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だれでもゼロから世界的セレブになれる…日本一のTikToker「じゅんや」を日本人がまだ知らない理由

プレジデントオンライン / 2022年5月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/5./15 WEST

動画SNS「TikTok」に熱中する若者が増えている。電通メディアイノベーションラボの天野彬さんは、「TikTokは『持たざるものに優しい』という特徴がある。素人であっても、数千万人のフォロワーを集め、数十億円を稼ぐスターになれる可能性がある。そうした『なにが起きるか予想できない』という部分が人気を集めている」という――。

※本稿は、天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

■日本国内のユーザー数は約2000万人

日本国内のTikTokのMAU数は、調査会社AppAnnieによれば、2000万人ほど(2021年末時点)である。筆者の身の回りの使われ方や盛り上がり方を鑑みれば妥当だと実感する。

グーグル・トレンドで「TikTok」について調べてみると図表1のようになる。黒線は「その言葉そのもの」の検索回数を示す。例えば、東京であれば「東京」とクエリに何回入力されて検索されたかを指す。

その一方で青線は「トピックス」と呼ばれるもので、「日本の首都」「Tokyo」といった概念・話題として一致するものをカウントする。TikTokの検索回数はいずれも右肩上がりであることがわかる。

【図表1】グーグル・トレンドによる「TikTok」検索回数
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』

2018年8月にトピックスとして急上昇しているのは、musical.lyと合併したタイミングにあたる。ショートムービーへの注目が高まったタイミングだ。もうひとつの山は2020年8月で、米中対立の中でクローズアップされたことに起因する。

検索数で見ると、2019年までは上昇基調ながらやや天井にあたっていたところが、2020年には一つ頭抜けて、2021年までその勢いを増していることがわかる。黒線のTikTokそのものの検索量も順調に増えているし、青線のトピックスが時折スパイクを起こすのも特徴だと言える。

■「投稿画面そのまま」「ロゴ透かし」広告で社会現象に

TikTokがグローバル化を志向する際、日本市場でウケれば特にアジア諸国でも浸透するはずだという戦略があった。

しかし海外で人気のサービスと謳(うた)ってみんなが使うほど甘くはなく、サービスローンチ後のコールドスタート期(盛り上がらない状態)を突破するには、質の高い日本のクリエイターのコミットが重要となる。日本では、きゃりーぱみゅぱみゅ、E-girls、フィッシャーズなど若者に人気のセレブリティやSNSで人気のインフルエンサーがTikTokを盛り上げていった。

TikTokの初期広告キャンペーンは、TikTokの実際の画面そのものを発信するというもので、それが大きな話題を呼んだ――筆者の身の回りでも、この時期にユーチューブなどでその広告を見て認知した人が多かった。またTikTokのウォーターマーク(透かし)が入った動画がツイッター、インスタグラム、ユーチューブなどのTikTok外へと広がったことも、多くの人々にリーチするきっかけとなった。

ソーシャルメディア上でざわつき始めた話材はテレビなどでもすぐに取り上げられるため、次第に社会的な現象になっていったのだ。

■日本での火付け役が「10代女子」となった理由

もともと日本ではSNOWという加工アプリが流行っていたことからもわかるように、「盛る」ことへの関心が高い。それは良く見せたいということに加えて、自分の顔を表に出していいのかというプライバシー観にも関わる文化的背景があるためだ。

TikTokは、顔認証やビデオフィルター(エフェクト)、ビデオのタグ付けなど、コンピュータービジョン技術の高さが競争資源だったことも功を奏した。その強みが日本のユーザーに刺さったのだった。

それらの積み上げから、日本では2018年に初めのスパイクが起こった。マイナビティーンズラボによる「10代女子が選ぶトレンドランキング2018」を参照すると、流行ったモノ部門の第2位に「TikTok」、流行ったコト部門でも第6位に「トリコダンス」、第7位に「全力○○」といったTikTok関連のキーワードが軒並みランクインしていた。

