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肉やバターを食べる国ほど心臓病が多いはずなのに…フランスだけが相関から外れている意外な理由

プレジデントオンライン / 2022年6月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Roxiller

心疾患や認知症など、さまざまな病気を予防する効果が期待できる栄養素がある。サイエンスライターの佐藤成美さんは「それはポリフェノールだ。ワインやコーヒーに含まれており、1990年代から急速に研究が進んでいる。日本食でもよく食べる大豆にも含まれていて、特にみそ汁が健康に貢献しているのではないかと注目されている」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

■ここ30年で健康機能が注目されるようになったポリフェノール

ワインやコーヒーをはじめ、多くの食品に「ポリフェノール」が含まれていて、「体に良い」とよく聞きます。とはいえ、ポリフェノールとはいったいどんな物質で、どんな効果があるのでしょうか。

ポリフェノールは、よく知られている赤ワインや緑茶のほかに、コーヒーにも含まれています。かつては、コーヒーの飲みすぎは体に悪いとか、がんになるといわれていたのに、近ごろは「コーヒーは体に良い」というのだから、時代が変われば考え方も変わるものです。

これまで数々の食べものに含まれているポリフェノールが体に良いと話題になってきました。ココア、ウーロン茶などの飲料に、チョコレートやゴマなどの食品。それにタマネギやブロッコリーなどの野菜、リンゴやブルーベリーなどの果物。挙げるときりがありません。

挙げた食品の共通点として「植物もしくは植物が材料である」ということがあります。多くの植物はさまざまな種類のポリフェノールを合成します。科学者にとってその生理機能は興味深く、古くから研究されてきました。しかし、食品の成分としてはあまり好ましいものではありませんでした。

たとえば、緑茶の渋みはポリフェノールによるものですが渋すぎる緑茶は避けられますし、リンゴのポリフェノールは、果肉を茶色に変化させます。それが、1990年代に赤ワインに含まれるポリフェノールの動脈硬化予防の可能性が知られると、以降さまざまな食品のポリフェノールの健康機能が注目されるようになりました。それとともに、健康に良い成分として広く認識されるようになったのです。

■注目されるきっかけとなった「フレンチパラドックス」

そもそもポリフェノールとは何なのでしょうか。図表1に示したような構造的な意味から「ポリフェノール」と呼ばれます。

【図表1】ポリフェノールの構造例
出所=『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』

緑茶に含まれるカテキン、ブルーベリーのアントシアニン、蕎麦のルチン、大豆のイソフラボンはみな構造からポリフェノールに分類され、その種類は多く、すでに1万種以上が見つかっています。動けない植物にとって、ポリフェノールは紫外線や害虫などの外敵から身を守る大事な物質であると考えられています。

タンニンの渋味は虫や動物に食べられないようにするため、アントシアニンは紫外線をブロックするためと、植物によって種類や機能はさまざまです。その機能がヒトにとって有益ではないかと考えられるようになってきました。

これまで漢方薬や民間療法などで利用してきた植物の有効成分としてのポリフェノールが、研究されるようになったのです。ポリフェノールが注目されるきっかけになったのは、「フレンチパラドックス」です。フランス人は喫煙率が高く、肉やバターなど動物性脂肪もたくさん食べるのにもかかわらず、心疾患による死亡率が低いというもの。動物性脂肪の摂取量と心疾患の死亡率の高さには相関があるのですが、フランス人はこの相関から外れていることが知られていました(図表2)。

【図表2】フレンチパラドックス
出所=『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』

■赤ワインを飲むことで動脈硬化を予防できる

フランスのセルジュ・ルノーらは調査から、フランス人の心疾患による死亡率の低さは赤ワインの消費量と関係があることをつきとめました。動物性脂肪をたくさん摂取しても、赤ワインを飲んでいれば心疾患のリスクは高くならないと1991年に発表し、赤ワインブームが起きたのです。

1994年に赤ワイン摂取によりLDLの酸化が遅延したとする報告をきっかけに、赤ワインの動脈硬化に対する作用が次々と報告されました。動脈硬化についてはLDLがその要因とされますが、そのままでは動脈硬化の原因にはなりません。酸化され変性すると粥状(じゅくじょう)のかたまりになり、血管の内皮下に蓄積して、動脈硬化につながるのです。

