1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「業務時間外に上司から連絡が来る仕事」は危ない…産業医が見ればわかる"燃え尽き症候群"を生む職場の共通点

プレジデントオンライン / 2022年6月10日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

飲食店員や医療関係者などは「燃え尽き症候群」を起こしやすいと言われている。だが、産業医の池井佑丞さんは「最近では職種にかかわらず燃え尽きのリスクがある。個人だけではなく、職場全体で予防する意識を持った方がいい」という――。

■「燃え尽き症候群」は誰でもなりうる

新型コロナの流行以降、リモートワークや在宅勤務の環境が整えられ、オフィスに集まらなくても仕事ができるようになった方も多いと思います。今後もその流れは継続すると思われますが、その一方でメンタル面でのリスクが高まっていることに目を向ける必要があります。

オラクル・コーポレーションとWorkplace Intelligence社が日本を含む11カ国で実施した調査では、世界の労働者の84%がリモートワーク中にストレスやメンタルヘルスに問題を感じていることがわかりました。また、35%の人がリモートワークによって毎月40時間以上多く働くようになったと回答したそうです(日本オラクル「日本を含む11カ国、12,000人調査:82%が、人よりロボットがメンタルヘルスを上手く支援と回答」2020年10月8日)。

読者のみなさまは「燃え尽き症候群」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。(「バーンアウトシンドローム」とも呼ばれます。)それまで熱心に物事に打ち込んでいた人が、突然まるで燃え尽きてしまったかのように熱意や意欲を失ってしまう状態を表します。

努力に見合う結果が得られなかった、大きな目標を失った、など何かしらのきっかけがあります。ここがうつ病とは区別されるところであり、症状自体はうつ病と共通する部分も多いです。ストレス社会の現代において、燃え尽き症候群は誰にでも陥ってしまう可能性があり、今特にメンタル面での不調を感じていないからといって安心はできません。今回は燃え尽き症候群について、特に職場における燃え尽きに焦点を当ててお話しします。

■「燃え尽き」の症状には段階がある

まずは燃え尽き症候群の症状や特徴を確認しましょう。基本的には心身の過度な疲弊が継続した状態から、突然「燃え尽き」が起こるように見えます。しかし、一言に「燃え尽き」と言っても、症状は段階を踏んで進んでいくと言われています。燃え尽き症候群の研究で採用されている3つの尺度〔Maslach Burnout Inventory(MBI)〕に沿ってご紹介します。

1.情緒的消耗感

情緒的消耗感とは、“情緒的に”力を出し尽くしてしまったことによる消耗状態を指し、これは燃え尽きの初期段階の可能性があります。仕事や生活をしていく上で、どんな方でも疲労を感じることはありますが、情緒的消耗感と単なる疲労とは異なるものです。仕事がつまらなく思えて仕方ない、心身ともに疲れ果ててしまった、などと感じる場合は情緒的な消耗である可能性があります。

2.脱人格化

情緒的に消耗した状態が続くと次に起こるのが“脱人格化です。相手の人格を無視したり、思いやりをもたない割り切った対応をしたりするなど、周囲との関係において非人間的な行動をとってしまうのが特徴です。これ以上の情緒的な消耗を防ぐために働く防衛反応からくる行動であると考えられます。

3.個人的達成感の低下

情緒的消耗、脱人格化の状態のまま仕事を続けると、業務の質や、周囲からの評価も低下していきます。自身も仕事へのやりがいや達成感を感じられなくなったり、自信を失ったりするため、離職につながってしまう可能性も出てきます。

■「感情労働」の職業は燃え尽きのリスクが高い

では、どのような職場が燃え尽き症候群を起こしやすいのでしょうか。リスクとなりえる職場環境の特徴について見ていきます。

まず、職種としては「感情労働」にあたる職業では燃え尽きのリスクが相対的に高くなります。感情労働とは、自身の感情をコントロールして笑顔を作ったり、明るい声を出したりすること(表層演技)が当然の行為として求められる職業を指します。接客業などをイメージしていただくとわかりやすいと思います。飲食店員やホテル業、美容師、客室乗務員、医療・福祉や教育に関わる仕事、コールセンターなども感情労働にあたるといえます。

ワインを運ぶウエーター
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

表層演技を長時間強いられる生活を続けることがメンタル疾患のリスクを高めることに加え、顧客の反応などによっては努力や気配りに対して思ったような成果が得られないこともあり、燃え尽きてしまうケースが多くなります。

