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世界最古のワインを最短で語れるようになる…日本でも人気が高まる「オレンジワイン」の正体

プレジデントオンライン / 2022年5月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mohit Raheja

ワインの造り方は太古の昔から現在まで、どのように変遷してきたか。ワインスペシャリストの渡辺順子さんは「8000年前のワインの壺が見つかったジョージアは、ワイン発祥の地として現在最も有力視されている。当時と同じ手法によりジョージアで生まれたのが、日本でも人気が高まる『オレンジワイン』だ」という――。

※本稿は、渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

■「オレンジワイン」の誕生は新石器時代まで遡る

最近よく耳にする「オレンジワイン」は、まるでオレンジから作ったような色味と独特な風味で人気上昇中のワインです。

もちろんオレンジから作ったものではありません。「白ぶどう」から作られた世界最古のワインなのです。

その誕生は古く、新石器時代まで遡ります。

ワインの誕生の時期や場所については諸説あります。

世界最古の文明と言われるメソポタミアやエジプト、イスラエルやギリシャなどが「我が国こそワインの起源」とこれまで名乗りを上げてきた中、現在、発祥の地として最も有力視されているのは「オレンジワイン」が生まれたジョージアです。

渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)
渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)

長年ワインの歴史を調査している米国科学アカデミーは、ジョージアで8000年前のワインの壺が見つかったと発表しました。300リットルのワインが貯蔵できる素焼きの壺など、歴史を揺るがす品々が発掘されたのです。

ジョージア国立博物館とトロント大学の共同プロジェクトで発掘が進められていた2015年、ジョージアの首都トビリシから南へ約30~40キロ、小高い丘の一角に円形の家が立ち並ぶ村の跡地を発見しました。

同時に土の中に埋め込まれていた大きな壺の破片が掘り起こされ、これが世紀の大発見となりました。それまで最古と思われていたイランのザグロス山脈で発見されたワインの土器よりも1000年も前のものが見つかったのです。

壺の内側には、ワインだけが併せ持つ4つの酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸の付着、さらにぶどうの装飾が施された壺の外側にはぶどうの花粉が確認され、はるか昔にワインが造られていたと確信されました。

■壺に入れたワインを約2年間も熟成

発見から2年後の2017年、放射性炭素年代測定により、その時期は紀元前6000年から5800年だと分析されました。文字が発明される3000年も前、鉄器時代より5000年も前に、ワインが造られていたことがわかったのです。

しかも、壺が埋まっていた村の土壌にはぶどうの種や茎はなく、栽培していた痕跡も見当たらず、考古学者は、ぶどうの栽培と醸造が別々の場所で行われていたと考えています。

ぶどう栽培は日射がよく栽培に適した地で行われ、収穫後は涼しい場に運ばれ醸造を行ったと思われます。その後も、8つの大きな壺が掘り起こされ、すでに大規模なワイン生産が行われていたと考えられています。

またこの時代、飲料は動物の皮で作った皮袋に入れていましたが、動物の皮では腐敗が起こりやすくワインの風味が損なわれてしまうため、蜜蝋(みつろう)でコーティングした土器に保管していました。

この世紀の大発見は欧米で大きくとり上げられ、高度な生活様式を持っていたことに多くの関心が集まりました。

さらに後の調査で、壺に入れたワインを約2年間も熟成させていたことがわかりました。出来立てのワインはタンニンが強く渋みがありますが、数年寝かすことでワインはまろやかな味わいになります。ちょうど2年ほど寝かすことで豊潤な香りが際立つのです。

■通常のボトルとマグナムボトル、同じワインでも味が違う理由

さて8000年も昔、ワインはどのように造られていたのでしょう。

ワイン造りの要は、「クヴェヴリ」と呼ばれる地中に埋めた卵形の大きな壺でした。この壺にぶどうを房ごと入れて、後はワインになるのを待つだけです。

皮や種と一緒に漬け込むと、ぶどうに付着した菌により自然に発酵が促されます。発酵を終えた状態でも皮と種を取り出さずそのまま貯蔵することで、エキスたっぷりのフルボディワインが出来上がります。

