何から何までヒトラーそっくり…プーチン大統領がロシアを破滅に追いやる戦争を続ける本当の理由
プレジデントオンライン / 2022年6月2日 10時15分
※本稿は、黒井文太郎『プーチンの正体』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■プーチンもナチスも侵攻の口実は「同胞を守るため」
プーチンの人生を振り返ってきて明らかなのは、彼は「ヒトラーと似ている」ということだ。
プーチンはウクライナを攻撃する際、「ウクライナ政府はネオナチ」としばしば表現する。そして「ネオナチによる弾圧からロシア系住民を保護しなければならない」と言って、ウクライナを攻撃する。これは最近思いついたものではなく、2014年のクリミア侵攻の時からずっと言い続けている。
しかし、実際にプーチンがやっていることこそナチスと驚くほど似ている。とくにその類似性が指摘されたのが、「同胞を守るため」という侵攻の口実だ。
■ロシア統治そのものがナチスの手法の再現といえる
プーチンは2022年2月24日、侵攻開始にあたって「ウクライナ東部のロシア系住民を守るために特別軍事作戦を命じた」とした。それに先立って、同年2月21日にウクライナ東部のロシア軍の配下の親ロシア派民兵が支配している自称国家の独立をロシア政府が公式に承認し、その自称国家政府にロシアによる軍事介入を要請させた。ロシアだけが認める「正式な政府からの要請による出兵」というわけだ。
この「同胞を守る」との口実で他国を侵略する手法は、かつてヒトラーも、欧州侵略を始めた頃の1938年に実行している。チェコスロバキア(当時)のズデーテン地方に住むドイツ系住民の自治運動を扇動し、域内のドイツ系住民を保護するとの名目で同地域を併合し、その勢いでチェコスロバキア全体を制圧したのだ。
それだけではない。実はその他にも、プーチンのロシア統治そのものがナチスの手法の再現といっていい。前述したように、カギとなるのは「民族主義・愛国主義の扇動」と「メディア支配による国民洗脳」だ。
■「悪いのは外国だ」「敵は欧米だ」と主張し支持を獲得
まずヒトラーもプーチンも、その独裁権力を獲得した手法として、生活に困窮している国民に民族主義・愛国主義を扇動したという共通項がある。
1918年に終結した第一次世界大戦の敗戦国だったドイツは、当時の国民総所得の2.5倍もの莫大な賠償金支払いで国民の生活は困窮しており、さらに1929年に始まった世界恐慌の追い打ちによって大量の失業者で溢れていた。そんな社会情勢で、「悪いのは外国だ」としてドイツ民族の復権を主張したことで、一気に人気政治家になったのがヒトラーだった。
プーチンの場合も同様だ。彼は最初に政治的実権を握った時から、「ロシア人VSそれ以外」という対立構図で強硬な姿勢を鮮明にしており、ロシア民族主義を前面に押し出して国民を誘導していた。
最初の標的は「チェチェン人」で、次の標的が新興財閥「オリガルヒ」だった。旧KGBの権限を強化し、ロシアの国家資産を私物化して海外で富を築いていたオリガルヒを次々と弾圧。この時もオリガルヒに反感を募らせていた多くのロシア国民が拍手した。プーチンはそんな国民に対し、「悪いのは西側だ」と扇動した。つまり今度は「敵は欧米だ」というわけである。
■権力掌握後は独裁者となる流れまでヒトラーのコピー
プーチンは2005年4月の連邦議会で「ソ連の崩壊は、20世紀最大の地政学的惨事である」と演説した。プーチンの言う惨事とは、社会主義の崩壊ではなく、大国ロシアの崩壊という意味だ。この「大国ロシアの復活を」と「悪いのは西側(とくに米国)だ」というキャッチーな言葉は、とくに90年代に苦難の時代を経験した層に広く受け入れられ、国内世論でプーチンの人気は高まり、盤石の支持が維持された。
その後、2014年のクリミア侵攻・併合ではロシア政府が喧伝した「ウクライナのネオナチ勢力に弾圧されていたロシア系住民を救った」という作り話が浸透し、プーチンの人気は絶頂を極めた。そして、プーチンは前述したように、国内で愛国主義を扇動し、しかも国の制度に取り入れている。これもナチスと同様だ。
疲弊した国民に民族主義・愛国主義を扇動し、「悪いことは全部、他国のせいだ」として非難することで国民的人気を集める。そして、人気を集めて権力を握った後は独裁者となり、反対・批判する者を弾圧する。その手口の流れまでヒトラーのコピーと言っていいだろう。
