「あみだくじ」で勝ちやすくなる方法がある…やけに「当てる人」だけが知っている統計学の基礎知識
プレジデントオンライン / 2022年6月3日 15時15分
■「あみだくじ」で当たりを引きたい人は「真上」を選ぶ
じゃんけんだけでなく、複数で何かを決めるときに活躍するのが「あみだくじ」。これって、本当に公平なのでしょうか?
あなたが住んでいるマンションで、自治会内の役職を決めます。7人の中から、あみだくじで会長を決めることになりました。あなたは絶対にやりたくありません。そこで、問題です。
①左……かな?
②真ん中!
③いや、右が安全だ!
あみだくじで7通り選べる場合には、実は「当たりの真上」は「7分の1の偶然」ではなく、それよりもずっと高い確率で当たります。
![横棒が少ないほど「真上」が当たる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/a/1200wm/img_8a4a2202c2ba7b1542cc52a4c7a0de2e129570.jpg)
というわけで、「②」を選んだ方、残念でした。次期会長になる可能性が大です。
あみだくじの場合、横棒が少ないときは「真下付近」に落ちます。これは、「パチンコ玉の理論」と同じ。
そして横棒(クギ)が増えれば増えるほど、徐々に他の場所へも平均して落ちていくのですが、実際には数本ずつしか横棒を引かないので、引いた場所の真下あたりに落ちる可能性が非常に高いのです。
あみだくじで何かの当番などを選ぶときは、当たりたければ「当たりの真上」に近い場所を、当たりたくなければ「当たりからできるだけ遠く離れた場所」を選ぶとよいでしょう。
■「運命のコイン投げ」で負けてしまう人の発想は同じ
次は、あみだくじとは別の確率の例を出してみましょう。
アニマル市で市議会議員の補欠選挙(当選は1人)があり、イヌ候補、ネコ候補が同票で並んでいたとします。そこで選挙管理委員会は1枚のコインを用意し、表か裏かを当てたほうを当選ということにしました(実際、くじやコイントスで決める例はあります)。
いざ、コイン決戦……。その前に、予備的にコイン投げをしてみると、3回連続して「表」が出ました。
①風が吹いてる気がする! またもや「表」じゃない?
②うーん、そろそろ「裏」が出るんじゃないかな?
ちなみに、イヌ候補はこう考えました。
「3回連続で『表』が出るのはとても珍しい。ということは、決戦では『裏』を選ぶほうが確率的に高いはず」
このような考えを「ギャンブラーの誤謬」と呼んでいます。イヌ候補の考えは完全に「思い込み」なのです。確率は直観とはズレることが多いのが大きな特徴で、それが確率の理解をむずかしくしています。
確率の最も大事な点は、それまでのコイン投げに左右されず、コインの表・裏のどちらが出るかは『1回ごとに独立している』という点にあります。だから、「3回連続して『表』が出たから、次はそろそろ『裏』が出るのでは……」という考えは「淡い期待」にすぎないのです。
■「確立の高い方」は選ぶことができる
すると、答えは「どちらに賭けても運しだいだから、不明」ということでしょうか。いえ、違います。少しでも確率の高いほうに賭けるべきです。
表、または裏の出方が同様に確からしいコインを投げたとき、表、または裏が出る確率はそれぞれ「2分の1」ずつと説明されます。これを「数学的確率」と呼んでいます。
しかし、現実のコインで完璧に表・裏が同じ確率で出るようなコインはない、と考えてよいでしょう。だから投げてみないとわからないのです。そのとき、出てくる確率を「統計的確率」と呼びます。数学的確率はあくまでも論理的に考えた確率で、「出方が同様に確からしい」といった表現を伴います。
一方のネコ候補はこう考えました。
「3回続けて『表』が出るなんて。何らかの理由で表が出やすいんじゃ……?」
今回の場合、市会議員のたった1つの席を競っていること、統計的確率に従うコインであることを考えると、ネコ候補の考えたとおりこれまでの「実績」で考えるのが得策。
つまり、答えは……「①またもや表が出る可能性が高い」が正解です。
子どもの頃、下駄を飛ばして表が出たら「明日は晴れ」という遊びがありましたよね。他にも、ペットボトルのフタを投げて上向き・下向きの回数を測るなんてこともあります。
さらに、画びょうを投げて、上を向く回数を測るなど、「投げてみないとわからない」場合、この統計的確率の方法がとられます。
■統計学の役割は「株でソンをしにくい」だけではない…
「統計学を学ぶと、株でソンをしにくい」といった話は、統計学を学んですぐに役立つ(トクする)話のひとつですが、それとは別の「お役立ち」も考えてみましょう。
統計学を身につけることで役立つ、もうひとつの答えは、こうです。――エビデンス(根拠)をもって考えられるようになること。
突然ですが、『進撃の巨人』という人気アニメを知っていますか? 人を喰らう巨人が多数登場し、城壁内にわずかに取り残された人類と巨人とが壮絶なバトルを繰り広げ、物語が進むに連れて巨人の秘密、人類の置かれた謎がしだいに解き明かされていくストーリーです。