2019年以降もより広範な世代に向けたTVコマーシャルを軸としたキャンペーン施策や、クリエイター育成プログラムなど、裾野を広げる活動によってその勢いは確固たるものになっていった。2020年以降は20代〜30代のユーザー層も倍増している。

現在は、私たちがよく知る企業・商品からラグジュアリーブランドに至るまで、その活用は広がっている。まさに、世界を制覇するためのブリッツスケーリングな拡大戦略が日本でも展開されていたがゆえの結果なのだ。

■“若者が楽しむアプリ”の域は超え、株価にも影響

TikTokを若者のための手軽な動画アプリだと捉えてしまうと、そのインパクトを過小評価することになる。エンタテインメント性を満たす楽しいアプリであることはもちろん、これからさらによりパブリックな役割を果たす場になっていく兆しが見えてきている。

まず第一に、いまでは企業・ブランドやエンタテインメント領域の重要なプロモーションの場になっている。新しい商品・作品を世に出すとき、まずはTikTokで面白いことができないか、賑わいをつくり出せないかと考えるマーケティング担当者は確実に増えてきた。

メディアも情報発信の場としてTikTokでアカウントをつくり、運用することが活発化している。また、日本国内でも例えば「#お仕事図鑑」のハッシュタグで、企業が採用広報活動に活用したり、インターンシップの選考を行ったりといった取り組みも始まっている。

アメリカでは、金融サービスなど一般的には「堅い」とされる企業もTikTokの活用に乗り出している。

その認識の変化をもたらしたひとつの象徴的な事件が、2021年初頭に起こった「ゲームストップ騒動」だ。ビデオゲーム小売りチェーンを展開するゲームストップの株価が、なんと個人投資家たちの買い注文で前年来安値の約188倍にあたる483ドルまで急騰したのだ。

背後でヘッジファンドが空売りを仕掛けていたことへの反発ともいわれているが、もうひとつ重要な背景として、ユーチューブやTikTokなどのソーシャルメディア上で取引情報を探し、それをもとに一斉に動く若い投資家が増えていることに注目が集まったのだった。

■いまや公的なメッセージ発信にも使われている

さらには、若者が政治的なメッセージを発信する場としてもTikTokが注目されるようになっている(もちろんそれ自体は他のソーシャルメディアでも見られることだが)。

2020年のBLM(Black Lives Matter)――アメリカで始まったアフリカ系アメリカ人への人種差別に対する抗議運動――と気候変動への抗議活動――地球に長く住む分だけ重要――なども、TikTokでメッセージの発信が行われた。

また、2020年6月には、当時のアメリカ大統領ドナルド・トランプ氏がオクラホマ州で開いた選挙集会で、TikTokの利用者が欠席前提に大量の申し込みを呼びかけたため、大量の空席が発生したと世間を驚かせた。人々の連帯を促し、動員に結びつけるツールとしても力を持ち始めていることを示している。

いまやTikTokは公的なメッセージ発信にも使われているし、TikTok自体もそうした啓発活動を進めている。

ソーシャルメディア用に照明の前で撮影する女性
写真=iStock.com/Igor Alecsander
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Igor Alecsander

■「素の自分」を出せる独特のコミュニケーション文化

新しいメディアは新しい才能とともに成長していく。ユーチューブもインスタグラムも、ブログだってそうだったし、さらに遡(さかのぼ)れば文芸誌もそうだった。そこで発信する新しい才能に人々が惹(ひ)かれることで、その場全体が盛り上がっていく。

いまはデジタルメディア、さらにはスマホアプリによって私たちはセグメントされているからこそ、新しいムーブメントが見渡しづらくもあり、その一方で各々の場で熱量が高くなるとも言えるだろう。

TikTokには、素の自分=発信者の側面を表出させる独特のコミュニケーションの文化がある。飾らない内面やあけすけな本音、リアルな姿を見て好きになってもらいやすい場であると位置づけられる。

私生活を明かさない有名人に対して、TikTokスター/クリエイターは私生活の成功も失敗もありのままにシェアする。自分の中に秘めておきたい失恋さえも。だからこそ、ファン/オーディエンスは自分も心のATフィールドを中和して感情移入することができるし、彼ら・彼女らが発信する内容に影響されるわけだ。

