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「7年間の学費は7000万円」中国で8校を展開する英国の名門ハロウ校が岩手に全寮制学校を開くワケ

プレジデントオンライン / 2022年5月28日 13時15分

安比高原駅から徒歩5分のところにハロウ安比校のキャンパス(イメージ図)。入ってすぐのところにイノベーションセンターがある。実験室とものづくり教室、アート制作、陶芸用の専用窯と理系・アート系という垣根を取り除いた「ゼロからイチを生み出す施設」だ - 写真提供=Harrow International School Appi

今夏、岩手県八幡平市にイギリスの名門パブリックスクール「ハロウ校」の系列校ができる。全寮制で学費は年間1000万円。対象年齢は11歳から18歳で、7年間通えば7000万円がかかることになる。どんな学校なのか。だれが通うのか。国際教育評論家の村田学さんが解説する――。

■創立450年の節目に誕生するハロウ安比校

イギリスには、創立450年を越える歴史ある上流階級向けの学校があります。

イギリス元首相ウィストン・チャーチルらを輩出したハロウ校は、エリザベス女王1世から開校の勅許を受けた名門9校の1校です。

筆者は、世界にオンライン配信されたハロウ校450周年の記念式典の配信を見ることができました。

450年記念式典の様子
写真提供=Harrow School
450年記念式典の様子 - 写真提供=Harrow School

セントポール大聖堂で開催された式典では、イギリス国教会で創立者ジョン・ライオンと開校の設立勅許を出したエリザベス女王1世への感謝とこれまでの学校の歴史を振り返りました。

讃美歌、大聖堂の荘厳な式典、烏帽子を被った神父とまるで「ドラクエ」の世界。450年前の日本というと、織田信長が桶狭間の戦いで今川義元を破り、室町幕府を滅亡に追いやろうとしていた頃。信長が天下統一にひた走る時代にハロウ校は、開校しています。

そのハロウ校が創立450周年として、海外初のフルボーディング(通学がない全寮制)の中高として開校するのがハロウ安比校なのです。イギリス本校にもないスキー場に隣接し、自然と学問の調和を追い求めたキャンパスとなっています。

■学費は年間900万円の富裕層向けの学校

授業参観のために保護者がヘリコプターに乗ってやってくる。

このような設定は『花より男子』のような少女コミックにはありますが、ハロウ安比校は、この世界観を地で行く「リアル花より男子」になろうとしています。

同校の開校に合わせて、2021年8月、岩手花巻空港初の国際線(台北間)の定期便が就航し、2022年3月に1泊100万以上のスイートルームを持つインターコンチネンタルホテル安比高原とANAクラウンプラザリゾート安比高原、ホリデイ・インとインターコンチネンタルホテルグループは、3つのホテルをオープンしました。ハロウ安比校の保護者が岩手花巻空港からインターコンチネンタルホテルまでヘリコプターで移動できるように準備も進んでいます。

昨年11月に開催された学校説明会の会場は、麻布にある会員制倶楽部の東京アメリカン倶楽部のボールルーム。ハロウ安比校のロゴ入り特製のデザートが出され、シャンパンの乾杯とともにスタートしました。別の日は、銀座にある社交クラブCITY CLUB OF TOKYOのラウンジでアフタヌーンティーを楽しみながら説明会が開催されました。いずれも会員制の倶楽部であり、説明会への参加は有料です。

ハロウ安比校の説明会の様子
写真=筆者提供
ハロウ安比校の説明会の様子 - 写真=筆者提供

ここで発表された学費は年間900万円。

この額に、夏休みに開催されるサマースクール代は含まれていません。インターナショナルスクールは、夏休みが2カ月半にわたるため、多くの場合、サマースクールに参加させます。仮に海外のサマースクールに参加させると渡航費を含め100万円が追加でかかります。1年間に1000万円の学費がかかることになります。

説明会でシャンパングラスを傾け、年間1000万円の学費にピクリとも動じない富豪向けの学校。それがハロウ安比校なのです。

■英国が進める教育輸出の一環

こうした英国の富裕層向けの学校が、日本で立て続けに開校します。

2023年に千葉県柏市の千葉大学のキャンパス内に開校予定のラグビー校と、東京小平市に開校予定のマルバーン・カレッジが開校。そして、つい先日もノース・ロンドン・カレッジが日本校をつくるためのパートナー募集を発表しました。

