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「ロケットが好きな女性って何か変だよね」元全国紙の女性記者が忘れられない男性幹部の衝撃発言

プレジデントオンライン / 2022年6月3日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mihajlo Maricic

■なぜ「昭和のセクハラ発言」は後を絶たないのか

「もはや昭和の時代の想定が通用しない」――。政府が6月3日に決定した、女性活躍のための「女性版骨太の方針2022」は、人生100年時代の女性の人生を、こう表現する。

「昭和の時代」とはどんなものだったのか。私は昭和時代の末期に、全国紙の記者として採用された。他社も含めて女性記者はまだ少なく、物珍しさもあってか、男性たちから女性に対する心ない声をたくさん聞かされてきた。それは平成になっても続いた。それらの言葉の中には、傷つける意図ばかりではなく、むしろ喜ばせようとか、笑わせてやろうなどという無意識から出てくるものもあったように思う。

官庁の記者クラブ詰めをしていた時、仕事ができる女性官僚を「彼女は男ですから」と言う役所の幹部がいた。その女性官僚への褒め言葉と受け止めたが、女性は仕事ができないと言わんばかりの表現がまかり通っていた。そういう体質があるためか、キャリア女性官僚が少ない官庁だった。だが、それを問題と受け止めるのではなく、むしろ「自分たちは男にしかできない仕事をしている」と、誇っているようだった。

■「ロケットって男性のアレに似てるじゃない」

科学技術関連学会の会長記者会見に初めて参加した時には、開始前に事務局の男性から突然、耳元でささやかれた。「ウチの会長は女らしい人が好きですから」。「はぁ?」。相手の意図が分からなかった。

世間でよくいう「お手柔らかにお願いします」を、女性向けに「翻訳」すると、こうなるのだろうか。男性記者には「ウチの会長は男らしい人が好きですから」とは、まず言わないだろうに。

私は長年、ロケットなどの宇宙開発を取材しているが、こんなこともあった。ある組織の男性幹部を取材している時、その男性が笑いながら私にこんなことを言った。

「ロケットが好きな女性って何か変だよね」
「えっ、何が?」
「だってロケットって男性のアレに似てるじゃない。それを好きなんでしょ。フフフ……」

本人はしゃれた冗談を言ったつもりだったようだが、こちらは気持ちが悪くなった。

なぜあえてこうした女性が不快になるような性的表現や差別的にもとれる表現を言い募るのだろう。そしてそれはなぜ令和の今も続いてしまっているのだろうか。

■「生娘シャブ漬け」をそのまま報じない新聞

例えば4月に明るみに出た大手牛丼チェーン・吉野家の常務(当時)の発言。「生娘をシャブ漬け戦略」「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする」などと口にし、直後に解任された。

ネット社会の今、ニュースの第一報は、ネットやSNSで知る人が多い。では、その後に報じることになる新聞などの、伝統的なニュースメディアはどうか。

吉野家元常務発言をめぐっては、報道ぶりが分かれた。「シャブ漬け」なども含めて報じるところがある一方、そのままでは不快感を与えると判断したのか、表現を柔らかくするところも目立った。

例えば「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子」を「地方から出てきたばかりの若い女の子」に。「無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」は「若い女の子を牛丼中毒にする」といった具合だ。刺激的な言葉を避けている様子が分かる。

だが、これではどこに問題があるのか、いかに女性に不快感を与えているのかが、伝わらない。SNSで広がっているあの問題のことかどうかも分かりにくい。

「口で言われるだけなら実害はない」とか、「言葉狩り」と批判されるかもしれない。ただ、気になるのは、そうした問題は、もっぱらネットを通じて明るみに出たり、広がったりしていることだ。

■表現の自主自制がセクハラ発言を助長している

新聞のような昔からあるメディアは、「品がない」「読者に不快感を与える」「誤解や批判を招く」などと配慮して、きわどい発言をマイルドな表現に書き換えたり、伝えなかったりする傾向がある。

その結果、人々の関心事や騒動への過小評価へとつながっていく。一方、暴言や失言をする男性側には「どうせ取り上げないだろう」「マイルドにするだろう」との安心感を与え、それが問題発言の温床となっているように思う。

5月末には週刊文春が、細田博之衆院議長が女性記者にセクハラ発言した、と報じた。細田議長は全面否定し、週刊文春に抗議文を送り、訴訟も検討するという。この件に限らず、セクハラ問題が取り沙汰される背景には、マスメディアの抱える構造的問題もあると思う。特に密着取材が不可欠な政治家の取材は、セクハラを生みやすい土壌があるように感じる。

