本やテレビの内容が頭に入ってこない…できていたことができなくなる「パンク寸前」状態から抜け出すには
プレジデントオンライン / 2022年5月27日 15時15分
■頑張り屋さんの落とし穴「努力」のさじ加減
日本人の多くは頑張りすぎです。精神科の医師として日々感じていることです。「私は大したことのない人間です」「ほかの人は普通にできていることが、自分にはできないんです」。そう口にする人は多いですが、本当にそうでしょうか。もう十分に頑張りすぎているのではないでしょうか。
高すぎる目標設定、自他ともに認める努力家、弱音を吐かない気骨……、そんな「頑張り屋さん」は、実は要注意なのです。
日本の自殺率はG7中トップで、長時間労働や過労死も多いです。いわゆる過労死ラインは、平均残業時間が月80時間です(死亡前の2〜6カ月間)が、ならばそれ以下なら心身ともに健康に働き続けられるかというと、必ずしもそうではありません。
職場環境や人間関係、生来の体力や気質もあるでしょう。時短で働く人の場合は、労働時間外に、子どもの送迎や家事・育児に忙殺されたり、自宅で介護に従事しているかもしれないのです。
人生にはさまざまなライフステージがあり、「頑張りどき」もあるでしょうが、「頑張りすぎ」は禁物です。
人間は機械ではありません。風邪もひくし、怪我もするでしょう。でも、怪我をすれば病院に行く人も、なぜか心が不調なときは「怠慢」と思い込み、「努力」で乗り切ろうとしてしまう。
「まだ大丈夫」「まだ頑張れる」と耐え続けた結果、ある日プツンと緊張の糸が切れてしまうのが一番怖いです。
私は産業医としても働いていますが、心身ともに不調なまま働き続けるより、1度しっかり休んでから職場復帰したほうが、その後のパフォーマンスが向上するという報告もあります。
必要とあれば躊躇せずに診療科を受診してください。メンタル不調は決して「怠慢」でも「心が弱い」証拠でもありません。
では、実際に「頑張りすぎ」のサインにはどのようなものがあるでしょうか。わかりやすいところでは、不眠・食欲不振・腹痛・めまい・手の震え・円形脱毛症などです。
目に見えないタイプもあります。「頭の回転が遅くなった」「職場でミスを多発するようになった」「最近、無性にイライラする」「本やテレビの内容が頭に入ってこない」など、「以前は簡単にできていたのに、できなくなった」ことがあれば、立ち止まるサインかもしれません。
さらに気づきにくい症状としては、「風呂に入れない」「料理ができない」「片付けられない」などもあります。 これらは「だらしなくなった」のではなく、思考過程の障害や思考制止により遂行が妨げられている可能性もあります。
例えば料理1つとっても、意外に多様なタスク遂行能力が求められます。何を食べたいかを考え、献立を決め、人数分の食材を買い出し、食材を切り、炒め、盛り付ける……。目的の計画・遂行・実現のための「遂行機能」も含め、メンタル不調で脳の活動が低下した結果、「最近あの人ボーッとしてるね」「だらしなくなったね」と、周囲からは思われることもあるのです。
もちろん、一時的な疲れの場合もありますが、週末や休暇を経てもなお、「疲れが取れずやる気が出ない」「どうしても会社に行きたくない」のは、「頑張りすぎ」のサインかもしれません。
■メンタル不調になりがち「思考の癖」を見極める
心や体に不調が出る原因は何でしょう。周囲の環境以外に、本人の「気質」や「考え方」も無視できません。
「頑張りすぎ」な人に共通する思考として、「べき思考」が挙げられます。「もっと〜すべき」「常識では〜すべき」など、物事に厳格なルールや、達成すべき基準が存在し、自他ともに厳しく課すタイプは責任感が強く、行動力もある半面、「もっと頑張れるはず」と無理しがちです。
「白黒思考」、いわゆる二極思考も注意が必要です。物事すべてを「0か100か」で考えてしまう人は、「この同僚は敵か味方か」「プロジェクトは成功か失敗か」のどちらかに偏りがちです。レポートの一カ所を、上司から改善指摘されただけで、すべてが落第だったと落ち込んでしまう人は、もう少し気楽に構えてみてください。
■「自己受容」、言い換えれば「セルフラブ」の姿勢
物事を悲観的に捉えがちの人も同様です。アメリカの精神科医アーロン・ベックは、うつ病になりやすい3つの要素を挙げました。「自己への否定的評価」「世の中を過度な要求をするものとして捉える傾向」「将来を苦痛と失敗で見通す傾向」です。
仮に同じ出来事を体験した2人がいたとしても、その出来事をどう解釈し、意味づけをするかは、それぞれの「認知」の仕方で大きく分かれます。
例えば、自転車横転で怪我をした際、「なんて不運なんだ」と嘆くか、「この程度で済んでよかった」と感謝するかで、人生の捉え方は変化します。「出来事」に対してどういう意味づけをするタイプか、自分の「認知」の仕方を見返してみるといいでしょう。
私がぜひともお勧めしたいのは、「自己受容」、言い換えれば「セルフラブ」の姿勢です。「これができる・あれもできる自分」を肯定するという意味での自己肯定感ではなく、あるがままの自分を受け入れる人生観です。
自己管理とは、常に体調を崩さないよう心身を鍛えることではありません。心や体が不調になったときに、早めに気づいて対処できることなのです。今自分がどれくらいしんどいのか、今週は何時間残業してどれくらいしんどかったのか、これが何カ月まで続くのなら耐えられそうか、残業時間を何割減らせば継続できそうか……ここを越えたらさすがに無理というラインはどこなのかなどのセルフマネジメントノートを作っておくのもいいです。「今は気分が楽だな」「最近、ちょっとしんどいな」、そんな心の声に、どうか耳を傾けてみてください。
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精神科専門医
医療法人宝会七宝病院副院長。幼少期に川崎病に罹患した経験を持つ。産業医、医療刑務所での診察の傍ら、テレビ番組への出演も多数。近著に『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本』(幻冬舎)。
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(精神科専門医 藤野 智哉 構成=三浦愛美)
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