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70歳で「廃人」になる…身体能力が衰えた高齢男性を襲う「会社ロス」「親の介護」というダブルパンチ

プレジデントオンライン / 2022年5月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mbaysan

超長寿化が進む日本。精神科医の和田秀樹さんは「60代後半から70代にかけての期間は、親や配偶者の介護や親しい人との死別、働き慣れた職場を離れるなど、さまざまな困難に直面する。介護を生きがいにする人が多いがそれは危険だ」という――。

※本稿は、和田秀樹『70代が老化の分かれ道』(詩想社新書)の一部を再編集したものです。

■定年後の喪失感をどう克服するか

現在の60代後半から70代にかけての期間は、人生のなかでもいくつもの困難に直面する時期になったと私は思います。

親や配偶者の介護や親しい人との死別、働き慣れた職場を離れるなど、超長寿化が進むなかで、70代は新たな人生の節目となってきたと言えます。

若いときであれば、そうした人生の重大事も乗り越えていくことが比較的たやすいのですが、心身の機能が衰えてきた70代にとっては、かなりの負担になることもあります。

どうやってこれらの「70代の危機」を乗り越えて生きていけばいいのか、ここでは精神科医の立場から述べられればと考えています。まず、定年退職について考えてみたいと思います。

これまで勤めてきた会社の定年を迎えるということは、人生の大きな節目と言っていいでしょう。特に男性にとっては、人生=仕事のような生き方をしていた人も多く、ここから新しい自分の人生をどうつくっていくか戸惑う人も当然います。

勤めていた期間が長ければ長いほど、ある種の喪失感を覚えて、ふさぎ込んでしまう人もいます。

もしそれが、職場を離れたことで仲間を失ったという喪失感なら、また、同期で集まったりする機会を定期的につくってみましょう。昔の仲間と飲んだり、ゴルフをすれば、気分も晴れるはずです。もはや退職しているわけですから、気の合う仲間とだけ交友を楽しめばいいのです。

問題なのは、会社を辞めたことで、自分の人生や自分自身を失ってしまったかのように感じている場合です。そのような人は、「会社に勤めていたときの自分が本当の自分であった」、と考えていることが往々にしてあります。しかし、そういった考えは、錯覚にすぎません。

勤めているときは部長だった、専務だったと以前の肩書に辞めてからもいつまでも執着している人は、こういった錯覚をしがちです。肩書がなくなったことで、本来の自分ではなくなったような寂しさを感じるのです。しかし、肩書や属性はうわべの部分であって、あなたという人間の本質には関係ありません。

たとえば部長のときは親しくつき合っていた人が、自分が会社を辞めたとたん対応が悪くなったとしたら、その人はあなたの肩書を見てつき合っていただけなのです。そんな人間関係が、うれしいでしょうか。

やはり、自分という人間性を認めてくれて、親しくつき合える人こそ、親友と呼べるのは当然のことです。

私たちが大切にしているのは、その本質の部分であって、肩書などではありません。会社を辞めて、「ただの人」になったと落胆することはないのです。むしろ、肩書から自由になることで、まわりもあなたを本質の部分で評価しますし、あなたもありのままの自分を認めてくれる本当の人間関係をつくるチャンスが増えると考えることもできます。

また、仕事をしていたときの自分は能力を発揮していたし、輝いていたと思う人もいるでしょう。それに比べ、いまの自分はたいしたこともやっていないとがっかりするかもしれません。しかし、会社を辞めたいまでも、これまで仕事をがんばってきた経験やそこで得た能力、知恵などは、いまもあなたのなかにあるのです。

本質の部分は、会社を辞めたからといって、何も変わりません。がっかりなどせず、いまもあなたがもっている能力や経験を、次の仕事や社会のために役立てることを考えてください。

退職を契機に落ち込み、活動レベルが一気に落ちることは、老化を加速させる大きなリスクです。そのためにも、いつまでもふさぎ込んでいるのではなく、新たな仕事やボランティア、趣味の活動などを始めることをお勧めします。

■介護を生きがいにしない

70代になれば、家族の介護に直面する人も増えてきます。これまでも配偶者を介護することは70代にはよくありましたが、いまでは、70代の子が90代の親を介護するということも増えています。

