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「3人の子の養育費は計約2000万円」元妻の言い値で払い続ける、職場不倫男の"身から出た錆"

プレジデントオンライン / 2022年5月28日 11時30分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kemalbas

部下と5年間浮気していたアラフォー管理職の夫。いったん不倫相手にそでにされたが、再びよりを戻した。とっくの昔に愛想を尽かしていた妻は、3人の子供を連れて家を出、段取り通り、弁護士を立てて正式に離婚。不倫相手から200万円の慰謝料を得、元夫にも3人の子供の養育費を請求。元夫が妻の「言い値」を承諾した理由とは――。
【前編あらすじ】山陰地方在住の辻川結衣さん(仮名・40代)は、大学4年の頃、出会い系サイトで知り合った1歳年上の男性と結婚。夫は明るく社交的な性格で、誰もがよく知る重工業系メーカー勤務。多忙な生活を送っていた。2人の子供に恵まれ、幸せに暮らしていた辻川さんだったが、3人めの子供となる長女を妊娠した頃から、夫に違和感を覚え始める。辻川さん37歳、夫38歳、長男10歳、次男6歳、長女4歳になっていたある日、辻川さんは夫の不倫動画を発見。辻川さんが問い詰めるも、夫は1回きりだと言い張る。2人は話し合い、夫婦関係を再構築することにしたが……。なぜタブーは生じたのか。タブーのはびこる「家庭」という密室から、どのようにして抜け出すことができたのだろうか(本稿までの詳しい経緯を前編で読む)。

■手のひら返し

2019年9月、子供たちの夏休みが終わった頃、山陰地方在住の辻川結衣さん(仮名・40代)は転機を迎える。

職場の部下と不倫していたことが発覚した辻川さんの夫だが、5年にも及ぶその関係が、ついに終焉を迎えたのだ。どうやら夫の「妻とは離婚する」という口約束が果たされないことにしびれを切らした相手の女性は、別に彼氏を作ったらしい。

夫は、手のひらを返したように、辻川さんに擦り寄り、優しくなる。辻川さんは、どんどん気持ちが冷めていくのを感じた。

「不倫が露呈しても、不倫女に裏切られても、夫は常に相手の女性をかばいました。そんな夫を私は許すことができず、家にいる間は夫を責めて責めて追い詰めて、『もう許してくれ!』と泣いて謝ってきても、心の中で『世界で一番愛してるのは不倫女なんでしょう!』『だから私とはいまだにセックスレスなんだ!』と悪態をつき、とにかく夫にぎゃふんと言わせたい気持ちと、私の元に戻ってきてほしい気持ちが交錯していました」

たまらず夫は、「もういい加減にしてくれ!」「もう疲れた。バカみたいだ!」と叫んだが、そう叫びたいのは辻川さんのほうだった。なぜなら夫が不倫相手に未練があり、今もたびたびLINEを送っていることを知っていたからだ。そんな夫と一緒に暮らしている自分自身にも、「バカみたい」と嫌気がさしていた。

■離婚準備

不倫が発覚した後から、辻川さんは不眠に悩み、心療内科に通院。うつ病と診断され、抗うつ薬を処方された。

相談した既婚の友人たちからは、「子供たちのためにも、離婚は踏みとどまったほうがいい」と言われ、辻川さんは、「離婚をするとしても、一番下の子(当時4歳)が小学校に入学したら」と考えていた。

だが、離婚について調べるうち、不倫相手への慰謝料の請求に3年の有効期限があるということを知ると、「3年の間にしっかりと経済的に自立をし、自分の気持にもケリをつけよう」と決断。収入を増やすために転職活動や、子供を連れて家を出るための引っ越し先探しを始めた。

疲れ切った夫婦関係
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

不倫発覚から2年が経とうとしていた2021年4月のある夜、夫からLINEが届く。

「離婚してほしい」

夫からのLINEは翌朝には取り消されていたが、辻川さんはこれで心を決めた。

7月になると辻川さんは、夫のいない平日の昼間に、子供たちを連れて家を出た。辻川さんは、約半年の間に、新しい仕事を決め、引っ越し先を探し、弁護士に依頼。離婚に向けて着々と準備をしてきたのだ。

夫にかわいがってもらった記憶が濃く残る12歳の長男は、少し寂しそうな様子だったが、おおむね子供たちは引っ越しに賛成。ここ数年、DVをする父親のせいで母親がおびえたり、イライラしたりすることが多くなっていたことはわかっていたため、父親と離れられることをとても喜んだ。