燃え尽き症候群が定義された当初は、これらの感情労働にあたる職業の人を対象に研究がされていました。しかし、最近では職種にかかわらず燃え尽きのリスクがあると考えられるようになっています。ほとんどの場合、働く環境にその原因を求めることが可能です。以下に挙げるような環境で働く方は、感情労働に該当せずとも注意が必要です。

■職務上の負荷、業務時間外の連絡、評価制度も引き金に

第一に、職務上の負荷が過重であることが挙げられます。仕事を強要されることや厳しいノルマが課されている、長時間勤務である、休憩が十分にとれないなどが該当します。業務の負荷が過度に高かったり、押しつけられた仕事をこなしたりする場合には、達成感や充足感よりも疲労感の方が上回ってしまい、心も体もすり減らすことにつながります。

業務時間外に上司からの連絡を受け対応してしまうなど、仕事とプライベートの境界が曖昧になっている場合も注意が必要です。また、家庭では介護をしているなど職場外での負荷が加わればさらに燃え尽きのリスクが高まると言われています。

次に、会社の評価制度のあり方についても燃え尽きのリスクとなりえます。労働者が評価を実感できなかったり、正当な評価が得られていないと感じたりする職場では燃え尽きが生じやすいです。前出のとおり、人に評価されないことは仕事へのモチベーションに影響します。やる気は上がらず、やりがいや自信の喪失を招くため燃え尽きへとつながってしまいます。

また、職種としては感情労働にはあたらないけれど、職場における対人関係から感情労働が生まれてしまうケースもあります。例えば、職場での人間関係に悩みを抱えている、同僚や上司にすぐに怒り出す人がいて、いつも気を使わなければならない、などの場合は感情労働にあたると言えます。

■燃え尽きる人は「無理をしていること」に気づかない

以上を踏まえ、燃え尽き症候群のリスクを減らすための視点から、以下にチェックポイントを挙げます。ご自身の職場環境をチェックしてみてください。

・各従業員の仕事量が管理されているか

上司やリーダーは、従業員それぞれの能力と抱えている業務、現在の進捗を把握しているとよいです。業務の負荷が特定の従業員へ偏っていないかを把握し、必要に応じて業務の割り当てを見直すことが求められます。優秀な従業員だからといって、一人に業務を集中させることは燃え尽きのリスクを高めるため避けなければなりません。

・休憩時間の確保を促しているか

燃え尽きの危険がある人は、自分が無理をしていることに気づいていないことが多いです。会社側から休憩時間の確保を推奨することはもちろんですが、休憩をとれていない従業員がいる場合は声かけするなど直接的な働きかけができるとよいです。

ノートパソコンの上にメガネを置いて、コーヒーで一服
写真=iStock.com/kyoshino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyoshino

■テレワークではコミュニケーションの機会がより重要に

・従業員同士のコミュニケーションがとれているか

燃え尽きは徐々に進行していきます。日頃から従業員間のコミュニケーションがとれていれば燃え尽きる前に気づける可能性が高くなります。ミスが増えた、対人関係を避けるようになった、皮肉な発言が増えた等、それまでとは異なる行動や言動が増えたなどの変化(燃え尽きの兆候の可能性があります)に気づけるような下地作りを日頃からしておくことが大切です。

テレワークなどを導入している場合には帰属意識が希薄になりやすいため、より意識的にコミュニケーションの手段や機会を設けることが大切になります。定期的に情報共有をする、ビジネスチャットツール等を導入しいつでも連絡が取れる環境をつくる、1on1ミーティングの実施などが挙げられます。

・従業員が評価に対して納得感を得られているか

人事評価制度は仕事へのモチベーション維持において重要な役割を果たします。評価基準が不明瞭であることや、成果のみが重視され過程に対する評価がされないことなどは従業員が不満を抱く原因となります。人事評価基準を公開することは義務ではなく企業の考え方に委ねられていますが、燃え尽きリスクの観点からは、評価基準を明確にし、評価のフィードバックが丁寧になされる方が好ましいと考えます。

ほとんどの場合、燃え尽き症候群から立ち治るには多くの時間を要するため、燃え尽きを生じさせないことが大切になります。燃え尽き症候群は個人ではなく組織の問題と捉えて、職場全体で予防の意識を持てるとよいでしょう。

----------

池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

----------

(産業医 池井 佑丞)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください