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ネット検索は「ググる」から「タグる」に…若者が飲食店選びで食べログを避けてインスタを使う本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年5月27日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

SNSの普及は「消費」のあり方を根底から変えつつある。電通メディアイノベーションラボの天野彬さんは「SNSでウケない商品は、ビジネスそのものが難しくなりつつある。商品の発見から購買まで、すべてがSNSで完結する未来が近づいている」という――。

※本稿は、天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

■「口コミ」提唱から半世紀…広がる消費者発信メディア

いまやその言葉を聞かぬ日はないほどに口の端に上る「口コミ」という言葉は、ジャーナリスト・ノンフィクション作家の大宅壮一が1960年代に生み出したといわれている。もともとは「口頭でのコミュニケーション」の意味で、テレビや新聞などのマスコミュニケーションとの対比のもとに提唱された。

大宅氏の時代には、小規模なコミュニケーションが念頭に置かれていたと思われるが、現在ではインターネット、特にソーシャルメディアやSNSの発達によって口コミの影響力は巨大なものとなった。

デジタルマーケティングの発展した英語圏では、早くからそのような状況が理論化されていった。口コミが生み出され集まる場所という意味で、Consumer Generated Media(消費者発信メディア。略称CGM)という言葉も盛んに使われるようになる。

日本でも、レシピを共有する「クックパッド」、コスメ情報の「アットコスメ」、グルメ情報の「食べログ」など、代表的なものは2000年代中盤に生まれてきた。もちろん、紙幅の都合上挙げられていないだけで、ジャンルやテーマが設定された、口コミ/情報共有のための場はこの他にも数多くあるし、最近はそのスマホシフト版とも言えるさまざまなサービスが生まれてきていて、老若男女問わずこうした情報収集は当たり前のことになっている。

■口コミ専門サイトに起こりやすい「ある効果」

ただし、本書の読者もそうであるように、口コミを完全に信じている人はいないだろう。誰もがどこかで疑わしいものではないかと、時に警戒しながらチェックしているはずだ。久保田進彦氏と澁谷覚氏の研究では、そうした生活者の態度を「疑念効果」と呼んでいる。口コミの正しさを疑い、そこでの態度変容がブロックされる効果のことだ。

その研究結果によれば、SNSの口コミは負の内容が少なく正の内容向上につながるが、口コミ専門のサイトが多ければ、それだけ態度変容が起こり購買意図の向上につながるが、口コミ専門のサイト(図表1では「プロモーショナル型」)においては、正の内容が多いほど態度変容や購買意図が減少するという。こんなにポジティブな書き込みばかりなのは何かおかしいと疑ってしまうわけだ。

【図表1】ウェブ上の口コミに対する疑念効果
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』

このソーシャル型とプロモーショナル型に近い区分として、ソーシャルグラフとインタレストグラフという2つの情報ネットワークのありかたに分別することがある。前者のソーシャルグラフは、友人や知人のように社会的に関係のある者同士の結びつきを示しており、後者のインタレストグラフは、興味や関心の近い者同士の結びつきを指している。もちろん両者は重なることもあるが、別途のものとしてカウントされることが多い。

*口コミが消費者に与える影響などを『そのクチコミは効くのか』(有斐閣、2018年)にまとめ、「疑念効果」という概念を提唱。

■そんなに拡散されるなんて…情報は投稿者の想定を超えてゆく

考えてみれば、ソーシャルグラフでの口コミはSNS以前にも学校や会社や家庭など……さまざまな人間関係のもとで発生していたと言える。人間の言語は評判や噂話を広めるために発展したという説もあるくらいなのだから。

しかし、インタレストグラフはインターネット以後、特にソーシャルメディアの普及以降の現象であると言ってよい。同じ関心を持つ人同士で情報を交換することは、そうした人々のみが集まり、コミュニケーションを交わすことの手間やコストがとても大きいことから、それ以前は簡単には実現し得なかった。だからこそ、口コミサイトが隆盛したのである。

