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「エコな服」は、実は環境に悪い…関係者は絶対に口にしないファッション業界の不都合な真実

プレジデントオンライン / 2022年6月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NATALIA KHIMICH

いまファッション業界では「エコ」や「リサイクル」をうたった商品が人気だ。しかし、そこには思わぬ落とし穴がある。ライターの南充浩さんは「一部のメーカーでは、リサイクル素材になる『クズ』を確保するために、不要な糸を増産している。『環境に良い服』を買ったとしても、本当に環境に良いとは限らない」という――。

■環境問題を一気に解決できる技術はない

現在、アパレル業界では「エコ」や「リサイクル」への注目が高まっています。なぜなら、そうした価値のある商品が、よく売れるようになっているからです。

しかし、結論から言うと、世間の皆さんが期待するほど、環境問題を一気に解決できるような技術は繊維・アパレルの分野において確立できていません。

環境対策に取り組むことは必要ですが、メーカーの現場担当者や部長クラスには、厳しい環境基準やリサイクル素材について、「オフレコ前提」で疑問を呈する人が多いのです。

さらに、あたかも環境に配慮しているかのようなポーズをとる「グリーンウォッシュ」行為も業界内で少なからず見受けられます。

良くも悪くも環境問題への関心が高く、その結果、繊維・アパレル業界のあちこちで不具合が出ているのです。今回はそうした現状をお伝えします。

■リサイクル素材に明確な規格はない

素材メーカーや生地問屋、商社などは、リサイクル素材の企画、製造に非常に注力しています。ですが、素材の規格は会社によってバラバラで、現場や消費者に混乱を与えているのが現状です。

例えば、「リサイクルコットン」は本来、原綿を綿糸に紡績する際に出るクズ(落ち綿)を拾い集めて、それを再度紡績して綿糸にしたものです。

似た商品で、使用済みの綿製品を崩して綿糸にしたものは「反毛(はんもう)」があります。反毛は綿だけでなく、ウール生地、複合生地でも行われる手法です。いずれの場合も元の生地より相当表面の粗い生地になります。

この反毛と「リサイクルコットン」は別物ですが、同一商品として販売されていることがあるのです。

ついでに、代表的な2つのリサイクル素材を紹介します。

大手量販店でもよく見かける「リサイクルポリエステル」(「再生ポリエステル」とも)は、ペットボトルやポリエステル生地からポリエステル繊維に再加工したものを指します。

「リサイクルナイロン」は、ナイロン糸を生成する際に出るクズを拾い集めて再度ナイロン糸にします。製造の原理はリサイクルコットンと似ています。

ナイロンはポリエステルと同じく石油を原料とした化学合成繊維ですが、使い古したナイロン生地や他の石油製品からの再生はできません。

■組成基準もあいまい

品質に関しても、リサイクル素材には曖昧(あいまい)な部分があります。

大手合繊メーカーの社員Aさんは「リサイクル生地ブランドの問題点は、リサイクルの定義が各社バラバラであること」と指摘します。

いまの市場に「リサイクル糸100%」という生地はありません。製品の質を担保するため、必ず新品の糸とリサイクル糸を混ぜて生地化します。その際、例えば「リサイクル糸5%混」という低配合でもリサイクル生地とうたえてしまうのです。

Aさんは「リサイクルナイロンを作るために新品のナイロン糸を増産している」とも証言します。

先述したように、リサイクルナイロンは、ナイロン糸を製造する際にこぼれたクズを拾い集めて作ります。その「クズ」のために、新品のナイロン糸を増産しているというのです。

増産された新品のナイロン糸は、在庫として管理されます。受注がなければ、不良在庫となり、いずれ破棄されます。それが環境に悪い影響を与えるのは言うまでもありません。

■現在のリサイクル素材は質が悪く高価

リサイクル生地で興味深いのは、使用済みペットボトルから衣類を作るリサイクルポリエステルの技術が、実は20年ほど前からあったことです。にもかかわらず、現在に至るまで広まりませんでした。

それは、リサイクルするたびに、ポリエステルとしての品質が劣化するものがほとんどなうえ、新品よりも工程が増えるため製造コストがかさんでしまうからです。わざわざ高くて質の悪い物を買いたいと思う人は昔はいなかったのです。