和田秀樹『70代が老化の分かれ道』(詩想社新書)
和田秀樹『70代が老化の分かれ道』(詩想社新書)

介護にかかわる際に、ぜひ、気をつけていただきたい点が1つあります。それは、介護を「生きがい」にしないという点です。

70代になって退職し、次の仕事や趣味などもなく、これといって毎日やることがなくなった人に限って、介護を次の生きがいにしてしまう人がいます。

時間はとにかく自由になりますから、一生懸命、介護に取り組むことができます。すると、自分は相手の役に立っているという満足感は得られますし、介護される人から感謝されることもありますので、いっそう介護にのめり込んでいくのです。

しかしこういった介護へのかかわり方は、その人の晩年を駄目にしてしまう可能性が高いのです。介護される人も、介護してくれる家族が自分の介護で不幸になることを望んではいないはずです。

なぜ、介護にのめり込むと、その人の晩年が駄目になってしまうのでしょうか。

まず、介護とは、嫌な言い方をすれば、「時間つぶし」には最適だということがあります。やろうと思えば、あっという間に丸一日、それだけでつぶれます。そうなると、自分のための時間はまったくとれなくなります。

介護は3年続くのか、5年続くのか、それとも10年続くのか、終わりのわからないものです。それだけの期間、ずっと自分の時間を介護に注いでいると、これまでの友達とは縁遠くなりますし、趣味もつくれず、娯楽の時間も皆無になります。そうした生活が続くと、当然、精神的にも追い詰められてきて、メンタルを害することもあります。

精神的にきつくなってくると、在宅介護をしていても、要介護の人に対して暴言などの虐待行為をしてしまうケースも出てきます。在宅介護をする家族の3~4割の人が、暴言などの虐待経験があるというデータもあります。

70代は体力的にも若いときより落ちてきていますから、介護にのめり込めばのめり込むほど、身体を壊してしまうリスクも高まります。

介護を生きがいにするということは、まず、介護者の心身を壊しかねない危険性があるのです。

■家族を見送ったあと、介護廃人のようになってしまう

そして介護を生きがいにしてはいけないもっとも大きな理由は、介護していた家族が亡くなったあと、その介護者が一気に衰えてしまうという点です。60代後半や70代まで介護に明け暮れていると、介護していた家族を見送ったあと、今度、自分が何もすることがなくなってしまうのです。

老人男性が座っている深刻ベッド
写真=iStock.com/Dean Mitchell
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dean Mitchell

70代のうちから仕事をしていたり、ボランティアなどの社会参加や、趣味の活動などをしていた人は、80代でもそれを続けている場合が多いものです。

しかし、いままで介護だけで、何もやってこなかった人が、70代や80代で介護が終わって時間ができたから何かを始めようとしても、それはかなり難しいことです。

結局、家族を見送ったあとは、何もせず毎日過ごすようになり、介護廃人のようになって老いてしまうということがよくあるのです。

そのようなことにならないためにも、70歳前後の人が家族の介護に直面したら、介護保険制度なども駆使して、いかに楽をするかという視点でヘルパーさんの手などを借りてください。場合によっては、施設などに入所してもらうことも考えましょう。そのような決断をしても、なんら罪の意識を感じる必要はありません。そのほうが、介護する人、される人のお互いのためでもあります。

介護する人もいきいきとした70代を送れますし、時間が自由になった分、頻繁に要介護の人のもとへ会いに行けばいいのです。

家族同士で介護していると、疲労から、介護者が虐待行為をするようなことも起こりがちですが、第三者の手を借りて自身の負担を抑えていれば、そのようなことも防げます。特に認知症の人を相手にした介護だと、意思疎通がはかれず、つい感情的になってしまうことも起こりがちですが、他人による介護であれば、いがみ合うこともないでしょう。

ところが日本においては、いまだに封建的なところが残っていて、家族の介護は家族ですることが美徳のように思われています。そのような風潮が、介護者たちを追い詰めている現状があります。早くそういった価値観から抜け出さないと、今後、日本の超高齢社会は乗り切れないところまで来ています。

介護を生きがいにしないということは、70代の人が、この先80代、90代も元気に生きていくためにはとても大事なポイントです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)

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