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最悪の場合は死に至る…ラクに体重が減る「糖質制限ダイエット」に潜む危険すぎるリスク

プレジデントオンライン / 2022年6月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/busracavus

ラクに体重を減らせるとして「糖質制限ダイエット」が注目を集めている。コンビニなどでも「糖質」を表記する商品が目立つ。サイエンスライターの佐藤成美さんは「たしかに糖質制限をすれば体重を減らせるが、筋肉量の減少や脱水症状を引き起こすリスクがある。長期にわたって過度な糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もある」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

■油っぽい食べものはダイエットの敵なのか

さて、三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質について、複合的に考えてみたいと思います。エネルギー源となるこれらの栄養素の熱量は、タンパク質や糖質では1gあたり4kcalなのですが、脂質は9kcalと倍以上にもなります。

脂質のこの性質は生体内にエネルギーを蓄えるためには重要です。ただ、油といえば、連鎖的に太るとイメージされます。油や油を多く含む食べものはもっぱらダイエットの敵とされてきました。このようなイメージが染みついているのは、脂質のエネルギーが高いからなのでしょうか。

生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです。

さて、脂質は皮下組織や内臓のまわりにある脂肪組織に蓄えられます。脂肪組織は体温の保持や体の保護にも重要です。脂肪組織には脂肪細胞という脂肪をためておくための特殊な細胞があり、細胞質に脂肪滴という脂肪のかたまりをもっているのが特徴です(図表1)。

【図表1】白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞
出所=『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』

■肥満によって脂肪細胞はどんどん増えていく

脂肪細胞には、大きな脂肪滴がひとつある白色脂肪細胞と複数の脂肪滴がある褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞があり、役割が異なります。

皮下組織にあって、脂肪をためる役割をしているのは白色脂肪細胞です。褐色脂肪細胞は首や肩の周りなどに多くあり、脂肪を代謝させエネルギーを産生します。ベージュ脂肪細胞は動物が長期間、寒冷にさらされると出現するという特徴があり、やはりエネルギー産生機能をもっています。

白色脂肪細胞(以下、脂肪細胞)は、脂肪をためると直径70〜90µmほどの大きさになります(1µmは10-3mm)。赤血球の直径が8µmほどですから、脂肪細胞はかなり大きい細胞です。人類は、飢餓に備えて、このような細胞を獲得したものの、食べものが豊富になり、便利な時代となった今、栄養過剰摂取と運動不足でエネルギーは余るばかり。それでも、生体はエネルギーをためることはやめません。

その結果、脂肪細胞は脂肪をどんどん取り込むことになりました。風船がふくらむように大きくなり、最大では直径100µmをこえるほどの大きさになります。太るとき、脂肪細胞は、「数は変わらずにどんどん大きくなる」という説と「数が増える」という説がありました。最近は、肥満によって脂肪細胞の数が増えることが明らかになってきました。

■太る原因は糖質なのか、脂質なのか

脂肪細胞の数は成人で約300億個、肥満者で400億から600億個といわれます。そしてこれらの脂肪細胞は体内最大の内分泌器官でもあります。脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。

ここでまた本稿の冒頭の疑問点に戻ります。生物は余ったエネルギーを脂肪として蓄えるしくみがあり、それは脂質を含む食べものを食べたときばかりではありません。それなのに、脂質=太るというイメージが強いのはなぜでしょう。

からあげ
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります。

砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。

たとえば、「お正月におもちを食べすぎて太った」、なんて会話がよくかわされます。おもちはデンプンからできていて、脂質はわずかしか含みませんが、食べすぎれば体脂肪が増えます。

■糖質はどうやって代謝されているのか

糖代謝について少し説明しておきましょう。デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。

細胞に取り込まれたブドウ糖は、クエン酸回路、電子伝達系を経て、ATP(アデノシン三リン酸)が合成されます。ブドウ糖が二酸化炭素と水になるだけの反応ですが、何段階もの複雑な過程を経ることで、非常に効率よくエネルギーを引き出しています。糖代謝はさまざまな代謝の中心で、代謝の途中でできる中間代謝産物が脂質やタンパク質などほかの代謝経路とも相互に関わりあっています。

たとえば、ブドウ糖は解糖系の第1段階として、グリコーゲンに変化しやすい状態に変わり、ここでグリコーゲンといったりきたりします。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。

