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習近平政権が続く限り、中国では稼げない…世界の一流企業が次々とインドに進出するワケ

プレジデントオンライン / 2022年6月6日 9時15分

首脳会談で握手する岸田文雄首相(右)とインドのモディ首相=2022年5月24日午後、東京・元赤坂の迎賓館[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

■「敵の敵は味方」の論理で「クアッド」を形成

世界の政治、経済、安全保障におけるインドの重要性が急速に高まっている。第2次世界大戦後、初代首相のジャワハルラール・ネルーが非同盟主義を掲げたことに基づき、インドは中立主義をとってきた。しかし、ここにきてインドが世界の中で中立的な立場を貫くことは徐々に難しくなっている。

1950年代以降、インドは中国と国境をめぐって対立してきた。近年は中国がインド太平洋地域への進出を強化し、影響力の拡大に取り組んでいる。インドは、敵の敵は味方、のロジックに基づいて日米豪の4カ国と戦略的な枠組みである“クアッド”を形成し、自由で開かれたインド太平洋地域の実現を目指している。

足許では、インドに事業拠点を移す、あるいは事業運営体制を強化する企業が増えている。経済面からみるとインドは自由資本主義陣営に仲間入りしつつある。それはインドのみならず、世界経済の安定と成長に重要だ。

その一方で、インドはエネルギー資源の調達などにおいてロシアとの関係も重視してきた。中国への対抗と国内の需要を満たすために、インドにとって対ロ関係は重要な役割を担っている。ウクライナ危機をきっかけに世界経済の成長率低下と物価高止まりの同時進行が懸念される中で、インドが自由資本主義陣営との関係強化に集中できるか否かは、今後の世界情勢に決定的インパクトを与える。

■ゼロコロナ政策に振り回されてはたまらない

ウクライナ危機が発生して以降、世界の主要な企業と投資家が急速にインドに資金をふりむけ始めた。資金の主な流出元は中国だ。2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから5月末までのインドと中国の代表的な株式インデックスの推移を確認すると、その状況がよく分かる。中国では上海総合指数が約7%下落した。対照的に、インドのSENSEX指数は1.9%上昇した。

世界の主要投資家や企業経営者は中国経済の先行きをこれまで以上に不安視し始めている。5月31日に中国日本商会が公表したアンケート調査(新型コロナ対策がビジネスに与える影響調査)の結果ではゼロコロナ政策によって“投資が遅れた”と回答した企業が8%、“投資が減少した”との回答は7%だった。

さらに、影響が“まだわからない”が54%に達した。海外企業にとって共産党政権のゼロコロナ政策に振り回されることは、中国における最大のリスクと化している。感染が再拡大すれば共産党政権はゼロコロナ政策を再度徹底するだろう。

■反対にインドの重要性が急上昇している

社債デフォルトの増加や住宅価格の下落など不動産バブル崩壊の影響も加わり、中国経済の先行き見通しは悪化している。それに加えて、中国は台湾の近海で軍事演習を繰り返している。中国軍は米国に対して、軍事演習は台湾との関係強化に対する警告であるとの声明を出した。

世界の半導体供給の64%がTSMC(台湾積体電路製造)をはじめとする台湾企業に依存していることを考えると、今のうちに世界各国の企業は台湾有事リスクへの対応を徹底して進めなければならない。5月23日に共産党政権は減税の積み増しなど追加の景気刺激策を取りまとめたが、中国の先行き懸念は高まっている。

そうした危機感の裏返しとして中国から資本が流出し、その多くがインドに向かっている。4月にはインテルのゲルシンガーCEOがモディ首相と面会した様子をツイートした。インドの半導体産業が十分に育っていないことを考えると、長めの目線で地政学リスクの分散、サプライチェーンの安定のために脱中国・インドシフトを急ぐ企業は増えている。当面、西側諸国からインドへの資金流入は増加する可能性が高い。世界経済におけるインドの重要性は急上昇し始めた。

■工業化が遅れているインドのいびつな経済構造

先進国からの直接投資の増加はインド経済の、より持続的な発展に不可欠だ。第1、2、3次産業別にGDPの構成比を見ると、インドの経済構造はいびつだ。政策の観点から考えると、モディ政権がどのようにして軽工業をはじめ第2次産業の育成のために直接投資を誘致するかが経済政策の注目点になるだろう。