その口コミの中でもソーシャルグラフで起こるもの、つまり特にSNSを通じてボトムアップ型で情報が急速に広がることを「バズ(Buzz)」と呼ぶ。「バズ」とは、蜂が飛ぶ際の「ブンブン」という音が原義で、そこから転じて騒音や人々が集まって話すことによるガヤガヤ感を意味する。ウェブマーケティング業界で拾われ、ネット上で人々が草の根的に話題を広げ拡散していくものを「バズ」、そのような現象が起こることを「バズる」と言うようになった。

ここまでの議論からもわかるように、バズはインタレストグラフを超えるものを含意している。関心の近さ、情報的な親和性の近さという壁を越えて、本来は届きそうにない人へも届いてしまうからこその魅力がある。その意味で、SNSにおけるシェアは、シェアする主体の想定を超えた投企性を潜在的に内包しているのだ。

■どこからが「バズ」なのか…定義づけにはゆらぎも

「バズる」というワードには、「短期間」に「大量」の発信や共有が起こるというニュアンスが含まれている。もちろん情報がゆっくり広がっていく現象を「バズる」と呼ぶケースもあるが、一般的に「バズ」とは、一気に大量に降ってくるゲリラ豪雨のようなものなのだ。

予想もしなかったことが突然起こって拡散し、そしてそのムーブは長くは続かず残らない。また、どこからが「バズ」なのかという線引きも難しい。例えばZOZOの前社長・前澤友作氏による2019年初頭の「1億円お年玉企画」は、それまでのリツイート数世界記録の355万件を塗り替え530万を上回った。

このような超特大のケースを指すこともあれば、かわいい犬の写真が1万リツイートされたようなものを「バズった」と言うこともある。そして、どちらにも違和感はない。「バズる」という現象は多義的で、そのような「ゆらぎ」を持っていることを留意しておくべきだろう。

ところで、「バズ」と同様の意味で、「バイラル(Viral)」という言葉が使われることもある。こちらは伝染病が広がるように、話題やアイデアが人づてに拡散していく様を指す。例え方が悪いと感じるかもしれないが、ネットワーク科学の分野では人々の噂話の広まりとウイルスの感染の拡大は、どちらも同じように分析される(新型コロナウイルスが短期間で爆発的に広がった現状を考えると、その比喩の“正しさ”を実感せざるを得ない)。

■拡散現象を生み出したい…大切なのは「共感」

プロモーションや広告コミュニケーションの実務者の間では、「バズ」をうまく活用したいという関心も高い。というのも、若年層では、商品やサービスの認知や好感度がSNS経由で高まることも多いためだ。特に食品や飲料など消費財を扱う企業にとっては、話題喚起力のあるバズ現象を望む声も大きい。それゆえに、バズを起こす方法論がさまざまなかたちで模索されるようになっていった。

また、SNSの時代はユーザーが発信者になっているからこそ、共感が大切だといわれる。それは間違いのないテーゼであり、現代のシェアやその連鎖たるバズを語るうえでも欠かせない。その内実とは、単なる情報ではなく「私」の想いや感情が乗っかることで、そのシェアは加速的に広がっていくポテンシャルを帯びるということだ。

発信者が心を動かされたというその事実にこそ、人々は共振して、シェアされたものはさらにシェアされていく。企業がリソースをかけてつくったしっかりした動画よりも、それを見て感動したことを伝えるユーザーの動画のほうが何百倍もシェアされて広がっていく――そんなことが日々起こっているのだ。

■SNS受けのいい企画を生み出すフレームワーク

CHOCOLATE社のチーフコンテンツオフィサーである栗林和明氏はSNSでバズるコンテンツをつくり出すことに定評があるが、そのための発想の手掛かりを「バズ6つの原則と80の切り口」として整理している。6つの原則は図表2だ。これを満たしていることは、多くの人に関心を持ってもらうための「第一関門」であると言えるだろう。

【図表2】バズるための6つの原則
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』

そのうえで、次の図表3のような「80の切り口」とを結びつけて企画していくわけだ。バズる企画を考えたい人にとってはとても参考になるフレームワークだ。

【図表3】バズる80の切り口
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』、引用:https://adv.yomiuri.co.jp/creator/creator201704.html

