ドバイで日本人が日本人をボッタくる事件多発…英語もロクにできないのに海外脱出した富裕層の落ちた穴
プレジデントオンライン / 2022年6月2日 11時15分
■今年のラマダン期はいつもと様子が違う
18時40分を過ぎた頃だったか。アラブ首長国連邦(UAE)を構成する首長国のひとつであるドバイの郊外を車で走っていた時のこと。車内のラジオ放送からは、日没とともにアザーン(お祈りの合図)が聞こえてきた。
運転をしていた中東大手航空会社勤務のA氏(40代)は、とあるファストフード店の前に車をとめ、お祈りを素早く行い、その後ペットボトルの水と軽食を買ってきた。同乗していた妻とともに、ゴクゴクと喉を鳴らし、瞬時に水を飲み干してしまう。
「今のお祈りは隣のシャルジャ首長国の放送だよ。ドバイより数秒だけ早く始まるから、待ちきれなくてね(笑)」とA氏。
筆者が訪れたのは2022年の4月下旬。今年は4月2日から1カ月間がラマダン(イスラム暦の9月)にあたり、ムスリム(イスラム教徒)の義務として、日の出から日没までは食べ物も水も一切口にしない。
それゆえ、A夫妻は一刻でも早く喉の渇きを癒やしたかったのだ。ドバイの東隣にあり、ほんの少し早く日が沈むシャルジャ首長国の放送を断食終わりの合図にしたというわけ。
イスラム暦(太陰暦)を使用しているので、ラマダン期は毎年10日ほどずれてくる。10年前であれば、7月から8月だったので、日中は50度近くに気温が上がり、しかも太陽が昇っている昼の時間が長い。この時期に水が飲めないとは文字通り地獄ではないか……。
「それを思えば4月のラマダンはそれほどハードではないです。といっても4月も日中は38度ぐらいまで気温が上がりますけどね。最初の1週間は大変だけど、そのうち体が順応しますよ」と妻はくったくもない。その一方で、
「ラマダン期のムスリム社員の仕事のパフォーマンスはやはり落ちます。イライラしたりボーッとしたり。私はイスラム教徒ではないので、日中は食べていいのですが、断食をしている社員に気を使って、彼らの目の前で飲食しないようにしています」
そう語るのはドバイ在住歴24年の平井あかねさん(48)。ドバイで企業の展示会運営や会社設立のサポート、レンタルスペースのサービスを提供する「Hub Mebki」の経営者だ。
ラマダン期の会社員は午後3時ぐらいで仕事を終え、ムスリムは家で休むらしい。そして日没後は「イフタール」といって、いつもより豪華な食事を思い切り楽しむ。A氏の自宅でも、親戚や友人が集まって賑やかに過ごしていた。
■ラマダン期もお構いなし。観光客をどんどん誘致せよ!
