転職者は過去10年で3倍に激増…いま人気のコンサル業界で生き残れる人とそうでない人の決定的な違い
プレジデントオンライン / 2022年6月6日 12時15分
■年収や漠然とした憧れでコンサル業界に足を踏み入れてはいけない
コンサルティングファームの価値は、事業会社(クライアント)が事業拡大を目指す上で、自分たちだけでは解決困難な課題に対して提案や実行の支援を行うことであり、これは今も昔も変わりません。しかし、この10年でその仕事内容は大きく変わりました。そして、次の10年でもまた大きく変わることが予想されます。
このコンサル業界の変化、そしてそこで求められる一人ひとりへのコンサルタントへのニーズの変化を正しく理解せずに、コンサルに対する憧れや、年収などの足元の実利だけでコンサルタントというキャリアの選択をしてしまうと、10年後にはコンサル業界で生き残ることが難しくなってしまう可能性もあります。
■少数精鋭から一変、デジタル化の影響を受けて大量採用
コンサルティングファームというと、少数精鋭というイメージを持っている方も多いと思いますが、近年、各ファームは急激にその規模を拡大しています。例えば、アクセンチュアの日本法人の社員数は2014年までは5000人前後で推移していましたが、2020年には1万5000人を超え、6年間で約3倍の規模になりました。また、デロイト・トーマツ・コンサルティングもおよそ4000人である社員数を5年後に1万人にする計画を発表しました。
この背景は言わずもがなデジタルであり、連続的なデジタルの波が各ファームの拡大の後押しをしています。例えば、基幹システムの刷新、システムのクラウド化、アプリのネイティブ化、そしてコロナ禍により加速したDX化などがデジタルにおける大きなテーマの例です。
デジタルの波によってコンサルティングファームのプロジェクトの支援領域は、中期経営計画、事業戦略やあるべき組織体制を描くといったいわゆるピュア戦略から、最新テクノロジーの活用や経営体質の改善へと広がりました。また、プロジェクトが絵に描いた餅に終わらないよう、ITの実装や実行まで一気通貫した支援への需要が大きくなり、それまでSIerの仕事であった開発や保守運用までもコンサルティングファームが担うようになり、その規模を拡大しています。
転職者数という観点でもコンサルティングファームの拡大は見て取れ、10年で約3倍になりました。特に、SIer出身者などのデジタルに知見のある人材の採用が拡大しています。
■これまで求められていたのはデジタルの知見を持つ人材
現在のIT化の大きなテーマはやはり働き方改革を起点としたDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進です。DXと言うとすごそうな響きがありますが、実際はまだまだ黎明(れいめい)期であり、確立されたITツールやパッケージは存在せず、どのコンサルティングファームも試行錯誤しながらユースケースを作っている段階です。
つまり、トランスフォーメーション(企業の変革)をどの技術を使えばよいのか、どのITツールを使えばよいのかを探っている段階です。
この段階においては、デジタルのバックグラウンドを持った人材による技術やITツールのソリューション選定や、クライアントのやりたいことをテクノロジーでどこまで実現できるのかといった話をするための目利きができることが非常に大切です。そのため、単なる技術者ではなく、確かなデジタルに対する知見や、最新のテクノロジーやビジネスに対しての興味が強い人材が求められています。
ここまで、デジタルの波によってコンサルティングファームの支援領域がピュア戦略から、最新テクノロジーの活用や経営体質の改善へと広がり、デジタル人材への需要が大きくなったとお伝えしました。
それでは、DX以前のデジタル人材への需要と、これからのデジタル人材への需要は何か変わるのでしょうか。
この問いに答えるためには、今までのIT化とDXの違いを確認する必要があります。
■ネットフリックスはDVDレンタル→動画見放題で大成功
まず、今までのIT化は「業務の効率化やコア・コンピタンスの強化をデジタルによって実現する」ことに主眼が置かれてきました。支援するコンサルタントには、デジタルの知見をベースに、業界や業務に関する知識が求められてきました。
ERPシステムやSFAパッケージの導入、もしくはそれらのクラウド化などはIT化の好例です。
その一方で、DXは「ビジネスモデルそのものをデジタルの力によって変革(トランスフォーメーション)」することが目的です。その目的においては、コンサルタントには、デジタルの知見に加えて、(業界や業務に関する知識よりも)企業を真の意味で変革することが求められます。