家を出た日の夜、夫からは電話もLINEもなかった。

■離婚成立

2021年9月、辻川さんは夫との離婚が成立した。

家を出てすぐ、辻川さんは不倫相手に慰謝料を請求。しかし、夫と不倫相手は、約1カ月もの間、それを無視し続けた。そこで辻川さんは、弁護士に間に入ってもらう。すると嘘のように話がサクサク進み、夫と不倫相手は慰謝料(200万円)ばかりか、あてにしてなかった婚姻費用(家を出てから離婚が決まるまでの期間の生活費)まできっちり払ってきた。

封筒に入った1万円札
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

夫は、離婚が成立したタイミングで不倫相手を家に呼び寄せ、一緒に暮らし始めた。不倫相手の女性は、どうやら新しい彼氏に捨てられ、少し前から夫に復縁を迫っていたらしい。辻川さんに夫が「離婚してほしい」とLINEを送ってきたのも、不倫相手とヨリを戻したためだった。

「元夫と不倫女は、今、私と子供たちが出ていった家で暮らしています。子供たちがつけた傷、子供たちの身長を測った柱、私たちが暮らしていた形跡が数多く残る家で、平然と暮らせる神経が理解できません」

元夫が昨秋から払っている3人の子供たちの養育費は一人あたり月5万5000円。元夫は、勤め先に不倫がバレるのを恐れるあまり、ほぼ辻川さんの言い値で養育費を払い続けている。元夫はこれとは別に、自宅マンションの住宅ローン返済もあるため、月20数万円を“天引き”されているに等しい。

「元夫は、残業代の出ない管理職。貯金もなく、扶養家族がいなくなったら控除もありません。おそらく養育費と住宅ローンを払ったら、毎月の給料も光熱費分と少しくらいの額しか手元に残らないため、不倫女に養ってもらっている状態だと思います」

■子供が増えるにつれて欠けていったもの

「夫が不倫をしているかもしれない」と疑い始めた頃、辻川さんは、「この人がいなくなったら私はどうしたらいい? 子供たちはどうなるの? 1人で生きていけない!」と連日連夜、泣いて過ごした。パート収入はあったが、経済的自立はできない。捨てられたら路頭に迷う。不眠に悩み、心療内科に通院したが、今はもう、それが夢だったかのように思えるという。

「あんなに眠れなかったのは、私が右も左も分からない弱者だったからでしょうか。長女(3人目)を産んでから、元夫の態度に違和感を覚えるようになりましたが、その頃はちょうど元夫が責任のある役職に就いたタイミングだったため、仕事のストレスのせいだと思っていました。元夫は私のことを溺愛していると思って油断していました。結婚して子供ができて、少しずつ少しずつ、何かが欠けていっていたのです。気付いていたのに、気が付かないフリをしていました。子供がまだ小さかったから、私は夫どころではなかったのです」

子供は夫婦2人のものだ。妊娠中は、父親が育児に関わるのは難しいかもしれないが、出産後は、夫婦で力を合わせて育児をしていくべきだろう。辻川さんはまるで、「自分が子育てにかまけていたから、夫が不倫をした」と自分を責めているようだが、それはおかしい。生まれたばかりの赤子は、親が世話をしてくれなければ生きていくことができないのだから、父親が世話をしてくれないなら、その分、母親が世話をするしかない。それが1人ではなく、3人もいたのだ。“夫どころで”なくなるのは当然のことかもしれない。

離婚後に知ったことだが、元夫の職場は、水・金曜日は定時帰宅日だった。定時に職場を出れば、19時には家に着けるはず。だが元夫は、辻川さんが長女を妊娠中、つわりがつらくて家事育児ができないときも、頻回の授乳で寝られず「しんどいから助けて」とヘルプを出したときも、一切無視してホテルで不倫していた。

コピーを取っている女性に手を重ねる男性
写真=iStock.com/Tony Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tony Studio

土日に出張だと言って不在にしていたときも、接待飲み会だと言って帰宅が朝になったときも、すべて不倫相手と会っていた。会社仲間とのキャンプも、不倫相手とのキャンプ。海外出張も、不倫相手との海外旅行だった。

その間辻川さんは、夫を信じようと努力し、笑顔で仕事に送り出していた。子供の学校行事やピアノの発表会に一人で参加し、休日はみかん狩りやキッザニアなどに一人で連れて行った。

■タブーは家族を苦しめる

筆者は、家庭にタブー(何となく触れられないこと、口に出せないこと)が生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。

辻川家の場合、タブーが生まれたのは、夫の不倫が始まった頃だろう。仕事を理由にしているとはいえ、家事・育児に非協力的で、子供に無関心な夫。学校行事や子供向けイベントに毎回一人で参加することに、肩身の狭さを感じない人は少ない。周囲から向けられる目に対する恥ずかしさや孤立感を感じることはもちろん、子供たちに対しても、辻川さんは親として、情けなさや申し訳ない気持ちを抱かずにはいられなかったのではないだろうか。

