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「社長からのスタンプが正直しんどい」中小企業で起こりがちな"LINEハラスメント"の傾向と対策

プレジデントオンライン / 2022年5月25日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

LINEを連絡ツールとして利用する職場で、いじめやパワハラなどのトラブルが起きることがある。特定社会保険労務士の大槻智之さんは「LINEの“ノリ”には人によって温度差がある。業務利用するのであれば、業務時間外には使わないなどのルールを定めるべきだ」という――。

※本稿は、大槻智之『働きやすさこそ最強の成長戦略である』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■社長が書き込むと社員が一斉に「勉強になります!」

「スタンプが嵐のように押されると正直しんどいです」

Hさんはうんざりした表情で語り始めました。「まだ立ち上げて3年にも満たないベンチャー企業ですから社長との距離が近すぎるんですよね」。

Hさんが勤めるのは東京都港区にある社員数20人のIT企業。業績の伸びに伴い、社員のうち10人以上はここ1年以内に入社したばかりで、Hさんもそのうちの1人です。入社してまもなくアプリ開発のチームに配属されたHさんは、上司からLINEのIDを求められ、ほどなくしてチームのLINEグループに入れられたそうです。

この会社には会社全体に加えて、チームごとにLINEのグループが設定され、社長以下の役員3人はすべてのLINEグループに入っているそうです。「業務としてルールを決めて使う分には非常に効果的だと思うんですよね」とHさんもLINEグループをツールとして評価しています。ただ、「盛り上がりすぎなのが自分にはつらいんです」。

それは、社長の書き込みに対するみんなの反応。「社長が何か書き込みをすると、深夜であっても「さすがです!」「勉強になります!」「ついていきます!」といった書き込みが一斉に始まるんですよ……。全体グループにもなると、書き込み数も多いので、『自分も何か書かなくては』と思うとしんどいです。スタンプがひっきりなしに入ることもあり、正直、今後ついていく自信がありません」。

■「LINEいじめ」は職場でも起こりうる

LINEの“ノリ”は人によって温度差があるため、時としてそれがトラブルに発展してしまうことも考えられます。今後、Hさんがこの会社でやって行くためにはこういった“ノリ”と上手に付き合う必要がありそうです。Hさんのケースよりもずっと行き過ぎてしまうと、いわゆる“ハラスメント”を引き起こす温床となってしまいます。

「LINEいじめ」という問題が中高生を中心に話題になることがありますが、何も子どもだけの問題ではありません。職場でもLINEいじめは起こりうるのです。

■LINEがいつの間にか議論や社長の悪口の場に

LINEグループがきっかけで関係者が懲戒処分されるというパワハラに発展してしまったケースがあります。Hさんのケースと同様に上司がLINEグループを作ったケースです。東京都内の企業に勤めるAさん(女性・28歳)が所属する部署のLINEグループは、当初「連絡が取りやすいから」という理由で上司のB氏(男性・48歳)が作ったそうです。

最初は事務連絡に終始していたのですが、「もっとアイディアや情報を共有しよう」ということで単なる事務連絡から個々の意見交換の場となっていき、時としてメンバー同士でケンカになりそうなほどの議論を交わすケースもあったそうです。

そんな状況に気を良くしたB氏は次第に経営方針や社長に対しての意見をグループ内で書き込むようになり、誹謗(ひぼう)中傷に近い内容も散見されるようになってきたそうです。B氏から「おまえらどう思う?」とメンバーに対して意見を求めることも増えていき「正直、怖くてしょうがなかった」とAさんは話します。いわゆる既読スルーでやり過ごしていたところ、「Aはこの件についてどう考えているんだ?」とあるときLINEグループにB氏から名指しで書き込まれました。

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写真=iStock.com/Sylverarts
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sylverarts

■既読スルーでやり過ごそうとすると「何か意見を書けよ」

この件についてもAさんは既読スルーにしました。LINEグループの場合は、誰が既読したのかわからないので、気づいていないふりでやり過ごそうとしたのです。ところが、Aさんからの意見が出ないことに業を煮やしたB氏はグループではなく直接AさんのLINEにメッセージを送ってきました。