象徴的なエピソードとして、アメリカで開催されるデジタル・コンテンツ・カンファレンスのVidCon(※1)では、2019年にひとつの異変が観察されたとTech Crunchの記事が伝えている(※2)。VidConではそれまでユーチューブ・クリエイターが注目されることが多かったが、2019年はTikTokのスターたちがその注目度において凌駕(りょうが)したという。

※1:人気YouTuber〈vlogbrothers〉が2010年に立ち上げたイベント。世界中のYouTuberが米カリフォルニア州に集結するオンライン動画の祭典。
※2:「誰もがインフルエンサーになりたい! Z世代のイベントVidConで感じたソーシャルメディアの未来」(2019年7月24日)

興味深い対比として、ユーチューブ・クリエイターは警備員に囲まれて有料の懇談会でファンと接触しているのに対して、TikToker(※)はもっと気さくで身近であり、外見にも多様性があるのだと。Z世代のアイコン、グラミー賞・歴代最年少受賞のビリー・アイリッシュに近いような人々こそがTikTokerなのだ。

※最近ではユーチューバーではなくユーチューブ・クリエイター、インスタグラマーではなくインスタグラム・クリエイターと呼称するようになっているので、TikTokerもTikTokクリエイターと呼ぶのが正しいが、本稿では便宜上TikTokerの呼称を使用する。

■インフルエンサーが「TikTokは他とは違う」と話す理由

金丸雄一氏が代表を務めるN.D.Promotionに所属する莉子さん(2002年12月生まれ)は、TikTokerとして著名だ。

莉子さん
莉子さん(写真提供=N.D.Promotion)

いまやTikTokの枠にとどまらない活躍をしていて、雑誌・Popteen専属モデルを務めるほか、ABEMAの恋愛リアリティショー(通称「レンリア」)「月とオオカミちゃんには騙されない」にも出演。2020年にはファストファッションブランドとして世界的に展開するH&Mの「H&M Divided」グローバルアンバサダーにも選ばれている。

さらには「好きな女性インフルエンサー」ランキング1位(2020年4月マイナビティーンズ調べ)、「JC・JK流行語大賞」2020年上半期ヒト部門2位(2020年6月JCJK調査隊調べ 株式会社AMF)に選出されるなど、TikTok内での人気が他のメディアでの露出や展開に波及していった。

筆者が莉子さんに話をうかがったインタビュー(2019年12月5日実施)の中では、TikTokについて下記のような印象的な言葉を聞くことができた。

・TikTokで動画を投稿したら、そのタイミングで自身のインスタグラムやツイッターで告知して見てもらうようにしている。ファンはどれだけ速く見られるかを競うように、その速さをコメントする傾向もあるほど(いいねの回数が1K=1000回に達する前にコメントできたら鼻高々など)。
・TikTokでは他のSNSに比べて新規の若いファンが付きやすい。
・TikTokで発信するメリットのひとつは、素のコメントがもらえること。良いものも悪いものも含めて。ストレートにポジティブなこともネガティブなことも言われるという意味で、リアリティがある。発信する側にとっては貴重な意見だと感じる。
・他のSNSに比べて、TikTokにはバズることの実感がある。自分はほぼ素人の状態から始めたのに、多くのファンに見てもらえる状態になった。他のSNSはフォロワー数などで差がついているとやる前から目に見えているところが多いが、TikTokは何が起こるか予想できないし、「希望が多い」。

■「持たざるもの」がスターになるための足掛かりに

最後の莉子さんのコメントにもあったように、TikTokは持たざるもの(スターター)に優しい性質を持つ。そしてここを起点にさまざまなSNSを使い分けるのが現代のインフルエンサー術だ。

莉子さんのようにツイッターやインスタグラムをTikTokへの動線としても活用することもできるし、TikTokを起点として新しいファンに知ってもらい、他のSNSやメディアへファンを誘導することもできる。

