「ちょうどいい、旅に出よう」シリコンバレーの住人が突然解雇されてもニコニコしている本当の理由
プレジデントオンライン / 2022年5月25日 12時15分
※本稿は、宮崎直子『鋼の自己肯定感 「最先端の研究結果×シリコンバレーの習慣」から開発された“二度と下がらない”方法』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■自己肯定感を上げるとは「自分を世界一の親友」にすること
日本でも「自己肯定感」という言葉が浸透し、自分が、そして子どもが、充実した幸せな人生を送れるようにするために、自己肯定感が大切らしいと多くの人が気づき始めている。
一方で、自己肯定感に関する本をどれだけ読んでも、一向に自己肯定感が高まらない、少しは上がったかと思えばまた元に戻ってしまう、結局どうすれば高まるのか、高い状態を保てるのか分からないという人も多いのではないだろうか?
私は、自己肯定感を次のように定義している。
「自己肯定感が高いとは、ありのままの自分を“無条件で”受け入れ愛している状態」
ここには、何かができるという気持ちである自己効力感や、誰かの役に立っているという自己有用感は、含めていない。
また、こうも定義できるだろう。
「自己肯定感とは、何があっても自分の味方でいること。つまり、自己肯定感を上げるとは、自分を世界一の親友にすること」
人生で一番長い時間を一緒に過ごす人は、紛れもなく自分自身だ。ゆえに自分は、最大の敵になることもできれば、最大の味方になることもできる。
もしあなたが、自分を世界一の親友にして、365日24時間幸せでワクワクドキドキした人生を歩みたいなら、一度高めれば二度と下がらない一生ものの「鋼の自己肯定感」を身につけるといいだろう。
そのヒントが、世界中から優秀な人材が集まってくるシリコンバレーにある。
■シリコンバレーで働く友人の8割はレイオフを経験
東京のとあるホテルで開かれていた従姉妹の結婚式に、当時の夫と出席していた時のこと。式の最中、テーブルについている私たちに向けて、見てはいけないものを盗み見するような、妙な視線が注がれているのに気がついた。
式が終わった後、親戚の一人が私に小声でこそっと、こう囁(ささや)く。
「旦那さん、思ったより元気だね」
この一言で、私が感じていた妙な視線の意味が分かった。
その結婚式の数カ月前、アメリカ人のエンジニアである元夫は、勤めていたシリコンバレーの会社からレイオフされていた。
レイオフというのは、日本語では一時解雇と訳されることもあるようだが、会社の業績が悪くなった時や会社の合併などに伴い、複数の社員を一斉に半永久的に解雇することだ。
レイオフはほとんどのシリコンバレーの会社では、なんの前触れもなく起こる。朝、会社に行ってみると、入り口にいつもはいない警備員が立っていて、レイオフされることになった社員には、「今日であなたたちの仕事は終わりだから、パソコンなど会社の持ち物は全て会社に置いて、自分の持ち物だけ持って帰ってください」と突然会社の幹部から告げられる。
極めて唐突な解雇方法だ。見慣れない警備員は、会社の持ち物を持ち帰らないように、やけを起こして会社のものを壊さないように、配置されているのだ。
こう書くと、「シリコンバレーってなんてシビアなところ……」と思われるかもしれないが、とはいえこれは日常茶飯事なのだ。シリコンバレーで働く私の友人の8割ぐらいが少なくとも1回はレイオフを経験している。元夫は2回、かくいう私も一度経験している。
私の場合は、勤めていた会社が買収され、買収元と被ってしまう人員、特に経理部門とマーケティング部門が引き継ぎに必要な一名ずつを残して全員即日解雇された。一緒に解雇された上司が、私を気遣ってか、
「直子、会社都合なんだし、直子の経歴には全く傷がつかないから、恥ずかしいと思うことないよ」
と優しく言ってくれたことを覚えている。実際私と一緒に解雇されたその上司や同僚もその後、起業したり、もっと大きな会社に採用されたりして、レイオフ後もなんら困ることなく、それどころか以前よりも成功している人が多い。
■解雇された。さあ旅に出よう!