米中央情報局(CIA)が公表している“ワールドファクトブック”によるとインドのGDPに占める第1次産業(農林水産業)は15.4%、第2次産業(製造業、建設業など)は23%、第3次産業(IT通信などのサービス業ほか)は61.5%だ(2016年)。

これがインドネシアでは第1から3次産業の順番に13.7%、41%、45.4%(2017年)、中国では7.9%、40.5%、51.6%(2017年)、マレーシアでは8.8%、37.6%、53.6%(2017年)である。傾向として多くの新興国では第1次産業から第2次産業に生産要素が再配分されて経済が発展し、その上で第3次産業が成長する。これは経済発展の理論と整合的だ。

■自由資本主義圏への仲間入りを進めつつある

それと異なり、インドは第1次産業から、第2次産業を飛び越えるようにして第3次産業が成長した。第2次産業の厚みを欠いたいびつな経済構造だ。その要因の一つとして、数学など自然科学分野に秀でた人材が豊富であるため、モノを作るよりも、ソフトウエア開発などを人々が志向しやすいことが影響しているだろう。

製造業の根源的な役割は無から有を生み出すことにある。エネルギーや鉱山などの資源はそのままでは使えない。精製して石油化学製品や粗鋼が生産されることによって日用品や衣服、靴、家具、耐久財などが生産され、人々の生活水準が高まるとともに雇用・所得環境が向上する。工業化を進めることは消費環境の安定感を高め、経済成長をさらに加速させるだろう。

そう考えると、中国からインドへの資本流入の加速はモディ政権にとって重大なチャンスだ。そうした考えがインド太平洋経済枠組み(IPEF)参加につながった。経済面でインドは自由資本主義圏への仲間入りを進めつつある。

2013年4月20日のニューデリー
写真=iStock.com/heckepics
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/heckepics

■中国より安い労働コスト、消費市場としての伸びしろもある

5月24日に東京で開催された日米豪印のクアッド会合に、インドのモディ首相が対面で参加した。インド太平洋地域の安定を目指して中国に対抗するためにインドと主要先進国の足並みは徐々に揃(そろ)いつつある。政治面でもインフラ投資支援の強化など主要国との連携が加速する。別の見方をすれば、世界経済のダイナミズムの中心地が、中国からインドに急激にシフトし始めた。

2020年8月に融資規制が実施されて不動産バブルが崩壊した結果、中国経済の減速傾向は鮮明だ。高度経済成長期から安定成長期へ、中国経済は曲がり角を曲がった。一人っ子政策による少子化と高齢化の深刻化によって中国の生産コストは上昇する。共産党政権によるIT先端企業などへの締め付け強化は企業の事業運営の効率性を削ぐ。

その一方で、インドの労働コストは中国を下回る。2020年代後半にインドは中国を抜いて世界最大の人口大国になり、2050年まで人口は増加傾向で推移すると予想されている。生産拠点としてだけでなく、中長期的な消費市場としての成長期待も高い。低労働コスト、インフラ投資、消費拡大などインド経済の成長を取り込むために直接投資を増やす海外企業は増えるだろう。

■ロシア頼みの原油調達を転換できるか

そうした展開が予想される中で、モディ政権がどのように非同盟主義を修正し、自由資本主義圏の国々との関係強化を目指すかが注目される。IPEF参加の一方で、インドは国内のエネルギー需要を満たしインフレ圧力を抑えるために割安なロシア産原油の輸入を続けている。安全保障面でもインドはロシアから兵器を購入してきた。ただし、ロシアへの制裁強化などを背景にインドは兵器の調達チャネルの多様化を目指し始めたようだ。

一つのシナリオとして、インドはより自由資本主義圏の国々との関係強化を志向し、国内の工業化を進めて経済と社会の安定を目指そうとするだろう。それとは逆に、インドがエネルギー調達などの面でロシアへの依存から脱却することが難しい場合、クアッドの連携強化は難しくなるかもしれない。わが国はインドの工業化の推進を支援するなどして迅速に信頼関係を強化し、インドと自由資本主義陣営との関係強化に取り組むべきだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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