは優しい」といったたぐいの思い込みです。そして、勧善懲悪と同じように、そこから外れることに対して許せない気持ちになり、やはり攻撃を始めるのです。

私自身、テレビ出演をしていた数年前まで、今思うと、公正世界仮説の被害者でした。

当時はクイズ番組や教養番組、討論番組などによく呼ばれて出演していたため、知識人として取り上げられることが多かったのですが、これが「女は男よりものを知らない」と思い込んでいるステレオタイプの人たちの不興を買ってしまったのです。

■バッシングの対象になってわかったこと

その結果、何が起きたかといえば、「えらそう」「性格がきつい」「意地悪」というバッシングの嵐です。

勝間和代『できないのはあなたのせいじゃない』(プレジデント社)
勝間和代『できないのはあなたのせいじゃない』(プレジデント社)

男性なら許される発言でも、女性である私が発すると、途端「上からものを言っている」となってしまうのです。バッシングは男性に限らず、女性からもたくさんありました。

経営者や政治家も同じです。

女性がリーダーシップや頭脳で勝負しようとすると、途端にバッシングを受けてしまう。そんな様子を、これまで数限りなく目の当たりにしてきました。

「女は男よりものを知らない」という自分の信じる秩序を乱されることが許せない。そういう人は、信じられないほど多数存在していることが分かります。

■「お金持ち=悪い人」「貧しい人=いい人」という認知のゆがみ

公正世界仮説の延長線上に「お金をたくさん儲けているのは悪いことをしているから」という認知バイアスもあります。そのためか、「水戸黄門」に出てくる悪者は権力者や富裕層で、派手な着物を着ていたり、箱いっぱいの小判を数えていたりします。

一方で、貧しい農民が悪者として描かれることはありません。

時にこの「お金=悪の象徴」という社会的洗脳によって、社会から敵視される人や企業が出てきます。

最近ではメタ(元フェイスブック)やアマゾンなど、巨大テック企業がその標的となっています。すでに社会インフラと化しているために、批判しながらもその利便性だけは享受している人が多いようです。

この背景には、「お金儲けに成功した人は悪い人。私はいい人だから成功していない」という認知バイアスの働きがあり、お金持ちが悪役だと“気持ちがいい状態”になっているということがあります。

■「労働収入こそ善」というロックで貧しくなる

もっといえば、「お金持ちは悪者」という社会的洗脳と背中合わせの二重構造になっているのが、「労働収入こそが善」という洗脳です。

労働収入とは、その名の通り、働いた対価として得るお金のことです。企業に勤めているビジネスパーソンは企業から給与として収入を得ていますし、お店をやっている自営業の場合はサービスの対価をお客さんから受け取り、それが収入になっています。

実は、この「労働収入こそが善」とする認知は、お金に関する最大のブレインロックです。これこそが日本の生産性がいつまでも世界の最底辺にある原因でもあります。「長時間労働こそ頑張っている証」というブレインロックと2つがセットになって、広く世の中にはびこっています。

■一人の労働よりも、レバレッジが大事

生産性を考慮すれば、労働収入には本来限りがあるため、できるだけレバレッジをかけたほうがいいことは自明です。

様々なテクノロジーが進化した現代社会において、たった一人が労働することで生み出せる付加価値は、ほんのわずかであるということです。だからこそ、価値をできる限り増幅するとともに、それを実現するためのテクノロジーをはじめとする仕組みが必要になってきます。

たとえば、私が1つの情報を3万人に伝える必要があるとします。その情報が欲しい人を募集して、その人たちを一人ひとり訪ね歩きながら情報を伝えていたら、1日に100人訪ねたとしても1年近くかかることになります。

ところが、YouTubeという情報伝達のプラットフォームを使えば、手元で動画をアップするだけで、情報を欲する人がたちまち向こうから集まってきて視聴してくれます。

しかも、私が動画で話す時間はだいたい3分間。それを加工してアップロードする時間はせいぜい5分間。合計してもたったの8分間で、「3万人に情報を伝える」という目的が1日で達成できるのです。