例えば、ネットフリックスはDVDの配送レンタルで成功した企業ですが、現在はインターネットを通じて動画見放題を提供するというサブスクリプションモデルにトランスフォームしています。
このような事例もあるものの大局的には、今はまだDXの黎明期ですのでデジタルの知見が重視されます。しかし、DXにおいてもITツールのパッケージ化が進み、5年後、10年後には誰でも扱えるようになるとデジタルの知見の重要度は下がります。また、コンサルタントがある程度のデジタルの知見を持っていることも当たり前になっていくと予想されます。
そうなると、デジタル知見よりも、いかに変革する力をもっているかが一人ひとりのコンサルタントに問われるようになると予想されます。
もちろん、すべてのDXがパッケージ化・定型化されるわけではなく、経営に近い部分を中心にスクラッチ開発や大きなカスタマイズが発生するはずですので、デジタルの知見が重視される領域は残りますが、大きな流れとしてはデジタル人材からトランスフォーメーション人材へ需要がシフトしていくでしょう。
■デジタル人材のままだとコンサル業界での生き残りは困難
DXによる今後起こる人材需要の変化をまとめると、しばらくはD(デジタル)人材の需要が大きいものの、5年、10年かけてX(トランスフォーメーション)人材へ需要がシフトしていきます。コンサルタントもこの需要の変化に合わせて、自分のスキルセットをアップデートしていかなければ、だんだんとその市場価値が下がってしまい、最後にはコンサル業界を後にしなければいけなくなる可能性もあります。
では、コンサルタント自身は、どのようにD人材からX人材へと変わっていけばよいのでしょうか。
まず、前提としてデジタル知見を常に最新のものにしていくという努力が必要です。繰り返しになりますが、X人材にはデジタル知見が不要かと言うとそうではなく、D人材だろうがX人材だろうが、コンサルタントにとってデジタルが標準装備の時代になります。そういった意味で、もちろんデジタル知見はこれからも重要です。
その上で、身に付けなければいけない力が、企業を変革する力です。これは、素晴らしいアイデアを生み出す力ではなく、人や組織を動かす力です。もう少し具体的に言うと、プロジェクトメンバーやクライアントに顔が利き、そして本当の意味で組織を変えるんだという強い思いを持ってクライアントの社内を走り回るような力です。
これは、実際にやってみないと身に付かないスキルです。組織を変えるためにはトップの考え方を深く理解した上で、現場を動かす経験を積む必要があります。デジタル化に限らず、こういった変革は組織に一時的に負荷がかかるものですので、それに対して保守的になる方は一定数存在します。そういった方をいかに巻き込むか、また社内政治のパワーバランスやキーパーソンを見極めながらコミュニケーションをとる力も必要です。
また、戦略・業務・ITと切り分けるのではなく、変革に必要な要素すべてを一気通貫して支援できる環境に身を置くことも重要です。
■企業を変革する力を養うスキルを磨き続ける必要がある
これまでの10年でコンサル業界は大きく変化しました。戦略コンサルタントとして活躍されていた方が、デジタル化の波に対応できず、プロジェクトへのアサインが減り、年収も大きく減ってしまったといった話も耳にします。これは戦略コンサルスキルがあるだけでは生き残ることができないことの一つの事例であり仕方がないことだと感じます。
これからの10年はさらに激しい変化が予想されます。冒頭でも述べたように、コンサルに対するイメージや足元の実利だけでコンサルタントを目指すのではなく、先を見据えたキャリア選択をしていただきたいと思います。
また、コンサルタントになったからといって、安心することなく、DX時代を生き抜くために、時代の潮流に合わせてスキルを磨き続けていくことが必要です。
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ヘッドハンター、アサイン取締役
2021年ビズリーチ「ヘッドハンター・オブ・ザ・イヤー」受賞。 総合系コンサルティングファームに入社し、大手金融・流通業界をクライアントに、ITから戦略案件まで幅広く経験。その後、マーケティング支援企業を経て、株式会社アサインを共同設立。 コンサルティング・ポストコンサルティング領域に特化したヘッドハンターとして、若手層からパートナー層まで幅広く支援。 一人一人の価値観からキャリアを描くことを重視し、伴走型のキャリア支援を行う。
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(ヘッドハンター、アサイン取締役 奥井 亮)
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