どう返事をしていいかわからずに悩んでいるAさんにB氏は「Aは今のままの会社でいいのか?」「俺に賛同しろとはいわないが何か意見を書けよ」「おい、既読してるなら返事しろよ」といったメッセージが立て続けに送られてきました。そうこうしているうちに、B氏はグループに「Aはまったく協調性がない」「何も意見を言わないような人間は俺の部下にいてほしくない」などとAさんを誹謗中傷する書き込みをはじめ、最終的にAさんはそのグループから外されてしまいました。

その後、B氏はAさんに対し「反省したらグループに戻してやるよ」と個人LINEにメッセージを送信。Aさんは「今でもLINEの着信音が鳴ると怖くてたまりません」というように、その後メンタル不全に陥ってしまい、会社を休職することとなりました。休職の際に、会社の人事部や産業医と面談をして本件が発覚し、B氏は地方の支社に転勤のうえ、降格処分となったそうです。

B氏は非常に仕事熱心で、入社以来、現場の第一線でまじめに働いていました。自分の仕事への熱が部下に伝わらないことに苛立ち、本人に自覚がないままパワハラに発展してしまったケースです。仕事熱心な人ほどパワハラを引き起こしやすいのではないかと考えさせられる事件でした。

■共通認識をすりあわせておかないとトラブルの原因に

LINEのトラブルはその認識の違いにより発生することもあります。たとえば、「途中から参加したので過去の履歴は見られないんですよ」。前述のHさんの言葉です。フェイスブックのメッセンジャーであれば、グループに途中で参加しても過去の履歴を確認することが可能なため、それまでの打ち合わせ内容を把握できます。

しかし、LINEではさかのぼって履歴を閲覧することができないため「話が通じない」や「一人だけついていけない」といったことが発生してしまいます。これは“いったいわない”といったコミュニケーション不足も生んでしまいます。また、「既読はYES」かどうかでも人によってとらえかたは異なります。それで、次のようなケースも起こってしまいます。

Sさんは、同じ部署のUさんにLINEで「明日、9:00に現地集合でいいですか?」と送ったそうです。その後、Uさんから返事がなかったため、Sさんが電話をするとUさんは、「既読が付いているんだから、俺が分かったという意味に決まってるじゃないか」と激昂。納得がいかないSさんは「既読が返事代わりなんていう認識はない」とUさんに詰め寄り険悪な雰囲気になってしまったそうです。

また、これとは逆に、「既読になっていたから、相手に伝わっている、と思っていた」という例もあります。確認のメッセージを送り、返答がなくとも「既読なんだからわかっているだろう」というケースです。これは、相手が上司の場合や、複数のケースでは危険です。

既読は、メッセージを開いたところで付くため、必ずしも読んでいるわけではないからです。特に複数の場合はちゃんと目を通していないことも多いので要注意です。LINEの使い方の共通認識を事前にすりあわせておかないとトラブルの原因になります。

スマートフォンの画面
写真=iStock.com/stnazkul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stnazkul

■「わかってくれるだろう」という思い込みがパワハラ、セクハラを生む

LINEはプライベートに限らず、仕事のうえでも使い方を誤ると思わぬトラブルに発展してしまいます。

特に上司は、社内での使い方に気をつけなければなりません。部下との信頼関係を築いていない状態で「あいつもわかってくれているだろう」といった思い込みで一方的にコミュニケーションをとるといき違いが生まれ、まわりから見れば立派なパワハラやセクハラに発展している可能性があるのです。

また、社内のコミュニケーションツールとしてLINEグループなどを利用する場合には「勤務時間外は使わない」「事務連絡以外は使用しない」「個別のやり取りはしない」など一定のルールを決めてから利用するとよいでしょう。

その他、特に力関係がハッキリしてしまう取引先など、社外とのトラブルを回避する手段を会社として講じておくことが望ましいです。「会社の規則として禁止」してしまうことは効果的です。業務用のスマホを支給し、LINEなどのSNSアプリのインストールを一切禁止してしまうことも有効です。