発言するのに緊張する女性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

夫はたまに家にいても、妻とろくに話さず、家の中で夫婦は断絶。夫は職場に不倫がバレるのを極端に恐れていたようだが、辻川さんいわく、「上司と部下の社内不倫なので、本人たちは隠しているつもりでも、周囲にはバレバレだったようです。みなさん大人なので、触れずにいてくれているだけ」とのこと。おそらく知らないのは本人たちのみ。夫と相手の女性は、社内で孤立していたのだ。

そして、不倫という“罪”を犯した夫と相手の女性は、短絡的思考の持ち主だと言える。辻川さんもこう話す。

「不倫をしてしまう人って、本人たちは人生を謳歌しているつもりかもしれませんが、物事をしっかり考えたり、長期的な視点が持てなかったり、自分に甘く、責任感がない人、気の毒な人なのかもしれません」

辻川さんは、夫の不倫発覚後、「不倫をした」夫のことだけでなく、「夫に不倫された」自分を恥じた。しかしそれを隠すことはせず、親しい友人や両親、姉妹などに相談。両親は、「離婚後はどうやって生活していくのか?」と心配していたが、元夫の散財ぶりを知ると、離婚に賛成。義両親は、最初は辻川さんを責めたが、しばらくした後は落ち着き、今は辻川さんや孫たちの幸せを祈ってくれている。

「離れたら、驚くほど心が穏やかになりました。そして、私は自由なんだって思えました。『愛されていないのだ』と絶望して泣かなくてすむし、威嚇を受けたり心や体を傷付けられたりする心配もなくなり、安心して生活ができることがどれだけ幸せなことか思い知りました。でも、3人の子供のためには、完全に縁を切るわけにはきません。子供たちには、『父親は今でもあなたたちのことを気にかけている』と伝えなければならず、連絡を取り続けなくてはならない。それだけで私は頭痛がひどくなり、夜寝られなくなり、アルコールの量が増えます」

■養育費支払いは「20歳まで」その合計は1980万円

離婚して半年が過ぎた現在も、辻川さんは時々フラッシュバックに苦しむ。

「私が不倫相手に慰謝料の請求をしたのは、やはり気持ちに区切りをつけないと、前に進めないと思ったからです。不倫が発覚してから離婚が成立するまでの間、とても苦しんだだけでなく、夫との家庭も失いました。それなのに、不倫相手は何も失わず、のうのうと生きている。それがどうしても許せなかった。でもときどき自分がとんでもなく残酷な人間なのではないかと思うときがあります」

家庭を守ろうと一人で奮闘してきた辻川さんの大切な家庭を壊し、まだ幼い子供たちから家庭を奪うという、人として間違った「残酷なこと」をしているのは、紛れもなく不倫をした元夫と女性のほうだ。

窓際に座る孤独な女性
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

離婚後まもなく、長男と長女がコロナを発症。辻川さんは念のため元夫に伝えたが、元夫からは「大丈夫か?」の一言もなかった。

「私は悪いことをしていないにもかかわらず、不倫されたほうが不利な状況で離婚させられ、子供たちを守る側に立たされ、社会の弱者として生きていくことを強いられました。でも私は、養育費をもらえているだけマシなほうです。日本の養育費制度は、踏み倒しても罰せられない甘々な制度です。離婚して半年、今のところ元夫は支払い続けてくれていますが、最後まで払い切るまでは安心できませんし、私は絶対に元夫と不倫女の監視をやめるつもりはありません」

引っ越しはしたものの、辻川さんは子供たちが転校しなくてすむよう、以前と同じ学区内に住んでいる。また、養育費は3人の子供が20歳まで支払う取り決めになっており、合計約2000万円だが、大学に進めば22歳まで学費がかかるうえ、私立なら月5万5000円では充分とは言えない。

辻川さんのみならず、夫の不倫によって離婚に至った妻は、タブーのはびこる家庭から抜け出した後も、不安に苛まれ続けている。中でも経済的な不安は最大のものだ。

結婚・出産後、家事・育児を中心的に担わされることの多い女性は、仕事から離れたり、セーブしたりすることを余儀なくされる。一度仕事の第一線から離れると、なかなか戻ることは難しく、収入面で離婚を躊躇する女性が少なくない。現在、辻川さんは派遣社員(事務)の仕事で必死に稼ぎ、家事育児に邁進している。

もちろん、長く連れ添い、信頼していた夫の裏切りによる傷が癒えるのも、長い時間がかかるだろう。せめて経済的な不安だけでも軽くなるよう、養育費支払いの義務化を願わずにはいられない。経済的な不安が解消されることは、不倫された女性が、「元夫と相手の女性への執着から解かれること=タブーから解き放たれること」にもつながるのだから。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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