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売上高も従業員数も減っているが…私が「すべての日本企業はオムロンに学ぶべき」と考えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年5月31日 15時15分

『オムロン』HPより

なぜ多くの日本企業が成長を止めてしまったのか。デロイトトーマツグループ執行役の松江英夫さんは「日本企業は事業や雇用の維持にこだわり過ぎている。例えば、電子機器メーカーのオムロンは、この10年で売上高と従業員数は減ったが、一人当たり営業利益は伸びた。本当に重要なのは『事業規模』ではなく『収益性』だ」という――。

※本稿は、松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■日本では事業売却は失敗と捉えられる

今までの日本企業では、多くの事業を抱えることで売上規模を拡大し、雇用を維持し続けてゆくことが経営の使命であると考えられてきました。

従って、基本的には、コア事業もノンコア事業も自前で経営することが当たり前でした。そうした視点からは、事業を売却することは、全体の売上を下げるだけでなく、事業や雇用を維持できなかった“失敗”と後ろ向きに捉える意識が強かったのです。

最近でこそ株主の意向が強まり、事業を売却する選択肢が受け入れられつつあるものの、やはり事業を手放すことへの心理的抵抗が強いのが実態です。

手がけた事業を自前でやり続けることを優先する考え方は、強いオーナーシップの表れと評価できる一方で、全体の収益性を低下させる要因にもなっています。旧来の“事業の自前主義”の固定観念が、企業を自縄自縛に陥らせているのです。

■これからは売上規模ではなく収益性が求められる

しかし今や時代は変わりました。経済がグローバル化し、株主をはじめとした資本市場の影響力が強まる中で、「売上ではなく企業価値を高めることが大事だ」という考え方が一般的になりつつあります。

これからは、売上規模ではなく、「収益性」を高めて企業価値を上げることが、より求められます。現在抱えている事業の全てを自前で経営する“事業の自前主義”が、これから先に果たして企業価値を高めることに繋がるのかを問い直す時期に来ているのです。

これからの時代の企業経営、さらには日本の産業競争力の強化に求められるのは、“事業の脱自前”です。“本業を再定義”し、今ある事業の“強み”を更に伸ばすには、担い手として誰がふさわしいのか、いわば「ベストオーナー」を見極める必要があります。それが自社でないのなら、組み換えを積極的に行うのです。

事業と伸ばせる担い手との組み合わせをオープンに選び合うことで、限られた資源を最適な形で再配分し、収益性を高めてゆけるのです。

上昇トレンド線
写真=iStock.com/champc
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/champc

■プラスを伸ばすのか、マイナスを底上げするのか

“事業の自前主義”を脱却して、将来に向けた事業の「選択と集中」を考えるうえで重要な論点があります。それは、「プラスをもっと伸ばすのか」、それとも「マイナスを底上げするのか」という選択です。

この論点は、日本の企業や産業レベルのみならず経済政策全般にも共通した、これからの日本の成長を促すうえで根幹となるテーマです。今までの自前主義に基づく経営においては、全体の規模を維持しながら収益向上を目指すことを念頭に、後者の「マイナスを底上げする」ことに重きを置くのが一般的でした。

企業でいえば、売上規模や雇用人数は一定程度保つことを前提に、利益がプラスの事業はそのまま維持し、利益がマイナスの不採算事業は立て直して底上げすることで、全体の収益向上を目指すという考え方です。

全体を一体のものとして自前で維持する考えが根底にあるので、事業の入れ替えは進まず、企業全体の収益性は低いままの状況が温存されがちでした。

■伸びない分野は、積極的に外に任すべき

私は、これからの日本を考えると、前者の「プラスを伸ばせるものはもっと伸ばす」という考え方に、判断の重心を移してゆく必要があると考えています。

その理由は、日本の置かれている状況にあります。日本全体の生産人口が減少し経済規模が縮小してゆくなかで“成長”を遂げてゆくには、限られた資源を分散させずいかに効率的に集中投下できるかが、カギを握ります。

限られた資源の配分先として、「伸ばせるものを伸ばすこと」に優先的に充てるほうが、「伸びないものを引き上げること」に資源を割くよりもより効率的で、全体を成長させることに貢献するのです。

“事業の脱自前”において「選択と集中」の意味するところは、「伸ばせるものをもっと伸ばす」ために、「伸びないもの」については、自前でやるのではなく、外のベストオーナーに積極的に任せることにあります。