通常ならばラマダン中のドバイでは昼の町に活気がなく、観光面では閑散期となる。しかし、今年の様子は違うようだ。
「例年ならば断食中の人々を刺激しないように、日中の飲食店をクローズしたり、開店してもついたてをして目隠しをしたりしていました。今年は開店してついたてを外すところが増えたのです。コロナ禍でドバイに来る外国人が激減したので、どの国よりも早く水際対策を緩和して、観光客や移住者、外資系企業を積極的に誘致したいという政府の思惑が透けて見えます」(平井さん)
ラマダン期の断食は、本来であれば経済活動を損なうが、宗教とは無関係の外国人がお金を落とすのはウェルカム。どちらも両立させる姿勢は、UAEの中でもドバイの“お家芸”といえる。
■オイルマネーに頼らない、経済・観光立国戦略
1971年のUAE建国時のドバイは、ペルシャ湾岸の漁村で、周囲は荒涼とした砂漠地帯であった。しかしわずか半世紀で中東一のビジネス拠点に発展し、UAEの中では経済、貿易、観光面をリードする。
というのもUAE全体は世界第7位(2020年)の産油国だが、ドバイでは現在ほとんど石油が採れないため、オイルマネーに頼れない。
発展の理由は、世襲の首長一族であるマクトゥーム家の巧みな成長戦略がある。建国時の首長ラーシド・ビン・サイード・アール・マクトゥーム殿下は、1960年代後半のペルシャ湾岸諸国の石油発掘ブームにもいたって冷静で「脱石油路線」を早くから計画していた。
■フリーゾーンであれば、100%外資系企業でも法人税なし
では、どのような戦略があったのか? ドバイは、20世紀初頭からイラン商人の移住を契機に湾岸諸国への再輸出や中継貿易地点になったため、空港、港湾、道路など経済に不可欠なインフラ整備を進めた。
1985年には「フリーゾーン」という名の経済特区を置き、100%外資系企業の設立を認可。2018年に消費税が導入されたが、法人税はなしのまま(ただし1年更新の営業ライセンス料は必要)で、所得やドバイの不動産取得には課税されない。
もちろん起業家への就労ビザも発給され、外国人でも不動産が取得でき居住ビザが発給される。このような優遇措置を設けたため、世界各国から企業や移住者がドバイを目指すようになる。
集めた巨額の資金で世界一高いタワー「バージュ・カリファ」、世界一の水量を誇る噴水「ドバイ・ファウンテン」、世界一の人工島「パーム・ジュメイラ」など度肝を抜くようなゴージャスな建造物を造り続けた。2021年は世界一高い場所にある360度ビューのインフィニティプール、2022年は世界一美しい建造物の一つとして「未来博物館」がオープンした。
■バーチャルワーキングビザで、仮想通貨ビジネスも
街の中心部に砂漠の更地が残っているため、まだまだ開発の可能性がある。ドバイ政府は「ドバイ政府マスタープラン2040」を打ち出し、世界一住みやすい街を標榜。公共交通機関のさらなる整備、ビーチや緑地を増やす、歩道や自転車で通れる道を作るといった開発も進む(ドバイは歩道や自転車道が未整備)。
そのためにはドバイの人口を現在の330万人から580万人まで増やす計画も進行中で、今後さらに投資や移住のハードルが下がれば、ますます外国人が増える。地理的にヨーロッパとアジアの中間地点であるため、他の中東諸国、インド系やパキスタン系、ついでヨーロッパ系やアフリカ系住民が多い。
また、もろもろの条件をクリアすれば、1年間のリモートワークが可能なバーチャルワーキングビザが定住外国人以外におりるようになった。これは“スケールの大きなワーケーション”だと表せばイメージしやすいかもしれない。これを利用すれば、いきなり移住や起業をするには勇気がいる、という人にはお試し感覚でドバイに住むことができる。
バーチャルワーキングビザのスタートとほとんど同じタイミングで、ドバイ最大のフリーゾーン「DMCC」では仮想通貨を使ったビジネスライセンス取得が認可されるようになり、自由貿易港「KIKLABB」でも、ビジネスライセンスやビザの支払いに仮想通貨の使用が可能になった。
つい最近では最大手の不動産開発業者「DAMAC プロパティーズ」「エミレーツ航空」などでもビットコインやイーサリアムでの仮想通貨決済を受け入れた。さらにドバイで仮想通貨を法定通貨に換金した場合も税金がかからないので、法人でも個人投資家としても仮想通貨ビジネスが盛り上がっている。
■シンガポールやマレーシアからドバイに鞍替えする人々
では、日本人はどうなのか。
