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「日本ワインは国産ワイン」と考えるのは根本的な勘違い…日本人なら絶対に知っておきたいワインの常識

プレジデントオンライン / 2022年5月31日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

ワインのラベルにある「日本ワイン」と「国産ワイン」は何が違うのか。ワインスペシャリストの渡辺順子さんは「日本では海外から大型容器で輸入したワインも『国産ワイン』と表記されている。重要なのは、ぶどうがどこで栽培されているかだ」という――。

※本稿は、渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

■2018年から進められた「日本ワイン」のブランド化

南北に長い日本では、南は鹿児島から北は北海道まで様々な地域で個性あるワインが醸造されています。なかでも、山梨、長野、山形、北海道は日本を代表するワイン産地として人気が高く、世界的に好評価を獲得しています。

2015年、日本初の公的なワイン表示のルールが定められました。これによって、「日本ワイン」と「国産ワイン(国内製造ワイン)」の定義が明確になり、18年から適用が本格的にスタートしました。

「日本ワイン」は国内で栽培されたぶどうを100%使用して国内で醸造したワインです。

渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』
渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』

特定の地域で栽培されたぶどうを85%以上使用すれば、その地域の名前を明記することができます。

「国産ワイン」は海外から輸入したぶどうや濃縮果汁を国内で醸造させたもの、また大型容器で輸入したワインを国内で瓶詰めしたものも「国産ワイン」と表記されます。

それまではラベル記載内容(収穫地、品種、収穫年)など厳格に規定するルールが設けられていませんでしたが、昨今の日本ワインの品質や知名度の向上により輸出が増え、国際的に通用する基準が求められていました。

2018年、日本での“ワイン法”が施行され、日本ワインのブランド化が進められました。

■甲州・勝沼でワイン醸造を開始した二人の青年

ヨーロッパと違い、宗教とともにワインが普及されなかった日本では、本格的にワイン醸造が始まったのは1870年頃の明治時代に入ってからのことでした。

文明開化により様々な人々がワイン造りを試みますが、当時のワイン醸造の技術やワインの認知度は低く、ワインビジネスはどれも失敗に終わってしまいました。

1877年、日本初の民間のワイン醸造所が設立され、ここから二人の青年がワイン醸造技術を学びにフランスへ派遣されました。2年間のワイン留学ののち帰国した二人は、勝沼の地でワイン醸造を開始します。

しかしヨーロッパと気候風土が違う日本では、ぶどうの育成は思うように進まず、またワインの味わいもフランスで醸造されたものとは大きくかけ離れていました。

しかもまだまだ日本人のワインへのなじみは薄く、日本食と合わせにくい当時のワインの人気は、世間的にあまり浸透することができませんでした。

昭和の時代に入り徐々に日本の気候風土、土壌に合ったぶどう品種の開発が進み、新潟県から原産地の黒ぶどうの「マスカット・ベリーA」が誕生しました。

その後山梨でもマスカット・ベリーAの栽培が盛んになり、甲州とマスカット・ベリーAを中心に、現在山梨には約80社ほどのワイナリーが存在し、日本を代表するワイン産地として世界的に大きな期待が高まっています。

ぶどうを収穫する男
写真=iStock.com/kaisersosa67
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kaisersosa67

■高級ワインブームからデイリー消費へ

現在、日本はアジアで2番目に大きなワイン消費国であり、世界で6番目に大きな輸入国となりました。

とはいえ、世界第3位のGDPと1億2600万人の人口を誇る日本ですが、ワインの消費量は年間一人あたりわずか3リットル。年間4本弱の少ない消費量となっています。

しかし消費大国の中国やアメリカが欧州ワインの関税を引き上げるなか、日本は安定した市場とされ毎年の輸入量が増加しています。

日本は戦後、高度成長を遂げ、1964年の東京オリンピックや70年の大阪万博でぶどう栽培とワイン醸造が進められました。80年代のバブル期にはロマネコンティや5大シャトーなど、ほぼ全ての高級ワインが日本に輸入されたと言われています。

今でもワインオークション関係者は80年代に輸入された古いロマネコンティなどのお宝が日本に眠っていると信じています。

その後バブルは去ってしまいましたが、90年代半ばには世界的なワインブームを引き起こしたフレンチ・パラドックスやポリフェノール・ブームが訪れました。

フランス人がバター、チーズ、お肉などたくさん食べているのに心臓疾患の発生率が少ないのは赤ワインが原因であると説いた説でした。「フレンチ・パラドックス」によりアメリカでは赤ワインの消費量が44%も増加したと言われます。

日本もポリフェノールの効用が話題となり、赤ワインの人気が高まりました。

そして日本ではチリ、アルゼンチン、オーストラリアなど新興国のワインが注目され、スーパーやコンビニでもお手軽なワインを見かけるようになりました。

それまでは「特別な時に飲む、特別な飲み物」といった存在であったワインですが、徐々に人々の毎日の生活に取り入れられるようになっていきました。

■世界中を魅了する「ジャパニーズ・ウィスキー」のような存在に

さて、2020年に予定されていた東京オリンピックですが、これまで歴代のオリンピック開催国ではワインの輸入も開催国のワインの輸出も大きく伸びる傾向がありました。

2008年の北京オリンピックを皮切りに、中国では大量のワインの輸入と消費が始まりました。以来、中国は輸入と消費の額をどんどん増やし、ワイン産業の歴史を大きく変えることになりました。

2012年、ロンドン・オリンピックではイギリス産スパークリングワインのお披露目が行われました。

それまでワイン生産は皆無であったイギリスですが、温暖化の影響や土壌の研究により、シャンパンさながらの発泡酒の生産が開始されました。

地元の人々に愛され、着々とイギリス産スパークリングワインの生産を伸ばしています。

2016年のリオデジャネイロ・オリンピックではこちらもブラジル産スパークリングワインの需要が大きく伸び、アメリカからたくさんの投資が集まりました。現在もその需要は伸びています。

新型コロナウイルスの感染防止のため無観客での開催となった東京オリンピックにおいて、日本ワインのプロモーションが大々的に行われなかったのは心残りではありますが、現在日本はワイン輸入国としてだけでなくワイン生産国としても世界から注目を集める国の一つになりました。

日本のぶどう畑は大国と違い、大量に生産することはできませんが、ぶどうを一粒一粒大事に育て、丁寧に醸造します。

生産量は少ないものの、その分きめ細やかな作業を行い日本ワインの個性を生み出します。その味わいはとても繊細で、まるで水を飲んでいるように違和感なく体に浸透していきます。

日本ワインは四季折々のお料理、野菜や肉魚など様々な素材やどのような味付けにも合わせやすく、決して主張しすぎない控えめな味わいです。海外でもこの繊細な味わいが評価されてきました。

日本の個性を生かした日本ワインが、今後ますます国内外へ発信されていくことが楽しみです。

一方、日本のウィスキーは世界で最も人気が高く、オークションでも常に高値で取引されています。特に「山崎」「軽井沢」「イチローズ・モルト」などの銘柄は、高額落札額を達成し、「ジャパニーズ・ウィスキー」は世界中の愛好家たちを魅了します。

日本ワインもウィスキー同様、我が国の文化を代表する存在になることを期待しています。

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渡辺 順子(わたなべ・じゅんこ)
ワインスペシャリスト
1990年代に渡米。フランスへのワイン留学を経て、2001年大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。同社ではじめてのアジア人ワインスペシャリストとして活躍する。09年に退社し、プレミアムワイン株式会社を設立。ワイン普及の活動を続けている。著書に、『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』『高いワイン』『日本のロマネ・コンティはなぜ「まずい」のか』等。

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(ワインスペシャリスト 渡辺 順子)

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