「政治家はきれいな若い女性が好き」という「定説」が流布しており、メディアの側も、それを意識しているように見える。「政治部にきれいどころを集めている」「自民党幹部担当の女性記者は美人ぞろい」などと言われている会社もある。

女性記者の側も、今後の取材活動を考えると、相手の無礼で無神経な発言にいちいち反論するわけにもいかず、そうした構造は温存される。一方、男性記者からは「政治家は女性にばかりネタを教える」などと嫉妬され、新たなセクハラや女性記者いじめなどにつながることもある。

■メディアは昔も今も圧倒的男性社会

私は新聞記者の仕事を婦人部(現・生活部)からスタートした。生活関連や女性問題などを取材する部署だ。当時、先輩女性記者たちが問題視していたのは、育児疲れなどで子どもを殺したり虐待したりしてしまった母親の事件などで、母親だけを責め立てる風潮だ。子育ては、母親だけでなく、父親にも責任がある。そのことを指摘できたのは、比較的、女性の多い部署であったからではないかと思う。数は力の源でもある。

日本新聞協会の調べによると、2001年には10%余だった女性記者は、21年に24%近くにまで増えた。だが、記事が掲載されるシステムを考えると、それだけで女性の意見や見方が反映されるわけではない。記者が取材し、原稿を書き、その後、デスクが原稿に手を入れる。部長、編集局幹部などの視点も入る。

マイクを向けるインタビュアーと応える市民
写真=iStock.com/wellphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wellphoto

日本マスコミ文化情報労組会議の、2020年3月の発表によると、19年4月現在、女性の「管理職数(デスクやキャップなど社内で指導・教育的立場にある従業員を含む)」は、8.5%と少ない。

政府が2003年に掲げた、指導的地位にある女性を「20年までに少なくとも30%程度に」する目標にはほど遠い。指導的地位の主役は圧倒的に男性。これではなかなか女性の視点や発言力を発揮できない。

■女性登用を躊躇する「まだ育っていない」のウソ

政府の「30%目標」は結局、頓挫した。そして「30年代には指導的地位にある人々の性別に偏りがない社会を目指す」としたうえで、「20年代の可能な限り早期に指導的地位の女性の割合を30%程度」と、目標を先送りした。だが、現状を考えると先行きは楽観できない。

もちろん問題発言を、すべて記事にしてそのまま伝えればいいわけではない。発言の真偽確認や、人を傷つけたり、差別的だったりするかなどの判断が必要だ。しかし、女性に関することになると、判断に自信が持てないためか、無視、マイルド化、紋切表現に逃げ込んでしまいがちだと感じる。

男性社会の決まり文句のひとつに、女性登用を躊躇する理由として「まだ育っていない」がある。だが、男女年代を問わず多様な価値観や受け止め方、考え方があることを想像したり受け入れたりするところまで、おじさんたちは「まだ育っていない」ように見える。

女性に関する問題発言だけではない。今や情報はSNSですぐに拡散し、動画で確認することもできる。その中にはデマや捏造(ねつぞう)、誤解に基づくもの、情報の質よりも短期的な刺激を求めるものなどもあるだろう。

■“報道のズレ”もあらわにされる時代

しかし、首相などさまざまな人の記者会見、国会の議論、政府審議会などいろいろなものがネット配信される。マイクに向かって発信する言葉だけでなく、表情やしぐさ、会見前後の様子、審議会で他人の発言の時につまらなさそうにあくびをしている有識者なども、分かってしまう。記者の質問や会見場の様子も目撃される。かつてはベールに包まれていたものが、可視化されSNSで広がる。新聞などが伝えるものとの乖離(かいり)もあらわにされる。

記者会見では、ずっと下を向いて官僚の用意した紙を読み上げるばかりで、自分の言葉で国民に語ろうとしない政治家が、優れた能力を持つかのように取り上げられた記事を見ると、その判断基準を問いたくなる。報道の「根拠」を自分の視点で検討し、「裏を取る」ことも可能な時代になっている。

そんな中での懲りない昭和のおじさん的言動。このままでいいはずはない。

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知野 恵子(ちの・けいこ)
ジャーナリスト
東京大学文学部心理学科卒業後、読売新聞入社。婦人部(現・生活部)、政治部、経済部、科学部、解説部の各部記者、解説部次長、編集委員を務めた。約35年にわたり、宇宙開発、科学技術、ICTなどを取材・執筆している。1990年代末のパソコンブームを受けて読売新聞が発刊したパソコン雑誌「YOMIURI PC」の初代編集長も務めた。

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(ジャーナリスト 知野 恵子)

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