■労働収入だけでは、もはや収入は増えない

労働時間を増やせば増やすほど収入が増える時代ではなくなりました。労働収入の最低ラインは、国が定める最低賃金で守られてはいますが、逆にいえば、時給で換算すると収入は非常に限られてしまいます。

テクノロジーや資本、機械を使う形でレバレッジをかけ、できる限り小さな労力で最大の成果を上げることが重要になります。

これは個人に限らず、企業全体の仕組みの中でも同じことがいえます。

たとえば、私はある飲料メーカーの工場を見学したことがありますが、広大な工場内でほとんどの作業はロボットが担っており、人はその管理をするためのほんの数人しかいませんでした。

企業全体の業務に対して、人が担う割合はごくごくわずかになっていることを実感した出来事でした。

■韓国よりも賃金が低くなった日本の現状…

いまや、個人も企業も、いかに労働時間を最小にしながら付加価値を最大限出せるようにするかが重要となるフェーズに入っていることは間違いありません。

特に個人の場合、労働収入以外で収入を上げる仕組みを作らないと、資産を増やすことが難しい時代になっています。というのも、日本の実質賃金は数十年にわたって足踏み状態にあるからです。

給与明細の一部
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

OECD(経済協力開発機構)が調査した「2020年世界の購買力平価」資料をもとに、朝日新聞が報道した記事によると、日本の実質賃金は年間424万円と、OECD加盟35カ国中22位。対して、1位のアメリカは約763万円でしたから、その差は2倍近くにもなります。

1990年までは日本よりも低かったフランス、イギリス、韓国にも追い抜かされているのが現状です。特に韓国は、2000年ごろには日本の約半額だったのですが、2015年には日本は抜かれ、現在ではむしろ大きく差をつけられていることが分かります。対して日本は、この30年間ほぼ横ばいです。

■最小労働、最大価値を目指せ

これを個人の話に落とし込めば、労働収入だけに頼っているとじり貧になるだけ、ということが分かります。

「創業者が株式公開で自分の株式を譲渡し、巨額の利益を得た」といった報道が時々あります。広く一般の投資者へ新規株式公開する「IPO(Initial Public Offering)」によって、巨額のお金を手に入れるのはまさしく、多くの起業家の夢でもあります。有名なのが、ファッション通販大手であるZOZOの創業者の前澤友作氏でしょう。

創業者の苦労がむくわれるのがIPOですが、とはいえ、それまでの創業者の労働やかけた時間に対してお金が入ってくるわけではありません。投資家たちは創業者が作ったお金儲けの仕組みに価値を見出し、株式投資をします。その現在価値としてのお金が、創業者に入ってくるわけです。

つまり、より多くの収入を得るためには、「より長時間働けばよい」という考えを捨て、いかに自分の労働を最小限に抑えながら世の中に大きな価値を生むかを考える――すなわち、「労働時間」と「収入」を切り離すことが重要なのです。

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勝間 和代(かつま・かずよ)
経済評論家/株式会社監査と分析取締役/中央大学ビジネススクール客員教授
1968年東京生まれ。早稲田大学ファイナンスMBA、慶應義塾大学商学部卒業。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー・アンド・カンパニー、JPモルガンを経て独立。少子化問題、若者の雇用問題、ワーク・ライフ・バランス、ITを活用した個人の生産性向上など、幅広い分野で発言を行う。著書に『勝間式食事ハック』(宝島社)、『勝間式超ロジカル家事』、『勝間式超コントロール思考』『ラクして おいしく、太らない! 勝間式超ロジカル料理』(以上、アチーブメント出版)などがある。

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(経済評論家/株式会社監査と分析取締役/中央大学ビジネススクール客員教授 勝間 和代)

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