ここで兵長リヴァイという、人類最強の男が登場します(主人公ではない)。彼は誰かが決断をしなければいけないときには、決まって次のようなことをいいます。
「どちらを選択したらよいのか、その結果は誰にもわからない。俺にもわからない。しかし、これはおまえが決めることだ。せいぜい、悔いを残さないほうを選べ」
![木製のブロック](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/1200wm/img_485a783690c601f4108b5d3443a44c16552869.jpg)
■兵長リヴァイのような「鋼の決断力」を身につけるには
私もこの言葉が好きです。「決断」という言葉が強すぎれば、「判断」という言葉に置き換えてもよいでしょう。小さな判断であれば、人は毎日のようになんらかの判断をし続けているはずです。
生鮮食料品店であれば、仕入れは天候や近所のイベントの有無を見極めながら品種や数量を決めなければいけません。判断が悪ければ食品ロスを生み、結果、赤字となります。
会社なら、部下の企画書、提案書をどう処理するか。これも判断業務のひとつで、毎日のように提出されることでしょう。そのとき、「これは売れない!」と判断して「企画は不可」とする判断は、利益追求の立場としては正しかったとしても、その結果、部下のやる気を消失させる危険性もあります。
どの判断がよく、どの判断が悪いか――そんなことは誰にもわからないことなのです。
だって、未来のことは誰にもわからないし、「不可」と判断したことを、タイムマシンで過去にさかのぼって「可」と修正することもできません。
■科学的に「どちらを選べばよいか」がわかる
でも、その判断をする際、統計学の知恵があると、事前にさまざまな対策を練ることができます。
たとえば、書籍を発行する場合、タイトルをAにするか、Bにするかは、出版社なら迷うところでしょう。現実には、いったんAのタイトルで出版しておき、「全然売れない……このタイトルは失敗だった!」と思ったときにBのタイトルで出し直す――そんなことはできません(他社が文庫化するときなどは別です)。
それを事前に、科学的に、そして手軽に「どちらがよいか」がわかる方法が、統計学にはあるのです。その方法によって生み出されたデータは、「エビデンス(根拠)」と呼ばれています。
2021年の一時期、「GO TOトラベルによって新型コロナの陽性者が増えたというエビデンスはない!」という言葉が国会で盛り上がりましたが、その「エビデンス」も同じですね(しかし、この「エビデンスはない」という使い方は非常に危ないなと感じました。エビデンスが出てきてからでは遅すぎますから、悪い結果につながることは、相関関係を見て早めに(事前に)対処すべきだと思っていました)。
■エビデンスを活用できれば話の「説得力」が増す
もともと、エビデンスは医療業界で使われてきた言葉ですが、いまやビジネスはもちろん、あらゆる分野で何かの決断・判断をするとき、必須の条件として求められています。
![本丸諒『グラフとクイズで見えなかった世界が見えてくる すごい統計学』(飛鳥新社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/e/1200wm/img_8e284352693ae7afdbf026e903cbb891245151.jpg)
このエビデンスを理解でき、使えるようになれば、さまざまなシーンであなたの話す内容に「説得力」を増すことができるんです。
どの判断がよく、どの判断が間違いかは誰にもわからない――これは未来を知ることができない人間にとって、間違いのない事実です。しかし、統計学を身につけることで、根拠(エビデンス)をもたない判断を避けることができますし、どのようにすればエビデンスを得ることができるのか、それを知ることはあなたにとって重要な資質になります。
統計学はその意味で、生活や仕事においてとても役に立つ「実戦的な武器」なのです。
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サイエンスライター
横浜市立大学卒業後、出版社に入社、データ専門誌(月刊)の編集長を務め、サイエンス分野を中心に多数のベストセラーを企画・編集する。特に、統計学関連のジャンルを得意とし、入門書はもちろん、多変量解析、統計解析といった全体的なテーマ、Excelでの統計、回帰分析、ベイズ統計学、統計学用語事典など、30冊を超える書籍を手がけてきた。独立後は、「理系テーマを文系向けにする」サイエンスライターとして活躍。著書に『グラフとクイズで見えなかった世界が見えてくる すごい統計学』(飛鳥新社)がある。
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(サイエンスライター 本丸 諒)
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