ただし、バズってもブランドへの好意につながるかどうかは別問題であるし、企画を立てて綿密に実施したとしても、「バズ」が起こるかどうかは確定的ではない。私たちは良いアイデアや面白い施策さえあれば、生活者に受け入れられて「バズる」と考えがちだが、インターネットサイエンスの領域で著名なダンカン・ワッツが著した『偶然の科学』(早川書房、2012年)の考えに則るならば、それは少々甘い見通しなのかもしれない。

■「中身がよければバズる」わけじゃない

例えば森林火災を考えてみると、それが燃え広がるか燃え広がらないかは、そのときのさまざまな変数やコンディションによっているわけで、誰も「そのきっかけとなった火種がすごかったからだ!」とは考えない。しかしながら、人が起こす社会現象については、何か自分が納得できる理由を探し求めてしまう傾向があると、ワッツは指摘する。

つまり、中身が良ければバズるといった見方は一面的なもので、実際にはそれでは捉えきれない複雑系の現象にほかならない。アイデアが良ければ……有名人が広げれば……といった単純な話ではなく、そのときの他の競合ニュースの状況、情報を受け取る側の状況や気分、世の中全体のコンディション等々、森林火災同様にさまざまな変数が絡んで「バズる」か「バズらない」かが明らかになる。

しかし再度強調しておくべきは、バズは運で勝負する博打ではない。筆者が考えるバズのイメージは「0→1」のように起こるか失敗するかという二者択一の現象ではない。既にある「種」(SNS上での意見や感情の振幅を惹起する未顕在な話材)をわかりやすく伝わりやすいかたちにすることで共感を生み拡散させていく「1→10」のイメージに近い。

多くの人が無意識的に持っている「もやもや」を言語化、図示化することで共感が生まれ情報を拡散していくわけだ。それがどれだけ拡散するかは起こりやすさという確率のグラデーションの問題である。だからこそ、SNSの活用はユーザーの動向を把握することこそが第一義でなければならない。

■情報との出会い方は、いまや「ググる」だけじゃない

スマホユーザーの拡大とSNSの普及は、誰もが発信者となる時代を築いた。SNSは、その定着の過程で人とつながり合う場という意味合いを超えて、「情報と出会う場所」という機能性を帯び始めていった。

筆者が担当したプロジェクトの成果をもとに2017年「若年層のSNSを通じたビジュアルコミュニケーション調査」という調査リリースを発表したが、その中でも、若年の女性ほど情報を探すときに検索エンジンだけでなく、SNSを頼る傾向を指摘した。現代の生活者は、検索する(=ググる)ことだけに頼らない情報との出会い方を日々体験するようになっている――そんな胎動が、この頃には見え始めていた。

SNSで情報を探すとき、鍵になるのはハッシュタグ(#)だ。ハッシュタグを使って、ユーザーは情報を広げたり、つなげたり、集めたりするようになっている。筆者は、そのようなSNSの利用法を指して「タグる」というコンセプトを提唱している。

タグるとは「ハッシュタグ」と「手繰り寄せる」という2つの言葉をあわせた掛け詞で、ユーザーが発信する情報をユーザー同士で集めたり役立てたりする収集行動を示している。これは、ユーザーに主導権が移る時代における情報拡散のかたちをあらわしている。

実際に、インスタグラムが公式に発表したデータによれば、日本のユーザーはハッシュタグ検索を世界平均の3倍使うという。すなわち、日本はタグる文化の中心地なのだ。情報との出会いは「ググる」から「タグる」へ、比重が変わりつつある。

■「タグる」シフトの裏には何が…

では、なぜいまググることからタグることへのシフトが広まり始めているのか。ここではその理由として中心的なものを挙げてみよう。

①情報源としての信頼性:先述の調査でも、SNS上で最も信頼する情報発信者は「友人/知人」であるという結果が得られた。企業やブランド、インフルエンサーといった重要な発信者を差し置いてのこの結果は、この情報洪水の時代において、身の回りの人々がシェアしているものに頼ろうというユーザーの心理が強くなっていることを指し示している。