「ドバイに支社がある駐在員以外に、増えているのが起業家や投資家。以前ならば、彼らは似たような政策を打ち出していたシンガポールやマレーシアに移住していたのです。でも両国はコロナ禍の水際対策や移住・起業やビザの条件が厳しくなった、特にシンガポールは不動産や物価が高騰した、各種の税金がかかるといった背景があり、よりハードルが低いドバイに目が向いたというわけです。私の知る限り、この3月から4月に数十の家族が入国し、さらに今秋から移住予定の方も何件もあると聞いています」(前出の平井さん)
在ドバイ日本国総領事館によれば在留届を出している日本人は3359人(2021年10月1日時点)で、無届の在留邦人はもっと多いと推測される。
仮想通貨やFXなどの投資を目的にシンガポールから流れてきた家族は、外見で分かると語る人も多い。ドバイで起業するBさん(52)はこう話す。
「全ての人ではないですが、服装が派手ですね。そして子供をインターナショナルスクールではなく、日本人学校に入学させる傾向が強いみたいです。親が英語を喋れないし、いつでも日本に帰れるようにするためなのかもしれません。子供のお金の使い方が尋常ではないので、学校で浮いているといううわさも聞きます」
■日本人が日本人をカモにする構図
しかし、移住者が増えればトラブルも多くなる。
「日本人が起業する際、ドバイ事情に疎く英語力のなさから、登記、オフィス探し、口座開設などすべてのサポートを日本人のコンサルティングに頼ることが多いのです。その際、法外な価格を請求される、だまされるといったケースが増えました」(平井さん)
たとえば、
「会社設立のサポートを地元のコンサルティングに依頼すれば100万円くらいからなのに、日本人のとあるコンサルティングに頼んだら1600万円もかかった」
「法人口座を開くのが一番大変なのに、口座開設ができないライセンスの種類になっていた……。お金だけ取られて悔しい!」
「車の委託販売をしたのに売り上げのお金を払ってもらえない」
といったケースだ。
「一度払ったお金は取り戻すことはできませんが、口座開設のサポートはわれわれの会社で行いました」(平井さん)
平井さんはドバイ裁判所や検察庁の公式通訳も務めているため、これ以外にもいろんな詐欺のケースが増えていることを実感している。
またSNSを見ると、「ビジネストラブルがあった相手を詐欺容疑で起訴したが、逆に相手に起訴し返されてドバイ警察に拘束された」という書き込みもあった。
■外国人を騙す度量がない詐欺師
「詐欺だと疑われているあるコンサルティングの人は、最初は真面目にやっていたのですが、ある時から詐欺まがいな仕事をするようになったようなのです。ただ日本人移住者は提供した情報だけ持っていって、他の会社で契約することも少なくないんです……。『正直者は馬鹿を見る』ではないですが、真面目にやっているのがキツくなってきたのかもしれませんね。消費税以外に、アルコールやタバコなどの嗜好品への税金、ホテルの宿泊税、ハウジングフィーといって住宅を使う際の税金となんだかんだ税金がかかるし、生活物資を輸入に頼っているので、日本より物価が高い。だから暮らしは思ったほど豊かではないです。決して詐欺を擁護しているわけではないのですが、詐欺をする気持ちはわからないでもないですね。でも詐欺は絶対許せないです」
と平井さんはため息をつく。
思ったより豊かになれない、という背景も思い当たる。冒頭のA氏はUAEの土着の名門の出自なので、国から無償で土地を与えられ、ホテルと見間違うような豪華な一軒家の持ち主だった。
そして自国民なら教育や医療も無償だ。その半面、真夏の炎天下、砂嵐が吹きまくる砂漠で低賃金の建設工事をしているのは主にインド人やパキスタン人だ。
前出の日本人経営者B氏は言う。
「日本人が日本人をだます話は本当によく聞きます。思うに、詐欺側は海千山千のインド系やヨーロッパ系の起業家をだます語学力も腕もない。その点、英語ができない世間知らずの日本人なら、架空の不動産投資に引っ掛けるのは簡単だと思っているのでしょう」
日本人が日本人を騙しぼったくる。生き残るための弱肉強食がドバイの現実なのだ。
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ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。
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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)
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