わが子がいじめにあった時…早期解決するための親の心得
プレジデントオンライン / 2022年5月31日 17時15分
■感情的になると問題は長引く
わが子が学校でいじめに遭ったと聞いて怒りを爆発させ、そのまま学校に乗り込んでしまう保護者の方がたくさんいます。
「学校は責任を取れ、相手の親を呼んで謝罪をさせろ!」というわけです。
自分の子供が傷つけられたら、腹が立つのは当然です。感情的になってしまう気持ちはとてもよく理解できます。でも、こうしたスタートの切り方は、学校や加害者の親との対立に発展し、問題を長引かせてしまうことになります。そこで今回は、わが子がいじめられた時、学校にどのように伝えればスピード解決できるのか、そのコツを伝授したいと思います。
まずやることは、学校に事実関係の確認をお願いすることです。
前回の記事でもお伝えしましたが、いじめの認定には「行為の確認」が必要です。そこで学校の先生に、「子供が○○○○○をされたと言って苦しんでいるのですが、事実関係の確認をお願いできないでしょうか」と依頼します。いったん何があったかを確認して、その事実を関係者の間で共有する。そのうえで、どうするか先生たちと相談しながら進めていくことが基本スタンスになります。
いじめ防止対策推進法には、以下の条文があります。
第九条 3 保護者は、国、地方公共団体、学校の設置者及びその設置する学校が講ずるいじめの防止等のための措置に協力するよう努めるものとする。
重要なのは「協力」というひとことです。
いじめ防止対策推進法は、保護者には学校と「協力」していじめを解決する責務があると言っているのです。いじめ解決の責任が学校だけにあるわけでないことを保護者の皆さんに知っていただきたいと思っています。
■大切なのは「抗議」ではなく「理解を求める」こと
さて、学校が事実関係を調査した結果、行為の認定ができないことがあります。加害児童が認めなかったり、目撃者がいないケースです。
保護者としては歯がゆさを感じる展開です。しかし、あきらめることはありません。
行為が認定されなかったとしても、学校側に子供が傷ついていることに理解を求めるのです。学校は抗議をしたり、「責任を認めろ」と迫ると態度を硬化させますが、「いま目の前で傷ついている子供をケアしてほしい」と言えば、素早く動いてくれるものです。心のケアをするためにカウンセリングを受けさせたり、学習支援を行ったり、あるいは、クラス全体に向けていじめ防止教育を実施するなど、いまできる支援や対策を講じることはできます。
ちなみに、学校側もいじめの事実確認ができないからと思考停止するのではなく、こうしたことは保護者に言われるまでなく、やるべきだと感じます。いじめの事実が確認できなかったとしても、やれることはあるのですから。
■子供が何をしてほしいかを常に確認する
支援や対策を考えるうえで大事なポイントは、必ず子供にどうしてほしいか聞きながら進めていくということです。
感情的になって学校に怒鳴り込んでしまう保護者は、子供の気持ちを置き去りにしてしまっていることが少なくありません。実際、私のところには、いじめの被害者である子供自身から、こんな相談の電話がよくかかってきます。
「親が毎日のように学校に文句を言いに行くので、恥ずかしい。なんとか親を止めてもらえませんか?」
「親が、私から目を離さないでくれって先生に言ったせいで、先生が休み時間中もずっと私のそばにいます。親のせいでますます学校に行きにくくなってしまいました。どうしたらいいでしょう?」
いじめ被害に遭っているのはあくまでも子供であって、保護者ではありません。そして、子供が「何をしてほしい」かは、実は本人にしかわからないのです。わからない以上、本人に聞いてみるしかありません。それなのに、親が子供の気持ちも聞きもせずに、自分の気持ちを晴らすために行動してしまう。そういう親は子供を傷つけているので、「あなたがやっていることは子供のためになっていない」とはっきり伝えます。
私がいじめ問題に介入する際の変わらないスタンスは、目の前で苦しんでいる子供を救うこと。学校の味方ではありませんし、ましてや被害児童の親だからといって味方でもないのです。
■親にとって不都合な結果も受け入れる
たくさんのいじめ相談を扱っていると、被害者の親にとって不都合な結果が出てくることもあります。たとえば、私が相談を受けたケースで、こんなことがありました。
ある日の夕方、Aさん(母親)が仕事を終えてマンションの高層階にある自宅に帰ろうとすると、玄関前のホールに、憂鬱(ゆううつ)そうな表情を浮かべた息子のBくんがボンヤリと立っていました。
ただならぬ気配を感じたAさんがBくんを自宅に引き入れて、いったいどうしたのかと問いただすと、Bくんはひとこと、「学校でいじめられている」と言ったのです。
それを聞いたAさんはパニック状態になって、翌日、仕事を休んで学校に怒鳴り込みました。
「私の帰りが少しでも遅れたら、うちの子は飛び降り自殺をするところだったんですよ。いったいどうしてくれるんですか!」
事態を重く見た学校側は、すぐさま事実関係の調査を開始しました。ところが、調査の結果、意外な事実が判明したのです。なんと、「いじめなんてなかった」と当事者であるBくん自身が言い出したというのです。
Bくんによれば、母親のAさんは日ごろから躾に非常に厳しく、Bくんにとって恐ろしい存在だというのです。その日は、普通に学校に行き何のトラブルもなく自宅に帰ってきたのですが、家に入ろうとして、鍵を持っていないことに気がつきました。朝、鍵を持って出るのを忘れてしまったのです。
Bくんは、鍵を忘れたことをAさんに激しく叱られる様子を思い浮かべて、すっかり憂鬱になってしまいました。その時、ちょうどAさんが帰ってくる姿が見えたのです。Bくんは言います。
「お母さんが帰ってきて鍵を開けてくれたので、鍵を忘れたことはバレずに済みました。だけど、学校で何かあったんだろうってしつこく聞くので、とっさに、いじめられてるって言ってしまったんです。そうすれば、鍵を忘れたことを言わないで済むと思って……」
こうなると、いじめから子供を守るどころか、親から子供を守る方法を学校と議論しなくてはなりません。
一般的に被害を訴えた側に問題があったというと、第三者的な立場の方々は一斉に否定や反論をしますが、いじめは千差万別です。学校の対応に問題があるケースもありますし、被害者のつもりが、わが子が加害者だったという場合や、保護者自身に問題がある場合も実際にあるのです。子供たちのために問題を早期解決改善するには、学校・教育委員会・保護者それぞれが明らかとなった問題に向き合い、反省すべき点は反省し、改める事が大切だと思います。
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特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表
息子がいじめで不登校になり、学校や教育委員会と戦った経験から、同じような悩みを持ついじめ被害者や保護者の相談を受けるようになる。相談が殺到し、2020年に市民団体を、2021年にはNPO法人を立ち上げる。いじめ、体罰、不適切指導、不登校など、さまざまな問題の相談を受けているが、中立の立場で介入し、即問題解決に導く手法が評判を呼んでいる。相談はHPから。
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(特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表 森田 志歩 構成=山田清機)
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