■社内や労働基準監督署の相談窓口に相談を

いまだ各種のハラスメントは職場において増加傾向にあります。ただ、思い悩んでいる本人以上に、ハラスメントに対して真剣に考えている会社が多いということは事実です。今回、テーマとしたLINEに関連したトラブルにかかわらず、ハラスメントが発生した場合にはまずは会社のハラスメント相談窓口に相談するように、普段から社内で周知しておくことです。

加害者が社長のケースなどは、どうしても相談しづらい、ということもあります。そのような場合には、労働局や労働基準監督署内に設置されている総合労働相談コーナーなどに相談することもできます。社内の相談窓口とあわせて案内しておくとよいでしょう。

大事な社員が1人で悩みを抱えて、気づいた時にはメンタル不全で休職を余儀なくされたり、退職に追い込まれてしまったりする前に、本人が相談できるように情報を提供しておくことが必要です。

■LINEを社内利用するならば明確な運用ルールを決める

LINEグループでは、メンバー同士に意見の相違があると、互いを論破しようとする傾向がみられます。文字でのやりとりとはいっても、みんなが見ている前なので「その考えはおかしい」と白熱しやすく、その段階ですでに危険な状態ですが、さらにいき過ぎるとパワハラになります。もしLINEグループで上司が特定の人に「それは間違っている」と指摘をすると、他の社員の面前で叱責していることと変わらないからです。

Zoom会議では、部長が一人に対してずっと説教をしている場面に遭遇すると、周囲の参加者も困惑します。対面では、大勢の前で注意をしてはいけないということを意識していたはずなのに、オンラインでは目の前に人がいないためなのか、一対一で話している感覚に陥りやすいのかもしれません。

コミュニケーションツールやオンライン会議であっても、相手以外の大勢が見ていることを忘れないように気をつけましょう。

大槻智之『働きやすさこそ最強の成長戦略である』(青春出版社)
大槻智之『働きやすさこそ最強の成長戦略である』(青春出版社)

LINEは便利なツールですが、使い方を誤るとパワハラの温床になります。会社や職場単位でルールを決めて運用することをお勧めします。

労働問題の視点からもまずは連絡する時間帯や曜日を決め、それ以外は使用しないことを徹底します。「忘れないうちに入れておくだけだから、返事をしなくていいよ」といって、深夜2時にLINEを送るのは止めるべきです。

LINEグループでは、誰かの発言に対して参加者が一斉にスタンプを押します。これこそLINEの使い方ではあるのですが、そのノリに歩調を合わせたくない社員もいます。業務使用では、スタンプを使わない、または不要な返事をしないなど、ルールを決めておくことをお勧めします。そうしないと前述した事例のように、一人が返事をしたら「自分も返事をしないとまずいのかな」となって気にしてしまう社員が必ずいます。

フランスでは、2017年1月1日から、つながらない権利(Right to disconnected)に関する法律が施行されました。就業時間外のEメールなどを無視できるという内容です。日本では、職場や職務にあわせて社内ルールで決めて運用するとスムーズだと思います。

ポイント
LINEをはじめとするコミュニケーションツールを業務使用する際には、運用ルールを明確にしましょう。業務上のやり取りのみに限定しておくと問題は発生しづらくなります。そこにコミュニケーションという感覚を混ぜると様子が変わってきます。コミュニケーションや雑談を認めるのか、業務限定で使用するのか、何のために使うのか目的をハッキリさせることが重要です。

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大槻 智之(おおつき・ともゆき)
特定社会保険労務士
1972年、東京生まれ。日本最大級の社労士事務所である大槻経営労務管理事務所代表社員。オオツキM 代表取締役。OTSUKI M SINGAPORE PTE,LTD. 代表取締役。社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」は、現在日本国内外の企業500社を顧客に持つ。また人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、220社(社員総数18万人)にサービスを提供する。

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(特定社会保険労務士 大槻 智之)

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