■市場評価を高めたオムロンがやったこと

売上や従業員数という“規模”に依存せずに、収益性を上げ、市場の評価を高めることに成功した例として、電子機器メーカーのオムロンの取り組みがあります。

オムロンは、2011年から2020年に至る10年間での取り組みで、企業価値を大きく向上させました。特に2015年以降の6年間では、売上と従業員数は減少している一方で、一人当たりの利益は伸びています。

2015年時点で従業員数が約3万8000人でしたが、2020年には約2万8000人へと減少、また売上高も約20%減少しています。しかし、従業員一人当たり営業利益は2015年時点の165万円から、2020年には221万円となり3割以上増加しています。

加えて、資本市場からの評価についても、株価は2015年の約2倍(2021年11月時点)に成長しており、これはTOPIXの伸びと比べるととても大きい数字です。株価は、企業の将来の収益性への期待を表したものなので、企業規模は縮小しても、将来への期待は上がったことを意味します。

■コア事業の拡大とノンコア事業の売却

オムロンが、資本市場から評価されている背景には、長期ビジョンに基づいた事業ポートフォリオ変革(PX)、いわば、“事業の脱自前”があります。

オムロンは、1959年に会社の憲法「社憲」を制定して以降、そのDNAを継承しながら時代の変化に合わせて企業理念を更新しています。それはOurValues(私たちが大切にする価値観)と呼ばれ、「ソーシャルニーズの創造」、「絶えざるチャレンジ」、「人間性の尊重」といった社会的な価値観を中核に据えています。

そのうえで2030年ビジョンを掲げて、自社の強みである“自動化”を軸に「センシング&コントロール」などのコア技術を活用して、解決できる社会課題領域を定めて取り組んでいます。事業ポートフォリオ変革においても、長期的なビジョンを念頭に事業の入れ替えを行っています。

とりわけ、2015年以降は事業を買収することと同時並行で、売却や譲渡を積極的に進め、大胆に事業構成を変える変革を行ってきました。

事業評価の基準として「ROIC経営」を中心に据えた点も重要な意味を持っています。投下した資金に対するリターン(ROIC=投下資本利益率)を最上位の物差しにして意思決定し、その基準に基づきステークホルダーとの対話を行ってきたのです。

このように、企業における成長は、単に売上や規模ではなく、収益性を高めることで資本市場から評価を得て“企業価値”をいかに高めるかにあるのです。

■コロナ禍が変革を加速させた

オムロンの取り組みは、あくまで一企業の例ですが、そこには日本の成長を考えるヒントがあります。強みを有するコア領域をより強くする事業ポートフォリオ変革を行うことで、従業員数が減少しても一人当たりの付加価値と企業価値を高める戦略は、人口減少下において「産業と人財のベストな組み合わせ」によって付加価値を高める日本の成長シナリオの縮図といえるでしょう。

松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』 (新潮新書)
松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)

事業ポートフォリオ変革による“事業の脱自前”は、コロナ禍を経てより拍車がかかっています。コロナ禍で、人の動きや価値観が大きく変わりました。

影響が大きな産業では既存事業の需要が戻ってこないことを前提に、事業構造の改革を行うと同時に、新たな成長を牽引する事業を取り込んで、全体の事業構成のあり方を変えてゆこうとしています。

さらに、産業社会に大きな影響を与えるのが地球環境への対応です。地球温暖化対策として、カーボンニュートラルという概念は産業全体に抜本的な変革を迫りました。

ポスト・コロナにおいては、将来的な環境変化を見越した事業ポートフォリオ変革がますます経営の中心課題になってゆきます。

全ての事業を自前で抱え込むのではなく、存在意義と将来像に基づいて、将来に向けて自らが持つべき事業(“将来の自前”)と、必ずしも自社で持たなくてもよい事業(外と連携する領域)を見極めて、適切な組み合わせを選択してゆくことが重要になります。

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松江 英夫(まつえ・ひでお)
デロイトトーマツグループ執行役
1971(昭和46)年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。中央大学ビジネススクール、事業構想大学院大学客員教授。経済同友会幹事、政府の研究会委員、テレビの報道番組コメンテーターなど、産学官メディアで豊富な経験を持つ。

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(デロイトトーマツグループ執行役 松江 英夫)

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