「詳しい情報はユーチューブを見てください」といったかたちで、あるいは変身メイクの早送りをTikTokで投稿し、詳しいメイクの解説はユーチューブに載せるといったかたちで、使い分けと誘導を行うケースも増えている。

多くの人に見てもらうためのレコメンドをAIが助けてくれる、スターターにとって優しいTikTokという場で、例えば「メイクの人」と認知してもらえれば、他のSNS上も含めて存在感を高めやすくなるのは間違いない。新しい才能やトレンド・ムーブメントが生まれてくる場なのだ。

■素人が日本一のフォロワー数を獲得した“ある工夫”

日本で最も多いフォロワー数を誇るTikTokerの「じゅんや@junya1gou」は、約4000万人のフォロワーがいる(2022年1月上旬時点)。

「じゅんや@junya1gou」のTikTokトップ画面
画像=「じゅんや@junya1gou」のTikTokトップ画面

日本国内のTikTokのMAUよりも多いのは、海外のフォロワーが多数いるからだ。元ZOZO社長の前澤友作氏がツイッターで約1100万フォロワー、タレントの渡辺直美氏がインスタグラムで約960万フォロワーであることを考えると(それぞれ2022年1月上旬時点)、その規模の大きさがわかる。

なぜじゅんやに多数の海外フォロワーがいるかといえば、それは非言語的な体を張った芸が持ち味だからだ――これは、電撃ネットワークが海外で人気になったのと近い現象だと言えるかもしれない。

言語の壁を突破できる技があれば、ショートムービーの世界では有利に戦うことができる。ユーチューブチャンネルの登録者数も伸びており、いまなお快進撃を続けている。それを証明するかのように、株式会社BitStarが発表する「インフルエンサーパワーランキング2020(チャンネル総再生数ランキング)」では、じゅんやが東海オンエアやフィッシャーズを抜いて第1位に輝いた。

じゅんやについてもうひとつ興味深いのが、プロフィール欄に「I will be King of TikTok!!!/TikTok王におれはなる!!!」と記載しているところ。

ツイッター王やインスタグラム王といった表現は見たことがないが、じゅんや以外にもTikTok王といった言い回しを使っているユーザーは存在する。持たざる状態から成りあがるといった上昇志向が非常に強くあらわれている。個人をどう魅力的に見せるか、プロモートするかの色合いが強く、友達同士のソーシャルネットワークではなく、あくまでもメディアの中でどう目立つかという特性があるためだろう。

■フォロワー数約1.3億人のチャーリー・ダミリオは年収20億円

アメリカでもこの熱は同様で、TikTokから数々のスターが生まれている。その筆頭に挙がるのが、フォロワー数約1.3億人と世界トップのチャーリー・ダミリオ。

天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)
天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)

TikTok上でのプロモーション案件に加えて、自らアパレルブランドを展開するなどしているが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると2021年の収入は1750万ドル(約19億9800万円)! 一方で、S&P500種指数構成企業のCEO報酬(2020年)は中央値で1340万ドルである。若年層がTikTokerになりたいと思うのも無理はない。

フォロワー数約2500万人で、19歳のジョシュ・リチャーズは、仲間とともに15億円を調達しベンチャーキャピタルファンドを立ち上げた。自分たちで稼いだお金でエンジェル投資をすることにとどまらず、ファンドマネーでスタートアップ企業に投資し、SNS戦略等とあわせて成長を支援していくという。

さらに強いのは数千万人いる自身のフォロワーに宣伝をすることもできる点だ。特有の上昇志向に乗っかるかたちで、TikTokerはキャピタリストになって経済を動かすほどのインパクトを持つ存在になっているのだ。

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天野 彬(あまの・あきら)
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層のメディア行動やSNSの動向に関する研究、執筆、コンサルティングを専門とする。著書に『シェアしたがる心理 SNSの情報環境を読み解く7つの視点』(宣伝会議)『SNS変遷史 「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)、共著に『情報メディア白書』(2016~2019年版、ダイヤモンド社)がある。

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(電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬)

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