■国内メディアを利用して国民の洗脳に励む
メディア支配による巧みな国民洗脳の手法も同じだ。かつてナチス政権は、ヨーゼフ・ゲッベルス国民啓蒙・宣伝大臣を中心に徹底したメディア統制を行い、ヒトラー崇拝をドイツ国民の隅々までいき渡らせた。
プーチンも同じようなメディアを利用した宣伝を、権力者となったと同時に始めている。彼の場合、ナチスを参考にしたというより、旧ソ連で思想統制を行っていたKGBの手法を復活させたということだろうが、結果的に「やったことはナチスと同じ」だ。
こうして国内のメディアをほぼ掌握したプーチン政権は、ロシア民族主義・愛国主義の宣伝を強力に進め、国民の洗脳に励んだ。とくにテレビに情報源を頼る地方在住の中高年層は、プーチン政権が流す創作された「物語」(悪いのは米国だ、など)だけを目にすることになった。
また、国内法的にも情報統制を進め、現在では国家の権威、すなわちプーチンそのものを侮辱することも違法になっている。これもナチスと同じく「独裁者崇拝」の再現だ。
■プーチンの思想が顕著に分かる「誤配信」問題
プーチンの思想もナチスに酷似している。その一例として、ウクライナ侵攻の2日後に起きた、国営通信社による記事の「誤配信」を紹介したい。
これは「ロシアによる進撃と新たな世界の始まり」と題した記事で、以下のようにウクライナ侵攻の“成功”を祝福する内容だった。
「ロシアは歴史的な完全性を取り戻しつつある」
「反ロシアのウクライナはもう存在しない。ウクライナはロシアの手に戻ってきた」
「プーチン大統領はウクライナ問題の解決を後世に残さないと決定することで、歴史的な責任を引き受けた」
これは当初、ロシア軍が数日で首都キーウを制圧する計画だったため、そのタイミングで出す予定だったようだが、実際にはウクライナ軍の抵抗により首都陥落はなかった。ところが予定稿が誤ってそのまま配信され、慌てて削除したが、それがネットで出回ったのだ。
■プーチンが目指すのは「大いなるロシア」の復活
文中では、とにかくロシアとベラルーシにウクライナを合わせた、“大いなるロシアの復活”が謳われている。これは当然、プーチンの考えを代弁して褒め称えるための記事だが、それを読むと、プーチンが2021年12月に言い出した「NATO拡大を防ぐ」といった要求も実は些細なことだったことがわかる。
プーチンは「復活する大いなるロシア」がこれからは「欧米」と対抗するというのである。これはそのまま「大いなるロシア」を「ドイツ」と置き換えれば、まさにナチスそのものだろう。
このように「やり口」が酷似している二人だが、共通しているのは、悪い意味で「戦略家」だということだ。そして、「今ならやれる」と判断したことに躊躇はない。
さらに問題なのは、プーチンもヒトラーと同じく、きわめて悪い意味で「信念の人」だということである。つまり、自分の思うとおりに事態が進まなかったとしても、途中で「降りる」ということが期待できないのだ。
常にナチスを敵視し、ウクライナ政府を「ネオナチ」と罵ってきたプーチン。しかしその独裁者然とした姿に、ヒトラーを見ずにはいられない。
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軍事ジャーナリスト
1963年生まれ。横浜市立大学卒業。週刊誌編集者、フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(特にイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。著書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)、『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』(以上、講談社)、『インテリジェンスの極意!』(宝島社)、『本当はすごかった大日本帝国の諜報機関』(扶桑社)他多数。近著に『プーチンの正体』(宝島社新書)がある。
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(軍事ジャーナリスト 黒井 文太郎)
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