■なぜビタミン剤は疲労に効果があるのか

脂質とタンパク質の代謝についても見てみましょう。

中性脂肪はグリセロールと脂肪酸から構成されていますが、グリセロールは解糖系と関わっており、脂肪酸はアセチルCoAという物質でクエン酸回路と関わっています。タンパク質はアミノ酸に分解されると、アセト酢酸やピルビン酸を経てアセチルCoAになります。これらの中間代謝産物を介して、タンパク質の代謝と糖代謝も関わっています。

このことは、脂質と糖、タンパク質が互いに変換できることを意味します。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます。

生体内の代謝は化学反応の連続で、さまざまな代謝経路が相互に関わりながら非常に複雑なネットワークをつくっています。ネットワークを示した代謝マップは、東京など大都市の路線マップよりも複雑です。そして、このネットワークが間違えずにスムーズに機能することが「体調が良い」ことになるのです。

三大栄養素の代謝にはビタミンが必要で、不足すると代謝が機能しにくくなります。ビタミン剤やビタミン入りのドリンクが疲労に効果があるといわれるのは、必要なビタミンを補い、代謝を促すからなのでしょう。

サプリメント
写真=iStock.com/Farion_O
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farion_O

■過剰な糖質制限ダイエットは低血糖を招く

ここからは、低糖質ダイエットや糖質制限ダイエットについて詳しく考えてみたいと思います。

糖質とは炭水化物のうち、エネルギー源になるデンプンやその構成要素でもあるブドウ糖などをいいます。糖質制限ダイエットのブームで、糖質という言葉の意味が広く知られるようになったものの、太る原因や健康に悪いというイメージが強まりすっかり悪者になってしまいました。

体形を気にして頭を抱える女性
写真=iStock.com/AntonioGuillem
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AntonioGuillem

糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です。

糖質を控えるだけなら比較的簡単そうだし、おまけにカロリー制限はなく肉も満腹になるまで食べてもいい、ということで飛びつきたくなる気持ちもわかります。ただ、主要なエネルギー源である糖質を控えたら、どうやってエネルギーを得ることになるか、考える必要があります。

脂質やタンパク質は糖質とともにエネルギーになります。糖代謝はエネルギー代謝の中心にあり、脂質やタンパク質の代謝と密接に結びついており、糖質が不足してもエネルギーをつくるしくみがあります。それなら糖質制限しても問題はなさそうと思ってしまいます。ところが、困ったことに、脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます。

もし、低血糖になれば脳はその影響を強く受け、昏睡(こんすい)状態になる危険もあり、時には死を招きます。

■意識障害や脱水症、動脈硬化のリスクが高まる

低血糖を避けるために体内では、まずは肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を補います。グリコーゲンはデンプンと同様ブドウ糖がつながった分子なので、分解すればブドウ糖になります。とはいえ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます。

使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です。

血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。このような体を守るしくみを知ったうえで糖質制限ダイエットについて考えてみる必要があります。

糖質制限をすると脂肪細胞の分解ということは起こるので、やせることはかなり期待できます。ただ、やせたといってもぬか喜びになるかもしれません。極端な糖質制限を続ければ筋肉まで分解され、生体にとって危険な状態になるからです。

脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります。

■長期の糖質制限ダイエットはで死亡リスクが高まる可能性も

実は飢餓や糖尿病でも、これと同じ状態が起こります。糖尿病は、糖代謝が制御できず、高血糖状態が続く病気です。糖尿病になると、体内にブドウ糖があってもブドウ糖を利用できなくなり、エネルギー不足に陥ります。

佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)
佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)

糖質制限をしたときに起こるメカニズムはまだ十分には解明されていません。糖質制限をしてやせる理由のひとつに、ケトン体が栄養シグナル分子として、絶食などブドウ糖を利用できないときのエネルギー利用の調節にはたらいているためではないかと示唆されています。

一方、長期にわたって糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もあります。糖質制限の効果には賛否両論があります。良い面も報告されていると同時に弊害も報告されています。健康になるのかどうかは今のところは疑問です。糖質をとりすぎている人は減らす必要はありますが、ブドウ糖は筋肉や脳を動かすエネルギー源として欠かせないものなので、適度に摂取することは必要です。

やりすぎるとリスクも増すことを理解しながら慎重に、というのはどのダイエットにも言えることなのだと思います。

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佐藤 成美(さとう・なるみ)
サイエンスライター
東京都生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)。生物や食品化学などの分野を主に、サイエンスライターとして執筆。明治学院大学、東洋大学、工学院大学非常勤講師。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)、『栄養学部 中高生のための学部選びガイド』『農学部 中高生のための学部選びガイド』(以上ぺりかん社)、『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など。

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(サイエンスライター 佐藤 成美)

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