②リアルタイム性:SNSは情報発信のハードルが低いため、ウェブサイトに比べて、更新頻度が高く、常に新しい情報が湯水のように湧いて出てくる。リアルタイム性、即時性、速さ……それらは、情報の鮮度を求める現代生活者のニーズに沿っている。

③スクリーンのサイズ最適性:スマホがコミュニケーションの中心になったことで、情報の最適単位がウェブサイト(ページ)から、SNS上のポストへ移ったという仮説も立てられる。ずっとスクロールしていって、最後まで見なければ情報が完結しないというのは、いまのユーザーにとっては「負担」になってしまう。そのようなUX(ユーザーの体感)の視点からもググるからタグるへのシフトを導くことができる。

■知人友人だけじゃない…「ハッシュタグ」でつながる世界

なお、そもそもハッシュタグとはツイッター発祥の機能である。エンジニアたちが使っていた機能を援用したもので、フォローしているかどうかに関係なく、あるひとつのテーマについてみんなの意見が読める楽しさを引き出す機能だ。

初めて触れたとき、筆者は「これぞソーシャルネットワークだ!」と興奮したものだった。自分が既につながっている相手かどうかに関係なく、世の中の声が届くこと。筆者はその外部に接続できることにSNSのソーシャル性を見るが――見知った人の発信しか見えないのは、社会的(Social)というよりも、世間(Seken)的なのだ――、大事なことはこのような誤配の可能性こそが、タグることの実践には宿っているということなのである。

広告の世界でも、これまではテレビコマーシャルの最後に「○○○で検索(カチッ)」という検索画面とナレーションが入ることが多かったのが、ここ数年は、最後に「#○○○(作品名など)」といったハッシュタグ検索を促すようなタイプが増えている。

【図表4】CMの最後のクレジットの変化
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』

統合コミュニケーションの設計においても、SNSで情報発信をしてもらい、ユーザー間でタグるのがあてにされているとわかる。

■「高まるシェア欲」フォロー対象は“人”から“テーマ”へ

このようなユーザー側の情報行動の普及と呼応するように、インスタグラムも2017年12月のアップデートによって、ハッシュタグをフォローすることが可能になった。

天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)
天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)

いままではアカウントをフォローして、そのアカウントがシェアするものを見ていたのが、いまでは「#パンケーキ」など、テーマごとにシェアされたものをチェックすることができる。つまり、人からハッシュタグへのシフトだ。

自分がシェアしたものにより、他のユーザーを誘引したい――タグってもらいたい――というモチベーションがさらに引き出される。現に、インスタグラムで「#パンケーキ」と入れると、約510万件の投稿が見つかる(2022年2月時点)。まずは「人気投稿」の欄をチェックしたり、トッピングや色合いのバランスなどを見ながら、ビジュアルの印象で選んだりすることで、目当ての情報(=食べに行くべきパンケーキ)を探りあてるのだ。

■発見から購入まで…SNSだけで完結する世界へ

お店選びの動線も、ググってそのお店について口コミサイトで見るというよりは、まずタグるようになっている。行ったときに実際にどんな空間に自分が身を置くことになるのか、お店のウェブサイトでは完全にはわからない――それこそ「盛っている」こともある――し、そこでの評価が信頼できるものなのか心もとないこともある。そんなとき、自分と同じユーザーの立場から写真がシェアされているインスタグラム内でタグることは、その体験の質をはかるためにとても有益なのだ。

今後注目しておかなければならない動向として、インスタグラムをはじめ、さまざまなSNSで購買まで完結できるようなサービスの機能向上が進んでいるという点を指摘しておきたい。そうすれば、SNS上で買い物を楽しむような時代になるだろう。従来のECサイトのように欲しいものが定まった状態での買い物と異なるそのありかたは、発見型コマースと称することができる。SNSは発見型コマースのための場へと進化していくのだ。

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天野 彬(あまの・あきら)
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層のメディア行動やSNSの動向に関する研究、執筆、コンサルティングを専門とする。著書に『シェアしたがる心理 SNSの情報環境を読み解く7つの視点』(宣伝会議)『SNS変遷史 「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)、共著に『情報メディア白書』(2016~2019年版、ダイヤモンド社)がある。

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(電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬)

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