当時使用していたぶどうが黒ぶどうなのか白ぶどうなのか測定はできていませんが、地中で寝かせることで温度が安定し、美味しいワインが造られるようになります。

またクヴェヴリの中で300リットルもの大量のワインを保存することで、ゆっくり熟成が進み、まろやかな味わいを醸し出すという効果もありました。より大きな容器で熟成する方が格別に美味しく仕上がります。

これは、私たちが普段飲んでいるワインでも同様で、同じ銘柄のワインでも通常のボトル(750ml)と大きなボトル、たとえばマグナム(1500ml)やアンペリアル(6000ml)を飲み比べますと熟成感の違いがよくわかるものです。

異なるサイズのボトル
写真=iStock.com/sergio-pazzano
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sergio-pazzano

ジョージアでは今も同じ手法で醸造されています。現在は白ぶどうを使用し、果皮と種子を一緒に長時間かけて発酵させます。

通常、白ワインの場合、圧搾後は果皮と種を分けて果汁のみを発酵させますが、果皮も種も一緒に漬け込み、酸素を取り込みながら色素を果汁に抽出することで、特徴的なオレンジ色のワインが出来上がります。

これが今話題の「オレンジワイン」です。この手法は2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。

■オーガニックブームでジョージア・ワインが復活

8000年も前にワイン造りが行われていたジョージアですが、残念ながらその後ワイン大国として発展することはできませんでした。

エジプトやギリシャへも醸造方法や栽培技術が伝わり両国は独自のワイン文化を開花させましたが、ジョージアは地理的にヨーロッパ、アジア、中東の交差点に位置していたため、大国からの侵略が繰り返され侵略のたびにぶどう畑は荒らされてしまいました。

かつてこの地で隆盛を誇り、そして滅亡したアッシリア帝国への貢物にはワインが要求されました。

近年までも、旧ソビエト連邦の支配のもと、ワイナリーは国営化され、使用するぶどうも自由に選ぶことができない時代でした。ようやく1991年に旧ソ連から独立し、ワイン造りを再開することができました。

そして2015年、最古のワイン文明がジョージアで発見され、再びワインの伝統が戻ってきました。

昨今オーガニック、自然農法が叫ばれる中、オレンジワインは“手作りの自然派ワイン”として注目されています。果皮と一緒に漬け込むためぶどう栽培は自然農法にこだわっています。

その製法から、ぶどうの出来がそのままワインの味に影響するため、「自然」が美味しいワイン造りに欠かせない一番のポイントだと考えます。

果皮だけではなく種も一緒に漬け込むことで果実味、酸味、渋みのバランスがよく、エキスがたっぷりつまった健康によいオレンジワインが出来上がります。

もちろんクヴェヴリは今もオレンジワインの醸造には欠かせません。クヴェヴリがワインの味に大きく影響するため、職人は粘土の質、焼き方などにこだわり一つ一つ丁寧に作ります。1000リットル入りの大きなクヴェヴリを作るのに6週間を要します。

こうしてぶどうの栽培、クヴェヴリ、醸造とそれぞれの人々の手を介して“手作りの自然派ワイン”が出来上がります。

2016年にはわずか402社しかなかったジョージアのワイナリーですが、19年には1000社を超えるワイナリーが設立されています。現在53カ国へ輸出、その生産量は年間9300万本を誇ります。ジョージアは再びワイン産業が復活してきました。

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渡辺 順子(わたなべ・じゅんこ)
ワインスペシャリスト
1990年代に渡米。フランスへのワイン留学を経て、2001年大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。同社ではじめてのアジア人ワインスペシャリストとして活躍する。09年に退社し、プレミアムワイン株式会社を設立。ワイン普及の活動を続けている。著書に、『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』『高いワイン』『日本のロマネ・コンティはなぜ「まずい」のか』等。

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(ワインスペシャリスト 渡辺 順子)

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