シリコンバレーの住人の多くはレイオフされると、今までできなかったことができるちょうどいい機会だと考える。
「ちょうどいい。次の仕事を探す前に、旅行に出かけよう」
「ちょうどいい。学校に戻って、前から学びたかったことを勉強しよう」
「ちょうどいい。起業しよう」
というふうに。
元夫も私も、元夫が解雇されたことをこれっぽっちも気にしていなかった。
「ちょうど従姉妹の結婚式が日本であるから、ついでに日本の国内を旅行しよう」
と私たちは、むしろワクワクしながら旅行計画を立てて結婚式に参加していたのだ。
仕事があろうがなかろうが、自分は自分。自分の価値は1ミリも変わらない。旅行に行く。学校に行く。起業する。いろんなオプションがあって、それが当たり前。
いつも自分軸で考え、自分の心地よさ、そしてワークライフバランスを大切にしているシリコンバレーの住人は、仕事を突然失ったぐらいで、自己肯定感が下がるというようなことはない人が多い。「仕事=私の価値、私の存在意義」ではないのだ。
「仕事なんかいくらでも見つかる、必要であれば自分で会社を始めればいい」ぐらいに思っている。「仕事があるかないか」「どんな会社に勤めているか」など、いわゆる自分の「持ち物」以前に、自分を「存在レベル」で肯定できる。
こんなふうに、自己肯定感の高い人たちが多くいることが、シリコンバレーで次から次へと新しいサービスや製品が生み出されていく秘密の1つだ。
二度もレイオフされた元夫も、その後私と一緒に起業、会社売却、そして今では世界を代表するシリコンバレーの大企業で最先端の製品作りに取り組んでいる。
■幼少期からみんなの前で「自分をさらけ出す」ための教育
子どもたちを育てる中で、このような鋼の自己肯定感を育む環境が幼少期からあることを感じてきた。
娘がシリコンバレーにある保育園、そしてサンフランシスコの幼稚園、小学1年と、3年続けて毎年、学年が始まってすぐの9月頃に同じような宿題が出た。その名も「All about me」プロジェクト。
写真や絵、文字を使って、自分の家族、自分の好きなもの、習い事などを1つのポスターにし、クラスのみんなの前でそのポスターを見せながら、自分について語るというプロジェクトだ。
保育園児、幼稚園児が、写真を印刷したりすることはできないので、当然親も一緒に取り組むプロジェクトになる。娘はその当時好きだった絵本やおもちゃ、仲良しだった友達の写真を貼りたいと言う。
またお母さんは日本人、お父さんはアメリカ人だから、日本を表すものとアメリカを表すもの、そして家族の写真を貼りたいとも言う。当時習っていた水泳や体操の写真も貼った。
その頃好きだった色で枠を書いたり、お花を描いたりもした。出来上がったポスターは、幼かった娘の身長ぐらいの幅のかなり大きなものになった。
こんな手作りのポスターを子どもたち一人一人が嬉しそうに学校に持ってきて、みんな得意げに、クラスメートの前で自分のことを話す。そして拍手してもらう。
娘が通った幼稚園と小学校はLGBTQ(性的少数者の総称の1つ)に寛容的なサンフランシスコにあったので、当然、お母さんが二人の家族、両親が離婚している家族、シングルペアレントの家族、おばあちゃんに育てられている家族など、様々な形態があるのだけれど、それも隠すことなく、ポスターにして発表する。
■自分のアイデンティティを隠すことは自己否定につながる
スティーブ・ジョブズの後継者、アップルの現CEOティム・クックは、自分がゲイであることを公表するに際し、こう述べている。
「自分はゲイであることを誇りに思っている。ゲイでも大丈夫ということを子どもたちにも伝えたかった」
そしてスティーブ・ジョブズ自身は、自分が養子であることを公表していた。
自分がゲイかどうか、養子かどうか、それは自分のアイデンティティの根幹に関わること。それを隠すことは、批判を恐れてありのままの自分を隠すこと、つまり自己否定に繋がる。
シリコンバレーでは、子どもの頃からありのままの自分を堂々と公表する場が与えられている。それどころか奨励されている。
「All about me」の他にも、「Show and tell」というプロジェクトがある。これは先生が指定したテーマに合ったものを学校に持ってきてみんなに見せながら、それが何か、どこが素晴らしいのかなどを説明する時間。好きなおもちゃを持ってくる、好きな本を持ってくる。そしてみんなの前で、そのおもちゃや本のどこがすごいか、なぜ好きなのかなどを話す。さらに、お気に入りのパジャマのまま学校に行っていい、パジャマデーなどもある。
■自分のワクワクドキドキ、パッションを最優先する
このようにシリコンバレーでは、自分が好きなもの、嫌いなもの、自分がどう考えているか、自分の家族の形態など、ありのままの自分をみんなの前で堂々とさらけ出すことが保育園の時から奨励されている。
「私は、これが好き!」「私はこういう人なの」
ということをみんなの前で堂々と話す訓練をしている。
そんなプロジェクトを繰り返すことで、「みんなと同じでなくても構わない」「違っていても大丈夫。いや、違っていて当たり前」「私らしさを全面に出して大丈夫」という安心感、つまり鋼の自己肯定感が育っていく。
もちろん、シリコンバレーと日本の環境は違う。だが、自分を大切にし、自分のワクワクドキドキ、パッションを最優先して心から人生を楽しみながら成功をつかむということを日本の方々よりも一足お先に実践してきたシリコンバレーの住人から、私たちが得られるヒントは多いだろう。
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ライフコーチ
シリコンバレー在住&勤務歴22年。アラン・コーエン氏のもとでホリスティックライフコーチのトレーニングを受けた認定ライフコーチ。津田塾大学英文学科卒業後、イリノイ大学で日本語教授法や言語学を学んで修士号を取得。日本で米国のコンピュータ関連会社に勤めた後、再び渡米。IT企業でマーケティング職に携わる。ソフトウエア、アパレル会社などを起業。法律事務所勤務、プロの通訳、翻訳者としての経験も持つ。
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(ライフコーチ 宮崎 直子)
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