一連の研究で、赤ワインのポリフェノールにはLDLの酸化を抑える効果があり、動脈硬化を予防できることが示されたのでした。動物性脂肪をたくさん食べるフランス人の体内には、おそらくたくさんのLDLがあるはずですが、赤ワインのおかげで酸化せずに済んでいると考えられています。

■ワインをたくさん飲めばいいわけではない

酸素は私たちが生存していくのに欠かせないものですが、体内に取り入れた酸素のうち2%ほどは「活性酸素」になるといわれます。活性酸素は、他の物質を酸化させる力の非常に強い酸素や酸素の誘導体のことをいい、ミトコンドリアでエネルギーを合成するときや紫外線でも発生します。

活性酸素は体内では、ウイルスや病原菌などを攻撃する役目を果たしていますが、増えすぎると正常な細胞や遺伝子も攻撃し、酸化させてしまいます。そのため体内には活性酸素から身を守る防御システムが備わっています。しかし、歳をとるにつれてこの力は弱まります。すると、脂質の酸化やDNAの損傷などが起こり、動脈硬化のほか、心疾患や糖尿病、がん、認知症などの発症につながるのではないかと考えられています。

この活性酸素による酸化を抑える抗酸化物質として、以前よりビタミンEやビタミンCの名が挙げられていました。その後、それらに匹敵する効果がポリフェノールにあることが明らかになり、さまざまなポリフェノールがクローズアップされるようになりました。

ポリフェノールが活性酸素を消去するメカニズムには、化学的な構造が関係していることがわかってきています。ただしポリフェノールの種類は多く、構造もさまざまで、抗酸化力や吸収や代謝のされ方が異なります。効果がわかったとしても、実際に生体内でどのような反応をして効果をもたらすのかといった作用機序の解明にまではなかなか至りません。

そのため、トクホに認可されている成分はありますが、どんなポリフェノールをどれくらい摂取すれば健康維持に効果があるのかは、はっきりとわかっていないのが現状です。ですから赤ワインのポリフェノールが体に良いからといって、飲みすぎたり、お酒に弱い人が無理して飲み続けたりすることはかえってよくありません。

■みそ汁にもポリフェノールがたくさん含まれている

ほかにもポリフェノールを含む食品はたくさんあり、日本人が昔からたくさん食べてきた大豆には、ポリフェノールの一種イソフラボンがたくさん含まれています。大豆、特にみそ汁の摂取が健康に貢献してきたのではないかと注目されています。

佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)
佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)

特定のポリフェノールを食べるのではなく、ポリフェノールのような抗酸化物を含む食品をバランスよく食べて、ポリフェノールの総摂取量を適度に増やすことが、健康食につながるのではないかと専門家は考えています。

岐阜県高山市の住民を対象にした疫学研究「高山スタディ」からは、ポリフェノールの総摂取量と死亡率の関係が示されました(Taguchi, C., Kishimoto, Y., Fukushima, Y. et al. Eur J Nutr, 2020)。この研究は、食習慣を含めた生活習慣と、死因や生活習慣病の発症との関係を明らかにすることを目的としたもので、「ポリフェノール総摂取量」と「全死亡率および、心疾患や消化器疾患による死亡率」は逆相関することが示されました。つまりポリフェノールの摂取量が多かった人ほど死亡率は低く、また心疾患や消化器疾患による死亡率も低かったということです。

まだ不明な点は多いのですが、ポリフェノールは食物繊維とともに、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素に続く栄養素になるのではないかと期待されています。

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佐藤 成美(さとう・なるみ)
サイエンスライター
東京都生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。生物や食品化学などの分野を主に、サイエンスライターとして執筆。明治学院大学、東洋大学、工学院大学非常勤講師。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)、『栄養学部 中高生のための学部選びガイド』『農学部 中高生のための学部選びガイド』(以上ぺりかん社)、『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など。

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(サイエンスライター 佐藤 成美)

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