なぜ、いま日本なのでしょうか。

もともと英国系のインターが不足し、日本に駐在した際に通わせる学校がないことにイギリス人自身が困っていたこと。これに加えてEU離脱の議論が始まった頃から、イギリスが国家戦略として教育輸出を進めてきた経緯があります。

英国系インターで学んだ富裕層の子どもたちは、イギリスに親しみを持つようになります。カリキュラムの面からもオックスフォードやケンブリッジなど英国大学を選択して進学し、やがて母国に帰ってもイギリスびいきの人材としてビジネスや政治の第一線で活躍するようになります。こうした人脈が国力にあたえる影響力は決して小さくないのです。

ハロウ校では、1998年にはじめての海外進出となるタイ・バンコク校を開校。その後、北京、重慶、香港、海口、南寧、上海、深圳、珠海と8校を中国に開校しています。そして11校目の進出先が日本となりました。

ハロウインターナショナル香港
写真提供=Harrow International School
ハロウインターナショナル香港 - 写真提供=Harrow International School

香港の会社が運営に入っていることから「チャイナスクールである」という報道もありましたが、世界展開する英国式のインターナショナルスクールで中国資本が入っていない学校はほぼありません。どこも植民地だった香港にアジア太平洋事務局を構え、ここを足掛かりにアジアの富裕層にアプローチして、アジア展開を進めていくのが定石となっています。

ハロウ校の広報によると、現時点で入学する生徒の内訳は日本人が50%、残り50%が海外勢となっています。海外の生徒の内訳は、30%が中国の生徒で(香港、台湾を含む)、残り20%はシンガポール、マレーシア、タイ、韓国、オーストラリア、フランス、アメリカ、ニュージーランドなどから生徒が来るそうです。

■「どんな人?」あなたの隣の富裕層

筆者は、インターナショナルスクールの進学支援も行っているため、ハロウ安比校の志願者の相談も受けてきました。

日本で最高額の年間学費1000万円を払う保護者について、個人情報をぼかしたうえで紹介させていただきます。

1.不動産会社の経営者

メガバンクのプライベートバンク部門から紹介を受けて進路相談を受けた家庭は、都内高級住宅街にある不動産屋さんです。

仲介ではなく、不動産宅地開発を手がけるファミリー企業のオーナーです。年間150万円の学費がかかるプリスクール(英語で保育・教育をする幼児園)に3名のお子さんを通わせています。

小学生のお子さんは都内のインターナショナルスクールに通っていますが、子どもが甘やかされている可能性があるのでハロウ安比校を検討したそうです。下のお子さんもハロウ安比校を検討しています。

ハワイにも不動産を持ち、スイス、香港にも銀行口座を持ち、「スイスのプライベートバンクは教育から資産運用など丸ごと託せるのが便利で、スイスの学校だったら銀行経由で進学」だそうです。運転手付きのベントレーで移動しています。

ベントレーベンテイガの面構え
写真=iStock.com/nrqemi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nrqemi
2.歯科医師

地方で代々歯科クリニックを営む家庭のご子息が、ハロウ安比校に進学したいと言っていると地元の学習塾の経営者から相談がありました。

驚いたのは、インターナショナルスクールが一件もない地方で、ハロウ安比校の情報を真っ先につかんでいたことです。

私はご子息がインターナショナルスクールに入ると、のちに日本で歯科大学に入学し、歯科医師試験を受けるのに不利になることをアドバイスしました。

しかし、保護者は「歯医者はコンビニよりも多い。少子化で、うちの子が歯医者になった頃には歯医者の経営はさらに難しくなっているだろう。それより世界で活躍できるようにしたい。ハロウ安比校を卒業後、イギリスの大学で歯学部、医学部を卒業したらイギリス圏の国々で活躍できます」と答えました。

3.IT企業経営者

IT企業経営者などで会社を譲渡した経営者や上場した経営者は、一気に億単位のお金持ちになります。

IT企業経営者は、横のつながりがあり、成功した資金をさらに知り合いの会社に投資し、さらにお金持ちになる仕組みができています。

コロナ禍で相談が急増したのがIT企業経営者からのハロウ安比校への編入の相談でした。

「コロナで娘が授業を受けているのを見たけど、自分が小学生時代の20年前とほぼ同じことをやっている。僕らは中学生の時にパソコンでネットに触れて、今やスマホでクラウドの業務ソフトで仕事を進めているけど、娘はほとんど紙とペンだよ。テクノロジーの変化に追いついていないし、暗記中心で技術変化に暗記中心では追いついていけない。英語ができれば良いというのではなく、英語で学んで世界の最先端の学びの環境に入れないと娘が将来食っていけない」と危機感をあらわにしていました。

IT経営者のお父さんからの相談は、コロナ禍で日本のオンライン授業の“実力”を見た結果だったのです。

■年間1000万円でも高くないと富裕層が考える理由

前述したようにハロウ校のようなインターナショナルスクールに通わせるには年間1000万円必要になります。

それでもわが子を入れたいという富裕層たちは「高くない」といいます。それはなぜか。

IT企業経営者は、海外のプログラマーの給料を知っています。Amazonは、エンジニアを確保するために基本年収を4000万円に引き上げました。グーグル、Facebookなど海外企業の給料体系は、すぐに出てきます。そして、経営者は、投資で稼ぐコツを知っており、その投資のキーになるのが人脈であることも知っています。

ハロウ安比校に入学させる保護者は、世界で成功している富裕層であり、同窓生の保護者ネットワークが新たなビジネスチャンスにつながるのです。

イギリスのボーディングスクールに通い、コロナで日本に帰国した高校生のA君にルームメイトについて聞いた時、彼は「中東の産油国の王子だった」と答えました。この人脈こそが、年間1000万円という教育投資の最大のリターンなのです。

ハロウインターナショナルスクールの生徒たち
写真提供=Harrow International School
ハロウインターナショナルスクールの生徒たち - 写真提供=Harrow International School

■ボーディング人脈の活用は国益になる

ハロウ安比校で6年間を過ごすことで、その生徒は世界の王族や貴族をはじめ政財界の有力者とつながることができます。こう書くと、金持ちだけが、金持ちネットワークを使って、うまい汁を吸うだけの話に聞こえるかもしれません。しかし、これは国益にかなうことなのです。

過去の例で、ボーディングスクールがあれば国益が守れたのでは、と筆者が思うケースがあります。

資源が乏しい日本では戦後「日の丸油田」を持つことを国策として進めてきました。そのかいがあって1957年には、日本のアラビア石油がサウジアラビアとクウェートで油田の採掘権を獲得しました。しかし、契約更新の際に交渉に失敗し、2000年にサウジアラビア、2003年にクウェートで採掘権を失ってしまったのです。

相手国の国家元首が国王の場合、最終的な決裁権は国王にあります。この時にサウジアラビアやクウェートの王子と同じボーディングスクールに通う人材がいれば権益を守れた可能性があります。

採掘権の更新前に王族が通うボーディングスクールに子どもを通わせ、保護者として家族ぐるみの関係になっていれば王族と直接交渉が可能です。寮生活を共にした仲間は兄弟も同然。強い信頼関係で結ばれています。人脈は資産であり、代々受け継ぐ仕組みがボーディングスクールに組み込まれているのです。

そして、こうしたボーディングスクールが日本に開校することは、日本ファンを増やすと同時に日本への投資の導線につながります。ハロウ安比校は、地元やスポーツや科学、アートなどで優秀な成績を収めた子どもたちへの奨学金制度も導入します。

自分とは関係ない富裕層の話と考えず、日本でもボーディング人脈を積極的に活用していってほしい。筆者はそう思うのです。

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村田 学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家
アメリカ生まれ、日本育ちの国際教育評論家。3歳でアメリカの幼稚園を2日半で退学になった「爆速退学」経験から教育を考え続ける。国際バカロレアの教員研修を修了し、インターナショナルスクール経営などを経てie NEXT & The International School Timesの編集長を務める。

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(国際教育評論家 村田 学)

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