このように、リサイクル素材(他の反毛素材も同様)は、高価で品質が悪いうえに、環境にいいとは限らないのです。メディアや繊維業界は、そうした事実をはっきりと伝えていません。これは不誠実だと私は思います。

そして多くの消費者が「リサイクル素材は環境にいい」と受け止めている現状は、実態と乖離(かいり)しており、改善するべきと感じます。

■オーガニックコットンの真実

さらに、ファッション業界では「グリーンウォッシュ」の問題も相次いでいます。

2020年10月には、オーガニック繊維の国際的な認証組織「グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード(GOTS)」が、通常の綿花をオーガニックコットンと偽って売買したとして、インド企業11社の認証を取り消しました。

綿畑で作業する女性
写真=iStock.com/Daniel Balakov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daniel Balakov

さらに2021年10月には繊維商社の田村駒が、「漁網をリサイクルしている」とうたった生地「GNB」がリサイクル品ではなかったとして、返金や返品の対応をとりました。

この2つの事例はアパレル業界で大きな話題になりました。似たようなケースは他にもまだあるでしょう。「リサイクル品」という表示が必ずしも正しいとは限らないということです。

■「カシミヤ70%」は実は「0%」

糸から生地、衣料品への工程は多岐にわたっており、全て厳密に管理するというのはかなり難しいので定期的にこうした問題が発覚します。

2007年にも大手有名セレクトショップが「カシミヤ0%」の商品を「カシミヤ70%」と表記して販売したことで問題になったことがあります。

糸、生地の工場までガッチリと管理して視察しなければ、工場側でこのような嘘の表記をすることは可能なのです。

誠実な工場を見つけ、そこと契約するしかないのです。アパレル業界にはその努力を惜しまず行ってもらいたいと思います。

■裁断クズを使った商品が注目されているが…

私が懸念するのは、裁断クズや、使わなかった生地(残反)を使ったブランドが増えることです。

業界紙では毎日のように小規模な「裁断クズ使用ブランド」「残反使用ブランド」の立ち上げが報じられています。

環境保護への意識が高い消費者もそれを大歓迎していますが、あまり増えすぎても今度は矛盾が生じます。

仮にこの手のブランド数が圧倒的に増えて、「新品ブランド」が極限まで減ったとします。(実際にはそのような事態は起きる可能性が極めて低いのですが)そうなると、裁断クズも残反も生じなくなります。

これらのブランドの存在意義があり、商品の製造を継続できるのは、新品ブランドがあるからこそ、という視点が置き去りになっています。繊維業界を循環させ、維持させるために、当面は新品を作るブランドの存在は必要不可欠なのです。

■ならば古着だけを買えばいいのか

では、環境保護のために何ができるのか。リサイクル素材以外のSDGsやサステナブルな解決法はあるのでしょうか。「全員が古着だけを買えば良い」という案を考えてみましょう。

現在のところ、古着の大半は海外からの仕入れになります。海外から仕入れられた古着は汚れたり破れたりしている物が多く、その中から比較的状態がマシな物が選ばれて店舗で販売されています。

大量の古着
写真=iStock.com/vuk8691
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vuk8691

つまり、選ばれなかった物のほとんどはゴミになっています。購入された古着も数年後には破損し廃棄することになるわけですから、古着は根本的な解決には至りません。

さらにいえば、古着の売買が主流となれば、糸を作る合繊メーカーや紡績、生地工場、縫製工場、染色工場などは存続できなくなります。

SDGsやサステナブルに熱心な人は、伝統産業を守ることにも熱心なことが多いのですが、環境保護と産業維持を両立させることは不可能ということになってしまいます。

■バランスをうまく取り続けることが大事

環境のことだけを厳格に考えると、人間が衣服として着用できる生地が無くなってしまうということにもなりかねません。

綿花は化学肥料や農薬で土壌汚染の原因だと言われていますし、羊毛は羊からのメタンガスの排出が環境負荷を与えると言われています。ポリエステルは洗濯の際に出るマイクロプラスチックが海洋を汚染すると言われています。

環境対策自体を否定するつもりはありませんが、現在の技術力で何もかもを一気に解決することは不可能なのです。

結論として、「お気に入りの服を長く大事に着る」といったことしか解決方は今はないのです。

もちろん技術開発・研究は必要ですが、それが完成するまでは少しずつバランスを取りながら前進することしか手はありません。

(了)

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)

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